やはり三浦優美子の青春ラブコメは幕を開けたばかりだ。   作:Minormina

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当事者に知らない影で事態は動き始める。少しずつ第1編完結に向けて話は進んでいますが、真打ちの回がまだ机上の空論で……。さて、それでは第7話、ユイ回をどうぞ。



由比ヶ浜結衣は相談する

 優美子が来ないということにはなったけど、結局次の日あたし達はディスティニーランドへと行った。……でもみんなどこか何か足りないというか……あー……こういう時ってなんて言ったらいいんだろう……と、とにかく何かが足りなかったの!

 

 あたしは帰りの電車の中で、少し考えてみる。

 

(おそらく、みんなと優美子の間で何かがあったんだね……)

 

 そう予想することはあたしでもできた。でもそこから、何かしてあげられるか、というと難しいと思う。……だって今はみんなクラスもバラバラだし、おそらく優美子はこういうことを嫌がると思うから。

 

(だったらさ、どうしたらいいの……?)

 

 ヒッキーに頼ってみようか、という考えが一瞬頭をよぎる。たぶんヒッキーならなんとかしてくれると思う。でも、ヒッキーに丸投げというのもどこか納得がいかないし……っていうかあたしもなにかしてあげたいし……。

 

「由比ヶ浜?」

 

「…………うーん……………」

 

「……由比ヶ浜?なんか唸ってるけど大丈夫か?」

 

「……へ?……ってヒッキー!?い、いつからいたの!?」

 

 思わず2、3歩後ずさって間の抜けた声が出てしまった。……ホントにいつからいたの?

 

「……ついさっきだよ。ってそんなとこで悩んでないで、とりあえず部室にでも行けばどうだ?今日は雪ノ下も来てることだしな」

 

 

 相変わらず腐った目・・・というかどこか虚ろな目をしたヒッキーがそんなことを言ってくれる。

 

(・・・こんなところが優しいんだけどね・・・)

 

 でも、ヒッキーは自分からどこか他人からの好意というのから逃げている、と思う。・・・たぶんゆきのんもそう思ってるはず。

 

「珍しく考え込んでるな・・・。新しい宗教にでも目覚めたのか?」

 

 ニヤッとしながらそんなことを言うヒッキー。これにはカチンときた。

 

「はぁ!?い、意味分からんないし!…ヒッキーのバカ!」

 

「……なんでこんな罵倒されてんだ俺?そこまで悪いこと言ったか?」

 

 まったく……なんでヒッキーってばこんな空気読めないの?…それでも変なとこ真面目だし、かっこいいし。……ってそんな場合じゃなかった。

 

「……なんか今日のお前はいつもより増して変だな……ほら、部室行くぞ」

 

 そういってあたしの半歩先を歩くヒッキー。猫背で姿勢も悪いのに、どこかその存在を頼もしく思うのは、おそらくあたしだけじゃないのだろう。……ゆきのんや隼人くん、川崎さんにさいちゃんだってそう。

 

(ヒッキー、ヒッキーはもうぼっちなんかじゃないから)

 

 ただ、ヒッキーはそうじゃないって否定すると思うけど。……あたしはそんなことをどこかで思いながら部室へと向かった。

 

 

__________

 

「……なるほど、それは面倒ね」

 

 ゆきのんは苦々しい顔をしていう。

 

「由比ヶ浜さん、それだけだとあまりにも情報が少なすぎるわ。もし何かしらしてあげるのにしても、一歩間違えると逆効果になるわよ」

 

「……お前が三浦に肩入れするとはまた珍しいな」

 

 そういえばそうかも。ゆきのんと優美子といえばテニスの時といい、千葉村の時といい何かにつけて意見が合わなかったからなぁ……。

 

「……他ならぬ由比ヶ浜さんの頼みだもの……」

 

 制服の裾をきゅっと掴んでうつむきながらそんなことを言うゆきのん。思わずあたしもヒッキーも目が点になったけども、

 

((……なにこの可愛い生き物))

 

