厨二なボーダー隊員   作:龍流

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ワールドトリガー、ジャンプSQで連載再開キタァアアアアアアアアアア!!

え、大丈夫? うそじゃない!? うそじゃないよね!?
ちょっとやめてよね!ワールドトリガー好きなのはほんとのことだけどうそじゃないよね!?ほんとのことだけど!?(コナミ感)
これで「ウソです」とか言われたら、俺は烏丸殴り倒すよ!?佐鳥に土下座させるよ!?二宮さんのスーツの袖千切ってノースリーブにするよ!?

よーし、よしよし……よっしゃああああああああああああああああああああああああ!!

テンションあがってきたああああ!!

あ、ちょっと今月頭慌ただしかったんですけど、昨日ノリと勢いで一話書いたので更新しておきますね! 同時連載してる方もさっさと進めますね!

もっかい言っとこ……

よっしゃあああああああああああああ!!!


策略。芽吹く牙

 村上鋼が詰めより、空閑遊真が追いたて、甲田照輝がひたすらに逃げる。

 そんな三つ巴の戦場を視界に収めた来馬辰也を後押ししたのは、このままいけば勝てる、という確信に近い決断だった。

 自他ともに認める慎重で用心深い……悪く言えば臆病で思い切りの良さに欠ける性格の来馬だったが、この状況はそんな彼でも「いける」と自信を持って言えるほどに、鈴鳴第一の有利に進んでいた。太一は最初の転送から最良とも言える位置で狙撃ポジションを確保し、村上も防御重視の戦闘スタイルで三つ巴の乱戦を危なげなく捌いている。そして、今。戦場の最南端から来馬は到着した。バッグワームを起動しているので、敵には気付かれていない。これもまさしく、最良の奇襲のチャンスだった。

 

「今ちゃん。太一に狙撃の指示をお願い。如月くん達の頭を抑えるよりも、今はこっちが優先だ」

『了解です。太一、しっかり決めなさいよ』

『うへぇ……今先輩、プレッシャーかけないでくださいよ……でも、任せてください、来馬先輩! とりあえず手始めに甲田くんを撃ち抜いて、がっちり点を取ってみせます!』

「いや……ごめん太一。最初に狙うのは空閑くんにしてほしいんだ」

『うえぇ!? 空閑くんっすかぁ!? 当てられる自信ないっすよ!?』

「当てなくてもいいんだ。あの場で厄介なのは、甲田くんよりも空閑くんの方。だから、狙撃で牽制してほしい。僕も鋼も動きやすくなるからね」

『……そういうことなら、了解っす! 任せてください!』

「うん。頼んだよ」

 

 太一を激励した来馬は通信を内部通話に切り替え、村上に繋ぐ。

 

「(鋼! 援護するよ。ここで、空閑くんと甲田くんを落とそう!)」

「(来馬さん……了解です、助かります)」

 

 今はなんとか均衡を保っている状態だが、ここに自分が加われば……戦場のパワーバランスは一気に鈴鳴に傾く。バッグワームを解除し、来馬は草むらから飛び出した。

 

「っ……! マジかよ」

「む。すずなりの人、そっちにいたのか」

 

 その選択の正しさを疑わず、来馬は前に出る。

 最良の状況と配置。勝つためのシチュエーション。そんな幸運を引き当てたのは、間違いなく鈴鳴第一だった。そんな幸運に、恵まれたからこそ。来馬はこの時点で気づくべきだったのだ。

 その幸運すらも最大限に戦術に組み込み、利用しようとする敵の存在に。

 

『く、来馬さん!?』

「太一!? どうした?」

『み、三雲くんがっ……!』

 

 

――――――――――――――――

 

 

 限界か、と甲田照輝は己の力不足を呪った。

 切れるカードは全て切った。敵の攻撃に応じ、凌ぐ手は全力で回している。それでもなお、遊真と村上の攻撃の密度は、甲田の全力を軽々と上回ってくる。そこにダメ押しとも言える形で表れた鈴鳴の援軍。限界なんてものはとっくの昔に超えて、甲田は限界のその先に直面していた。

