「トライユさんが、女神化出来なかった……ですか。それどころか何かを依り代に凶暴化したと」
「そうなんだよー……。まあ、原因はどう見てもあの銃だったから、今はまたわたしが厳重に封印し直したけどね~」
「珍しくねぷ子が優秀だったわよね。普段なら面倒なことはしないのに」
各国女神は一度自国へ戻り、箱についての情報を集めると共に体勢を整える事となった。
R18アイランドでの一件以来意識を失ったトライユは、プラネテューヌへ運ばれ時計が日を跨ごうとする今も目を醒まさないでいる。
ネプテューヌ達が集まったのはいつもの電脳世界。深紅の自動拳銃は再び封印されたが、トライユが女神化出来なかった原因がそこだけにあるとは皆も考えていない。
「えっと~……普段は十次元? から、シェアエナジーはもらえてたんだよね~?」
「はい。いつものエルスタトリガーさん――トライユさんでしたし、何より――」
「――入島チェックまでは、女神化してたんだよね。それを解いて、その後に箱がぶわぁ! っとビットを吐き出してからがもう大変で……疲れたよぉ、もう!」
ネプテューヌがごちるも、トライユの問題がまず優先。プルルートが語ったように、入島チェックまでは女神化していたトライユ。
入ってから女神化を解き、再び戦闘で女神化しようとしたら出来なかったという、いざというときに突然接続が切れる無線通信特有のエラーとも言える事態だったのは言うまでもない。
「トライユさんのシェアエナジーは、十次元から無線通信で届いているようなものですから、いつラグが発生してもおかしくはなかったのですが……」
「うーん……光な環境が欲しい話だね」
まことに珍しいながら、ネプテューヌさえ腕を組んで難しい顔をする。超次元は明日にでも槍が降るのではないか、と誰もが考えるが口には出さない。
ネプテューヌはネプテューヌなりに、友人を救いたいだけなのだから。
「イストワール様、十次元との連絡はやはりまだ……」
「はい。通信先は突き止めたので、リダイヤルし続けていましたがやはり電波が安定しないのか、それとも“受け手”がいないのか、今のところ応答はありません」
「せめて十次元と連絡だけでも取れれば、とらちゃんも少しは元気になってくれると思ったんだけど、まだ掛かりそうかぁ……」
今回はあまりにもイレギュラーな案件故、イストワールをポンコツ呼ばわりはしないネプテューヌ。そもそも色々と古いのはプルルートの次元にいるという、別なイストワールだが。
解決案も見つからぬまま、悩み続けるプラネテューヌ組。そこへ、ネプテューヌの端末へ連絡が入った。
「おっとっと……あれ、ノワール? どったのー?」
『どったのー? じゃないわよ! 今、ラステイションが襲撃されてるのよ! 同時にリーンボックスもよ。今無事なのは、プラネテューヌとルウィー――』
ザザッ!
意味深に走ったノイズと共に、ブラックハートのものとおぼしき声は空間から消え去った。
それが更に周囲を困惑の波に陥れる。当然、端末は既に応答しない。
「返事がない。ただの端末のようだー――って、どえぇぇぇぇ!? こ、こんな時に各国同時襲撃ぃぃ!?」
「どうやら事実のようです。ラステイション、リーンボックスでの戦闘を確認出来ます。ニュースになってますね」
「トライユでこっちもいっぱいなのに、どうしてこんな時に……」
その時だった。ぴーん、とプルルートが何かを察した。実際にそんな音まで響かせて。
「いま~、ノワールちゃん……無事なのはプラネテューヌとルウィーでぇ、ラステイションとリーンボックスは襲われてるって言ったよねぇ?」
「待ってくださいプルルート様、その先を言ったら絶対――」
アイエフが止める。しかしプルルートには効果がなかった。
「順番に襲われたって考えたらぁ、次に来るのはルウィーかぁ……」
――『ここ』だよねぇ?
