十次元ガンナートライユ+ネプテューヌ   作:鞍月しめじ

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十次元編
空から落ちてきたのは紛れもなくヤツさ


 ここは、とある“超次元”に存在する国『プラネテューヌ』。

 とはいえ、そこはそのプラネテューヌ市街からは幾分か離れた平原であるが、そこに大量の異形が蠢いていた。見覚えのありそうな真っ青ゼラチンの玉ねぎ頭に、強引にくっ付けたような犬耳。

 可愛らしいのかそうでないのか――いや、どちらかと言えば“まだ”可愛らしい部類に入るのだろう。

 

 数百匹という大群が群れを成していなければ、だが。

 

「クエストなのは分かるし、難易度的には多目に見てすらEくらいなんだけど~……。これ、数が多すぎないかな……」

「うう……トラウマが……!」

 

 あまりの敵の数に頭を抱える薄紫髪の少女が二人、ゼラチン――スライヌに囲まれていた。

 どうやらこのゼラチンの異形を討伐に来たようだが、あまりの戦力差に唖然とするしかないらしい。しかしこの異形、弱い。苦戦する敵ではないので、普通に戦えば無双でランク上げ余裕なのだが、やはり面倒。

 そこで、パーカーワンピの少女は提案する。

 

「もういっそ、女神化して片付けちゃおうっと! もうきっとプリンも冷えてるし~!」

 

 右手に携えた刀を天へ掲げ、如何にもな雰囲気を醸す少女。

 少女の名はネプテューヌ――このプラネテューヌを治める、守護女神と呼ばれるれっきとした女神様だ。見た目や言動からは想像も出来ないが。

 

 

 そんなネプテューヌが刀を掲げる数秒前、ネプテューヌとその妹、ネプギアが気付かぬ内に晴天の雲に小さな切れ間が走り、淡い光が空に煌めいた。

 

「きゃあぁぁぁぁぁっ!?」

 

 身の丈に合わぬ軽機関銃を抱え、紐無しバンジージャンプを決めているのはこれまた少女。

 というか、これでは紐無しバンジージャンプというよりただ落下しているだけだろう。茶色のロングヘアを派手にはためかせ、少女は叫ぶ。

 

「きゃあぁぁぁぁぁ――って何あれぇ!?」

 

 目眩くような高さ落下し続ける少女の眼下には、一面に広がる青、青、青。無論、この青は全てスライヌ。少女がスライヌという存在を知るわけもないのだが、とにかく彼女は落下死するよりも、何故か大群のスライヌに対して強い危機感を抱く。

 少女の名はトライユ。だが、本来はプラネテューヌの住人ではない。決して紐無しバンジージャンプ――最早フリーフォールなのは置いておいて――するような、イカれたメンバーではないのだ。

 

「な、なんだか良く判らないけど、戦った方がいいよね……。よし、体勢整え――!」

 

 くん、と少女は空中で一回転し足下に魔方陣を呼び出す。それを足場に落下スピードを弱め、魔方陣から飛び降りるのと同時に頭からミサイルが如く落下する形へ体勢を変えた。

 眼下の青には、何故か紫が二つ。トライユはそれがスライヌとは別だと知る。完全に囲まれている中で、一人は刀を天へ掲げていて何をしたいのか理解しがたかったが、とにかく突っ込む。

 

「トリガー――」

 

 トライユが何かを呟いて、固まった。目を真ん丸に見開く様子から見て、完全にアクシデントの様子。

 

「う、嘘ッ!? “トリガー”出来ない!? あっ、ダメ! 落下ダメージ不可避――ぐほぉ!」

 

 トライユは落下衛星よろしく、刀を掲げるネプテューヌの眼前で、派手に土煙を上げて墜落した。

 

「ねぷっ!? これ何のイベント!? 親方ー! 空から何かがー!」

「お、お姉ちゃん……今、それどころじゃないよ……」

 

 墜落したトライユはネプテューヌ達に見守られながら、視界を得ることすら難しい筈の濃い土煙の中、ゆらりと立ち上がる。凄まじい生命力だ。

 

「り、リスポーン完了……。でもこれじゃリスキル待った無し――戦場に、慈悲はない! 飛び交う『noob』! 私は、そんなの嫌!」

「ちょ、ちょっと待ってー! わたしに気付いてよー!」

 

