ヴァル・ヴェルデ王国、宮殿へとエルスタ達はやってきた。
やはりというべきか、城内へ上がっても人はいなかった。街に人の喧騒も感じない――というよりは、ルウィーの時のように姿を隠していると言うべきか。姿は見えないが、国民の気配は女神たち全員が感じられた。
宮殿は豪華で、まさに王の住処に相応しいものとも言えるものだ。大理石を敷き詰め、天井は目も眩むような高い吹き抜け。
女神や候補生達の靴音もカツン、カツンと心地よく響き渡った。
「まさに、宮殿ですわね……。地下洞窟の複雑さといい、いったいどれ程の歴史があるのか――見当もつきませんわ」
「歴史はそれこそ、私の先代達がエルスタを呼んだときからだからそれなりには長いわ。私が小さいときは、よく彼女にタクトレしてもらってたの」
広間を歩きながら、シテスとグリーンハートは一行を先導するように歩きつつ話に花を咲かせる。
シリアスムード満載な現状ではあるが、漸く帰ってきた我が家にエルスタもどこか顔が緩んでいるように見えた。
「ちょっと、あんたは油断しちゃダメでしょ。エルスタ」
「あ、あぁ。すまない、久し振りに帰ってきた感じがな……」
ブラックハートに指摘されて、慌てたように弁解したエルスタ。あまりに広い空間に、この掛け合いはあまりにも虚しいものがあった。
□
宮殿大広間から上層階へ上がると、プラネタワーを思わせる見晴らしの良いバルコニーが備わった執務室へ辿り着く。辺り一面銃器だらけのこの部屋が、シテスとエルスタの仕事場のようだった。
「ここはやっぱり、こんなモンか……」
一度自国を武装国家として乗っ取られてしまったルウィーの女神、ホワイトハートとしては銃器などは見たくないものへと意識が次第に変わりつつあった。表には決して出しはしないが。
反対に、この部屋に興味を持ったのはやはりというべきかブラックシスターだ。
「凄いわ、こんなに……。別なベクトルのベールさんみたい……」
ベールのベクトルは彼女の言う通りに執務室のそれとは違う。しかし興味の無いものからすれば異常、という点では同じだろう。古今東西までかき集めた、とトライユは語る。その全てが、今もすぐに撃てる状態にあるのだとも。
「それでぇ? 今は国民の姿が見えないけれど……何か手はあるのよねぇ?」
退屈そうにしていたアイリスハートは執務室の棚にあった『モデルガン。銃口の向きに気を付けてご自由におさわりください』と張り紙のあるケースからピストルを取って弄りつつ、その視線をエルスタに向ける。
問いにはエルスタの代わりにシテスが答える。
「まずは国へラジオを流すわ。家に押し込められていても、その中での行動までには大臣も気を配れない。とにかく、エルスタへシェアエナジーを回さないと戦いは難しいから」
マイク、接続機器のチェックをひっきりなしに繰り返すシテス。途中パープルシスターが加わり、内部メカの修繕も共に行われた。持つべきものはメカに強い友人か。
「そっか、エルスタさん今はシェアが無いんだもんね」
「あまり心に来ることは言わないでくれ、えっと――ラム」
ルウィー戦線での事件では、ブランの妹と話す機会はほぼ無かった。エルスタも名前を混同しないよう、ゆっくり言葉を探していた。
「エルスタ、こっちはラジオのセット終わったわ。人がどれだけ集まるか判らないけど……三時間後を目処に、広場への集合を呼び掛ける。女神様たちへのブリーフィングがあるなら、それを頭に入れておいて」
「了解だ。すまないが、一度場所を移そう。ここはシテスに任せて大丈夫だ」
エルスタに導かれ、執務室を後にする女神一行。次に連れられたのは小さめの会議室のような部屋だった。
プロジェクター、ホワイトボードなどは完備済み。エルスタがスイッチを入れれば部屋の照明は落ち、スクリーンが下りてくる。そこへ映し出されたのはヴァル・ヴェルデ国内を示した広域マップだ。
「巻き込んで済まないとは思う。だが、どうか国を取り戻すために手伝ってほしい。下りるなら下りても責めはしない。まずは、皆の答えを――」
「何を言っているのよ、エルスタ。私たちはここに来たその時から、あなたを手伝う気でいたわ。そうでしょう? みんな」
