厨二なボーダー隊員   作:龍流

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双剣、五指に入る

 15分間の休憩。

 狭い個人用ブースの中で、龍神はいつもと違うトリオン体の掌を開いては閉じ、開いては閉じ……動作の所感を入念に確かめていた。

 違和感は、思っていたより少ない。龍神が想像していたよりも借り物のトリガーは体によく馴染んでいた。それはもちろん、このトリガーを貸してくれた王子のチップ構成が龍神のそれと似通っているのが大きい。

 

「……あの人は何を考えているのかよく分からん」

 

 龍神に「何を考えているのかよく分からん」と言わせるあたり、王子の変人度合いは相当なものである。具体的には、どこぞの炒飯女隊長と張るレベルだ。純粋な善意からトリガーを貸してくれたのか、それとも村上や遊真との戦いを観戦してデータを取るためにあえて貸してくれたのか。その真意を推し量ることはできないが、とりあえずトリガーを貸してくれたのは有難かった。

 

「……さて」

 

 壁に背を預けて脱力しながら時計を見やり、龍神は思考する。

 バトルロイヤル形式で行うことになった模擬戦は、10本勝負。3人で相談した結果、ステージはシンプルに市街地A。最後まで生き残った人間に1点が入る形式に落ち着いた。前半の5本が終了し、龍神が3点、村上と遊馬がそれぞれ1点ずつという状況。一応、龍神が頭一つ分、抜きん出てリードしているが……まず間違いなく、村上がここから巻き返してくるだろう。

 彼のサイドエフェクトは『強化睡眠記憶』。

 人間の脳は、睡眠を取る際に記憶の定着や整理を必ず行う。その機能が常人よりも遥かに優れている村上は、一眠りするだけで学んだことをほぼ100パーセント、自分の経験に反映することができる。この15分間の休憩だけで、村上は5本の対戦で得た経験を完璧にフィードバックできてしまう。前半で使った手は、まず通用しないと考えていい。

 

「まぁ、そもそもこちらが取れる手に限りがある、というのもあるが」

 

 主(メイン)トリガーのスロットには、弧月、旋空、シールド。

 副(サブ)トリガーのスロットには、スコーピオン、ハウンド、シールド、バッグワーム。

 これが、今の龍神が持つ選択肢。切ることができる手札(カード)達だ。グラスホッパーとテレポーターがないのが少々辛いところだが……やりようはいくらでもある。息を吐き出し、腰に力を入れ、龍神はゆっくりと立ち上がった。

 

 後半戦が、始まる。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「さあ! 15分間の休憩が終了! 待ちに待った試合再開です!」

「お? どうやら早速、たっつーが仕掛けるみたいだよ」

 

 通常、攻撃手の個人戦は互いに向き合った状態でスタートするが、今回の模擬戦は三つ巴のバトルロイヤル。なので、試合開始直後の転送場所は、ある程度の距離を保って完全ランダムに設定されていた。攻撃手は射撃トリガーを持っていないことが多いので、ランダムの転送は基本的にはフェアである。

 あくまでも、基本的には、だが。

 

「こ、これは!?」

 

 転送から数秒。3階建ての建造物の屋上、という非常に良い位置に降り立った龍神は、眼下に村上を捉え、すぐさま右手のサブトリガーを起動した。

 

 ……なにやら。やたらかっこいいポーズを取りながら。

 

「唸れ、猟犬……その牙を、我が敵に突き立てろっ!」

 

 その手に浮かぶのは、やや大きめのトリオンキューブ。ぎこちない分割プロセスを経て、龍神の『猟犬』達は牙を剥く。

 

 

「ハウンド!!」

 

 

「なっ!? なんと如月隊長! ここで普段はめったに使わない射撃トリガー『追尾弾(ハウンド)』を起動! 王子隊長、それにしてもこれは……?」

「うん。ど下手くそだね」

 

 にこやかな笑顔で、バッサリと。王子は龍神の『追尾弾』の扱いを、一言で切って捨てた。

 