 

(あー、情けねぇ……隊長が来てくれるまで保たせることもできないとか、情けないにも程があるだろ、俺。雨取さんにいいところ見せるとか、それ以前の問題だぜ)

 

 鈴鳴の隊長が加える射撃の圧力が、一瞬弱まったのはチャンスだと思った。全力で離脱を狙ったが、それはやはり予想通りだったのか、それともわざと隙を見せたのか。瞬時に空いた穴のフォローに回った村上は、容赦がなかった。踏み込みを伴った強烈な斬閃に、スコーピオンがはじかれる。衝撃に手元が揺らぎ、ブレードが手のひらからこぼれ落ちる。さらに追撃を加えようとした弧月の切っ先を、横合いから飛び出した遊真が牽制し、一手分はやく前に出る。

 

「じゃあな、コーダ」

 

 防御。シールドは砕かれる。

 回避。グラスホッパーは間に合わない。

 迎撃。通常弾も発射が間に合わない。

 

 ならば……と。甲田の脳裏に過ぎったのは、先日の戦闘で意地を見せた隊長の姿だった。

 

(自爆、か)

 

 展開するキューブ。押し当てるように前に出したそれは、もはや分割すら放棄し……

 

 

 

『甲田くんっ!』

「頭を下げろ」

 

 

 己の生存を考慮しない、自己犠牲に満ちた選択は、唐突に聞こえた2人分の声に遮られた。

 刹那、大きく体を落とした甲田の直上を、黒い斬撃が駆け抜ける。

 

「っ!?」

「ボサっとするな。撃ち込め」

 

 横薙ぎに放たれた一閃は不意打ちで遊真に直撃し、小柄な体を吹き飛ばし。間一髪のところで自爆という最悪の結果を退けた甲田は、耳元に届いた指示のまま、手にした大弾を来馬に向けて投げつけた。

 

「メテオラぁ!」

 

「くっ……!?」

「来馬さん!」

 

 フォローに入った村上が炸裂弾を受け止める。その隙に甲田は大きく下がり、遊真や村上と一旦距離を取った。

 

「よく粘ったな、甲田。鋼さんと遊真を相手に、これだけもたせたのは大したものだ。及第点をくれてやる」

「た、隊長~!」

 

 白い外套を風に揺らし、ニヒルな笑みを浮かべるのは、甲田が何よりも待ち望んだ援軍だ。如月龍神は周囲を見回し、軽く笑んで弧月の背を肩に乗せた。

 

「た、助かった……マジで、マジで助かりました。俺、もう死んだかと……」

「ああ。俺も正直「あ、これはもうダメかな? 間に合わないかも」と思った」

「ちょっと!?」

「冗談だ。本気にするな」

 

 しかし、そんな冗談を口にできるというのは、つまるところ余裕の表れなわけで。窮地を脱した甲田は大きく深呼吸をしつつ、龍神の横に並んだ。

 

「それにしても、よく間に合いましたね。狙撃はどうしたんすか?」

「強引に抜けてきた」

「え」

「冗談だ。最初は丙を壁兼囮にして強引に抜けようとしたんだが、何故か途中で狙撃がピタリと止んでな」

「どちらにせよ、強引に抜けようとしてたんすね……あれ? そういえば丙は?」

「あいつの機動に合わせていたら、お前が死にそうだったから置いてきた」

「えぇ……?」

 

 龍神の返答はめちゃくちゃだったが、思えば平時から何食わぬ顔で無茶をやらかすのが自分達の隊長である。そもそも連戦で脳の処理容量が限界を迎えている甲田は、深く思考するのを放棄した。

 

「さて、呑気におしゃべりをしている時間は……」

 

 炸裂弾によって生じた噴煙を振り切り、飛び出した刃。いっそ愚直なほどに急所を狙ってきたそれを、

 

「……ない、か」

 

