「降ってきたな」
上空からルウィーへ向かう女神一行。今回ばかりは、プルルートも女神化済み。ここまで心強い味方が未だかつて居ただろうか。
山間部の雪国であるルウィーへ近付くにつれて、とうとう雪がちらつき始める。手のひらで解ける雪を掬って見つめたエルスタトリガーは呟いた。
「ルウィーは雪国だから、そのせいね。そろそろ国に入るわ、念のため全員一度――」
パープルハートは、一度着地すべきと発言するつもりだった。それを遮るように、突如何かが女神たちの眼前で炸裂する。
一発、二発――それは次々とまるで花火のように皆を襲った。
「対空砲か! ルウィーというのは、超軍事国家かなにかか!?」
ひらりと対空砲の弾着を読み、回避しつつエルスタトリガーは叫ぶ。ルウィーは確かに一国――国である以上、最低限武装はされているだろう。
しかし、ブランの指示であるならばすぐにネプテューヌたちと気付いて止めさせる筈。仕方なく、全員揃って着地する。対空砲からの攻撃は止んだが、これでは正面から攻撃をせざるを得ない。ブランの下にも勿論兵はいる。それを考えれば正面突破はあまりに無謀。エルスタトリガーは暫し顎に手を当て悩む。
「空は対空砲火で近付けない。だからといって正面から突っ込んだとして、当たり負ける可能性が……」
「なに悩む必要があるのよ。私たちは女神よ? あーんな花火みたいな対空砲で落ちるわけ無いじゃない! ほら、空から行ってさっさと片付けるわよッ!」
悩むエルスタトリガーへそう自信満々に言い放ったブラックハートは、地面を一蹴りして生い茂る森の上へ飛び立った。
「ちょっと、ノワール!」
パープルハートの制止もむなしく、三秒後にはフラグ回収を完了。見事撃墜され、皆の前で雪に埋もれたブラックハート。
「ノワールちゃんがこれじゃあ、ちょっとムリねぇ。あたしとしては正面でも、後ろからでも――まあ、どっちでも良いわ。ブランちゃんの国を乗っ取ろうなんて豚が、どこの銘柄か早く知りたいもの」
「ちょっと、勝手に負けたことにしないでよ! 油断しただけよ。ほんのちょっとね」
「じゃあ、また飛んでいくんですか……?」
アイリスハートの言葉に眉をつり上げ反論するブラックハートだったが、パープルシスターの不安げな問いに口をつぐんだ。
「やるしか無さそうだな。ネプテューヌ、この国に地下道みたいなものはないか」
「比較的山あいにある国だし、地下は……。あ、あるわ――オリマー地下坑道。そこからなら、恐らくは――」
「それなら、確か城の近くのマンホールから外へ出られますわ。試す価値はありますわね、封印された国外への出口もここから少し回った先ですし」
オリマー地下坑道――グリーンハート、パープルハートの判断により通過ルートの範囲は拡がった。グリーンハートが語るに、国内外を繋いでいた出口は封印されているらしい。
エルスタトリガーはそれを含め、提案した。
「そこを使おう。だが、敵が集中しては意味がない。誰かがヘイトを受ける必要がある――つまり、正面から誰かが。残りは地下坑道から国内へ入り、合流する」
「それって、正面組はほぼ自殺行為ってことだけれど……」
ブラックシスターの考えは誰もが読めた。現在は森の中から遠くにルウィー入口を望む位置に集まっている。だが、そこから見えるルウィー内はモンスターだらけ。例のビットもいる。
間違いなく、正面突破で敵を引き受ける者は無傷ではいられないだろう。
――だからこそ、そこへ赴こうとする者も一人しかいなかった。
「私がやる。発案者だからな」
P90サブマシンガンを召喚して装弾を確かめたエルスタトリガーは、真っ直ぐにルウィーを見据えて発言した。
「とらちゃん、ダメよ。あなたは国へ帰らなきゃいけないの、ここは私が――」
「ルウィーという国には初めて来た。裏道の土地勘は無い、ネプテューヌ達が裏から回った方が確実だ」
パープルハートが代役を申し出ても、エルスタトリガーはそれをよしとしない。
気付けばショットガン、軽機関銃まで背部マウントに召喚している。脚部ホルスターマウントには、一回の射撃継続の長いロングマガジンを装着したファイブセブンまで。
完全な突撃体制を完成させたエルスタトリガーには、もはや退く気など欠片も無かった。
「じゃああたしはトライユちゃんに付き合おうかしら。ねぷちゃんには悪いけど」
「ぷるるん……」
一人離れたエルスタトリガーへ、集団からまた一人女神が動いた。アイリスハートは蛇腹剣を肩に担ぎ、ゆっくりと銃の女神へ歩み寄った。
「ずっと後を追ってばかりは性に合わないの。それにぃ、裏からこそこそするより正面から行った方が
「なんだか深い意味がありそうな気がするんだけど、大丈夫なのかな……」
「大丈夫よ、ネプギア。この話は非R18だから」
「ユニちゃん、メタいよ……」
正面組はエルスタトリガー、アイリスハートで決定。地下坑道はルウィーに慣れた超次元の女神達が突破する事となった。
アイリスハートの圧倒的な実力があれば、エルスタトリガーの負担も小さくなる。普段は“女神様”気質な彼女でも、真面目な時には真面目になる。
「じゃあ、正面は任せたわ……。倒れないで、必ずみんなでルウィーを解放するわよ」
「ああ、任せておけ。国内で会おう」
