厨二なボーダー隊員   作:龍流

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変化。背負うもの ☆

 剣戟の音が鳴り止まない。

 いっそ愚直なほどに。真正面から斬り合う龍神と村上の攻防は、しかし一方的な様相を呈しつつあった。

 村上鋼が押し、如月龍神が押される、という形で。

 

「……江渡上。状況の整理を頼む」

 

 龍神が小声で問いかけると、鈴のような声が淀みなく返ってくる。

 

『玉狛第二が合計4点。私達が2点。鈴鳴が1点。あなたが村上さんを落とせば、その時点で生存点含めて合計5得点。私達の勝利になるわ』

「しかし、逆に俺が負ければ……」

『鈴鳴が2得点。ついでに早乙女くんと落とされた場合、合計がさっきの逆パターンで5得点になって、鈴鳴の勝ち。私達の負けね』

「早乙女は?」

『雨取さんの最後の砲撃で、山中の道が崩されてる。そっちに行くまで5分はかかるわね。早乙女くん、地形踏破訓練の成績いまいちだし』

『すいません隊長……まさか雨取さんの最後っ屁がここにきて効いてくるとは……』

『うぉい! 早乙女! 最後っ尻ってなんだ、さいごっぺって!? 雨取さんはなぁ……おならなんてしねぇんだよ!』

『甲田くん。うるさいし、うざい。だまって』

『はい、ごめんなさい』

 

 ……甲田のアイドルに対する絶対信仰めいた千佳への好意は、置いておいて。

 現状の得点は、玉狛第二が4点。如月隊が2点。鈴鳴が1点。得点では玉狛が圧倒的な首位に立っているが、全員が脱落してしまったため、これ以上の追加点はない。残された如月隊と鈴鳴の勝負の肝は、生き残ったチームにのみ与えられる生存点の2点。これにかかっている。まだ早乙女が生き残っているとはいえ……否、早乙女が生き残っているからこそ、龍神はここで落ちるわけにはいかない。

 

「下がる、か」

 

 よくも悪くも、龍神らしからぬその対応に、村上は感心したように頷き……同時にどこか落胆を感じさせる息を漏らして、

 

「舐めるなよ」

 

 構えたレイガストを、シールドからブレードに切り替える。

 変化した形状は短剣。投擲に適したそれは、村上が得意とするレイガストを用いた遠距離攻撃。

 

「スラスター、オン」

 

 トリオンの燃焼効果と共に、凄まじいスピードで撃ち出されたレイガストは、剣ではなく弾丸という表現が当てはまるほど勢いで龍神の顔面を狙い撃ち……それを当然読んでいた龍神は、弧月で投擲を打ち払った。凄まじい火花が散り、レイガストが明後日の方向に弾かれる。腕に響く強烈な衝撃を受け流し、龍神は背中を転がして膝をついた。

 そして、目を疑う。

 

「旋空」

 

 拡張された刃は、真っ直ぐに喉元へ。ただ急所を刈り取ることだけを目的とした伸びる斬撃を、龍神はすんでのところで受け止めた。

 レイガストの投擲の後に、間髪入れずに旋空弧月。これまでの村上とは違う攻撃パターンに、龍神の防御は崩れ、思考はかき乱される。一撃ではない。叩き込むように繰り返される旋空弧月の連撃は、間違いなく前の村上にはなかった攻撃だった。

 

「っ……ちぃ!?」

 

 だから、対応が遅れた。

 正面にいたはずの村上が。旋空弧月を放っていたはずの村上の姿が一瞬で消失し、弧月にのしかかっていた圧力が消え失せる。

 

(まさ、か)

 

 思考ではなく、反射で。龍神は背後を見た。

 何もないはずの空間から抜け出すように現れた村上は、すでに弧月を大きく振りかぶっていた。

 

 

 

「死式・赤花」

 

 

 

 

 刃が煌めく。喉がひりつく。応撃という選択肢は消え失せ、龍神は背後からの強襲を全力で回避する。起動したグラスホッパーを片足で踏み込み、不器用な跳躍で離脱。横転した体を立て直し、そこでようやく、一息。

 ぶしゅり、と。薄く刃が入った隊服の右袖が切り裂かれ、トリオンが漏れ出した。

 

「……っは、はっ……」

「息が荒いな、如月」

 

 右足でレイガストの柄を器用に蹴り上げ、キャッチした村上は、再び半透明のシールドを形成する。余裕と自信に満ちたその態度に、龍神はまた愚痴を吐きたくなるのをぐっと堪えた。

