厨二なボーダー隊員   作:龍流

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厨二は巻き込まれる

 三輪隊を撃退した後、ボーダー本部に赴いた修、迅、龍神の3人は、なんとか無事に話し合いを終えた。一時はボーダーの最高司令官である城戸正宗に『黒トリガーの奪取』を命じられた迅だったが、玉狛支部支部長の林藤が機転を利かせた命令でそれを回避。『黒トリガー』の所有者である遊真の取り扱いは迅に一任された形になり、当面の危機は脱したと言ってもいいだろう。

 龍神と三輪の戦闘に関しても、龍神を処分すれば三輪にも同様の処分を下さざるを得ない為、不問となった。さらに言うならば、所属のはっきりしない新たな『黒トリガー』という爆弾を抱え、未だに遠征に出ているトップチームが戻らない中で、三輪隊という貴重な戦力を自ら手放す理由がない。当然、城戸が自分の口からそんなことを言うはずもなく、これはあくまで龍神の勝手な推測なのだが。

 そんなわけで、ボーダー本部をあとにした3人は、外で待たせていた遊真、それに雨取千佳と合流した。

 

「やっと戻ってきた。修と迅さんと……えーと、『ふっ……』と『だがな』の人!」

「如月さんだよ、遊真くん」

「俺の名前を覚えないとは、なかなかいい度胸だ。もう一度自己紹介をしてやろうか?」

「けっこうです」

 

 龍神は既に、修や千佳にも自己紹介(別バージョン)を済ませてある。

 和気あいあいとしている3人の様子をみて、修が険しい顔で釘をさした。

 

「まだ安心はできないぞ、空閑。ボーダーがお前の『トリガー』を狙ってくる可能性があるんだ」

「ほう」

「……迅さん、如月先輩。これからいったいどうすれば……?」

 

 修の問いに、迅と龍神はタイミングを合わせてニヤリと笑った。

 

「ふっ……。いいか、三雲。日本には虎穴に入らずんば虎子を得ず、という諺がある」

「……はあ?」

「つまりだな、メガネくん。こういう時は、シンプルなやり方に限るってことだ」

 

 迅と龍神の発言はまったく噛み合っていなかったが、言わんとしていることは同じだったらしい。

 実力派エリートはいたって軽い調子で、ボーダーから『近界民(ネイバー)』と呼ばれている少年に手を差しのべた。

 

「遊真、おまえボーダーに入んない?」

 

 かくして、迅、修、遊真、千佳、それになぜかついてきた龍神の5人は、玉狛支部へと向かった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 その日の夜。

 

「ぐっ……ふぅ……えっぐ……」

 

 如月龍神は泣いていた。それはもう、周囲の人間が少々引くくらいにむせび泣いていた。

 

「……如月先輩?」

「三雲っ……お前は何故、今の話を聞いて平然としていられるんだ!?」

 

 肩を強く揺さぶられ、修のメガネがずり落ちた。間近に、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった龍神の顔が迫る。すごく汚い。

 

「お、落ち着いてください! 確かに空閑の話には驚きましたけど……」

 

 遊真の相棒である自律型トリオン兵『レプリカ』が語った遊真の過去は、彼らの想像をはるかに超えるほど重く、壮絶なものだった。

 

「まさか……あの黒(ブラック)トリガーが、空閑の親父さんだったとは……うっ、ぐぅう……」

 

 空閑遊真の父、空閑有吾は瀕死に陥った遊真を助けるべく、自らの命を捧げて『黒トリガー』を作り出し、息子の命を繋いだ。そして彼自身は、塵になって死んだ。その後、遊真は『ウソを見抜く』という父の副作用(サイドエフェクト)を受け継ぎ、今までレプリカとともに戦ってきたのだという。

 

 

「あの、如月先輩……ティッシュどうぞ」

「……ああ、すまん。見苦しいところを見せたな」

 

 渡されたティッシュで思い切り鼻をかみ、龍神はレプリカに向き直った。

 