「勝手に話を進めないでよ、ネプテューヌ。でもそうね、少し一緒に居ただけでも友達だもの。手伝うわ」
パープルハート、ブラックハートの言葉に他の女神たちも同調する。嘗て無いほどの力強い援軍だ、とエルスタも気持ちを切り替えマップの説明と作戦解説に入る。
「我が国は三方を海に囲まれている。敵国の陸上部隊は真正面から乗り込む以外にない」
マップ北側に円を描き、街中へ向けた矢印を複数書き足すトライユ。もちろん、皆がそれだけではないと判っていた。
「海から上陸しようとした敵はどうするんだ? まさかがら空きじゃねえだろ」
「
「でも、TOWは流石に危ないと思いますけど……」
ホワイトハートが不安視した、海からの敵の上陸にはエルスタがマップのマークを指して返す。その武器の危険性を知るブラックシスターは、不安げにエルスタへ問う。
「今回は私の国と、隣国との戦いになる。あっちの国にも女神は居てな。互いの兵は女神の加護を受け、死ぬことはない。やられれば元の国に戻されるだけだ」
「それって、わたしたちは好きにたたかってもいいってこと?」
「いや、作戦はある程度決めていく。ラムもそうだが、ロムも独断先行はしないようにしてくれ」
エルスタの指示に素直に頷いたホワイトシスター二人。だが、パープルハートが唐突に部屋の隅へエルスタを呼び寄せる。
「ねえ、あなた確かこの街で――」
「“あの話”なら事実だ。第三国があることは我々が確認しているが、どうやらそこの連中だったらしい。私たちの加護が届く前に子供は死に、加護など授ける前に私は奴等を殺した。それに身内同士のイベントなら、実銃すら使わないんだがな……」
「なんだか複雑なのね……。でもわかったわ、少なくとも今回の戦い――手を抜く必要はないのね?」
パープルハートの言葉にエルスタはしっかりと頷いて答えを返す。再びマップ前へ戻り、全景を囲んでエルスタはブリーフィングを締める。
「想像以上に忙しない戦いになる。それだけは覚悟しておいてくれ。国民との突然の共闘、敵との突然の遭遇、イレギュラー――巻き込んでおいて済まないが、私達のために今一度だけ手伝ってほしい。以上だ」
明るくなっていく部屋の照明。ブリーフィングは一時間もかからずに終了した。シテスが予定した時間まで、まだ余裕が残る。
一旦執務室へと戻った一行は、執務室で壁に掛けられた銃器類をせっせと下ろしていくシテスに遭遇する。その数や壁にかけられていた時にもすさまじい迫力だったが、改めて自分の目線の下に横並びに広げられるととてつもない迫力だった。
「女神様たちには、少し休んでもらわないと――軍部の人たちが戻ってきてくれたから、自室に案内させるけど……」
「手伝いますわ。わたくし達は女神ですもの、このくらいで疲れただなんて文句は言いませんわ」
グリーンハートの言葉に同調する超次元勢。それからすぐに、エルスタたちとの銃器の点検作業が始まった。
ライフルを手早く分解し、知識のあるものから清掃、パーツ交換を行っていく。初めて銃に触る女神たちは、記念代わりにと武器を組み立てていく。
「複雑かと思っていたけれど、組み上がっちゃえば簡単ね」
「あとはちゃんと作動するかのテストですね、貸してください」
ブラックハートから借りたライフルから弾倉を抜き、安全を確かめつつ引き金や遊底の作動を同時に確かめるシテス。結果はパスだ、使えるようになったとして軍部の人間に回される。
ラジオ放送による集合時間は迫っていた。エルスタが作業の合間にバルコニーから城前広場を見下ろすと、相当数の国民たちがすでに集まっていた。国を守るために、エルスタのために。
「よし、終わった! 武器は大丈夫、あとは広場へ出て私たちの仕事をしましょう」
「だな。ネプテューヌたちは休んでいてくれ――といいたいが、国民に紹介したい。付いてきてくれ」
執務室を皆と出たエルスタは、国民の集う広場へと向けて歩きだした。これから始まる戦い、国民とエルスタたち十次元ヴァル・ヴェルデの想いは同じだ。
国への脅威を排除するための戦いは、間もなく始まる。