夢を見た。光り輝く眩しい夢を。
薄暗くて狭い空間で目を覚ますと、気道に流れ込む空気に咳込む。充満した煙が肺に流れ込み、一酸化炭素がヘモグロビンを侵そうとする。再び刈り取られようとされている意識の端っこで、助手席で力なくうなだれている母さんの豊かな黒髪が、燃えているのを視認した。炎は車全体に広がって、わたしを苛む。
酸素を求めながら目を凝らす。身体が軋む。悲鳴を上げる。わたしの喉は、声一つあげられないくせに。
父さんの頭はフロントガラスを粉々にして、胴体の方はひしゃげた運転席の中でへたくそな折り紙みたいになっていた。ゴムの燃える臭いに嘔吐感を覚えて、わたしは手を動かす。でも、シートベルトはしっかりとわたしを固定する仕事に忠実で、すっかり意識の掠れていたわたしには外せなかった。
炎が一段と激しさを増す。母さんの髪はすべて黒焦げて、革のバックにも燃え移り異臭を放つ。潰れた天井に頭を打ち、鋭い痛みが脊髄を迸る。明滅する意識が、もう諦めようと囁く。こうなったら助からないだろう、ならもう無駄な足掻きはやめるべきだ。わたしも異存はなかった。そこまでして生きようとは思わなかった。現状への理解を放棄して、このまま息を止めて、終わりにしたい。
呼吸はいよいよ苦しくなり、意識が落ちる、その直前に。
ヒーローは現れた。
だれかが、叫んでいる。身体がすうっと動いた気がした。気づけば、わたしは燃え盛る車の中から引きずり出されていた。呼吸もまともにできない、ぐんにゃりとしたわたしを引きずるのは、力強くもなんともない、今にも折れてしまいそうな、細い両腕。白くて綺麗なそれが、あっという間に汚らしい炎に舐められ、傷ついていくのが、わずかに見えた。
「お願い……死なないで、お願い……」
額のすぐ上から聞こえた声は啜り泣く少女のものだった。死にそうなわたしより、生きるのを諦めていたわたしなんかより、ずっと切実に祈り涙を流していた。
「もうすぐ救急車も来るから、がんばって。絶対に、助けてあげるから、だから」
身体のあちこちがポッキリ折れたわたしの身体を仰向けにし、弱々しい力で胸を連続して圧す。冷たい滴の感触に目蓋を精一杯開いたら、彼女の瞳から落ちた涙の雨が、わたしの乾いた頬を濡らした。
そのあと覚えているのは、目を開けたわたしに気づいて、泣きながら微笑んだ少女の顔と、サイレンの音。それだけを知覚して、わたしは意識を手放した。
その時、わたしは夢を見た。
少女の笑顔のように、眩しい夢を。