 正面からがっちりと受け止めて。龍神は犬歯を剥き出しにし、口の端を芝居のように釣り上げた。

 

「いつも狙いすましたようないいタイミングでくるな、お前は」

「ヒーローは遅れてやってくるものだ。それに、登場はかっこいい方がいいだろう?」

「……ほんとに、お前らしいよ」

 

 打ち、払い、切り上げ、また切り結び。

 挨拶代わりのワンセットの攻防を終えた村上と龍神は互いに距離を取って仕切り直した。左手に弧月を、右手にスコーピオンを展開した龍神は、手元のそれを曲芸のようにくるくると回す。

 

「それにしても、剣に気合いが足りないな、鋼さん。何か気になることでもあるのか?」

「いつにも増して、よく回る口だな」

 

 一方で。龍神の攻撃によって大きく吹き飛ばされた遊真も、口許を拭いながら乱戦の場に舞い戻った。

 

「ふむ……そろっちゃったな」

「ふっ……そういえば、鋼さんだけでなく、お前にも返礼が必要だった。俺のかわいい部下を、よくも痛めつけてくれたな」

 

 手元で弄んでいたスコーピオンを体の中に収納し。代名詞とも言える黒い孤月を両手で構え直し、如月龍神はさらに笑う。

 

「2対2対1だ。悪く思うなよ」

「思わないよ」

 

 合わせて、遊真も笑った。

 その表情に、焦燥の色はない。

 

 

◇◆◇◆

 

 

「戦況が大きく動きました。甲田隊員のピンチにギリギリ間に合う形で、如月隊長が到着」

「あのバカ……もしかしてこのタイミング見計らってたんじゃないでしょうね?」

「それは流石にないだろう。如月は丙を置いていく形で間に合わせている。リスキーでギリギリな選択だ。結果的に甲田の脱落は防げているから、妙手ではあるが……」

 

 鈴鳴第一と如月隊。それぞれに到着した援軍。先程までとは明らかに変化した状況に、観客達の目はモニターに釘付けだ。

 

「戦力の人数比が逆転したこのシチュエーション……どう見ますか、木崎隊長。一見、玉狛第二が不利になったように見えますが……」

「詰まるところ、玉狛第二は前衛が弱い」

 

 同じ支部の身内だという事実を微塵も感じさせず、レイジは最初に結論を述べる形でそう言い切った。

 

「前面での戦闘は遊真に頼り切りで、隊長の戦闘力も至って低い。事実、修は自分から仕掛けたにも関わらず、未だに狙撃手の別役を落とせていない」

「ていうか、これは悪手じゃない?」

 

 不機嫌な表情を少しも隠そうとせず、小南が割って入る。

 

「あのまま太一に狙撃させておけば、龍神の頭を抑えられたのに。少し接近できたからって、焦って仕掛けて結局仕留め切れず……招いたのはこの状況。修ってば、遊真を不利にしてるだけじゃないの?」

「それに関しては、確かにその通りだな。だが、これはそもそも玉狛第二が想定しなければならないシチュエーションだ」

「……どういうこと?」

「言っただろう? 前衛が弱い、と」

 

 大勢の観客の前で弟子の弱点をわざわざ言う気はないが……本来は得点源として働くはずの千佳が『人を撃てない』時点で、玉狛第二の得点能力は最低クラスと言っても過言ではない。攻撃面は全て遊真に頼り切り、修単体の戦闘力はB級下位もいいところ。遊真が落ちた時点で、玉狛第二はほぼ詰みに陥ってしまう。

 

「エースがやられれば、玉狛第二に先はない。それは、チームを動かしている本人が一番よく分かっているはずだ」

 

 故に、だ。前衛の弱さ、得点源が1人だけという事実は玉狛第二の弱点ではあるものの……逆に言えば、それは玉狛第二があらゆる戦闘で想定しなければならない前提条件であるわけで。それを踏まえた上で、遊真が多対一の状況を打破する能力を活かし、チーム全体で仕掛ける有効な策を見いだしていかない限り、これから先の玉狛第二に未来はない。

