十次元ガンナートライユ+ネプテューヌ   作:鞍月しめじ

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超次元編
超次元への再接続(ルームオープン)


 超次元ゲイムギョウ界、ルウィー上空。雪国特有の吹雪を突っ切って、一人の少女がフリーフォールしていた。

 

「ひぃ……顔が痛いぃ!」

 

 少女の素性は十次元はヴァル・ヴェルデ王国、国王シテスだ。自分の次元から持ってきた大量の武器と共に、雪まみれになりながら身を切るような寒さに耐える。

 だが眼下に見える街はとてもユニークそうで、見たことの無い光景に胸も高まる。それよりも風切り音と寒さで耳が痛いのだが。

 

「ふっ……」

 

 我慢の限界か、シテスは予定よりも早めにパラシュートを開いた。十次元からやってきた女神、エルスタは依り代に人間を使っても自身の力で着地したが国王は教祖のようなもので、人より身体能力は優れるものの大きな差異はない。よって、パラシュートによる遊覧飛行以外に選択肢がないのである。

 しかしパラシュートを開いたことで吹雪の影響はより大きくなる。風にひどく流されるし、細かい雪は目を開けることすら拒むかのよう。

 

「風強いなぁ……。流されちゃうわ……」

 

 予定進路は眼下に見える街だが、風の向きはそれより若干ずれている。方向を修正しようとしても、流され続ける。

 いたってのんびりしている風に感じる部分があるが、案外危機的状況であったりもする。

 

「おわわっ!? 風! 風がイタズラを!」

 

 突然風力を増す風。スカートが――と、いうことはなく勢いよくパラシュートが流されて高度が下がった。

 慌てて操作するも時既に遅し。ルウィー国内の公園へ墜落する寸でのところで体勢を整え、パラシュートにくるまりながら数度前転の後に停止する。

 

『もがもが……』

 

 端から見れば布にくるまった不審者の状態になりながら、シテスは超次元への上陸を果たす。雪国、ルウィーへと。

 無論不法入国的な部分はあるが、それはそれ。ばっさばっさとパラシュートを払いながら脱け出したシテスが空を見上げると、不穏な空気を全身に纏いながら見下ろす白い少女の姿があった。無論、シテスは正体を知っている。

 

「ブラン――」

 

 ルウィーの守護女神、ブランことホワイトハート。その名を叫ぼうとしてシテスは慌てて口をつぐむ。彼女には、十次元の記憶はない。エルスタが渡した銃もどう扱われているか判らない状況なのだ。

 更に言えばホワイトハートから感じるものは『歓迎』ではなく『敵意』だ。不用意に名前を叫ぶと、話をややこしくする可能性も充分にある。もっと悪かったのは、シテスが『これから戦場でもいくのか』と言わんばかりのフル武装だったこと。

 ゲイムギョウ界とはいえ軍隊はある。銃を知らないほどではない。それがまずかった。

 

「おいお前。私の国にそんな武器持ち込んで、なんの用だ?」

 

 ホワイトハートが“いつも”のように、ドスの利いた声で問いかける。ホワイトハートは真っ黒女神とは、誰かが言っただろうか?

 だがその“いつも”が、シテスへ向けた敵意であるのには変わりない。敵対していない、と証明するのに必要なことは一つしかない。

 弾倉を全ての銃から外し、本体も地面へ投げ棄てて遠くへ足で蹴り飛ばす。要するに武装解除である。

 

「これで脅威無しです」

「はいそうですか、って信じると思ってんのか?」

 

 当然の結果だった。ホワイトハートの怪訝な眼は変わらない。

 

「どうすれば信じてもらえるのよ!?」

「逆ギレかよ!? 質悪いなお前!?」

 

 ホワイトハートは知らないとはいえ、一刻を任される人物がとうとう逆ギレ。腕をぶんぶんと振り回して無実を叫ぶシテス。

 

「仕方ないでしょ!? 私は女神みたいに身体能力あるわけじゃないし、行く宛もないし! もうここで寝るしかないじゃない!」

「落ち着け! 分かったから、一旦落ち着けよ!」

 

 ホワイトハート、根負け。女神化を解いて着地したその姿をシテスが見るのは初めてだ。『ブラン』としてのその姿は、雪国の女神としては少し寒そうにも見える。

 

