プラネテューヌ教会に戻ったトライユとネプテューヌ。ラステイションに行く、とネプテューヌ=パープルハートが語った通り、トライユの次の目的地は女神『ノワール』が守護するラステイション。
しかし、陸路では時間が掛かるという理由でネプギア=パープルシスターと共にパープルハートがトライユをぶら下げて空輸する、という割りととんでもない手段が提案された。
トライユが女神化出来ず飛行能力を持たない以上は、それしか手がない。当然のごとく命綱の類いは用意されていない。
「私も後を追いかけるわ、ねぷ子」
「いいのよ、あいちゃん。貴方ももう判っている筈――彼女に害はないわ。シロもシロ、真っ白よ」
「ねぷ子が言うなら……。まあ、スマートフォンも渡してあるし、それがあればすぐに場所を特定できるから手放さないでね、トライユ」
「はい!」
元気なトライユの返事と共に、右腕をパープルハートが、左腕をパープルシスターが吊り上げ、プラネテューヌ教会から音もなく離陸した。
すぐに足場はなくなり、ぶらんぶらんとトライユの身体は地上何十メートルかも分からない高さで揺れる。その恐怖たるや、どんな絶叫マシンも敵わないレベル。意気込んでいたトライユも、思わず悲鳴を上げる。
「ひぃえぇぇぇ!? 空輸される兵器ってこんな気分なんでしょうかぁぁッ!?」
高所特有の強風と二人が空を移動する事による風切り音がもれなく恐怖を倍増させてくる。単なる移動手段だというのに、身体を張ったお笑い芸人並みの罰ゲームにすら思えた。
「ちょっと!? 暴れないで! ただでさえ貴方、見た目より遥かに重いのよ!?」
「ま、まあ軽機関銃が8kgにアンダーバレルが約2kg、合計10kg。先に入手したショットガンが3kg、しかもそれが固定無しで振り子みたいに私の首を軸に揺れるんだから――キャアァァァァ!」
「あ、暴れないでくださーい! 落としちゃいますからぁ!」
四苦八苦しながらプラネテューヌ教会から離れていく三人を見送るアイエフ、そしてその幼馴染みのコンパ、イストワール。
イストワールはまだ聴こえてくる三人の悲鳴を聴きながら、残ったアイエフ達に語った。
「実は、トライユさんの次元については三時間で調べがつきました。まだ本格的な確証には至っていませんが、十次元は高確率で存在。そして、こちらの次元で言う彼女の『シェアエナジー』は、この次元でも確認されています。――本当の女神なら、恐らくはとっくに変身できるだけの力が……」
「では、彼女が身分を偽っている可能性が?」
「いいえ、それはあり得ません。彼女が十次元から来た“普通の人間”なら、彼女を取り巻く力――シェアエナジー的な何かを観測できる筈はありませんから」
「じゃあ、『変身したくない』って思ってるです?」
コンパの一言で、アイエフの脳裏にスマートフォンで盗聴してしまったトライユのトラウマの叫びが蘇った。
“私は一度だけ、この手を血に染めたことがある”
――“あの国に、私は……”
(自分で変身を封じてるって事か……。多分、過去にトライユがいたっていう次元で起きた事件が発端で……)
「とはいってもこれが封印でないのなら、個人で何とかしてもらう以外にありませんが……」
女神不在となったプラネテューヌで、イストワールの声は風に流れて消えた。
◇
ラステイション教会。ラステイションを守護する女神、ノワールの治める国にある城だ。
宙吊りのまま真っ白に燃え尽きたトライユをバルコニーに下ろし、ネプテューヌとネプギアは女神化を解いて一息。
するとやってくるのは当然、この建物の主。バタバタと駆け込んできては、ネプテューヌを見るなり黒髪の少女、女神ノワールは叫んだ。
「ちょっと!? アナタね、他国を当たり前のように領空侵犯しないでくれるかしらっ!? 対空ミサイルあったら撃ち落としてるわよっ!?」
「えー? いいじゃーん、わたし達友達でしょー? 堅いことは言いっこ無しで~――」
「ダメよ! それに、こんな干からびたもの連れてきて……。なんなのよ、コレ」
「まあまあ、あまり細かいこと気にするからぼっちなんだよ? ノワール」
「う、ううううるっさいわよ! 余計なお世話よっ! 誰がぼっちよ、友達くらい居るってのよ! ――で、何の用事なの?」
粗方文句も噴出させ終わったのか、ノワールはツインテールを翻してネプテューヌ達に背を向けると、ちらりと後目に見て問う。
「あ、そうそう! トライユが暴れるからすっかり忘れてた……あははー。あのねー、ここにショットガンの弾ってある?」
「――へ?」
ネプテューヌが返した問いを理解するのには、聡明なノワールと言えど時間が掛かった。
目を真ん丸にしてすっとんきょうな声をあげた彼女は、そのまま三十秒ほど凍りついていた。
「う、うう……。死ぬかと思いました……」
「大丈夫ですか? トライユさん」
「なんとか……ウッ!」
ネプギアの問いに応えながら、咄嗟に込み上げた何かに口を押さえるトライユ。直ぐ様反応したのはノワールだ。自分のテリトリーで大変なものをぶちまけられては堪らない。
「ひゃあああ! 吐かないでぇぇ! お願いだからぁぁぁ!」
「あれだけ揺れたからね~……。やっぱ酔っちゃったかぁ」
