銃火に晒されるヴァル・ヴェルデ。ホワイトハートは戦斧を手に街を駆け巡る。
銃声を近くに感じると担いだ得物を肩から下ろし、慎重に進みはじめた。
(近いな……。なかなか緊迫感あるじゃねぇか)
ホワイトハートが路地を抜ける。そこへ加えられた不意の銃撃に、彼女は斧を突き立て盾代わりに銃弾を弾き一歩踏みきってカミィリア兵士へ戦斧を振るった。
重たい一撃に数人のカミィリア兵士が巻き込まれたが、死亡した様子は無く静かにその場から消えていくだけだった。
(なるほど、これが『女神の加護』ってヤツか。確かに遠慮は要らなさそうだな)
ホワイトハートが見上げたその空で、ブラックシスターは空中射撃によって敵の注意を引き付ける。X.M.Bによる射撃はカミィリア兵士を驚かせるには充分であるらしく、その着弾の衝撃はほぼ手榴弾のそれに近い。
「次!」
ブラックシスターが敵の足止めを終え、次のエリアの警戒に当たろうと姿勢を変えたその時、カミィリア兵士がライフルで上空のブラックシスターを狙った。
「しまった……!」
X.M.Bを構え直すには時間がなかった。もちろん銃弾で死なないことは理解していても、ここで撃たれればヴァル・ヴェルデ側への損害になる。なんとしてもかわそうと体勢を変えたが、その刹那狙っていたカミィリア兵士が倒れて消えた。
遠くからオォン……と風の鳴くような音が聴こえ、ブラックシスターに通信が入る。
『大丈夫? スナイパーは私がやってるから、そっちは次のエリアをお願いね!』
声の主はシテスだ。銃弾が先に届くほど離れた位置から、精密にカミィリア兵士を無力化していた。ブラックシスターが少なくとも、心の何処かで彼女を称賛する程度にはシテスの腕は確かだった。
空中では女神達による防衛が続いており、カミィリアには不利な状況に立たされている。街中に仕掛けられたホワイトシスターの罠も、ヴァル・ヴェルデ住民による巧みなゲリラ戦法によって確実に効果を発揮している。
このままいけば、エリアを失うこと無くコールドゲームでカミィリア敗北を言い渡せる。住民も、女神もそう思っただろう。しかしパープルシスターが叫ぶ。
「みんな! 向こうは対空車両を持ってるみたい、高度を下げて――」
ヴァル・ヴェルデ外部から向けられた対空ミサイル車両が女神たちを狙い、そのミサイルを多数纏めて放ってみせた。
今さらミサイルに当たるような女神たちではない。軽くかわして反撃のタイミングを探るが、そのミサイルは大きな軌道でUターンすると再び女神たちを追い始める。
「今イイところだったのに……とんだジャマねぇ」
蛇腹剣を振り回し、ミサイルを叩き落とすアイリスハート。彼女の眼下には立ち上がれなくなったカミィリア兵士たちが山積みになっていた。向こうへ追い返すほどのダメージを与えず楽しんでいたようだ。
蛇腹剣はミサイルに直撃し、爆風がアイリスハートを明るく照らす。破片程度なんということはない。
「せいっ!」
ブラックハートもまた、ミサイルを切り落とした。女神たちに対空ミサイルはまるで意味を為していなかった。
カミィリア側は痺れを切らせたのか、はたまた女神たちの“弱点”に気付いたのか戦車による進軍を開始。衛星とリンクしているらしい最新鋭の戦車による砲撃は精密かつ爆発的で、ヴァル・ヴェルデの市民たちを城へ押し返すには充分過ぎる力だった。
「あれは厄介ね……。攻撃の封じ方は無いのかしら?」
『あるとするなら、砲身を叩き斬るくらいか……。こちらの兵力が一瞬で削られたな』
『この国に戦闘車両は無いんですの?』
『本来必要ないんだ、ウチには過剰戦力は存在してないさ……』
通信が騒がしくなるが、迷えば迷うほどヴァル・ヴェルデ市街への攻撃は続いていく。ビルは壊れ、車は戦車に潰された。
カミィリアを打倒するはずが、一瞬のうちにそれをひっくり返された。だが妙な引っ掛かりを皆が抱く。
「大臣はこの国を売ることが目的の筈。これほど破壊しては、復興だけで膨大な金額になるぞ」