「事情は判らないけれど、いいわ。敵意はないのね?」

「もちろん! すみません、取り乱しました。でも――」

「あー! もうわかったって言ってんだろーが! 事情は後で訊くから、今は黙って私に――」

 

 ブランが自分についてくるよう言い掛けたところで、突如二人の足元に弾痕が現れた。風に乗って聴こえてくるのは銃声――つまり、狙撃だ。

 反射的にシテスはカルカノ狙撃銃を拾い上げ、抜弾していた状態から弾を籠めてスコープを覗く。風は相変わらず強く、雪の混じった吹雪だ。視界はすぐに真っ白に染まり、レンズにも雪が付着していく。

 

「見えない……!」

「ちっ……こっちは忙しいってのに!」

 

 女神化したブランは斧を携え、銃声のした方角へと飛び去っていく。相手から再狙撃の兆候は無いと判断したシテスはばら蒔いた銃に弾倉を入れ直し、ホワイトハートの後を追った。

 

 

「雪原……!」

 

 狙撃地点を辿り二人が出てきたのは、周りに何もない雪原だった。周囲は森だが、そこだけはぽっかりと何もないエリア。

 

「これじゃ的になっちゃいます、ブランさん」

「じゃあどうすんだよ、このまま黙って引き下がれってのか?」

「そうです。とにかく隠れないと……」

 

 狙撃手にとって、今の二人はかっこうの的だ。撃ってくださいと言わんばかりに雪原のど真ん中に突っ立っているのだから。

 

「……どうやら、相手のほうがバカみたいだぜ」

 

 斧を構え、ホワイトハートは森から出てくる少女に目線を合わせる。シテスが見てみれば、相手は丸腰のようにも見える。

 透けるような綺麗な白髪を靡かせ、紅い瞳はまっすぐ二人を射抜いているが表情がない。喜怒哀楽、いずれもなく少女はそこにいた。

 

「おい! 私を狙撃したのはてめーか!?」

 

 ホワイトハートの問いで、少女は初めて笑みを見せた。だが答えは返ってこない。

 もう限界だった。ホワイトハートが飛び出そうと姿勢を整えたが、別な声がそれを止める。

 

「単騎はダメよ! 危ないじゃない」

 

 いつの間にかいた少女。ツーサイドアップの金髪に、つり目がちな眼。少し厳しい雰囲気の少女が、拳銃片手にそこにいた。

 シテスはその手に握られた、金色の銃身とレバー類を持つカスタムガンに既視感を覚える。

 

「ゴールドカスタム……? カミィリアの神性銃じゃあ……」

 

 神性銃とは、エルスタのM249のような女神に近い銃全般のこと。この言い方は滅多にされないが、表す方法としてはシテスにはこの言葉しか無かった。

 

「そうよ、あたしエルファだもの。次元装置はそちらの専売じゃないの。――それよりアイツ、なんなのよ」

 

 いつの間にかいた少女は十次元の神都カミィリア守護女神、エルファであるらしい。

 自身の銃を構え威嚇に入るエルファが問うても、それはシテスだって知りたい話だ。

 

「――雰囲気はヤバそうね。三人が動きましょう。向こうは一人よ、加えてこの吹雪……向こうだって自由には動けない筈」

「いきなり現れて命令されるのも癪だが、しかたねー……。いくぞ!」

 

 ホワイトハートを先頭にシテス、エルファと続いて少女へ向かう。

 瞬く間に距離は近付いて、ホワイトハートは戦斧を振りかぶる。傍にはシテスが銃を構え、その奥でエルファがトリガーに指を掛ける。ほんの一瞬だった。

 ホワイトハートの長いもみあげを引っ張り、少女はホワイトハートを引き倒す。同時に左手ではシテスの拳銃を掴み自身から逸らして引き、ホワイトハートとぶつけようと腕をクロスさせる。

 

「うあっ!?」

「きゃっ!?」

 

 ごちん、と頭をぶつけ合う二人。その間にエルファがトリガーを引いていた。二射放たれた銃弾を、引き倒した二人を飛び越えるような空中前転で回避しエルファの銃を一瞬にして分解、スライドを放り投げて腹部にフックを入れてダウンを取る。

 ここまでが、ほんの一瞬。数秒足らずの出来事だった。女神と国王の三人がかりを涼しい顔でかわした少女は、そのまま吹雪の雪原に消えて行った。


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