 

 だからこそ、

 

「次の一手で、変わるぞ」

 

 戦況のコントロールは、玉狛第二が勝利するための絶対条件である。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「仕留め損った……」

 

 己の不甲斐なさに歯噛みしながら、修は狙撃手の背中を追っていた。

 

『大丈夫? 修くん』

「すいません。倒しきれませんでした。このまま追いかけてプレッシャーをかけます」

『オッケー。太一くんはイーグレットの他にライトニングも入れてるから、撃ち返してくるかもしれないよ? 反撃には気をつけてね』

「はい。ありがとうございます。空閑の方はどうなってますか?」

 

 宇佐美のアドバイスに礼を言いつつ、修は最も注意を払わなければならない南の戦場に意識を向けた。

 

『うん。太一くんの狙撃がなくなったから、たつみんが着いた。空閑くんや鋼さんとやりあってる。多分、鈴鳴は太一くんを助けるためにそっちに行くと思うけど……』

「わかりました。ありがとうございます」

 

 前方。深い緑色の隊服は、まだギリギリ視界の内に入っている。

 

『いけそうだね』

「はい。このまま、予定通りにいきます」

 

 

――――――――――――――――

 

 

 太一が奇襲を受けた、という事実を知った来馬の判断は、何よりも素早かった。

 

「鋼! 離脱するよ! 太一を助けに行く!」

「了解」

 

 来馬は村上を援護する形で射撃を加えつつ、即座にこの場からの離脱をはかる。

 例えば、他のチームの隊長であれば。太一の救出を諦め、ここで腰を据えて遊真達と戦う、という選択肢を取る可能性もあっただろう。だが、そもそも来馬にそんな選択肢は存在しない。仲間が危ない。だから助けに行く。太一を助けるリスクとリターンを考えるまでもなく、そういう選択をすぐに取ってしまうのが来馬辰也という男だった。

 そして、そんな彼だからこそ、村上や太一は鈴鳴第一の一員としてついていくと決めたのだ。

 

「というわけで、野暮用ができた。一旦退かせてもらう」

「勘弁してくれ。折角、息を切らしてここまで来たんだ。もう少し俺と遊んでいってくれないと困る」

 

 軽口を叩きながら、龍神は来馬達の動きからここではない別の場所の戦況を予測する。

 

(やはり、仕掛けたのは三雲か。別役を発見して、先走って攻撃に出た……そんなところだろうな)

 

 狙撃手は、基本的に寄られたら終わりだ。このまま玉狛第二に得点されるのはおもしろくないが、

 

「行かせるわけには、いかないな」

 

 旋空を起動した龍神は、来馬達の離脱ルートに割り込む形で。文字通り切り込んで、この場からの撤退を阻害する。

 

「くっ……」

「甲田! コンビネーション『追尾弾斬嵐(ハウンドソードストーム)』でいくぞ。来馬さんを狙え」

「了解!」

 

 甲田の追尾弾の一斉射を合図に、龍神は『旋空』を起動。弾丸の雨にタイミングを合わせて、来馬の防御を崩しにかかる。

 バカみたいなネーミングのアホのような連携だが、しかしその連携攻撃は確かに苛烈で強力だった。追尾弾を防ぐためには、シールドを広げなければならない。広げたシールドは、耐久力が下がる。そして、耐久力が下がったシールドでは『旋空弧月』の斬撃に耐え切れない。

 

「シールドがっ……!?」

 

 態勢を崩した獲物に、龍神の瞳は爛と光る。

 

「防御を剥がして……このまま、いただくか」

 

 来馬が一直線に離脱しようとしている方向は、痩せこけた木が数本生えただけの、急勾配が目立つ斜面だ。移動用のオプショントリガーを持っていない限り、どうしても機動は鈍る。そこを突かない手はない。

 グラスホッパーを起動した龍神は、それを大きく深く踏み込み、加速。旋空弧月による遠隔斬撃から一転して距離を詰めた。だが、右腕から伸ばしたスコーピオンは、

 

