ラステイション市街地では、女神様直々の有り難い観光案内が繰り広げられていた。
勿論ノワールを一目見ようと、市民達でごった返すのだが彼女はそれを無理に退かそうとせず、上手くかわしていく。
「す……すごい人だかりですね――」
「まあ、女神様が街中歩いてるんだしねー。むぅ、やはりぼっちではなかったのかー」
「お姉ちゃん……」
あまりの人だかりに、これでは観光案内どころではない。押し合い圧し合い、ノワールに付いていくネプテューヌ達三人は気付くと一軒のバイク屋へ迷い込んでいた。
原付からどう考えても普通に走るバイクではないようなものまで、幅広いラインナップだ。とはいえバイクなどを見ている場合ではない。
ノワールが三人に合流し、別所へ案内しようとした時だ。
「ブラックハート様! あぁ、女神様……! お願いします、私の娘を――!」
突然一人の市民がノワールの前へ跪いて、助けを乞うた。
「どうかしたの? 迷子とかかしら……?」
「いえ、それが……モンスターに連れていかれて……! 見たこともないモンスターに――」
市民の言葉に、全員の目付きが変わった。モンスターは本来然程の害はない筈だが、人間を連れ去ったとあっては話が別になる。
しかし、場所はネプテューヌ達の現在地からは遠く離れていた。またトライユを空輸しようかと悩むネプテューヌ達に、バイク屋の店員が助け船を出す。
「そこのお嬢さんは、バイクに乗れますかい?」
「え? まあ、一応……」
「それなら、女神様方を先行させてお嬢さんはバイクで後衛につけばいい。最近売れなくてね、店仕舞いも考えてたんだ。使ってくだせぇ」
運ばれてきた一台のフルカウル中型バイクに、店主が渡したキーを差し込むトライユ。
なんとも超展開にも程があるが、現在シナリオ進行スピードを四倍速にしてお送りしている次第である。
「……行きます!」
スロットルを捻れば、バイクは歓喜の咆哮を上げトライユに応える。彼女に応えたのは無機物であるバイクだけではない、女神化したネプテューヌ達も同じだ。
パープルハート、パープルシスター。そしてノワール=ブラックハート――彼女達も揃って頷き、トライユより一足先に空へ飛び立つ。
ほぼ同時にバイクを発進させたトライユは、人の波を掻き分けてひたすらに女神達の後を追う。
(うー……。バイクなんて久し振りだなぁ。でも、迷ってなんかいられない。フルスロットル!)
左右に車体を傾け、とても“久し振り”とは思えないスピードでラステイション市街地を走り抜けていく。
しかし目的地は市街地ではなく、郊外の小さな村。パープルハート達は明らかにそちらへ向けて飛んでいた。このままでは彼女達を見失ってしまう。
「――ッ!」
街にある壁さえ越えれば、目的地への近道になる。トライユが見つけたのは、荷下ろしを終えたトラックだった。荷台はお誂え向きに斜めに下ろされている。
バイクに乗れる箱庭ゲームなら、間違いなく飛びたくなるスポットの一つだろう。トライユの考えも似たようなものだった。
「退いてくださぁぁぁいッ!」
クラクションを鳴らしながら、側にいた一般人達を退かし、ギアを上げて加速したトライユのバイクは荷台を駆け上がり、翔んだ。
月でも出ていれば地球外生命体とのワンシーンにでも見えただろうが、今は生憎と昼も昼。真っ昼間である。厳ついサソリを模したデザインが描かれたロゴマークの貼られた排気管が、陽の光を受けて煌めくだけだった。
がこん、と滑らかにギアペダルを蹴り落として変速したトライユ。彼女とバイクは回転数計を振り切らせながら着地し、未舗装地帯へ消えていった。
お前は何処のスパイだ。と、突っ込みたくもなる。
「へえ、なかなか根性あるじゃない。アナタが拾った、あの女神」
全速で空を飛んでいるにも関わらず、下を走り続けるトライユを見てブラックハートは彼女の根性を認めた。
「そうね……。ここまで万能キャラだとは思わなかったわ――定番と言えば定番だけれど」
「お姉ちゃん、メタいよ……」
得意気に語るパープルハートと、苦笑するパープルシスター。
暫くすると、村も見えてきた。そこで暴れているのは、巨大なドラゴン。
「エンシェントドラゴン? ――違う? 私の知ってるエンシェントドラゴンじゃないわ。かといって、他のドラゴンでもない!」
「私も同じ考えよ! 子供は――アイツの右手か……! これじゃ、私達斬るに斬れないわよ!」
連れ去られた子供はドラゴンの右手に握られている。下手に攻撃を加えれば、子供まで巻き添えを食ってしまうのは明白だ。
バイクをスライドさせてパープルハート達に並んだトライユは、その光景に過去の悲劇が重なって見えた。見殺しにしてしまった子供――今回も、まさかそうなるのか? いや、絶対にさせない。