地下坑道へ向けて移動を開始した女神達を見送って、エルスタトリガーはルウィーへと歩む。アイリスハートと共に。
「それにしても、とんだ自殺衝動があったものねぇ? トライユちゃん。あなた、意外とドの付くマゾヒストなんじゃないの?」
「少なくとも、痛みに弱ければこんな事はやらんな。――ありがとう、プルルート」
「あら、お礼なら……後できぃっちり受けとるわよ。散々お預けにされたんだもの、最後くらいいいわよね?」
「――――わかった。仕方ない、好きにしろ」
その言葉を皮切りに、エルスタトリガーとアイリスハートはルウィーの入国ゲートへと突入していった。
通過すれば、すぐさまモンスター達が反応を示す。住民の反応は感じられなかったが、死んでいるということも同時に感じられない。
「じゃあ、まずはソフトに!」
蛇腹剣をまるで鞭のように振り回し、リーチの長さで周囲の敵を巻き込むアイリスハートに対し、エルスタトリガーは小刻みなステップで敵の攻撃を回避しつつバースト射撃で確実に打ち倒す。
広範囲近接型のアイリスハートと一点攻撃遠距離型となるエルスタトリガーの相性は、そこまで悪くないようだ。
「プルルート、身体を右に振れ!」
「なら、たまには命令されてあげるわ!」
アイリスハートがあやめ色の長髪を振り乱しつつ身体をスウェイさせてやると、素早くそこへ転回したエルスタトリガーがP90の銃撃を撃ち込む。
弾丸の飛んだ先で、件のビットが崩れ落ちる。アイリスハートを狙っていたのは一目瞭然の位置だったが、ルウィーもだいぶ進んだ頃二人に妙な違和感が生まれた。
「妙だな。ルートが固定されている気がする」
「抜けられそうな裏道は、軒並み危なそうな爆弾が仕掛けられてたわねぇ」
「ああ。そして行く先には山ほど敵がいる、例のロボットの頭も良くなっている気がする」
「あたしを狙撃しようとしたり?」
アイリスハートの問いに、弾薬の切れたP90を投棄しつつ頷いた。背部マウントされたショットガンと軽機関銃を手に取り、エルスタトリガーは悲観的な結論へ辿り着く。
「……罠か。どうやら、一方通行の罠だな。行く先には目的地があるだろうが、そこへ行くまでに消耗させる気だ」
「だろうと思ったわぁ。空はあんなにガードが堅いくせに、下からはいとも簡単に入国させるんだもの、罠しかない有り得ないじゃない。――面倒くさいし、そろそろハードにいっても良いわよねぇ?」
「私もそのつもりだ。消耗戦に付き合う気はない、一気に切り抜けて最速ゴールだ。こんな趣味の悪いゲームを、よりにもよって他人の国で開催した阿呆の面を拝みに行くとしよう」
剣の構えを変えたアイリスハートに、エルスタトリガーも二挺持ちで呼応する。二人はルウィー支配者のディフェンスゲームに巻き込まれた。
罠、モンスター配置や足止め――それに気付いた時には戻れない場所まで来てしまっていた。ならば一息に切り抜けてしまおう、それが二人の考えだ。
『ファイティングバイパー!』
電撃を纏うアイリスハートの斬撃の前には、その辺りから集めてきたようなモンスターでは太刀打ち出来ない。
首謀者は果たして彼女達の戦闘力を予知出来ていただろうか? いや、出来ていればもっと防御力の高い雑魚を置くだろう。
「走るぞ、プルルート! このままではネプテューヌ達と合流できない!」
「はぁい。わかったわ――よっ!」
自慢のハイヒールで地面に転がったスライヌを踏み潰し、突撃モードのエルスタトリガーの後にアイリスハートは続く。
エルスタトリガーの照準は、端から見ても重量感に溢れるショットガンにM249の二挺持ちでも正確だった。近寄るモンスターには散弾を、広範囲にはライフル弾を浴びせかける。
「少しは手間も減りそうね。あなた、銃弾は大丈夫なの?」
「まだ何とかなる! ――城が見えてきたな、この辺りが待ち合わせか?」
モンスターを抑えるエルスタトリガーの近くにはルウィーの紋章が描かれたマンホールがあり、二人の視界にはルウィーの教会がみえる。
未だに他の皆はいないが、必ずやってくると信じ場所をキープし続ける。気付けば銃身が熱で赤く輝いていて、弾切れも近い。
「チッ! リロードか!」
「あんまり焦らさないでね――ねぷちゃん?」
迫り来る敵達。どこのダンジョンからやって来たのか分かりはしない。それだけ多種多様な敵がいる。
弾を切らし、二挺の銃を置いて拳銃を抜いて構えたエルスタトリガーと蛇腹剣を構えるアイリスハート。もはや先には目的地、道を戻る術もまた無い。
明らかに戦力比は敵の方が上――その筈だった。
『ネプテューンブレイクッ!』
マンホールの蓋が飛んだかと思えば、瞬く間に敵の姿が消える。現れたのは、地下坑道組だ。
「ずいぶんとお待たせしましたわね、ちょっと道が混んでいたもので」
「やはり下にも敵が?」
「ええ、それはもうごまんと。全員、わたくし達がきっちり蹴散らしましたわ」
グリーンハートの言葉に、エルスタトリガーは小さく笑う。
残るは首謀者のみ――揃った仲間達が、ルウィーの教会を見据えて並んだ。何が待つかも、まだ判らぬまま。
「さあ、これからルウィー解放作戦開始よ! 必ず、全員に勝利を!」
天高く突き上げられたパープルハートの太刀へ、女神達は得物を重ねていく。
これからが、本当の戦いの始まりだ。