「...リベラ様、どういう事でしょうか?」
隣の椅子に座ったソリッドは、吸い終わった煙草を灰皿に放り込み、訝しげな表情で、来客用のソファに寝かせてある、タオルケットをかけられた少女と、俺を交互に見た。
流石に、何十年もの付き合いだけに、目を逸らさせる事は不可能らしい。
見た目は老いているものの、俺と同じような体質のため、それは仮の姿。
真の姿は、漆黒の翼が特徴的な、最上位レベルの魔物だ。
下位の魔物とは違い、かなりの知性を持っている。
俺は魔物を狩るが、ソリッドに限っては、人を襲うことはない。
戦闘力も充分にある、信用の置ける人物なのだ。
「あの子は、今日来たおっちゃんの依頼の時に見つけたんだよな」
腕組みをしながら、小さく吐息を溢し、昨日のおっちゃんから渡された報酬を一瞥して、俺はソリッドの問いに答えた。
「ふむ?詳しく教えて頂けますかな?もしかすると、”此方側”に関わることやもしれません」
彼が言う此方側、というのは、他に、ある程度の知性を持つ上位の魔物達のことだ。
奴等は、人間や、同族の魔物を魔術の実験台にするという前例があるほどに、下衆な行動を行ったりするため、『裏切り者』と魔物から言われるソリッドも、常に目を光らせている。
訝しげな表情をしつつも、そこまで興味が無い、とでも言いたそうに瞑目していたソリッドの目が唐突に開かれる。
相棒の目には、始めに逢った頃と、何ら変わらぬ『刃物のように鋭利な目』があった。
その目に期待を感じ、俺は、昨日の一部始終を話すことにした。
「成る程...魔力を感じて行ってみれば、衰弱していた10代弱としか見えない少女が居て、気絶した為、捨て置くわけにもいかないから連れてきた、と?」
大まかは間違っていないため、俺は推定の意を込め、頷いた。
俺が話し終えた後、考え込んだように口を、への字に曲げて、唸りだすソリッド。
「うぅむ...人気のない林に居たというのも妙ですな」
そのまま、彼は煙草を取りだし、魔力で小さな火種を作り、火をつけて吸い始めた。
ソリッドが吸う煙草は人間のそれとは違い、心を落ち着かせる無害、かつ合法のハーブを吸っているようなものだ。
魔物が吸っても無害、人間が吸っても無害というおまけ付きでもある。
更に、副流煙となる煙も、この煙草の場合は、部屋に柔らかな香りが漂う位しか変化がない。
この煙草が、人にも流通してくれればいいのだが、と、他愛も無いことを頭に浮かべていると、ソリッドが、それはともかく、と話を切り出してきた。
次にソリッドが言った言葉は―
「一番私が妙だ、と感じているのは、少女が、魔物でも人間でもない、という可能性があります」
俺が、彼に言って欲しかった言葉だった。
「人でも魔物でもない?そいつはどういうこっちゃ」
つい反射的に、完全に理解しきってない疑問をぶつける。
ちらり、と少女を見たのち、ソリッドは、重い溜め息をついた。
「リベラ様は分かっているかもしれませんが、魔力の波長が人でも魔物のものでもありません。初めて感じる波長です。恐らくは、第三者の生命体かと」
ソリッドの言葉は、期待通り的を得ていて、俺は、「やっぱり?」と、薄く笑みを浮かべた。
ソリッドさんの元ネタは(solid 固体、堅実を意味する英語)です。
記念すべき第一話、完ッ!
主人公はこの少女と青年だッ!依然かわりなくッ!