「理由は分からないけど、たっつーは昔から『射撃トリガー』の扱いが本当に苦手なんだよ」

「そうなんですか!?」

「うん。分割と射出のイメージがどうにも下手くそで……想像力はあるから、むしろ弾丸の操作は得意なはずなんだけど、何度やっても上手くいかないみたいなんだ」

「如月隊長に、そんな弱点があったとは……」

「自動で照準と弾道の補正が利く『追尾弾』だからまだいいけど、普通の射撃トリガーはもっとひどい。那須さんに『変化弾(バイパー)』を習いに行った時なんか、もう傑作だったよ……くくっ」

 

 公衆の面前で自身の弱みを盛大に暴露されていることに、悲しいかな戦闘中の龍神は気付かない。流石に悪いと思ったのか。喉を鳴らして笑っていた王子は「まあ、でも」と、言葉を繋げて散々こき下ろしたその一手のフォローに入った。

 

「不格好でも、良手ではある。ほら、鋼の足が止まるよ」

 

 ボーダーの平均と比較しても、龍神のトリオン量は恵まれている部類に入る。その決して少なくないトリオンを用いて放たれた『追尾弾』は、狙いこそ荒かったものの、重ねた弾幕で村上の足を縫い付け、彼にレイガストによる防御を強いる。所詮は牽制。だが、射撃トリガーに関する自身の技量の低さを理解している(認めているとは言っていない)龍神の狙いは、正しく牽制だった。屋上のフェンスを踏み込み、跳ねるように跳躍。続けざまに旋空の連撃で追撃し、レイガストの耐久力を確実に削ぐ。

 

「……ふむ」

 

 形勢がどちらに有利か、見て取った遊真もバッグワームを解除して回り込み、龍神が打ち込む旋空の防御で手一杯な村上の背後を取った。

 これは三つ巴のバトルロワイヤル。そして、隙を見せた相手、体勢が崩れた相手、落としやすい相手から落とされるのが、バトルロワイヤルの常だ。

 

「村上隊員、集中攻撃で動けないっ! 状況を見た如月隊長と空閑隊員が距離を詰めにかかる! これはきびしいか!?」

「うん。きびしいね」

 

 顔の前で腕を組んだ王子は、あっさりと言い切った。

 距離を詰めた龍神と遊真が、まるで最初から示し合わせていたかのような、完璧なタイミングで弧月とスコーピオンをふりかぶる。

 

 そして、

 

 

「迂闊すぎるよ」

 

 

 2人分の首が、同時にはねられた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 対応されると、分かってはいた。

 学習されると、理解はしていた。

 

 村上を相手にするのは、今日がはじめてではない。新しい技を開発する度に挑み、敗れ、改良し、また挑んできた。村上鋼という隊員の強さを、如月龍神はよく知っている。

 いや。

 知っているつもりでいた。

 

(とはいえ、これは……っ!)

 

 村上鋼を倒すために、最も意識しなければならないこと。

 それは、防御をどれだけ素早く剥がすか。

 攻撃手の中でも、扱う者が少ない『レイガスト』をメイントリガーに据えている村上は、必然、通常の攻撃手よりも防御に秀でている。シールドモードのレイガストで敵の攻撃を受け流しつつ、鋭い反撃で確実に仕留める。それが、村上の基本的な戦闘スタイルだ。

 だからこそ。村上と正面から対峙し、足を止めてブレードで削り合うのは得策ではない。持ち込むべきは、足を止めない高速戦闘のシチュエーション。その高速戦闘も、決まったパターン……既に村上に学習されているパターンであれば、動きを読まれて意味をなさない。

 必要なのは、鋭く早く、まだ村上に学習されていない攻撃。もしくは、分かっていても回避不可能な、絶対の一撃。

 だが、しかし。

 

(……崩せない)

 

 村上と切り結んだ状態のまま、頬を落ちる冷や汗を拭う余裕すらなく。龍神は内心で毒を吐く。

 

(さっきまでは、プレッシャーが段違いに過ぎるっ……)

 

 一旦、下がるか。このまま至近距離で粘るか。

 その一瞬の逡巡すらも、隙と看破されたのだろう。

 

