アイエフの下で暫く動く事を条件に、プラネテューヌ教会への出入りを許されたトライユは早速、アイエフと共に仕事へ出ていた。
とは言うものの、普段は目につかないような場所で不穏分子が動いていないか――といったような、ありがちなものだ。大抵、こういうものはフラグだったりする。
「そうね……トライユ、一階の廊下奥まで見て回って。これ、渡しておくわね」
トライユがアイエフに渡されたのは、一台の携帯電話。自分のものではなく、別な個体であるらしい。アイエフ自身は九つの携帯電話を持ち歩いているが、これが無くなろうものなら大変な事になる。何が大変なのかは本人の名誉のため、伏せておくが。
「その携帯で、行動は筒抜けよ。位置も把握できる。妙な動きをしたら、覚悟しなさい」
「イエスマム!」
びしっ!
綺麗な敬礼を見せたトライユ。スリングで吊った軽機関銃が、激しい動きに付き合うのは気だるいと言いたげにゆらりと揺れた。
それから二人は分かれ、トライユは指示の通りプラネテューヌにひっそりと存在していた廃ビルを見て歩く。拳銃を手に、ゆっくりと辺りを探索する姿は、流石『銃の国の女神』というべきなのか、様になっている。仮に映画であったなら、すぐにアンチが苦言を呈して問題になりそうでもあったが。
「んー。何もありませんね……。そろそろ戻っても――」
仕舞った携帯電話には盗聴器と位置追跡が搭載されている。それはタイムラグも無くアイエフの耳に嵌めたインカムに届き、行動は監視される。
そろそろ集合地点に戻っても良いか、とトライユが踵を返そうとした時、突然脇を赤い服の少女が駆け抜けていった。
「ちょっと……!」
あんまり奥に行ってはいけない。しかし、ここでトライユの中で今までの行動が映写機のように再生された。
アイエフから仕事を分担され、歩き回って踵を返す。その時間は様々な部屋を見歩いた事もあって、ざっと三十分か。その間に、少女を見掛けた記憶がない。
大体の場合、ホラーな展開が待っている。もしくは主人公にまつわる何かのイベントか。
「……行ってみるしかない、か」
どうやらトライユは、それを承知の上で少女の後を追うことに決めたようだ。再び拳銃を構え、少女が歩いていったルートを迷い無く進む。
本人は無自覚だったが、どういうことかトライユの足はあらゆる分岐を無視して少女を追っていた。
トライユが迷い込んだのは、廃ビルの中にあった広いホールのような空間。そこに、黒い散弾銃を掲げた男がいた。
男が掲げる散弾銃に、トライユの視線は釘付けになった。トライユは女神だ。この次元の女神のように、一種の『シェアエナジー』ともいうべきエネルギーが彼女を女神たらしめている。
そしてそのエネルギーは、彼女に対して奉られた『武器』にも宿るのだ。男が持つ散弾銃からは、どういう訳かトライユが持つべきエネルギーの奔流を感じられた。まだトライユがこの次元に来てから数時間しか経っていない。彼女の『残り香』が、不穏分子の武器に宿ったとは考えにくい。
つまり、簡単に説明してしまえば何故か男は十次元の散弾銃を持ち、トライユの前に立ち塞がっている、ということ。
「貴方は何者ですか? そのショットガンは、国王様が私に下さったもの。返してもらいますよ」
男は一切の言葉を発さず、突如ショットガンのトリガーをトライユへ向けて引いた。
側転で弾丸を回避したトライユだが、その背後には大きく抉られた壁がある。これが、トライユの力を得たショットガンだ。スライヌ程度なら、一射で纏めて追い返せるだろう。
無論、まともに食らえば女神と言えど無事では済まない。だが、トライユは拳銃を構えてもトリガーを引けずにいた。
(撃てない! どうして!? あのショットガン、あの男性――ここに居ちゃいけない。でもダメ……撃てない)
トリガーを引きあぐねていると、ショットガンからの一撃がトライユの体を軽々吹き飛ばす。
トライユはある程度まで察していた。何故十次元にある筈のショットガンがあり、謎の男がそれを持つのか。
(許しては、もらえませんよね。やっぱり……)
トライユは男の姿に、空間の歪みを見る。拳銃を再び構え、今度は撃った。
二発、三発――撃つ度にスライドは激しく後退し、細身の空薬莢を宙へ舞わせた。廃墟にむなしく響く銃声が途切れる頃、男の姿はそこに無く、代わりに異常を察知したのか紫の光が飛び込んだ。
やけに露出の激しい服装に、何かを思わせる独特な雰囲気はそれが何なのか、トライユにも迅速に理解が出来た。
「ネプテューヌさん、ですね」
「ええ。この時は“パープルハート”と呼んでちょうだい――まあ、ネプテューヌでも良いけれど」
ネプテューヌ=パープルハートのそのあまりの変わり様は、本来ならば集中線入りで驚くべきイベント。
しかし、トライユは現場に残された散弾銃を拾い上げて涙を浮かべた。
「――? どうしたの? とらちゃん」
「少し、昔話をしますね――ヴァル・ヴェルデ王国は私を信仰する、王国です。ですが、決して毎日が平和ではなかった。内乱はよく起こりましたし、明らかに地球外生命体の住み処にされかけた事もあった」
ショットガンをぶら下げ、斜を向くトライユは更に言葉を続ける。
「勿論、血は流しませんでした。そういう国ですから。ですが一度だけ――私は、この手を血に染めたことがある」
「……え?」
「ヴァル・ヴェルデで、ゲリラグループが外国から連れ去った子供達を売り払おうとしたことがあったんです。私は、その時に――」
トライユの脳裏に、その時の記憶が蘇る。
“やめなさい! この国はそんな事をするためにある国じゃない! 子供達は預かる。即刻、立ち去りなさい!”