 ……と生ぬるい視線を送っていると、正気に返ったゆきのんがリンゴみたいに赤くなるのがどこか新鮮だった。

 

 閑話休題。

 

「……それで比企谷くんはなにか手立てはあるかしら?」

 

 どうやらヒッキーはこの間いろはちゃんに会ったらしく、相談を受けてたらしい。ヒッキーが言うには、異変に気付いたのは戸部くんだったらしい。

 

「そうだな……まずは聴き込むにしても葉山グループに属していないことが必須になるだろ?」

 

「どうして?」

 

 あたしが首を傾げると、ゆきのんがやれやれという顔をして、

 

「もし内部の犯行だとしたら他のメンバーをかばうかもしれないでしょ?……ただでさえソースが騒ぐことしか能のないお調子者(戸部)なんだから」

 

「確かにそうだね……」

 

 ゆきのんが少し不機嫌そうな顔をしてそんなことをいう。あたしとしては、ホントはそんなことする人がいないと信じたいんだけども……。

 

「とにかく、一色を一回ここに呼んでみたらどうだ?状況を整理するにはそれが一番効率的だろ」

 

「そうね」

 

「それじゃいろはちゃんを明日連れてくるねー」

 

 そういうことになって今日の奉仕部の活動は幕を閉じた。

 

 

__________

 

 

(最近、優美子の付き合いが悪くなった理由、か……)

 

 ゆきのんが言ってた内輪揉めじゃないのだとしたら、何が原因なんだろう。確か川崎さんも優美子とはあまり仲が良くなかったけど、それが直接隼人くん達と付き合いが悪くなる理由にはならないよね……。

 

(……うーん……)

 

 これじゃさっきと同じじゃん、と思いながらあたしは家に帰ったのだった。

 

__________

 

For rich and the poor ones (War is over)

 

The road is so long (Now)

 

 ……クリスマスシーズンには程遠いがすでに古人、いやかの大スターは既に悟っていたのだろう。リア充と非リア充の戦争を終わらせる道はまだまだ遠い、と。

 

「……お兄ちゃん、また絶対バカなこと考えてる」

 

 横で小町がそんなことを言ってるが、俺はこの曲に感銘を受けた。この偉大な曲は、非リア充がいかにヒエラルキーが低いところに位置しているか、それを的確に突いている。

 

「……これだからごみぃちゃんは……」

 

 となりで呆れた声を出しながらため息をつく小町を横目に俺はしばらくこの曲を聞いていた。

 

「……それでさ、お兄ちゃん。お兄ちゃんがおかしいのはいつものことだけど、またなにかあったの?」

 

 ……どうやら小町にはまた見抜かれたらしい。全く、こいつには隠し事ってできないんじゃないか?こいつを嫁に取るやつは大変……ってまずは俺の屍を越えた者でないと認めん。

 

…。

……。

…………。

 

 とりあえず、これまでのくだりを話すと、

 

「……うーん、そんなときってわたしだったらそっとしておいてほしいかな」

 

 少し考え込んだ小町がそう言う。

 

「……というと?」

 

「……たぶん三浦さん、友達か好きな人に嫌われたんだと思う。お兄ちゃんにはそんな経験はないと思うけど」

 

 おい。一言余計だぞ小町。それが敬愛する兄への態度か。……知らんけど。でも、そうとれば確かに納得がいく。三浦が葉山たちと距離を置いていることにも説明がつく。

 

「・・・友達であってもそっとしておいて欲しいときがあるってか?普通は逆じゃないのか?」

 

「ぱっと見た感じ、三浦さんは『余計なお世話』で逃げそうな気がするの」

 

 まぁなんとなくはわかる。なんだってあのプライドの高く、男子からは「獄炎の女王」なんてささやかれてたあーしさんなわけだからな。

 

「・・・そうだな。・・・でも一色とか由比ヶ浜とかが心配している以上、野放しにもできる問題でもないだろ?」

 

「・・・それもそうだね」

 