 今の攻防。ワンセットの攻撃は二段ではなく三段構えだった。

 初手に、レイガストの投擲。

 次に、旋空弧月による斬撃。

 締めに、テレポーターによる死角への移動。

 

「……ふっ。恐れいったぞ、鋼さん。『姫萩』だけでなく、まさか『赤花』までとは」

「テレポーターを実戦で使うのは、はじめてだったんだが……悪くないな」

 

 村上が土砂の中から素早く抜け出せた絡繰りに、ようやく合点がいく。移動先の視界さえ確保できれば、閉鎖空間から抜け出すのにこれほど適したトリガーもないだろう。

 とはいえ、他の技はともかくわざわざ普段は使わない『テレポーター』までトリガーセットに加え、『赤花』をコピーしてきたのはさすがに想定外だ。

 

(旋空と同時にテレポーター。ということは……)

 

 メイン側に弧月と旋空は確定。シールドの有無は分からないが、レーダーから消えたまま転移した可能性を考慮するなら、おそらくこちら側にバッグワームとシールドが入っている。

 サブにはレイガストとスラスター。今のでテレポーターが確定した。村上は基本的にレイガストを展開したまま戦うので、シールドがある可能性は薄い。

 

(しかし、今日の鋼さんはよくレイガストを『離して』いる……サブにグラスホッパーを積んでいる可能性も考慮にいれるべきか)

 

 大まかな手の内は掴んだ。今の村上は勢いにのっている。腰が引けた状態で下がっていては、喰われるだけだろう。

 

「……江渡上」

『なに?』

「いいか?」

 

 

◇◆◇◆

 

 

「押されているな」

 

 特に意外でもなさそうに、王子隊射手、蔵内和紀は言った。

 

「そうだね。やはり、鋼とたっつーでは鋼の方に分がある」

「それは、お前の目から見てもそうなのか?」

「誰の目から見てもそうだと思うよ」

 

 柔和な笑顔を浮かべながら、王子隊隊長、王子一彰は「それに」と、言葉を重ねる。

 

「鋼は今回、いつにも増してたっつーに『勝ちに』来ている。これまでも『強化睡眠記憶』による鋼の学習は驚異だったけど……それだけじゃなく、たっつーの技のコピーまで完璧だったとは、さすがに予想外だ。『姫萩』や『浦菊』だけならまだしも、まさかトリガーセットに『テレポーター』が必要な『赤花』まで習得していたとはね。まったく、鋼の勤勉さには頭が下がるよ」

 

 そう言う王子の手には『たっつー必殺技ノート』という直視するのが痛々しい……中々におぞましいネーミングの代物が握られており、その中にはびっしりと龍神の必殺技の一覧とデータが書き込まれていた。見る人が見れば、過去の痛々しい記憶を存分に抉られるだろう。

 

「王子先輩! 如月先輩の『技』とやらの詳細が、正直よくわからないのですがっ!」

「なら、これを読むといい。ぼくが個人的にたっつー必殺技をまとめたデータブックだ。少しでも、カシオの理解の助けになればいいんだけど」

「不勉強ですいません! ありがとうございます!」

 

 クソがつくほど真面目な王子隊攻撃手、樫尾由多嘉はやはりクソ真面目に王子からクソみたいな必殺技ノートを受け取り、クソ熱心に読み込んでいく。

 止めようかな、と蔵内は一瞬思ったが、なんかもういろいろめんどくさいので努力を放棄した。

 

「……それにしても、意外だった。まさか如月がここまで村上に押されるとは」

「そうかい? ぼくとしてはこのシチュエーションは、わりと予想通りなんだけど」

「意外だな。お前は、もう少し高く如月を買っていると思っていたが」

「もちろん。僕はたっつーの実力を高く評価しているよ。でも、その上で断言できる」

 

 懐から、マジックのように取り出したトランプの束を王子はシャッフルする。

 

「たっつーは、彼に対して致命的に相性が悪い」

「……と、いうと?」

「簡単な話さ。たっつーの戦闘スタイルでは、あの守りを崩すのは難しいってことだよ」

 

 龍神の戦闘スタイルは、弧月にスコーピオンを絡めた変則的なもの。そもそも、トリガーセットに弧月とスコーピオンという二つのブレードトリガーを装備している隊員は、龍神と王子だけだ。とはいえ、龍神がスコーピオンを本部でも解禁して使い始めたのは、黒トリガー争奪戦以後である。つまり、王子が言いたいのは龍神のもう一つの強み……