「やらせると、思うか?」

 

 届く前に、割って入った村上に止められる。

 

「来馬さんはやらせない」

「……まぁ、これでやれるとは思っていないが。しかし、人のセリフはきちんと聞いてほしいぞ、鋼さん」

 

 やれるとは思っていないが、やれるならば当然やっておきたい。そう考えるのもまた、当然のこと。

 だからこそ、目の前に立ちはだかる村上同様。龍神も、あっさりと引き下がる気は毛頭なかった。

 

 

「防御を剥がす、と。俺は言った」

 

 

 村上の耳に届いたのは、グラスホッパー特有の展開音。

 ただし、それは龍神が踏み込むためのものではなく、

 

「っ……!」

 

 村上に当てるために展開された、グラスホッパーだった。

 常識的な物理法則を一切無視して、村上の体は真横に吹き飛ばされる。バランスを崩した全身は、否応なく斜面を滑り落ちる。

 

「鋼!」

 

 こんな時でも自分の身より仲間の無事を案じる隊長に、村上は返事をしたかったがそんな余裕はない。

 

(やられた……)

 

 切り結び、密着した状態。そこからノーモーションで繰り出されるグラスホッパーのパネルを、初見でかわすのは至難の技だ。まだこんな隠し球があったのか、と村上は内心で舌を巻いた。

 立て直しは効く。しかし、

 

(来馬さんから、引き離される……!)

 

「絡め手の不意打ちで悪いが、こうでもしないと剥がせんからな」

 

 村上は、来馬から離れた。シールドを砕き、追い込んだ。これほどの好機は、早々ない。

 まずは、1点。

 

「今度こそ、」

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

「今だ。撃て、千佳」

『うん!』

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 雨取千佳の莫大なトリオン量から放たれるアイビスの『大砲』は、その常識外れの威力と見た目のインパクトから、既にほとんどの隊員から玉狛第二の『戦術』として認知されている。デビュー戦当初こそ、馬鹿馬鹿しいほどのトリオン量と玉狛第二の大量得点も相まって話題をさらったが、しかし、驚きはいつまでも永遠に続くものではない。どんなものでも、何度も見れば慣れる。そういうものだと理解し、研究され、対策も講じられる。そのため、この試合ではじめてとなる千佳の狙撃……もとい砲撃を見ても、観客の多くは驚かなかった。

 むしろ、困惑の色の方が強かった。

 

「お、玉狛が大砲撃った」

「でもあれ、どこ狙ってんだ?」

「狙うなら、今やりあってる連中狙えばいいのに、どうして山頂付近なんか……?」

 

 溢れるように広がっていく困惑の声に、綾辻は慌てて隣に話を振った。

 

「木崎隊長、これは……」

「……なるほど」

「え?」

 

 固く腕を組んだまま。自分にも聞かせるように漏れ出たその呟きの意味を察するのに、綾辻は少し時間を必要とした。

 

「なるほど、とは……どういうことでしょうか?」

「見ていれば、分かる」

 

 そして、変化は如実に表れた。戦況に、ではなく、フィールドに。

 そのあまりの事態に、観客達は言葉を失い、綾辻は絶句し、そして、

 

 

「うわぁ……えげつな」

 

 

 呆れたような小南の呟きが、束の間の静寂に薄く響いた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

 砲撃音に一瞬、体が強張った。踏み込みを躊躇した。

 対荒船戦では緊急脱出の音に一切頓着せず、目の前の敵に集中していた龍神だったが、今回はそうはいかなかった。如月隊にとって玉狛第二は不確定要素の塊であり、鈴鳴第一以上の警戒対象。千佳の『大砲』にも最大限の注意を払うのは当然のことで、この戦闘でもいつ砲撃してくるか、というのは龍神が最も気にしているポイントだった。

 だからこそ、村上鋼に反撃のチャンスを与えてしまったのは、仕方のないことだと言える。

 

「スラスター」

 