 小町はどこか納得したのかそれ以上は何も言わなくなったが、俺はこの問題の終着点はいっったいどこになるんだ?と一人思索にふける。

 

(タイミングを違えれば最悪の事態にもなりかねない)

 

 俺がかつて文化祭のときにやったように。

 

__________

 

 

 あれから一週間ほどしたとある日の放課後。俺たちはこの間の打ち合わせ通り、部室で顔を合わせた。雪ノ下のとなりには由比ヶ浜、由比ヶ浜の前に俺、そして俺のとなりに一色、という配置で座った。

 

「……とりあえずお茶を淹れましょうか」

 

「そうですね」

 

 相づちを打つ一色と部室の端へと行く雪ノ下。まぁこれから話すことも割と陰気というか、ネタがネタだからどこか部室の空気も澱んでいる。

 

「……そういえば先輩って文系にしたんですか?」

 

 ふとそんなことを聞く一色。なんで俺に聞くのかは知らんが、……こいつも2年後には選択するわけだからな。

 

「……そうだけど、それがどうかしたのか?」

 

「……ただ聞いてみただけですよ。特に深い意味はありません」

 

 なんか謎な後輩だ。突然キモいですとか罵倒するのかと思いきやなんか急に顔を赤くするときもあるし、なんだかあざとい、というレベルじゃないときもある気はするのだが。……それはたぶん俺の気のせいだろう。

 

「……はい、どうぞ」

 

「おう、サンキュ」

 

「ありがとうございます雪ノ下先輩」

 

 すっと後ろから雪ノ下が俺と一色の前に少し湯気の立ったティーカップを置く。余程いい茶葉でも使っているのだろうか、やはりペットボトルのリプトンとは違う。

 

「これは由比ヶ浜さんの分ね」

 

「ありがとう、ゆきのん」

 

 とりあえず、4人して紅茶でひとときを過ごす。……まるで相棒の杉下右京のようだとはこの環境で言えたもんじゃないが、ぴったりである。……座布団一枚ぐらいもらえるだろうか?

 

『はい、八幡さん』

 

『紅茶と掛けまして手がかりのない難事件と解きます』

 

『その心は?』

 

『メガネ(=右京)がいないと解けません』

 

『山田くん、八幡さんに1枚やって』

 

 ・・・こんな感じにはならないだろうか。

 

「あの顔はバカなこと考えてるわね」

 

「そうですね」

 

 ・・・ひどいいわれようだ。俺そんな悪いこと考えた?

 

 閑話休題。

 

「・・・なるほど。それは最終的に三浦さん自身の問題になってくるわね」

 

 一色や由比ヶ浜からの話をまとめてみると、2年の終業式の日を境に、三浦と葉山たちの仲が悪くなった、ということで間違いはなく、どうやら新学年になった今もその状態が続いている、ということだった。

 

「……そういうことだな」

 

全くもってその通りだ。ただ、あの女王をあのようにさせるほどの事件……となればやはりこいつには葉山が絡んでると見て間違いないだろう……。

 

「……なぁ雪ノ下。この一件、俺に任せてくれないか?」

 

話を聞いてた3人はきょとんとして、

 

「……ヒッキー、なにか方法があるの?」

 

「……一体どうするつもりですか?」

 

「比企谷くん、それはどういった手段なのかしら」

 

なんて口々に言うが、ここでそれを言えば間違いなく反対されるだろう。

 

(結局、俺のやってることは文化祭のときと本質的に変わらないんだろうな……)

 

相模南の一件。それがいまでも鮮明に脳裏に浮かぶ。折本かおりのこともそうだ。葉山に言われてもなお、俺はこの方法しかとることができない。……それが俺という人間なのだから。

 

「……とりあえず3日間時間をくれ」

 

少し怪訝な顔をすり周りの三人にはそうごまかすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




知らない間に日間ランキング18位になってました。……ホント需要があるようで……。お気に入り件数もおかげさまで200超えました(ぺこり)。


まだまだご意見やご要望とか募集してますので感想や活動報告のところにどんどん書き込んでください〜。それでは、またー。

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