厨二なボーダー隊員   作:龍流

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今回の登場人物

《如月龍神(きさらぎたつみ)》
厨二。ランニングは様々なアニメで主人公が行うトレーニングなので、時々レイジさんと一緒にランニングをしている。しかし、あまり筋肉をつけ過ぎるとよくいるパワー系かませキャラになるのでは、と一時は危惧していたが、よくよく考えれば一番身近な筋肉がすごく強かったので筋肉はかませではないという結論に至った。

《小南桐絵(こなみきりえ)》
もてかわだまされガール。「だましたな!」でお馴染み。ショートヘアの戦闘体は読者に衝撃を与えた。ロングもショートも両方楽しめるヒロイン(?)

《烏丸京介(からすまきょうすけ)》
公式イケメン認定を受けている、もさもさしたイケメン。

《木崎レイジ(きざきれいじ)》
筋肉。アニメ最新話では那須隊や小南の水着を心待ちにしていた視聴者だったが、彼の水着のブーメランパンツがインパクトありすぎて、全てをもっていった。佐鳥も水着姿で腹筋が割れていることが判明したが、やはりレイジさんの腹筋には及ばなかった。流石筋肉。

《林藤陽太郎(りんどうようたろう)》
おこさま。

《雷神丸(らいじんまる)》
カピパラ。犬ではないし、オスでもない。ふてぶてしい。

《迅悠一(じんゆういち)》
実力派エリート。


厨二と玉狛支部

 風が、吹いていた。

 川から吹くこの風は、どこか優しい。凪いでいた、と言う方が、適切なのかもしれない。羽織った黒のパーカーも、空気の流れに合わせて靡いていた。

 その名を冠するこの『刃』を振るうには、ここはうってつけの場所だ。

 如月龍神は、手にした『黒いトリガー』を構えた。

 

「――目覚めろ、風の刃」

 

 足を肩幅に開き、右手を前に突きだし、手のひらを広げる。

 

「――我が手で猛れ、我が手で吠えろ」

 

 左手は腰だめに構え、中腰に。右手は人差し指と中指以外は握りしめ、何もない空間を静かになぞる。

 

「――漆黒の闇を、その緑刃で照らし出せ。天を舞う斬撃で、我らが道を切り開け」

 

 勢いをつけ、溜めたまま構えていた左手を前へ。膝を伸ばし、右手を握りしめて振り払う。

 そうして、声の限り叫ぶ。

 

 

「『風刃』起動!」

 

 

 ――――静寂。

 

 結論を言えば。

 龍神が昨日の睡眠時間を1時間ほど削り、ノートのページを2枚ほどびっしり埋めて考えた起動用の詠唱と。

 さらに出掛ける前に1時間、鏡の前で練りに練ったポージングは、何の意味も為さず。

 黒(ブラック)トリガー『風刃』は、静かに沈黙していた。

 

「くっ……」

 

 がっくりと膝をつき、がっくりと項垂れる。

 また、ダメだったのだ。

 

「まーまー、そうへこむなって」

 

 ボリボリ、と。

 絶え間なく好物の『ぼんち揚』をかじる音をたてながら、1人の男が龍神に歩み寄る。

 迅悠一。玉狛支部所属の『S級隊員』であり、黒(ブラック)トリガー『風刃』の所有者である。

 

「すまない、迅さん。今日も手間を取らせたのに、ダメだった……」

 

 屋上のアスファルトに膝をついたまま、龍神は『風刃』を迅に返却した。受け取った迅は、かわりに龍神の手のひらにぼんち揚を乗せる。

 

「そんなに気にすんな。今日のやつもカッコよかったぜ」

「だが、やはり『風刃』は今日も俺に応えてくれなかった……俺の修行が足りない証拠だ」

「そうだなぁ……」

 

 頭上を見上げて、迅は言う。

 

「おれからひとつ言うなら、この青空の下で『漆黒の闇を照らし出せ』っていう台詞のチョイスは、ちょっと違ったかもな……」

 

 真っ青な空の中に、点々と浮かぶ白い雲。ここ、玉狛支部の屋上から見る今日の天気は、どう見ても晴天である。とりあえず手近な漆黒は、そこら辺の日影くらいしかない。

 

「……成る程。そういうことか」

 

 頷いて膝を叩く龍神。迅は苦笑いを浮かべた。

 間違いなく、手の中にいる『師匠』も困っているに違いない。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 時間は少々経過し、お昼。

 

「ほんっとに、あんたは懲りないわね」

 

 茶碗に顔を突っ込んでいた龍神は、その一声に顔を上げた。

 いかにも嫌そうな顔で龍神の目の前の席に座ったのは、小南桐絵、17歳。迅と同じく玉狛支部所属のA級隊員だ。実力は高く、迅よりも前にボーダーに所属していた古株でもある。

 

「『風刃』には適合しなかったんだから、何度試しても同じでしょ? 結果は変わらないわよ」

「そんなことはない。修行を続けていれば、いつか俺も『風刃』に認められる日が来るかもしれんだろう?」

「あのねぇ……」

「たつみはよくやってくれているぞ。きょうもおかしをもってきてくれたしな」

 