 

「旋空を用いた、拡張斬撃」

「そう。しかもただの『旋空弧月』じゃない。たっつーの『旋空弧月』は、オプショントリガーを合わせた独特なものがほとんどなんだ。言い換えれば、その意外性と奇襲性がウリなわけだけど……」

「……村上に、同じ技は二度通用しない」

「しかも、今の彼はそれを取り込んで自分のものにしている。さっきも言ったけど、わざわざ普段は使わない『テレポーター』まで入れてきているくらいだからね。他の技も、ほぼコピーされていると思っていいんじゃないかな?」

 

 さらに付け加えるなら、と。王子はトランプの束からカードを1枚抜き出して、人差し指で器用に回す。

 

「たっつーの『旋空』の中でも特に厄介な『姫萩』や『捩花』は、相手の防御の隙を突く攻撃だ。硬いレイガストを、前面にどっしりと構えて待ち受ける相手に対しては、どうしても攻撃の選択肢が減る。たっつーからしてみれば、クーガーやカゲの方がよっぽどやりやすい相手だろうね」

「なら、この勝負。村上の勝ちか」

「いや、そうでもないよ」

 

 思わず、蔵内は呆れた目で王子を見る。

 

「結局、お前はどっちが勝つと思っているんだ」

「勝つのはどっちでもいいさ。だって『勝ってきた方』を潰すのが、ぼく達の役目なんだから。二人には、全力でいい勝負をしてもらって存分に手の内を晒してもらった方がいい」

「……そういうヤツだよ、お前は」

 

 と、そこで『たっつー必殺技ノート』を熱心に読み込んでいた樫尾が、ガバッと顔を上げた。

 

「しかし、この状況! 王子先輩の分析を聞く限り、如月先輩に勝つ手段は残されていないと思うのですが!」

「ん……そうだね。じゃあ逆に、2人に聞いてみようか」

 

 樫尾の方にも振り返りながら、王子は言う。

 

 

 

「さて問題。どうしてたっつーは、ランク戦前の大事な時期に、わざわざぼくのトリガーを借りてまで模擬戦をしたのでしょうか?」

 

 

 

 蔵内と樫尾は、顔を見合わせた。

 

「……あの模擬戦にも意味があった、と。そう言いたいのか、お前は?」

「ふふっ。2人がたっつーのことをどう思っているのか知らないけど……ああ見えて、たっつーは中々に策士だよ。ぼくの予想が正しければ、布石はもう打たれている」

 

 カードの回転が止まる。

 

「きっとあるはずなんだ。とっておきの『ジョーカー』が」

 

 道化師。

 無作為に抜き出したはずの1枚を見て王子は笑みを深めた。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 その違和感の正体を、ずっと掴めずにいた。

 

 個人ランク戦に精を出し、防衛任務で実践し、また個人ランク戦で腕を磨く。如月龍神の毎日は、そんな繰り返しの日々だった。その繰り返しの中でやれる事は間違いなく増えていたし、自身の成長は上位ランカーからもぎ取る勝ち星という目に見える形で、着実についてきていた。攻撃手の頂点にのうのうと居座るあの男には、業腹なことに一勝もできていなかったが、それでも龍神は日々の鍛錬を怠ることはなかった。

 不満もない。不足もない。充実はしている。

 

 けれど足りない。

 

 自分の中に欠けている『何か』を、龍神は言い表すことができなかった。

 

 戦って、

 

 ――わりぃな、龍神。オレ、この後秀次達と防衛任務なんだ。

 

 戦って、

 

 ――おい、たつみー! カゲ返してもらうぞー! 次のランク戦の打ち合わせしたいからよー!

 ――テメェ、光……べつに作戦会議なんかいらねぇだろ!