「……スラスター」

 

 トリオン特有の噴射音。次いで殴りつけるような衝撃を伴って、手にした弧月が跳ね上げられる。

 

「なっ!?」

 

 無言の一閃で首を切断され、龍神はあえなく緊急脱出した。

 

 

 

 

 

「さあ!? どうしたことだ如月隊長!? 先ほどまでとは一転! 村上隊員の間合いに入り込めません!?」

「鋼の学習が効きはじめたようだね」

 

 動揺する桜子とは対照的に、王子は冷えた声音で言葉を紡ぐ。

 6戦目の冒頭から、三つ巴であるはずの模擬戦は完全にワンサイドのゲームの様相を呈していた。即ち、村上の独壇場である。7戦目、8戦目、そしてたった今終わった9戦目。その全てにおいて、龍神も遊真も、ただの一撃すら村上に有効打を与えられていない。一撃も、だ。先ほどまでの戦闘では、まだ力を抜いていたかのような……まだ本気ではなかったかのような。そんな疑念を抱かせるほどに、村上の動きの質は前半戦とはまるで異なっていた。

 

「対峙してみれば分かるけど、あれほどやっかいなサイドエフェクトは中々ないよ」

「村上隊員のサイドエフェクト……強化睡眠記憶ですね。戦闘員ではないわたしからしてみれば、いまいちその強さを理解できないのですが……いえ、もちろん村上隊員がとても強いということは、素人目にもよく分かるんですけど……」

「そうだね。『トミー』はチェスはやるかい?」

「へっ!? ちぇ、チェスですか? いえ、全然……」

「そうか。それは残念。今度、ウチの作戦室においで。最初から優しくレクチャーしてあげるから」

「は、はぁ……?」

 

 ちなみに今さら言うまでもないが『トミー』というのは、王子が桜子につけたあだ名である。「実は『タケラトミー』とどっちにするか一晩悩んだんだけど、語呂がいいからこっちにさせてもらったよ」と、知り合ってすぐの頃の王子がやたら満足気な顔で頷いていたのを、桜子は今でも覚えている。やはりこの男、ネーミングセンスがどこかおかしい。

 

「そうだね……じゃあ将棋……いや『ババ抜き』はどうかな? ババ抜きくらいなら、やったことがあるだろう」

「ババ抜きくらいは普通にやりますよ!?」

「ごめんごめん。馬鹿にしたわけじゃないんだ。それじゃあ、ババ抜きを例に取って考えてみよう。あ、ルールは分かるかい?」

「……王子先輩……」

「冗談だよ、トミー。そんなコワい顔をしないでほしいな」

 

 最後の1戦が始まったモニターから目は離さず。ついでに桜子からは冷え切った視線を向けられながら。けれどもその状態ですらすらと、王子は説明を重ねていく。

 

「簡単に言えば、鋼は一度戦った相手の手を読むことができる」

「手を読む……? 将棋やチェスならともかく、ババ抜きに『手』なんてありますか?」

「あるさ。正確に言うなら『手の癖』を読むと言った方がいいかもしれない。ちょっと考えてごらん。ジョーカーのカードを右側に寄せたり。カードを引かれる時、目を背けたり。そういった動作の癖は、誰にでもあるものじゃないかな?」

「た、たしかに……」

「それでも……対面して行う、考えて行うテーブルゲームならまだいい。思考は決して一通りじゃないし、頭を働かせれば『読まれていることを読んで』ゲームを動かすこともできる」

 

 王子はポケットに手を入れ、チェスの駒を取り出した。黒いキングと白のクイーン。さらにどこからか、手品のようにトランプのカードを広げて解説席のテーブル上に置く。

 

「でも、戦闘は違う。体に染みついた癖、効率化されたモーションは、実力が高ければ高いほど、より強固なものになる。どれだけ本人が、鋼に読まれない『予想外の動き』を心がけようとも、思考の余地が介在しない瞬間の中で、体はどうしても考えるより先に動いてしまう」

 

 動きの癖を。

 相手の思考を。

 