 じゃきり。

 トライユは抱え上げた軽機関銃のレバーを引き、戦闘体制へ突入。トリガーへ指を掛けると、そのままスライヌ達へ乱射する。勿論、ネプテューヌ達にも気付いていない。

 腰だめに軽機関銃を乱射するその様はまるで『トライユ/怒りのリスキルストップ』。全く狙いは付けていないが、スライヌの数が数だ。数撃ちゃ当たるではなく、数撃ったら当たる。出るわ出るわのドロップアイテムフィーバー状態だ。

 

「でぇぇぇりゃあぁぁぁ!」

 

 銃身は熱で赤熱化し、煙を上げ始める。機関部に接続されていた物々しい弾帯も、とうとう無くなってしまった。

 トライユはそれを確認して軽機関銃に見切りを付け、脇のホルスターから拳銃を引き抜いてひたすらに撃った。

 

「馬鹿野郎、お前! 私は生きるぞお前!」

「ねえ、ネプギア……これってもしかしなくても――」

「完全に、出番取られたね……」

 

 止むことの無い銃声と共に、次々とスライヌ達はその姿を消していく。ネプテューヌ達は完全に出番を食われた。そして、面倒ごとばかりが重なっていくのだ。

 

「はぁ……はぁ……ふう……。粗方片付いたかな」

 

 漸く止んだ銃声。その間、弾倉交換数回。幾らなんでも荒ぶりすぎである。

 

「あ、あのー? そろそろ、わたしを認識出来るかなー?」

「――ハッ! 忘れてました!」

「ずこーっ! 聞いたネプギア!? 今、わたし純粋に忘れ去られてたよ!? 女神様なのに!」

「そ、それよりも――貴方は、何者なんですか? 空から降ってきて、しかも無傷だなんて……。それに、お会いしたことの無い方ですよね?」

「なんかネプギアも冷たい!?」

 

 鋭く、かつ単刀直入にネプギアは目の前で銃を片付けるトライユへ訊ねた。

 拳銃をホルスターへ仕舞い、弾の切れた軽機関銃を少し重そうに抱え上げたトライユはネプギアを見つめ、応えた。

 

「ヴァル・ヴェルデ王国の女神、トライユです!」

「何その筋肉ムキムキマッチョマンの変態が大暴れしそうな国!? ――って、女神? あなたも女神なの?」

 

 無視されていたショックから立ち直ったネプテューヌが問うと、トライユはこくりと頷いた。

 

「書物での銘記では『十次元』――というところに存在する国です。そして私は、そこの国王様や国民の皆様に信仰される女神なんです。サバイバルゲームやそういったゲームが盛んなんですよ!」

「ユニちゃんと話が合いそう……。あれ? えっと、トライユさんには教祖様は――?」

「教祖様なら、国王様が直々に。スゴいんですよ! 溶鉱炉に沈んでもまた戻ってきたり!」

 

 目を輝かせて語るトライユ。ネプテューヌとネプギアが彼女から引き出した情報を簡潔に纏めるとするなら、トライユは十次元と呼ばれる次元から、何らかの影響を受けてネプテューヌ達の居る超次元へ飛ばされ、その理由は当人も知らないらしい。

 女神であり、ネプテューヌ達と似たような存在であるようだが別次元の女神だ。恐らく、女神化能力は失われているのだろう、と似たような体験をしたネプテューヌは察した。

 

「いやぁー! それにしても広いですねぇ。ここが戦場ならスナイパーのポイント稼ぎに使われちゃいますよ」

 

 トライユが見渡す限り、広がるのは遮蔽物など見当たらぬ草原。

 

「ど、どうしよう? お姉ちゃん?」

「うーん……」

『どうしよう、こうしようじゃないでしょ? ねぷ子。こういう時は、まず連れていって事情を聞く!』

 

 突然響いた強気な声。ネプテューヌ達が振り返ると、トライユに似た茶髪の少女が三人へ向けて歩み寄ってきていた。

 

「あ、あいちゃん! やっぱり、連れてった方がいい?」

「当然。事情をもっと訊いて、その十次元とやらについてもイストワール様に調べてもらいましょう」

 

 トライユを見つめ、語る少女はアイエフという。プラネテューヌの諜報部に所属するという職業柄からか、突然何の前触れもなく現れた、トライユという少女を野放しにするという手は無かった。

 そのまま、流れに身を任せたトライユはプラネテューヌの教会――ネプテューヌ達の家へと連行された。

 

「ふわぁ……。すっごいいい景色。スナイパーなら、いいスポットになりますよ!」

 

 プラネテューヌの街並みを一望するネプテューヌの部屋から外を眺め、トライユはそのテンションをマックスまで引き上げた。

 