 ――ダメだよ、カゲ。ウチ、今結構ポイント迫られてるんだから。というわけで、ごめんね如月くん。カゲ借りていくよ

 

 戦って、

 

 ――如月、俺がイーグレットを持つと、やっぱチーム全体の立ち回りが今までと変わってくると思うんだが……お前の意見を聞かせてくれ。

 

 戦って、

 

 ――すまんな、如月。来馬さん達と、次のランク戦の打ち合わせをすることになってるんだ。今日はここまでで頼む。

 

 戦って、1人で孤独な研鑽を重ねる中で。

 その違和感の正体は、きっと1人では埋めることができないものだということに、ようやく気がついた。それでも、太刀川慶に対する意地が、ささやかなプライドが、龍神にそれを認めさせる邪魔をしていた。

 

 ――――個人戦と、チーム戦は違う。

 

『いいか、って何が?』

「……もし俺がこのまま鋼さんに負けたら、俺達の勝ちの目は限りなく薄くなる」

『そうね』

「だが、正直『今の装備』では、逃げ切ることも難しい」

『だから?』

「……分かっているくせに、分からないふりをするのはどうかと思うぞ」

『無断で村上先輩と模擬戦をして、わざわざ面倒な布石を打って『その装備』にしたくせに、今さらそんなこと聞いてくる方がどうかと思うけど?』

 

 痛いところを突かれて、龍神は言葉に詰まった。追ってくる村上に対してではなく、踏みしめる足場に『旋空』を放って露骨な時間稼ぎを行いながら、グラスホッパーで距離を取る。が、所詮は小手先の時間稼ぎ。村上はスラスターを巧みに活用して体勢を立て直し、喰いついてくる。

 やはり、逃げ切ることは不可能だ。

 

『どうしてそんなに迷っているの?』

「ここが勝負所だ。この判断が試合の命運を分けると言ってもいい。オペレーターに意見を求めるのは当然だと思うが」

『そう? なら、はっきり提案させてもらうわ。如月隊の戦術を担うオペレーターとして、極めてシンプルかつ分かりやすい現状の打開策を』

 

 持って回ったような、まわりくどい言葉を重ねて。通信越しで表情こそ見えなかったが、

 

 

 

『如月くんが、村上先輩を倒せばいいのよ』

 

 

 

 龍神が信じる小生意気なオペレーターの声は、憎らしいほどに自信に満ちていた。

 

「…………どうして、お前はいつもそう……」

 

 頭を抱えたくなったが、そんな暇はないので抱える代わりに弧月を振るう。

 

『そうよ。わたしはいつも通りだもの。だから、おかしいのはそっち。いつもと違うのは、あなたの方』

「……」

 

 断言された。自覚はあるので、言い返す言葉もない。

 

『三雲くんに試合のペースを握られて、予想外の展開で戦術を崩されて、焦る気持ちは分かるけど』

 

 完璧に図星である。

 

『でも、わたしが知ってるおバカな隊長は、この状況で弱気になったりしないはずよ。いつもみたいにかっこつけて笑って、楽しんだらどう?』

 

 紗矢の言う通り。自分1人だけだったら、そうしていただろう。

 勝敗の行方が、もたらされる結果が、自分1人のものではないからこそ、龍神は迷っていた。自分の戦いが、全体の勝敗の結果を左右する。

 そんな状況で戦うことは――

 

 

『なにを気負ってるの? 大規模侵攻を思い出したら?』

 

 

 ――ああ、そうだ。はじめてではなかったかもしれない。

 

『そうっすよ隊長! やられちまった俺たちの分まで、村上先輩に一発かましてください!』

『いやー、防御とサポートが取り柄なのに、先落ちしてマジすんません。でも、隊長なら大丈夫って信じてるっす』

『ちょっと。勝手に通信に割り込まないでくれるかしら。すごく邪魔』

『『はい、すいません』』

 

 1人で戦うことと、仲間と戦うことは違う。

 1人で得る勝利と、仲間と得た勝利は違う。

 

『どう? 決断するにはまだ足りない? あなたなら勝てるわ、とか言ってほしい?』

「……そんな見え透いた励ましはいらん。気持ち悪い」

『あっそ。じゃあ精々、かっこつけてきなさいな』

「そうだな」

 

 だから、たとえ上からの命令がきっかけだったとしても、こうしてチームランク戦に参加できるようになった今に、龍神は心から感謝している。

 

「なら、お言葉に甘えて」

 

 肩に乗る気持ちの重さは、1人の時と比べるべくもない。けれど、自分以上に自分を信頼してくれる仲間がいる。

 

「最後の見せ場は、全て俺がもらうとしようか」

 

 今は、その重さが心地良い。

 足を止め、振り返り、斬り結ぶ。たったそれだけの動作で、村上は龍神の心情の変化を看破したらしい。らしくない好戦的な微笑を浮かべて、村上は口を開いた。

 

「覚悟を決めたか?」

「まあ、そんなところだ」

「そうか。だが、分かっているんだろう? 如月」

「……何を?」

「とぼけるな」

 