「悪かった。話の腰を折ってしまったな」

『いや。遊真の話にここまで共感してくれた人間は、きみがはじめてだ。タツミは感情の発露が素直な人間なのだな』

「男の涙は人に見せるものではない、とはよく言うが……俺はそうは思わない。何があっても表情のひとつも変えず、涙を流さない男など信用できない。故に、俺自身もそうありたいと思っている」

『なるほど、理解した』

 

 空中に浮遊するレプリカは、修と龍神に顔の部分だけを下げるような仕草を見せた。それがレプリカにとっては『お辞儀』の動作なのだろう。

 

「ユーマには、もう生きる目的がない。この場所に来て、『黒トリガー』からユーゴを生き返らせることができないのも分かってしまった。だから、タツミ、オサム。遊真にどうか、生きる目的を与えてやってほしい」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「迅さんは、こうなる未来が分かっていたの?」

 

 机の上に並べられた3人分の書類を見て、遊真が聞いた。

 

「言ったろ? 楽しいことはたくさんあるって」

 

 いたずらっぽい笑いを洩らして、迅はそう返した。彼の前には、修、千佳、そして遊真の3人が、一列に並んでいる。

 書類をまとめ、彼らを見回した玉狛支部支部長、林藤匠も笑みを浮かべた。

 

「正式な入隊は、保護者の書類が揃ってからになるが……玉狛の支部長として、お前達の入隊を歓迎する。今から、お前達はチームだ」

「そしてこの瞬間から、お前達の戦いは始まる。ボーダーという組織の遥かなる高み、A級への昇格。遠征部隊入りを目指す!」

「……おいこら、龍神。そりゃおれのセリ」

「道程は長い。お前達を待つ世界は広く、果てしない。だが、肩の力は抜いていけ。お前達は今日、隣に立つ仲間という存在を得たのだから!」

 

 部外者に激励の言葉を言い尽くされ、林藤はがっくりと肩を落とした。

 

 

◆◇◆◇

 

 

 翌日の朝。

 

「さて諸君!」

 

 早朝から元気な声を張り上げ、トレードマークのメガネを持ち上げたのは玉狛支部のオペレーター、宇佐美栞。修の転属による玉狛のメガネ人口増加が嬉しいのか、朝っぱらから非常にテンションが高い。

 

「諸君はこれから、A級を目指す! その為にはまず、遊真くんと千佳ちゃんはB級に上がらなければならない!」

「正式に部隊(チーム)を組めるのは、B級の正隊員からだからな」

 

 宇佐美の隣で、なぜかメガネをかけている龍神が補足する。特に視力は悪くないが、なにかしらの説明をする時はメガネが必須なのは常識だ。龍神は形から入るタイプである。ブリッジに指を当て、くいっと持ち上げれば簡単にカッコつけられるし、宇佐美の機嫌も良くなるというオマケ付き。これを一石二鳥と言わずしてなんと言うか。

 そんなメガネをかけた龍神に向けて、さっそく遊真が手を挙げた。

 

「なんだ、空閑?」

「ふむ、オサムはおれ達とチームを組む予定だけど、タツミ先輩はどうして1人なの? オサムみたいにB級あがりたてでもないみたいだし。いっしょに組む人いないの?」

 

 修は思った。それ聞いちゃうのか。

 しかし、龍神はいたって冷静にメガネをくいっと持ち上げつつ、

 

「俺が孤高のB級隊員だからだ」

 

 と、言い切った。

 

「ここうか……ほほう、なるほどな」

 

 いや、絶対に分かっていないだろ、と修は突っ込みかけたが、わりとデリケートな話題の気がしたので、口をつぐんだ。

 修は駅での戦いで龍神の実力を目の当たりにしている。B級に上がったばかりの自分とは違い、あれだけの実力を持ちながらも個人(ソロ)のB級隊員であることには、なにか重大な理由があるに違いない。

 修のそんな考えを知ってか知らずか、それとも空気を読んだのか、宇佐美が説明を再開する。

 

「じゃあ、千佳ちゃんはどうしよっか? オペレーターか戦闘員か……」

 

 その後、一通りのポジションの解説を行い、千佳のポジションは狙撃手(スナイパー)に決まった。トリオン量が多いなら全身に『スコーピオン』を纏う攻撃手(アタッカー)にならないか、と龍神は提案したのだが、宇佐美に一蹴された。

