「ぅいたたた! はわー!」
あざといにも程があると言わんばかりの悲鳴が、プラネテューヌ教会のネプテューヌ部屋に轟いた。
「うあー! 暴れないでぇ、トライユちゃん~。湿布が貼れないからぁ」
「うー……これでも一応女神なんです! なのになんで――筋肉痛なんですかぁ! まだブランさんの国の問題を解決しないといけな――ぴぎゃー!」
トライユは生身のままの無茶が祟り、筋肉痛になっていた。よって、現在プルルートの手によって湿布貼りの最中である。
ぐい、と脚を曲げられて伸縮した筋肉の痛みに負けて悲鳴を上げるトライユ。今までの活躍が嘘のようなへっぽこっぷり。
同時襲撃されたラステイション、リーンボックスはプラネテューヌ防衛完了と共に、ノワールたちもなんとか終わらせていた。だが唯一、ルウィーからのみ連絡がない状況だ。
こちら側からの呼び掛けにも応えず、いっそ様子を見に殴り込もうと計画を立てているところ。少し時間は掛かっているが、各国の被害は決して軽微ではない。復興の合間をみて、全員でルウィーへ向かう算段だった。その間にブランからの連絡が入れば、それでも良い。
「ふー! ふー!」
「終わったよぉ、お疲れさま~」
トライユも見てくれは太陽を思わせるような明るく、快活な少女。それでいて作り物のように整った顔立ちの綺麗な女性なのだが、湿布を貼るだけでそんなイメージをイマジンブレイクするような過呼吸を起こしている。
救急箱をにこにこ笑顔で仕舞うプルルートに対して、この世の終わりを見たかのようなトライユ。
そこへネプギアが二人をイストワールの元へ導くべく、やってきた。
□
電脳世界に辿り着くまで、ひぃひぃと事あるごとに声を上げていたトライユだったが、電脳世界にはネプテューヌだけならずラステイション組、そしてリーンボックスからそれぞれの女神が難しい顔をして揃っている。
トライユを含めた全員が揃ったのを確認したイストワールは空間にモニターを表示し、語る。モニターには何も映っていない。『SOUND ONLY』と定番の文字が並んでいるだけだ。
「実は、ごく短時間ですがブランさんから連絡がありました。すぐに切れてしまって、こちらからは応答できなかったのですが……」
「それで、ブランの方は大丈夫なの? すごく意味深な表示があるんだけど……」
ネプテューヌの問いにイストワールは一度頷いてから、残されたブランのものであるらしい通信を再生する。
《これが無事にイストワールへ届いている事を祈るわ。私の国の問題が、大きく広がりすぎたわね。ごめんなさい。結論から言うわ、ルウィーは現在占拠状態にある――国民と私たちはレジスタンスとして抵抗中……》
「あれー? なんだかわたしの想像を斜め上に来る展開だよ? これ。――じゃなくて、ルウィーが占拠!? そんなバカな!」
両頬を手で押さえて叫ぶネプテューヌ。どこぞの天才医者助手のよう。
しかし、ブランはもちろんルウィーとの連絡すら取れない事実は全員が確認している。そうなれば次にやるべきは決まるのだが、突然イストワールがぶるぶると微振動を始めた。
「あばば! そういえばマナーモードに――この連絡先は……!」
慌てたように応答したイストワールは一人、通信相手との会話を行う。もれなく全員がおいてけぼりを食っていたが、それがすぐにルウィー事変に並ぶ大事件であると理解した。イストワールの、ただの一言――それが重々しく響く。
「トライユさん。十次元から、連絡です」
ざわつく周囲、トライユの頭は突然の故郷からの連絡で思考すら儘ならない。
だが、このままではいけない。トライユは思い切ったように強く頷いて、通信先へ呼び掛けた。
「もしもし……?」
《エルスタ様……! ――に、してはお声が……そうか、なるほど。時間がありません、貴女が銃の女神、ですね?》
聴こえてきたのは青年のようなハキハキした語調の声。しかし、声を潜めているのか吐息がひどくノイズを生んでいる。
通信相手へ、トライユは強く肯定した。勿論だ、と。
《わかりました、ではそこにいらっしゃる方が
通信相手の青年はあまりにも酷とも言える十次元の現状を、淡々と告げていく。まるでそれが任務だと言葉の一つ一つに込めるように。
《主犯は大臣です。国王は早くからこの謀反に気付き、エルスタ様だけでも安全な場所へ、と次元のゲートを開きました。恐らく、貴女様がそちらの次元に到着してからも、我々の信仰心は届いていたと思います》
「確かに……シェアエナジーは感じました。だから、女神化もして……」
「なるほどね。だからアナタ、次元を超えてもちゃっかり女神化出来たわけね。それで、そっちの大臣が裏切っちゃったものだからゲートを維持する者も、信仰する者も少なくなって、結果シェアエナジーはゲートを抜けられなくなった……違うかしら?」
ノワールが通信相手へ告げると、声の主は彼女の『その通りです』と洞察眼を称え、更に話を続ける。
《ゲートの開き方は、イストワール様へお伝えしておきました。しかし、エルスタ様にもそちらでご友人が出来た筈。こちらは既に手遅れですが、同時に事態の進行は緩慢でもあります。最後の時間を過ごす時間位はありましょう……。エルスタ様は今、恐らくお力を発揮できない筈――ですが、こちらの次元から消えたショットガンをもしお持ちであれば、そこに残った力から女神として振る舞う事が出来るでしょう》
「これが、ですか……」
既に弾薬の無くなったショットガンを抱え、トライユは呟く。通信は既に途切れてしまっていた。
トライユの自国もまた、ルウィーと似た状況に陥っている。帰るルートは確立されているが、彼女はルウィーを見捨てて帰ろう等とは思わなかった。例え、ネプテューヌ達がなんとかしてしまうと判っていても。
ぎゅ、と抱えるショットガンへ手の力を強めた。目を瞑り祈るように唱える。力を貸してほしい、友人のために――と。
「――!」
光輝くトライユ。髪はふわりと浮かんで漂い、何処か幻想的な印象を与える。
自身の咎だ、と思っていた十次元武装。自身に
「うそぉ!? シェアエナジー無いのに、女神化しちゃうー!? それは主人公だけに許される特権だよー!?」
「はいはい、ねぷ子は黙ってて」
「あいちゃんがいつも以上に冷たいッ!?」
電脳世界に現れたのは、エルスタトリガー。その姿に変わりはない。弱体は無いようで、いつもの強気な切れ長の眼が全員を見渡す。
「すまない、私がこのからくりに早くから気付けば、ブランの国も占拠などさせなかった。――国王め、一人で抱え込みやがって。だが、今私は自国へ戻るわけには行かない! ブランの国を救う、一刻も早くだ!」
「大丈夫? ルウィーへ手を回す分、あなたの国の情勢が悪化する可能性はあまりに高いけれど」
アイエフにそう問われても、エルスタトリガーの答えは変わらなかった。
まずルウィー、それから国へ帰る――それが、彼女の答えだった。
「では、早めに片付けてしまいましょう。わたくしも、このような形でライバルを失うのは惜しいですし」
「それもそうね、さっさとルウィーを解放するわよ!」
全員の意見は纏まった。
電脳世界から立ち去る女神たち。ルウィー解放戦線が、今まさに幕を開けようとしていた。