「だったらそんな事しなくても、陸路で来れば良かったでしょ!? プラネテューヌとラステイションは近いんだから!」
「そう……だったんですか……がくり」
トライユ・イズ・ダウン。
言うならば自滅なのだが、ネプテューヌのちょっと自堕落な性格が裏目に出たらしい。
プラネテューヌからラステイションは、決して歩けない距離ではない。近くもないが、遠くもない。だが歩くのが面倒、という理由からネプテューヌは空路を選んだ。
トライユを揺らし、飛んだ結果がこれである。パープルハートとなっても中身はやはりネプテューヌか、気付かない辺り少し抜けているらしい。
「仕方ないわね……。そこの人間――」
「人間じゃないよ? わたし達と同じ、女神だって!」
「――人間について……って、ハァァッ!? 女神なの!? あれが!? だったら、尚更アナタに訊くことが増えたわ! 取り調べよ! ちなみに、カツ丼は出ないわよ。違法だから」
「どうせならカツ丼よりプリンがいいなぁ~」
「違、法、だ、か、ら!」
トライユは医務室へ、ネプテューヌ達はノワールの部屋へそれぞれ別に連れていかれる。
それを見ていたノワールの妹で、女神候補生のユニはトライユの『君どこの戦地から帰ってきたの』と云わんばかりのフル武装を見て、医務室警護をノワールへ申し出た。
ユニの主武装はライフルだ。というより、本人が割りとガンマニア。トライユの武装を見ては、心がぴょんぴょんしない訳がない。
◇
「軽機関銃にショットガン、更に拳銃……! ごくり……」
医務室では、武装解除され眠るトライユの横で、銃器見本市状態となったテーブルを見てユニが目を輝かせる。
銃達の危なげで物々しいその見た目すら、ユニを魅了した。思わず手が伸びそうになるが、それを突然の声が制止した。
「気になりますか?」
「ひゃあ!? お、起きてたんですか?」
「つい十秒程前に目が醒めました……。ただ、まだ酔っぱらったような……」
ベッドから起き上がったトライユは頭を抱える。まだずきずきと痛む頭が、なんとも言えない具合の悪さを胃に運んでいるようだった。
「まだ、横になっててください。お姉ちゃん呼んできますから」
「はい。あと、ユニさん……という方はどちらに?」
「あたしですけど……。それが?」
「ネプテューヌさんが、ユニさんなら弾切れのショットガンの弾薬をなんとか出来そうと言っていたんです。――シェル一発と、適当な箱があれば良いので頂けませんか?」
たったの弾薬一発に適当な箱。いったいそれで何をしようと言うのか。とはいえ、用意できない物でもない。
ちょうどコレクションの整理に迷っていたユニは、ノワールを呼んだ帰りに自室から弾薬と菓子箱を持って医務室を訪れた。
「どうぞ。適当に選んじゃったんですけど……」
「大丈夫です! 弾は箱に入れて、蓋を閉めます――」
「一体何をするって言うのよ。マジックショーなら間に合ってるわよ」
蓋を押さえ、目を閉じたトライユは医務室で小さく呟いた。
『無限の弾薬箱』
小さく光を放った菓子箱は姿を変え、大型の金属製弾薬箱となる。その様に、ユニもノワールも姉妹揃って目を丸くする。
何せただの菓子箱が軍隊よろしくな弾薬箱へ姿を変えたのだから、大小なりとも驚くだろう。
蓋を開ければあらゆる弾薬が溢れんばかりに詰まっている。おかしいな、与えたのはショットガンの弾だけだった筈なのに、とはユニの談。
「あとはこれさえ持ち運べば、いつでもどこでも弾薬補充が出来ます!」
「バンダナとかじゃダメなの~? あっちの方が便利じゃない?」
「バンダナは私には似合いませんから……」
ネプテューヌの問いに対して小さく笑ったトライユ。確かに、彼女の姿ではバンダナは似合わない。
あまりミリタリーせず、どちらかといえばカジュアルな服装をする彼女がバンダナを巻けば、あべこべになってしまうかもしれなかった。
「問題は解決した? なら出てってもらう――と、言いたいところだけどトライユ……よね? せっかく来たんだし、この私が直々にラステイションを案内してあげるわ。プラネテューヌよりずっと凄いんだから!」
「あー! そうやって何も知らない人を洗脳するのは卑怯者のすることなんだー!」
「洗脳じゃないわ、単なる観光案内よ。じゃ、行きましょトライユ」
「は、はぁ……」
ノワールに案内されるがまま、教会を後にするトライユ。後に続くはネプテューヌ、ネプギアにユニ。
騒がしい観光案内が始まろうとしていた。そして、トライユは感じる。
――自身に、何か温かいものが込み上げてくるのを。
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「あ、そうそう! トライユが暴れるからすっかり忘れてた……あははー。あのねー、ここにショットガンの弾ってある?」
「――へ?」
ネプテューヌが返した問いを理解するのには、聡明なノワールと言えど時間が掛かった。
目を真ん丸にしてすっとんきょうな声をあげた彼女は、そのまま三十秒ほど凍りついていた。
「う、うう……。死ぬかと思いました……」
「大丈夫ですか? トライユさん」
「なんとか……ウッ!」
「ま、また死んでる……!」
「また!? またってどういうこと!? お姉ちゃん!」