『つまり、大臣には別な思惑が出来たってことね。現場に来てるなら、訊いてみましょ――!?』
シテスからの通信が乱れ、戦車の砲塔が彼女が狙撃地点にする城の屋上を狙う。
素早く戦車へカルカノライフルを向け、引き金に指を掛けるがシテスより早く戦車が撃った。シテスは床にぺったりと伏せて砲弾を避け、そのまま戦車へカウンター狙撃を試みるもライフルで太刀打ち出来る部分を外してしまった。カンッ、と装甲に弾かれる虚しげな音が響いただけで終わった。
『シテス、すぐにそこから逃げろ。――向こうから、降伏勧告だ』
エルスタに言われ、目を丸くするシテス。スコープを使って確認してみれば、女神たちの前に戦車を停め一人の男がその上で何かを話しているのが見える。
シテスはライフルを置いて、一先ず現場へと向かうことにした。持つのはスペクトラ短機関銃のみだ。
□
女神たちの前に立ち塞がったのは、一人の男だ。カミィリア兵士とは違い、スーツに身を包んで愉快だとでも言わんばかりの笑みを浮かべ、戦車の上から女神たちを見下ろしている。
彼こそ元ヴァル・ヴェルデ大臣であり、国の裏切り者だった。エルスタが武器を下ろさないのを見てか否か、他の女神たちも得物を手放そうとはしない。
「ふん、まだ勝機があるとお思いなのかな? 女神様方」
大臣は不敵にそう語る。目の前には戦車、女神たちの装備でもどうにか出来るかは判らない。
だが、話くらいは出来る。エルスタは一歩踏み出して語り始めた。
「大臣、お前はヴァル・ヴェルデをカミィリアへ売って戦争を起こすつもりじゃなかったのか。先程の破壊行為に意味は無いだろう?」
エルスタが話し終えると、大臣は声を高らかに笑い始める。まるで小馬鹿にするように。
「実にめでたいな、女神様。カミィリアへヴァル・ヴェルデを合併させるには、一度更地にしなくては。今ある文化は邪魔なんだよ……私の仕事にはね」
「なんて男……。貴方は仮にもこの国の大臣でしょう!?」
「だからなんだ。別次元の女神に用はない。私はエルスタとシテスに消えてもらえればそれで良い」
パープルハートの言葉を一蹴する大臣。拳銃を取り出し彼はエルスタへその銃口を向けた。
「お前に私は殺せない」
「試してみようか、女神? 何の策も無しに私が直接出張るわけなかろうに」
かちり、と音を立てて大臣が拳銃の撃鉄を引き起こす。そこへシテスが駆け付け、スペクトラ短機関銃を構え大臣を制止する。だがそれを待っていたかのように大臣は口角を吊り上げた。
「これで役者は揃ったな。では、仕上げに――」
『そこまでよ、ヴァル・ヴェルデ大臣』
空から突如響いた、別な女の声。女神たちは空を見上げて探す。すると、何かが此方へ向けて飛行しているのを見つけることが出来た。
「まさか……女神か!?」
近付けば近付くほど、それが何なのか理解できた。ホワイトハートはその姿を見て自らと同じであると叫ぶ。
女神らしき女は戦車の上へ着地すると、エルスタと良く似たホルスターから拳銃を抜いて大臣へ向けた。躊躇い無く、その後頭部へと。
「エルファ……! 貴様は私が抑えていた筈ッ!」
「甘いのよ。そもそもこんな怪しい取引に応じるなんて誰も言ってないわ。こんな茶番に、ウチの兵まで使っちゃって……」
「何……? これはお前の意思ではないのか!?」
エルスタが問うと、エルファは静かに頷いた。
「私も、国王のルコもこいつに一杯食わされて軟禁されてたの。戦争仕掛けにいくのを知って、なんとか自分の兵だけは守るように力を送ってたけどね」
『意思の無い』戦争――それが、今回の争いの正体のようだった。結局は大臣という黒幕に踊らされただけ。野心の強い男に、振り回されただけだったのだ。
エルファはカミィリア兵士へ指示を出し、大臣を戦車から蹴り落とす。無用だった戦争は、もう終わりだ。あまりにも呆気ない終わり――それでも互いが被った被害は、計り知れない。無論、このままただで済ませる気などエルファには無かった……。