 あれやこれやと言いつつも、順調に議題を消化していたミーティング。しかし、唐突に部屋の扉が開け放たれて、全員の目がそちらに向いた。

 

「あたしのどら焼きが、ない!」

 

 腰まで届く長髪に、羽根のようなクセッ毛。セーラー服に赤いカーディガンを着た出で立ちは、いかにもな女子高生。

 そんな彼女、小南桐絵は、涙目になりながら叫んだ。

 

「誰が食べたの!?」

 

 小南の視線が、雷神丸の上で眠りこけている、寝坊助なおこさまに向く。

 

「さてはまたおまえか!? おまえが食べたのか!? そうなんでしょ!?」

「むにゃむにゃ……たしかなまんぞく」

「おまえだなー!?」

 

 だが、陽太郎の無実を証明する為、宇佐美が両手を合わせて小南を拝んだ。

 

「ごめーん、小南。昨日お客さん用のお菓子に使っちゃった」

「はあ!? あたしは今食べたいの! いま!」

「騒がしいぞ、小南」

「いつものことっすけどね」

 

 いい加減慣れた、と言いたげに、落ち着いた筋肉である木崎レイジと、もさもさしたイケメンな烏丸京介が入ってくる。

 

「だってレイジさん! あたしのどら焼きが!」

「ふっ……落ち着け、小南。宇佐美は昨日のどら焼きがないと言っただけで、どら焼きがないとは言っていないぞ?」

「えっ?」

 

 片手でメガネを持ち上げつつ、龍神はもう片方の手にどこからか取り出した紙袋を下げていた。

 

「新しいどら焼きを買ってある。いいとこのだ」

 

 そんなわけで、5分後。自己紹介を終えた一同は、テーブルに並べられたどら焼きを囲んでいた。

 

「なるほど、こいつらが新入りってわけね」

 

 どら焼きを頬張りながら、小南は頷いた。わりとナナメだったご機嫌は、すっかりよくなっている。ちょろい。

 

「でも、ウチの支部に弱いやつはいらないわよ?」

「そう言うなよ、小南。こいつら、おれの兄弟なんだ」

「え、そうなの?」

 

 迅の意外な告白に、小南は目を丸くした。ちょろい。

 

「とりまる、あんた知ってた?」

 

 小南に聞かれ、どら焼きをもぐもぐしていた烏丸は、口に含んでいた分を飲み込んでから答える。

 

 

「もちろんですよ。小南先輩知らなかったんすか? 如月先輩は知ってましたよ」

「そうなの、龍神?」

「ふっ……紹介しよう。右から迅遊真、迅千佳、迅修だ。仲良くしてやってくれ」

「……語呂、わるいっすね」

「そりゃそうだろ」

「え!? どういうこと、レイジさん?」

「迅は一人っ子だ」

 

 ピキーン、と。小南が固まる。そして、数秒後に吠えた。

 

「だましたなぁあ!?」

「ふっ……」

「いやあ、やっぱ『迅』っていう名字は、実力派エリートであるおれにしか合わないみたいだな」

「まあまあ、小南先輩。こいつらがウチに入る新人だっていうのは、本当みたいですよ」

 

 むぅ……と小南は唇を引き結んで、

 

「で、こいつらどうすんのよ!?」

「ああ。小南達には、こいつらとマンツーマンで組んで、師匠として指導してもらいたい」

「はあ!? なんであたし達が……」

「そう吠えるなよ、小南」

 

 メガネを外し、龍神は冷ややかな流し目を小南に向けた。こうしてメガネを外すと、かっこよさにメリハリがつく。

 

「これはお前達の支部長からの命令でもある」

「ボスの……?」

「うんうん。そういうことだ」

 

 迅に発言を重ねられ、小南の頬が膨らんだ。しばらく目が泳いだが、結局「しかたないわね」と呟いて、

 

「じゃあこいつはあたしがもらうから」

 

 遊真の首根っこを掴んで、引き上げた。

 