警告をしたが、ゲリラは止まらなかった。小さな少年を一人撃ち殺し、ボロ雑巾をそうするように女神化したトライユの足下へ放った。
何の罪もない少年が、命を絶たれた。怒りがトライユを支配した。ゲリラにではない、この国を守護する等という大義名分を立てておきながら、それが出来なかった自分に怒った。
刹那、二挺の拳銃が火を吹いた。次にトライユが正気に戻った時、彼女の手は返り血で真っ赤に染まっていた。
「とらちゃん……」
「もしかしたら、私がここに来た理由も――その罰なのかもしれません。あの国に、私はいらな――」
「ちがうわ。確かに、赦されないかもしれない。でも、そうする以外に方法がなかった。――綺麗事なのは判っているわ。けれど、仮に私が貴方なら……もしかすると、同じことをしてしまっていたかもしれない。国民を守れなかったんだもの……」
ふわりと優しくトライユを抱き締めるパープルハート。パープルハート――ネプテューヌも、一国を統べる女神だ。トライユがその罪に苦しむなら、分け合いたかった。
周りから甘いと罵られても、ネプテューヌ――パープルハートは、そんなトライユを苦しみから出来るだけ解放してやりたかった。
「……ありがとうございます。少しだけ、楽になりました」
「そう。なら良かったわ。あいちゃんは今、教会に戻ってるから私達も戻りましょう。ところで、その武器は使えそう?」
パープルハートはトライユの手元に戻ったショットガンを指して問う。
トライユがショットガンの残弾を確認するが、弾はない。軽機関銃に取り付けたショットガンの弾も、実は入っていない。
武器ボックスでもあれば自動回復するだろうが、都合良くそんな物がここにある筈もなく。
「まあ定番と言えば定番ですけど、弾は切れてますね」
「そうよね。こういうことなら、ユニちゃんが詳しそうね……。ラステイションに行きましょうか。その前に、教会へ戻りましょう」
パープルハートが女神化を解き、いつもの
二人は並び立って教会へ向かった。途中、ネプテューヌは五歩ほど先へ走り、トライユへ振り返って言った。
「わたしは、トライユを信じてるよ。きっと、ううん――必ず、わたし達が王国へ戻してあげる! だからさ、トライユはこの次元では息抜きしようよ! まだいーすんも原因掴めてないしね!」
「ネプテューヌさん……。はい! ありがとうございます!」
次の行き先はラステイション。トライユは当然、初めて踏み入る場所だ。ユニ、という新しい名前も出てきた。
どうやらまだまだ、トライユの冒険は続くらしい。当然だ、まだ二話なのだから終わられても困る。
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「ちがうわ。確かに、赦されないかもしれない。でも、そうする以外に方法がなかった。――綺麗事なのは判っているわ。けれど、仮に私が貴方なら……もしかすると、同じことをしてしまっていたかもしれない。国民を守れなかったんだもの……」
ふわりと優しくトライユを抱き締めるパープルハート。パープルハート――ネプテューヌも、一国を統べる女神だ。トライユがその罪に苦しむなら、分け合いたかった。
周りから甘いと罵られても、ネプテューヌ――パープルハートは、そんなトライユを苦しみから出来るだけ解放してやりたかった。
(……ありがとうございます。楽になりました)
「あら? とらちゃん? ――脈がっ!?」