雪が吹き荒れ始めたルウィー教会近辺。
集った女神たちの前に立ち塞がったのは、いささか時代遅れな――というより、時代劇からそのまま出てきたような、袴を纏う初老の男性だった。
「よくぞ辿り着いた女神共! 褒めて遣わすぞ!」
「貴方がブランの国をッ!?」
太刀を構えたパープルハートが問うと、袴の男は心底愉快そうに大笑いしつつ答える。
「その通り。いや、実際には四大陸制覇を狙っとったんだが、上手くいかなくてな! 結局、儂の手の者が造り上げたネプギアンダリウム合金タイルによる完全防護型移動要塞もルウィーからほぼ動けずじまいよ!」
「ちょっ!? そのネタここにも引っ張るんですか!?」
「ネプギア、まさか手を貸したわけじゃないわよね?」
「違うしそもそも知らないから! ユニちゃん、そんな疑惑の目で見ないで!」
袴の男の言葉にしどろもどろするパープルシスター、怪訝な目を向けるブラックシスター。慌てて弁明するも、パープルシスターのペースは完全に乱れていた。
「ま、どっちにしたってそこの『アクダイカーン』なヤツを倒しちゃえばいいのよね!? さっさと終わらせるわよ!」
ブレードを薙いで息巻いたブラックハート。だが、袴の男――この際アクダイカーンと呼ぶべき男はそんな彼女の気迫すら一笑の下に切って捨てて見せた。
「儂に触れられると思うな! 女神共! みろ、これが大黒屋謹製クォーツドラゴンじゃ! せいぜい儂を楽しませい! ハァーッハッハッハ!」
「とうとう変な組織の名前まで出したわよぉ? あのおじさん。――でも、それも後回しねぇ。それにしたってブランちゃんてば、あの手の年寄りに弱いのかしらぁ?」
蛇腹剣を構えたアイリスハート。そして、下がっていくアクダイカーンの代わりに現れた額と翼に巨大な水晶を埋めた竜が耳鳴りのしそうなほど大きな咆哮を上げて女神達を威嚇する。
「チッ、時間が無いってのに……」
ファイブセブンをホルスターマウントへ仕舞ったエルスタトリガーは、右手を空へ掲げ自身の周囲へ次々と対戦車ロケットランチャーを召喚、構え次第発射していく。
大気を振動させるほどの爆発、衝撃波に襲われながらもクォーツドラゴンは頭を低く下げ翼で女神達を薙ごうと地面を踏み鳴らし駆ける。
「甘いわ!」
パープルハートが限界まで身体を屈め、翼に埋められた水晶へ太刀を突き上げて貫いた。
こういう場合、大体は露出部分が弱点であるパターンが多いこのギョウ界。そして忘れてはならないのが、ボスはこのドラゴンではないということ。
「ボスエネミーは目の前――では、この“雑魚”はわたくし達が頂きましょう」
グリーンハートが槍を天高く放り投げると、それは弱点を突かれ怯んでいたドラゴンを貫いて地面へ突き立てられた。
恐らく時間稼ぎに、と考えられていたであろう仰々しい二つ名でもありそうなドラゴンは、たった数分もしないうちに退場したかに思えた。だが、そのしぶとさは流石RPGゲームでは割りと最強に数えられるドラゴン種。最期の抵抗とばかりに咆哮を上げると、翼を広げ天高く舞い上がろうと羽ばたいた。
『ハードブレイクッ!』
ドラゴンが羽ばたこうとしたその刹那、混沌に包まれるルウィーの空に勇ましい声が響く。
同時に衝撃波が周囲を襲い、ドラゴンは無惨にも粉々に砕け散った。
消えていく破片の中に居たのは、斧を手に立つホワイトハート。
「バカなッ!? ルウィーの女神が使うハードブレイクはしょっぱい威力しかなかった筈ッ!」
「今さら昔の話を引っ張り出すな! テメェも一緒に砕くぞッ!」
どういう経緯で脱出したかとか無事だったのかだとか、そんな事を訊ねる様な雰囲気ではない。ホワイトハートは、完全に激おこを通り越してムカ着火インフェルノ状態。
そうなってしまえば制止など無駄なのは、長い付き合いである女神達がよく知っている。
「こっちが忙しいって時に、よりにもよって四大陸で同時に問題起こしやがって……。わたしは完ッ全ッにキレてんだ、ネプギアンダリウム合金だとか大黒屋だとかなんだか知らねぇが、箱ごと元の場所に返送してやるよ――」
「ま、まて! 儂はただ――」
待て、と言われて待つものがこういう場面にいただろうか? いや、いない。
「テェンツェリントロンペッ!」
斧の重さに任せた回転によるフルスイングが、アクダイカーンを襲う。
「恨むぞ大黒屋ァ――!」
天高く飛んだのはドラゴンではなく、アクダイカーンだった。ボスエネミーの消失により、配下で動いていたエネミー達も動きを止めていく。
「二度と来るな!」
斧を地面に突き立て、空へ叫ぶホワイトハート。実質これでルウィー解放戦は終了。全員女神化を解き、一息入れる。
「うぅ~疲れたぁ~……」
「ぷるるんに同意ー! プリンたべたーい!」
どさりと尻餅をついたプラネテューヌ組。全員消耗しているのは当然だ。各国の女神はそれぞれが襲撃を受け、さらにルウィーを解放している。
本来ならば今すぐ布団へ入って夢の世界へ行くべきなのかもしれない。しかし、一番消耗していたであろうブランは違った。
「トライユが十次元へ帰る、という話はここまで来る道すがらに聞いているわ。教会で少し休んだら、すぐにプラネテューヌへ戻りましょう」
「ハッ! そうだった、とらちゃんの国も今大変なんだった! というわけで、十次元に移動する前にブランー! プリンたべたーい!」
「ネプテューヌさん、今さらりと“十次元に移動”って言いませんでした?」
トライユが問うと、ネプテューヌは迷いなく頷いた。
「短い間だったけど、少しでも一緒にいたんだから――その、あれよ! 助けないと、寝覚め悪いじゃない」
「ノワールは素直に友達って言えないからねー!」
「わたくしも、共にゲームを作った仲ですもの。是非、助太刀させてくださいな」
「わたしはあまり関わりはないけど――自分の国と同じ……いえ、もっとひどい状況にあると聞いて放っておけるほど残酷じゃないわ」
「皆さん……」
十次元、ヴァル・ヴェルデ救済に四大陸の女神はなんの躊躇もなく名乗りをあげた。
トライユは斜を向いてコートの袖で目元を拭い、再び顔を上げて笑顔を見せた。
「ありがとうございます! 皆さんがいれば、百人力です!」
――十次元への旅立ちは、もうすぐそこ。
そしてトライユとの別れもまた、すぐそこまで近付いていた。