 弧月同士の鍔競り合いが、レイガストで強引に押し返される。咄嗟に伸ばしたスコーピオンも、突き出すように前に置かれたレイガストにはじかれ。ブレードの応酬は、やはり村上にペースを握られる。

 

「お前は、判断を誤った。オレと本気でやり合うつもりなら、何がなんでも合流を優先するべきだった」

「そうかもな。だが、合流する前に俺がやられてしまっては、何の意味もない。しかも、俺達の合流はそちらからしてみれば絶好の得点チャンス。なら、狙い通りに動いてやる必要もないだろう?」

「それは、お前がオレを倒せれば、の話だ」

 

 来馬は、限られた状況の中で村上を生かすという選択を取った。来馬の咄嗟の判断で村上は生き延び、今こうして龍神を追い詰めている。

 チーム戦にあって、個人戦にないもの。龍神は自分と同じように、村上の瞳の中にそれを見た。

 生かした側に意地があったように、生かされた側にもまた、それに応える意地がある。

 

「お前は、オレには勝てない」

「今日は、よく喋るな……鋼さん」

「そうだな」

 

 淡々と紡がれる言葉と繰り出される斬撃が、重い。

 

「お前に、毒されたのかもな」

 

 自嘲を多分に含んだその一言は、けれど絶対的な自信に満ちていた。

 スラスターによる再びの加速。爆発的なトリオンの燃焼によって生まれたエネルギーが、叩き付けられる。正面からの突貫をもろにくらい、龍神の体は空中に吹き飛ばされた。インパクトの瞬間に左腕でレイガストを受けたために、握りしめていた弧月も取り落としてしまう。そして、空中に逃げ場はない。

 

 正しく、絶対絶命。

 負けるな、と。龍神は思った。

 

「勝てない、か」

 

 呟く。

 情けない話だ。如月龍神は、村上鋼に勝てない。

 

「たしかに」

 

 弧月では勝てない。スコーピオンでも勝てない。旋空を使っても、全て読まれて返される。

 

「このままでは、勝てない」

 

 だから、用意したのだ。

 弧月と、スコーピオンと、そして重ねてもう一本。

 

 

 

 

 

「スラスター」

 

 

 

 

 第三の、刃を。

 

 

「っ!?」

 

 翻るコートの裏。腰の後ろでトリオンの光が瞬く。新たに出現したホルスターから、龍神はそのブレードトリガーの基部となる『グリップ』を引き抜いた。

 起動し、明滅し、出力されたトリオンがブレードを形成し、さらに充填されたエネルギーがその刃を加速させる。

 

「イグニッション」

 

 真横から、殴りつけるように。

 運動エネルギーを存分にのせた、弧月やスコーピオンとは種類の違う斬撃を叩きつけられ、村上の体は防御したレイガストごと吹き飛んだ。

 

「っ……な」

 

 それでもなんとか片膝をついて着地し、顔を上げた村上は、信じられない面持ちで『それ』を見る。

 

 

 なんだ、それは。

 

 

「お前は俺には勝てない、と……そう言ったな?」

 

 村上鋼は『それ』を知らない。

 村上鋼は『それ』を扱う如月龍神を知らない。

 しかし同時に『それ』をよく知っている。『それ』の扱いに関して言えば、ボーダー内でも己がトップクラスに秀でたものを持っていると自負しているほどに。村上にとって『そのトリガー』は、相棒とも言える武器だった。

 

「如月隊には、村上鋼に対抗する手段はもう存在しない。応じる手は、もうないと考えていたのなら……その甘い考えは、すぐにでも捨て去ってもらうぞ」

 

 村上や修が使用する形状とはまた異なる、ハンドガードを排して真っ直ぐに形成された大型の直剣は、正しく『大剣』と呼ぶに相応しい威容を誇っていた。

 

 レイガスト。

 

 公式のランク戦でも、本部の個人戦でも使用したことがないはずのそのブレードトリガーを慣れた様子で軽く振り、龍神は刃の切っ先を村上に突きつけ、告げた。

 

「切り札なら、ある」

 

 誰よりも不敵な笑みを浮かべながら、

 

 

 

「俺が切り札(ジョーカー)だ」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………いや、それはちょっとかっこつけすぎ』

 

 完璧にキマった決め台詞は、何故かとても恥ずかしそうな紗矢の声に水を差された。

 




『極めてシンプルでわかりやすく三行でまとめる今月のワールドトリガー』
・東さんやべぇ
・ヒュースはまじめ
・東さんやべぇ
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