「あたし、弱いやつ嫌いなの。この中じゃ、あんたが一番マシでしょ?」

「ほほう、おれを選ぶとはお目が高い」

 

 小南を見上げて、笑う遊真。1組目が決まったところで、すかさず宇佐美が提案した。

 

「じゃあ、狙撃手(スナイパー)志望の千佳ちゃんはレイジさんだね!」

「そうなるな。よろしく」

「よ、よろしくお願いします」

 

 千佳がちょこんと頭を下げる。

 龍神は挨拶し合う2人を、じっくり見詰めた。すごい体格差である。親子でも通用するんじゃないだろうか。

 

「龍神。お前、今失礼なこと考えなかったか?」

「いいや、なにも?」

 

 筋肉からの追求をするりとかわす横で、烏丸が最後の1人に目を向けた。

 

「と、なると俺は必然的に……」

「……よろしくお願いします」

 

 最後に修と烏丸が挨拶し合って、組み合わせは全て決まった。場をまとめるように、迅が立ち上がって手を叩く。

 

「ようし。それじゃあ3人とも、師匠のもとでしっかり腕をみが」

「待ってくれ、迅さん」

「あらら……?」

 

 林藤同様、見事に話の腰を折られて、迅はずっこけた。

 

「なんだよ、龍神……?」

「俺は何をすればいい?」

「いや、だってお前玉狛支部所属じゃないし」

「ふざけるな。ここまで巻き込んでおいて、俺を今さら部外者扱いするのか!?」

「近い近い、顔が近いよ! 分かった! 分かってるから!」

 

 詰め寄ってくる龍神のプレッシャーに気圧されて、迅が後退する。すると、まったく引き下がる気のない龍神になにか閃いたのか、烏丸が手を挙げた。

 

「じゃあ、俺けっこうバイトとかあるんで、こいつは俺と如月先輩の2人で面倒みるってのはどうでしょう?」

「ええっ!?」

 

 修は思わず大声をあげたが、小南はふーんといった感じで賛成する。

 

「いいんじゃない? そいつ弱そうだし。とりまるがバイトの時間に龍神が来れば効率的だし。とめても龍神は、どうせここに来るしね」

「成る程。それはいい案だな、烏丸」

「でしょう?」

 

 本人の意向などお構い無し。あっという間に話は進んでいく。

 烏丸はおもむろに立ち上がると、

 

「わるいが、俺はさっそくこれからバイトだ。今日は如月先輩と練習してくれ」

「烏丸先輩!?」

「ふっ……任せておけ、烏丸」

「ええ、お願いします」

 

 それだけ言い残して、烏丸は部屋を出て言った。続いて小南と遊真、レイジと千佳、それにぼんち揚をつまみながら迅と宇佐美が続いて行き、龍神と修だけが取り残された。

 

「……」

「では、俺達も行くとするか、三雲」

「よ、よろしくお願いします、如月先輩」

「そう固くなるな。安心しろ。俺がお前を強くしてやる」

 

 修は不安だった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「はいはーい、いつでもオッケーだよー。ガンガン戦ってねー!」

 

 3組のメンバーが移動したのは、玉狛の仮想戦闘ルームである。特に障害物もなにもない、平坦な空間に宇佐美の声が響き渡る。

 

「玉狛の地下に、こんなスペースが……」

「感心ばかりして、呆けるなよ。『トリオン』で構成されたこの空間で重要なことは、たったひとつだけだ」

 

 龍神の体が、仮想戦闘ルームと同じ『トリオン』で構成された『戦闘体』に換装される。

 

「ここで重要なのは、お前が強いか、弱いか。それだけだ」

「っ……はい!」

 

 目の前の先輩にならい、修も『トリガー』をオンする。戦いをはじめる準備は整った。

 

「まずは実力を見せてもらおう……と、言いたいところだが、はじめる前に聞いておきたいことがある」

「は、はい。なんですか?」

 

 コホン、と修の目の前の師匠は咳払いをして、おもむろに訊ねた。

 

「お前、必殺技はどうしたい?」

「…………は?」

 

 修は、やっぱり不安だった。

 

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