 龍神の隣でフォローの言葉をかけてくれたのは、林藤陽太郎。玉狛支部のお子さまだ。

 

「ふっ……流石は陽太郎だ。話が分かる」

「ふっ……とうぜんだ」

「だからあんた達のその相性の良さは何なのよ……?」

「まあまあ、いいじゃないすか、小南先輩。如月先輩がウチの支部で飯を食べていくのは今に始まったことじゃありませんよ」

 

 陽太郎に引き続き、フォローを入れたのは烏丸京介、16歳。1年前までは本部所属だったが、現在は小南と同様に玉狛支部所属のA級隊員であり、もさもさした男前だ。バイトを多数掛け持ちしており、烏丸がレジやホールに入ると客が増える。まさにボーダー内公認のイケメンである。

 

「陽太郎の言う通り、先輩はいつもなんだかんだと差し入れを持って来てくれるじゃないすか。ほら、この前のクッキーの詰め合わせもまだ残ってますよ」

「む、それはほんとうか?」

 

 烏丸が指差した棚を見て、陽太郎はキラーン、と瞳を輝かせた。

 

「よし、いくぞ、らいじん丸」

 

 陽太郎が声をかけると、椅子の下からのそりと何かが這い出した。

 雷神丸。陽太郎のペット兼相棒のカピパラである。相棒なのだが、雷神丸は陽太郎のことを舐めきっており、しかも陽太郎は雷神丸を犬だと思い込んでいる。ついでに小南も信じている。それでいいのか信頼関係は、と龍神は思ったり思わなかったり。

 

「とうっ!」

 

 お子さまにしては不敵な笑みを浮かべ、陽太郎は雷神丸の背にライドオン。雷神丸はゆっくりと進み、棚の前で停止した。

 

「でかしたぞ、らいじん丸」

 

 相棒に労いの言葉をかけつつ、陽太郎は棚の上のクッキー缶に手を伸ばす。珍しく陽太郎の言うことを聞いているのは、自分もお菓子を食べられるかもしれないという打算が雷神丸にあるからだろうか。陽太郎の身長だけでは、棚の上まで手が届かないのだ。

 が、あともう少しというところで、クッキー缶は突如現れた太い腕に上からかっさらわれていった。

 

「お前はお菓子を食べる前に、まず飯を食え。飯を」

「レ、レイジ……」

 

 木崎レイジ。玉狛第一、木崎隊の隊長であり、現在のボーダーで唯一の『完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)』 料理から戦闘、さらに陽太郎のヘルメットなどの小物作りまでこなす、龍神からみても完璧な筋肉だ。

 

「野菜も食えよ」

「い、いやだ~。おれはクッキーを食べたい~!」

 

 レイジは陽太郎を雷神丸の背から腕一本で引っこ抜いて、食卓の椅子に戻した。悲しいかな、非力な陽太郎ではあの筋肉から逃れることは不可能だ。

 

「うう……クッキー……」

「食後にしろ」

 

 まるで父親のように、陽太郎の頭をぽんぽんと叩いて(実際に父親に見える)、レイジも食卓に腰を落ち着けた。

 それにしても、陽太郎には野菜を食えと言っていたが……

 

「この野菜炒め、肉の方が多くないか?」

「気にするな。それとも味が気に入らないか?」

「いや、相変わらずとても美味い」

 

 小南には文句を言われたが、玉狛支部に来ると大抵食事までご馳走になるのは、基本的にここのご飯が美味しいからだ。龍神は涼しい顔で、食事を再開した。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「で、今日は何しにきたんすか?」

「まさか、またくだらない技の名前を考える、とかじゃないでしょうね?」

「おれはきょうりょくするぞ、たつみ」

 

 食事も一段落。テーブルの上のカップの中身が、食後のコーヒーや紅茶に切り替わると、龍神は質問を浴びせられた。

 

「それとも『風刃』の起動に挑戦しに来ただけ、とかなわけ?」

「ふっ……安心しろ。今日はきちんと別の目的があってきた」

「別の目的?」

「ああ。烏丸、お前に話がある」

「俺に……? まさかアレですか? 如月先輩」

「流石だな。やはりお前は勘がいい。そういうところは嫌いじゃないがな」

「ほほう、あれか……」

 

 なにやらあやしいやりとりをする龍神と烏丸。あごに手を当ててニヤリとする陽太郎。1人だけ話に入れない小南は「なに? なになに?」と3人を見回した。

 

「なんなのよ? 何かあったの? 何かあるの?」

「大ありですよ、小南先輩。なにせ龍神先輩は、今日『新型トリガー』のテストにきたんすから」

「ええっ!? うそ! そうなの?」

「ふっ……」

「ふっ……」

 

 キラーン、と音が鳴りそうな笑みを、龍神と陽太郎は見事にシンクロさせた。慌てた小南は、キッチンにいるレイジの方へ振り向く。

 