 全てを学び取った上で、村上鋼は立ちはだかる。

 決して派手ではない。それこそ龍神のような、目を引く大技を使うわけでもない。だからこそ、彼の本当の強さは、直接対峙した者にしか分からない。

 

「根性なし……と罵られるかもしれないけど、僕はそもそも1対1で鋼に勝てるとは思わない」

 

 自嘲めいた笑みを浮かべて、王子は言う。視線の先に、2人のルーキーを見据えながら、

 

「攻撃手のトップランカーっていうのは、そういう次元に立っている人達だよ」

 

 

 

 

 

 背が低い廃ビルの屋上で、龍神は最後の一戦に臨んでいた。

 

 面を取るように、正面からの振り下し。レイガストに弾かれる。

 反撃の一閃。弾かれた勢いを殺さず、スコーピオンで応撃。馬鹿正直に弧月を受けたスコーピオンが耐久限界を迎え、砕け散る。

 バックステップを踏んで後退。スコーピオンを再生成しつつ、距離を取る。

 

(予想はしていたが……まさかここまでとは)

 

 思っていなかった。だが、そんな言い訳はもう通用しないだろう。

 予想が甘かった。龍神が考えていたよりも、遥かに村上は強かった。今、ここにある事実はそれだけだ。

 

(どうする……?)

 

 スコアは既に5対3対1。逆転の可能性は完全にゼロ。むしろ、手の内をこれ以上晒さないためには、下手に粘らずに負けてしまった方がいいくらいだ。このまま呆気なくやられたところで、もたらされる結果には何の差もないのだから……

 

 いや、

 

「それは、駄目だな」

 

 ある。

 

 瞬間、息を吹き返したかのような龍神の切り返しに、後半戦の開始からはじめて。村上が大きく後退した。剣戟の音が止み、ほんの僅かな気の緩みを示すかのように、静寂が満ちる。

 両手にブレードを携え、龍神は自分自身にデカデカと、呆れの意を示すため息を吐いた。村上の口の端が、珍しく歪に持ち上がる。

 

「いい打ち込みだったぞ、如月」

「……このまま負けたら、俺のなけなしのプライドに傷がつく。そういうことだ」

「そうだね。ぷらいどとかよくわかんないけど、たつみ先輩の言ってることはなんとなくわかる」

 

 もはや意味のない不意打ちを仕掛けることに飽きたのか。上空から龍神と村上の前に堂々と舞い降りた遊真も、ゆったりとした動作でスコーピオンを構えた。

 

「たつみ先輩」

「なんだ」

「先、もらってもいい?」

「……好きにしろ」

「なるべく、けずっといてあげるよ」

「余計なお世話だ。むしろはやく負けてしまえ」

 

 遊真は前へ。龍神は後ろへ。入れ替わるように立ち位置を替えた2人に、村上は首を傾げる。

 

「どういうつもりだ?」

「たつみ先輩が言った通りだよ、むらかみ先輩」

「俺達の、意地の問題だ。このまま負けるのは仕方ないとしても、ただ負けるのは非常に癪に触る」

 

 さして癪にも触っていないような表情で、龍神は淡々と。

 

「最後くらいは、1対1で一撃を入れたいと。そういうことだ」

「次の試合に向けて、ね」

 

 ふ、と。

 この期に及んでなお、口ぶりだけは小生意気な後輩達に村上は苦笑を漏らした。完全に手を組んで、2対1で自分を追い詰めることもできただろうに。

 

「……そうかい」

 

 返答は、それだけだった。

 再開した戦闘を他人事のように眺めながら、龍神は再び思考に没入する。

 

(旋空関連の俺の『技』は、ほとんどが学習されてもう通用しない)

 

 スコーピオンを腕の延長のように振り回し、遊真が攻める。

 

(次の試合を見据えた場合……どの技が通用するか、把握しておく方が望ましい)

 

 レイガストを前面に掲げ、村上が防御する。

 

(しかし、グラスホッパーとテレポーターはない)

 