「でっしょー? わたしも、ここから見る景色は好きなんだー! あ、そうだ! 一緒にゲームやらない? わたしはネプテューヌ! この国、プラネテューヌの女神なんだよ~! 凄いでしょー」

「ね……ねぷ――ねぷて……?」

(あ、これはまたダメなパターン入ったかなぁ)

 

 ネプテューヌ、という名前は呼びづらいことから初対面からはろくに普通に呼ばれた事がないのがネプテューヌの悩みの一つ。

 名前を聞いて、ねぷて、までを反芻し続けるトライユを見てネプテューヌは深いため息をつこうとした。

 

「ネプテューヌさん、ですね。よろしくお願いいたします!」

「ねぷっ!? い、今……なんと……?」

「よろしくお願いいたし――」

「その十三文字前で!」

「ネプテューヌさん、ですね。ですけど? ていうか、なんともメタい……」

 

 少し呆れたように目を細めたトライユを他所に、ネプテューヌは両手を天へ突き上げ膝をついた。

 

「ひ、久し振りに初対面の人からちゃんと名前呼ばれたよー! これは嬉しすぎて狂っちゃいそうだよ!」

「そ、そんなに喜ぶような……」

「ねぷ子、名前呼びづらいからね。それより貴方、もう少し詳しい話を訊きたいわ。こっちに来てくれる? ほら、ねぷ子も」

「はーい! 今ならわたし、なんでも出来そうだよ!」

 

 再びプラネテューヌ教会、別所へ連行されていくトライユ。自身の立場をわかってはいるが、なんとも忙しい。あっちに行ったり、こっちに行ったり。

 

 

 そして、アイエフに案内されるままやってきた部屋に居たのは本に座る小さな少女。――少女というよりは、妖精の類いと例えるべきかもしれない少女の名はイストワール。

 プラネテューヌの教祖にして、過去のプラネテューヌ守護女神達が造り出した『人工生命体』である。一時期は封印されていたが、ネプテューヌの活躍により復活。以後は教祖にしてデータバンクとして、ネプテューヌを補佐している。

 ――実際はぐうたら女神であるネプテューヌにお母さんよろしく説教する、心労お察しな教祖でもあるが。

 アイエフが事情をイストワールに説明すると、本の上のイストワールは暫し悩む。

 

「うーん、十次元という言葉は記憶に無いですね。調べてみましょう」

「イストワール様、でしたっけ? それ、調べ終わるまでどのくらい……?」

「三日ほど掛かります。その間は、監視も含めてネプテューヌさんと一緒に居ては如何でしょう? 戻る方法も、今は見当がつきませんし」

 

 さらりと当たり前のようにイストワールは検索に三日、と語ったが、それを不審に思ったのはトライユだけだったらしい。他は全員が受け流している。

 

「でも、ねぷ子に預けるのも少し不安ね。言うなら、信用度が低いわ。――少し、私の下についてみない? その間に、イストワール様の調べ物も終わるでしょうし」

「えー? わたしとしては、ゲームの相手が増えた方が楽しいよ?」

「ねぷ子……一応言っておくけど、これは貴方の安全のためでもあるのよ? ――もしトライユが、貴方の命を狙ったらどうするのよ。下手に追い出したら手懸かりを失うけど、置いておくのも今は危ないわ。だったら、私の下に置いて様子を見る。いい?」

「はーい。まあ、とらちゃんが信用度をカンストさせてくれればいいんだもんね!」

 

 アイエフとネプテューヌが話す中で、トライユは自身の“分神”であるM249軽機関銃から銃身を外し、新たに召喚。交換しながら、各部を点検していた。

 拳銃や、軽機関銃の銃身下に備えられた散弾銃も全て、手早くバラしては組み直していく。ネプギアはそれを近くで眺め、目を輝かせていた。

 

 突如やってきた十次元の女神、トライユ。

 彼女の超次元生活は、まだ始まったばかりだ。





「でっしょー? わたしも、ここから見る景色は好きなんだー! あ、そうだ! 一緒にゲームやらない? わたしはネプテューヌ! この国、プラネテューヌの女神なんだよ~! 凄いでしょー」
「ね……ねぷ――ねぷて……?」
(あ、これはまたダメなパターン入ったかなぁ)

 ネプテューヌ、という名前は呼びづらいことから初対面からはろくに普通に呼ばれた事がないのがネプテューヌの悩みの一つ。
 名前を聞いて、ねぷて、までを反芻し続けるトライユを見てネプテューヌは深いため息をつこうとした。

「ネプ注入!」
「うん、知ってた」
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