 グラスホッパーで空中に投げ出され、崩された姿勢から、スラスターの投擲で正確に龍神を穿つ。そんな目を疑う反撃を繰り出され、龍神は弧月による防御を選択するしかなかった。

 

「ちっ……」

 

 加速を得たレイガストによって、孤月がはね上げられる。来馬に対する攻撃のタイミングを失い、逆にアサルトライフルの銃口をポイントされる。来馬を落とす絶好のタイミングを逃したことに口惜しさを覚えながらも、龍神は深追いをせず、再度起動したグラスホッパーで射線を外して一旦下がった。

 

「しくじったな……。江渡上! 今の砲撃は誰狙いだ!? 早乙女は……」

『如月くん!』

 

 問いを遮られ、龍神は困惑した。

 江渡上紗矢は、常に冷静である。状況を正確に伝え、分析し、的確な指示を飛ばす彼女の能力を、龍神は信頼している。

 だから、

 

 

『逃げて!』

 

 

 そんな彼女の口から出たとは思えない叫びに、耳を疑った。

 

 逃げる?

 何から?

 

 足を止め、周囲を確認し、砲撃が撃ち込まれた方向を見上げて。

 

「な……?」

 

 龍神は、遂にその砲撃がもたらしたものを理解した。

 

 

「あれ、は……」

「まずいっ……」

 

 次いで、来馬も。表情を滅多に崩すことのない村上も、考えも想像していなかった事態にそれ以上の言葉を失い、

 

「甲田!」

「鋼!」

 

 この場での戦闘を、一切放棄して、

 

 

「「退避だ!」」

 

 

 逃げ出すことを選択した。

 

 ――――雨取千佳は人を撃てない。

 

 勘のいいチームなら既に気付いているかもしれないが、如月隊にとってそれは事前に握っていた確定情報であり、対玉狛の戦術を組み立てる上で重要な要素の一つだった。千佳の砲撃が強力なのは否定できない事実ではあるが、しかし得点には直結しない……紗矢の言葉を借りるなら『ハリボテ』のようなものであり、必要以上に恐れる必要はない、と。

 甘かった。

 あの威力を。こういう形で活かしてくるのが自分の弟子だと、龍神は知っていたはずなのに。

 

「ふっ……まさか、な」

 

 弟子の成長とその方向性に、笑うしかない。

 耳をつんざく、耳朶を打ち壊す、鼓膜を割く……そんな使い古された表現が生温く感じられるほどの、圧倒的な轟音。自然の驚異を利用した、天然の質量攻撃。

 

 

 ――――土砂崩れ。

 

 

 戦闘の流れは、鈴鳴主導で進んでいたはずだった。そこに龍神が割り込んで、戦況を五分に戻したはずだった。

 違う。

 龍神が、間に合ったのではない。来馬が、仕掛けたわけでもない。間に合わされた上で、釣り出されたのだ。誘導された上で、仕掛けさせられたのだ。

 三雲修に、踊らされたのだ。

 太一を仕留めきれなかったのは、単純なミスだろう。だが、狙撃手を牽制し、龍神や来馬をこの場に誘導し、主戦場を固めたのは明らかに作為的な意図があってのこと。

 それに、全員がまんまとはめられた。

 長雨により弛んだ地盤。一カ所に敵を集めるシチュエーションの演出。最初から張り巡らされていた伏線は、全てこのために。

 

 そう。全ては、これに巻き込むために。

 

「あの、くそメガネめ……!」

 

 吐き出した悪態は、轟音と土石流に巻き込まれて消えた。

 

 

――――――――――――――――

 

 

『崩したぞ』

 

 その発言は、敵を崩したという意味か。

 あるいは文字通り、山を崩したという意味か。

 いずれにせよ、信頼する隊長が立派に勤めを果たしたのは確かなわけで。

 

『やれ、空閑』

 

 自信に満ちたその命令(オーダー)に全身全霊で答えるべく。

 

「りょーかい、隊長」

 

 全てを押し流す大地の濁流へ、遊真は飛びこんだ。

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