 高速の一撃が村上の頭部を狙うが、すでに学習済みの動きだったのだろう。弧月に打ち払われて、遊真の方が逆に顎先を削られる。

 

(ならば、俺がこの勝負の最後を託すべき技は……)

 

 交差する一撃。

 

『緊急脱出』

 

 遊真の捨て身の一閃は確かに『一撃』を入れることに成功していたが、それはモスグリーンの隊服の肩口をほんの少しだけ裂くにとどまり。逆に村上の弧月は遊真の胴体を一刀の元に切り捨てていた。

 まるでその結果が当然であるかのように、悠然と振り返って村上は告げる。

 

「終わったぞ」

「了解だ」

 

 瞬間、龍神は返事を兼ねて足元の地面……より正確に言えば屋上のコンクリートを、旋空で切り裂いた。

 

「……っ」

 

 屋上が、崩壊する。

 破断された建築材は自重に耐えきれずブロックのように崩れ、重力に引きずられて地面に次々へと落下した。斬撃と同時に跳んだ龍神とは違い、期せずして空中に放り出された村上はスラスターを起動して、破片の落下圏内から離脱。着地する。

 少しだけ、間合いが広がった。龍神が思い描いた、最適な射程距離に。

 着地と同時。刀身は地面と平行に据えて。取った構えは左手一本。今、手持ちのトリガーで放つことができる技の内、最も慣れ親しみ、最も信用し、最も使い込んできたそれを、龍神が最後の一撃に選ぶことは必然だった。

 だからこそ、視界の先の村上が起こした行動に、龍神は絶句する。

 

「旋空参式」

 

 レイガストを捨て、弧月の切っ先を龍神に突きつけて。

 村上が取った構えは、左手一本……

 

 

 

「姫萩」

 

 

 

 その技の名を。

 龍神は、はじめて他人の口から聞いた。

 

「悪いな、如月」

 

 貫かれた胸の中心から、トリオンが溢れ出る。

 

 

 

「それは、もう覚えた」

 

 

 

 最後に耳に届いた村上の声は、どこか得意気だった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 忘れてはならない。

 『強化睡眠記憶』は、実に強力なサイドエフェクトだ。村上鋼の学習速度は、常人のそれを遥かに凌ぐ。彼が入隊から僅か半年足らずでNo.4攻撃手まで駆け上れたのは、間違いなくサイドエフェクトによって得た恩恵のおかげ。トリオン能力に恵まれた者だけが持つ、他の人間にはない特別な『才能』があったからだ。

 しかし、だからといって。

 

 それは決して、村上自身が努力を重ねず、楽をする理由にはならなかった。

 

 強化睡眠記憶は、学習するサイドエフェクト。学習とは、学び、習うこと。興味を持ち、真摯に取り組もうとする姿勢がなければ、そもそも学習は成立しない。得た経験を活かし、実直に、確実に、上を目指すその姿勢こそが、村上鋼の強さである。

 

「村上センパイは……強化睡眠記憶のサイドエフェクトを持っているから強いんじゃない」

 

 空閑遊真は、はじめてその事実を知る。

 

「強化睡眠記憶のサイドエフェクトを、最大限に活かせるからこそ……鋼さんは強い」

 

 如月龍神は、改めてその事実を認識する。

 

 No.4攻撃手の称号は、決して伊達ではない。

 

 村上鋼は、強い。

 

 緊急脱出用の黒いベッドに寝転びながら、遊真はぼんやりと脱力して呟いた。

 

「むう……かんぺきに負けたな……」

 

 投げ出した足に力を入れることすらせず、龍神は大きく息を吐き出す。

 

「やれやれ……これはしんどい」

 

 ランク戦とは、競争の場である。

 

「ふむ……」

「さて……」

 

 だからこそ、2人の挑戦者は笑う。それぞれの個人戦用ブースの中で、仰向けに倒れたまま。龍神と遊真は、天井を食い入るように見詰めて、

 

「「どうやって、倒してやろうか」」

 

 一字一句。少しも違わず。漏れ出た呟きは、必然のように重なった。

 




お待たせしました。次回から波乱しかないround3、スタートです。

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