手遅れだった。
電脳世界にも響くほどの轟音、教会に響く非常用サイレン。
襲われたのは、よりにもよってプラネテューヌの教会だった。必死に応戦する戦闘員の声も聴こえる。
「イストワール様、話は一旦あとに! 今は侵入者を撃退しないと!」
「わたしの家がぁぁぁ!? このままじゃゲームがジャンクに変えられるぅぅ! いざ、ネプテューヌ全力出撃ー!」
太刀を呼び出して駆け出していったネプテューヌ。ネプギアもビームサーベルを片手に追い掛けていく。
会議は中断、一旦侵入者の撃破に集中する事となった。
「あたしはぁ、ぴーしぇちゃんとトライユちゃんのところに行くね~?」
「コンパは負傷した人員の手当てを、私は援護に入るから!」
「はいです!」
電脳世界から次々と退出していく中で、残されたイストワールが十次元観測に違和感を覚えた。
「これは……まさか――」
◇
それは、本人が自覚できるほど現実離れしていた。
エルスタトリガーの前には、ヴァル・ヴェルデを襲撃したゲリラたち。外国から連れてこられた子供達へ本物の拳銃を突きつけ、脅しをかける。
「やめなさい! この国はそんなことをするためにある国じゃない! 子供たちは預かる。即刻、立ち去りなさい!」
エルスタトリガーが構えた二挺のファイブセブンは、暴徒鎮圧用弾だった。彼女の国は殺しはしない、本当なら実銃すら持たない国だ。
エルスタトリガーがこうして実包を込められる銃を持つのは、あくまでも威嚇用でしかない。あとは軍部の人間か。
女神の言葉へ意地の悪い笑みを見せた男の一人は、拳銃のトリガーを躊躇いもなく引いた。
「貴様……」
彼女が小さく呟いたあと、再び正気を取り戻した時辺りに転がっていたのは死体だった。
怯える自国民達、泣きわめく子供達、そして血塗れになりながら唖然とする自分自身。
『あ……私は――』
そこで、トライユは目覚めた。サイレンが鳴り響き、周囲は激しい戦闘を感じさせる騒音に包まれている。
ベッドから上半身を起こすと、ピーシェが横にいるのがわかった。この状況で、じっとトライユを見守るように座っている。
「ピーシェちゃん、居てくれたの……?」
「うん。ぴぃ、ずっととらいゆがおきるのまってた。とらいゆ、ないてたもん」
「……ご、ごめんね。大丈夫だから、ね? それより、これはどういう状況?」
ピーシェに言われて初めて気付いたトライユは、服の袖で頬を伝う涙を拭った。
そうして笑顔を見せた彼女は、この騒がしい状況に備えて拳銃を呼び出そうとする。
「……? あれ、もう一回」
一瞬時空に歪みが生じただけで、拳銃は手元に無かった。
愛銃ファイブセブンは自身のM249ほどではないが、女神の力を強く持つ。仮にシェアエナジーが無くなれば使えなくなるのだが、二回目のトライでは呼び出しに成功した。
「とらいゆ……」
「大丈夫。私は、大丈夫だよ。それより、ピーシェちゃんは隠れてて。様子を見てくるから」
「ううん、ぴぃもたたかう! ぴぃもすっごいよ!」
ぐるぐると腕を回して力を誇示するピーシェ。ダメだといっても、無理矢理についてきそうな雰囲気すらあった。
それならば付いてきてもらう方が、守る側としてはやりやすい。
「よし、じゃあ行こう。ピーシェちゃん」
いつかラステイションで作った弾薬クレートのお陰で、弾切れは無い。
ネプテューヌの部屋から飛び出したトライユは、すぐにヒワイキキビーチで戦った改造ビットに遭遇、二挺を構えてトリガーを引いた。
照明が落ちて暗闇に染まった部屋を、オレンジ色の光が明滅する。今回込められているのはトライユのトラウマでもある、実弾。だが、狼狽えている暇などありはしない。
「とらいゆー! こっちもおわったー!」
ねこグローブをはめたピーシェはひらひらと手を振るが、その足元では彼女の倍はある大きさのビットが粉々に砕け散っている。
笑いながらそれをやってのけたらしいピーシェへ冷や汗を流しつつ、トライユはピーシェを連れて戦闘が集中しているとおぼしき一階層入口へ向けて走った。襲い来るビットを撃ち落としながら。
これくらいなら容易い作業な筈だった。不意に、ファイブセブンのスライドが後退したままロックして弾切れを告げるまでは。
「――!? バカな、弾切れ!?」
「とらいゆあぶない!」
一瞬の焦りが、トライユに隙を生んだ。ピーシェがビットを粉砕してくれなければ、今ごろトライユは蜂の巣だ。
幸い、現在のエリアはピーシェが粉砕したビットで最後だったらしく敵の姿はない。
弾の切れたファイブセブンを眺めて、トライユは改めて自身に起こる異変が何なのかを察した。シェアエナジーが無くなれば無限に撃つ事の叶わない愛銃、シェアエナジーで作った弾薬クレートも無意味、更にR18アイランドでのトリガーエラーという名の、女神化不発。
「十次元からのシェアエナジーが――」
電脳世界で、イストワールも漸く理解していた。
「十次元から辛うじて供給されていたシェアエナジーが、やはり観測できませんね……」
トライユとイストワールは、同時に同じ答えへ帰結する。
『十次元からのシェアが、無くなった……』
トライユが女神として超次元に居られた源が、とうとう費えてしまったと。
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解決案も見つからぬまま、悩み続けるプラネテューヌ組。そこへ、ネプテューヌの端末へ連絡が入った。
「おっとっと……あれ、ノワール? どったのー?」
『どったのー? じゃないわよ! 今、ラステイションが襲撃されてるのよ! 同時にリーンボックスもよ。今無事なのは、プラネテューヌとルウィー――』
ザザッ!
意味深に走ったノイズと共に、ブラックハートのものとおぼしき声は空間から消え去った。
それが更に周囲を困惑の波に陥れる。当然、端末は既に応答しない。
――一方その頃ラステイションでは。
「ちょっとぉ!? 私の出番これだけなの!? せめてもっとなんかあるでしょ!?」