「ちょっと、レイジさん! 知ってた? 龍神の新型トリガーの話!?」

「いや、全然」

「…………?」

「はい、ウソですから」

 

 烏丸の言葉に、ピキーンと小南は凍りついた。

 そうして、固まったまま一拍置いて、

 

「だましたなぁ!?」

 

 手元にあったクッションを、思い切り投げつけた。

 

「いつも思うが、投げるなら俺じゃなくて烏丸だろう?」

 

 凄まじいスピードで飛んできたクッションを首だけ曲げてかわしつつ、龍神は溜め息を吐いた。

 小南のだまされやすさは、もはや筋金入りを通り越して殿堂入りレベルだ。どれくらいひどいかというと、『胸が大きくなる』という触れ込みに騙されて、飴を大量に買い込んできた、と言えば大体分かって貰えるだろう。

 ちなみにその飴は諏訪隊のオペレーターの小佐野に譲られ、小佐野は普段からくわえタバコをしている諏訪を真似て、くわえ飴をしている。最近、小佐野の胸が大きくなったと変態な隊員達の間で囁かれているが、真偽のほどは不明である。さらにちなみに、一部の変態な隊員が諏訪に事実を確認しに行ったところ「小さかろうが大きかろうが乳は乳だろ」と、大変有難い格言を頂いたそうだ。

 

「まあ、落ち着け小南。む……じゃない、飴を買い込んで大騒ぎしたこともあったが、お前の美点はそういうところだと思うぞ」

「どういう意味よ?」

「お前は確かに、人の言うことを鵜呑みにして騙されやすい。だがな、人と人との関係が渇ききったこの世の中で、人の言うことを素直に信じる。これは、なかなかできることではない。それはいわば、お前だけの個性。素晴らしい美徳だ」

「び、美徳!?」

「そっすね。小南先輩が俺達を信じてくれるから、今の俺達があるんです」

「ちょ、ちょっとやだ……もう。いきなりそんなにほめないでよね。そんなにほめても、なにも出ないんだから……」

 

 ちょろい。

 圧倒的なちょろさだ。B級とかA級レベルではなく、S級レベルのちょろ具合である。これでよく悪い虫が付かないものだと、龍神はいつも思う。小南が通っているのがお嬢様学校なのが、せめてもの救いだ。

 

 顔を赤らめて1人で盛り上がっている小南は放っておいて、烏丸が龍神に向き直った。

 

「で、結局何の用事なんすか?」

「ああ。米屋から聞いたんだが……烏丸。お前『ガイスト』というトリガーを持っているそうじゃないか」

「それがなにか?」

「ふっ……とぼけるなよ、鳥丸!」

 

 バァン、と龍神は机を叩いた。

 

「『ガイスト』は時間制限付きの強化トリガーだと聞いた」

「はい。使用後200秒で緊急脱出(ベイルアウト)するので、使い所に難が……米屋先輩と模擬戦した時も」

「違う! 俺が聞きたいのはそんな話ではない!」

 

 テンションを一気に釣り上げながら、龍神は言い切った。

 

「時間制限付きでパワーアップ! 実に素晴らしい! ロマンじゃないか! 俺にも使わせてくれ!」

「……なるほど。そういうことすか」

 

 やや冷たい目になりながら、烏丸は頷いた。目の前の変人な先輩の狙いが読めたからだ。

 

「如月先輩も『ガイスト』を使ってみたいと?」

「是非」

「無理です」

「何故だッ!?」

 

 たった四文字の返事で却下され、龍神は目を剥いた。相変わらず無表情のまま、烏丸は言葉を続ける。

 

「だって如月先輩、玉狛支部所属じゃないでしょう?」

「いや……だが、お試しだけでも」

「駄目です」

 

 くっ……と、龍神はわざわざ椅子から立ち上がって、床に膝をついた。

 

「レイジさんの『全武装(フルアームズ)』といい、烏丸の『ガイスト』といい、どうしてこう玉狛支部のトリガーは俺の心を刺激するのだ……」

「諦めろ、如月」

 

 皿を拭いているレイジも、言葉少なにトドメを刺してくる。こういうところは流石師弟というところか。龍神は項垂れた。

 

「めげるな、たつみ。チャンスはきっとくる」

 

 肩を落とす龍神を、陽太郎がよく分からないフォローで慰める。鳥丸は複雑な表情でそれを眺めた。そうは言われても、無理なものは無理なので、どうしようもない。

 と、1人で盛り上がっていた小南が会話に戻ってきた。

 

「まあ、羨ましくても仕方ないわね。私達の『トリガー』は一点物の特注品だもの。量産型とは性能が違うわ」

「小南先輩、ここで煽ってどうするんすか」

「ふふん、いいのよ。龍神があたしの『双月』を羨ましがるのは、当然だもの」

「いや、別にお前の『双月』は羨ましくないぞ」

「え?」

 

 いつの間にか立ち直った龍神は、立ち上がりつつ言った。

 

 

「だって『斧』はかませ犬の武器だろう?」

「とりまる、模擬戦の準備して。このバカ叩き潰すわ」

 

 午後の予定が決まった。

 


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