「私があの子を助けて引き返します。それまで、攻撃は待機してもらえませんか?」
「なっ――何言ってるのよアナタ!? ろくにこの世界も知らないのに、私達ですら分からない敵に挑むっていうの!?」
「もう――誰も私の無力で救えないなんて、ごめんなんです。そんなの、死んでもごめんですッ!」
トライユが叫ぶと、彼女からまばゆい光が散り始める。心に感じる温もりは、十次元で感じていたものと同じ。
彼女は確信する。今なら、女神化出来ると。
「トリガァァッ!」
トライユから放たれた、いっそうまばゆい光が女神達の視界を一時的に奪った。
光が収束したその中でバイクに跨がっていたのは、カジュアルな服装に身を包みロングヘアだったトライユではない。軽装ながらもミリタリーな服装を意識したような“レシーバー”と、背中に背負った大型の軽機関銃。
髪はロングからミドル程度まで短くなっている。
「さぁ、一丁おっ始めましょうか。まあ、ドラゴン相手なんてしたことないんですけど――ねッ!」
砂を巻き上げ、ドラゴンへと向かっていったトライユ――否、女神『エルスタトリガー』。
振り上げられるドラゴンの腕をライディングの技術で見事に回避し、脇から太股に移されたホルスター状のケースから拳銃を取り出し、ドラゴンの右肩へ女神の力を籠めた弾丸を連射する。
強固な外皮を持っていそうなドラゴンではあったが、あまりの衝撃に子供を取り落とした。
「ふッ――!」
土という地形を活かし、一度速度を落としてからのフルスロットルで一気に180度ターン。土を巻き上げ、左腕で少女を受け止めた。
あとはドラゴンの追撃を回避しつつ、ブラックハートへ少女を渡す。
「ノワールさんはその子をお願いします。ネプテューヌさん、ネプギアさんはあのドラゴンを極力、その場に縛り付けてもらえますか?」
「貴方、とらちゃんよね? 女神化出来たの!?」
「……“振り切りました”。それで――」
ドラゴンを縛り付けてほしい、とパープルハートに頼ろうとしたエルスタトリガー。
「あらぁ? 縛るなら、あたしに頼ってくれても良いんじゃないかしら? まあ、あの怪物をいたぶっても大した反応はしてくれなさそうだ、け、ど」
突然の声に、パープルハート達は揃って空を見上げた。そこに居たのは、空中に足場を作り腰を下ろす別な女性だった。
ボンテージ風のコスチュームに、色々と“ヤバそう”な雰囲気のある声色、色遣い、艶かしい目付き。
「ぷるるん!? 貴方、どうして……」
「あら、次元は繋がったままなのよ? こうして、いつでも遊びに来られる――ってねぷちゃんも言ったじゃない。で、来てみたら面白いことになってたからぁ……まずは、そこのドラゴンちゃんからねぇ?」
足場から飛び降りた女性はアイリスハート。無論、女神化した時の名前で普段はプルルートと名乗る、正真正銘の“ドS”。
別次元にあるプラネテューヌの女神だが、その変貌ぶりはネプテューヌがパープルハートへ女神化した時以上である。
武器である蛇腹剣を振るったアイリスハートは、文字通りにドラゴンの身体の自由を奪う。
「それでぇ? 縛ったこの子にどんなお仕置き、するのかしらぁ? 新入りちゃん? 何もしないなら、遠慮なくあたしがお仕置きするけど。譲るのは今回だけよぉ?」
「す、スゴい戸惑ってますが――まずは……」
左腕に装着された火器管制コンピュータを操作するエルスタトリガー。
『U.C.A.V.! デスストリークッ!』
スキルを発動し、エルスタトリガーはすぐにアイリスハートへドラゴンから離れるように指示。
指示を受けたアイリスハートは渋々といった様子で蛇腹剣の拘束を解き、パープルハート達三人の元へ滑り込む。
しかし、スキルを使った割には何も起きない。あまりに何も起きない事を不安に感じたパープルシスターがエルスタトリガーへ問おうとすると、突如エルスタトリガーの勇ましい声が響いた。
『ヘル――ファイヤァァァッ!』
パープルハート達は、ドラゴンの頭上に落ちる何かを見た。金だらいではない。
一瞬音が消え、次の瞬間目も眩むような爆発が周囲を包む。一応居住エリア付近ではあるが、彼女の武器は一部を除いて全て非殺傷である為心配はない。
ただ、こういったモンスターなどを倒すには充分すぎるエネルギーは持っている。
「ぽかーん……」
「何よあれ……」
「あっはは! 何よアレ、ふざけすぎじゃないかしら!? あれじゃあ悲鳴も聞けないわよ」
開いた口が塞がらないパープルシスター、唖然とするパープルハート、そして笑いつつ呆れるアイリスハート。
女神化を解いたトライユは、久し振りの女神化に眩暈を覚える。それを同じく変身を解いたプルルートがやんわりと支えた。
「おぉ~? 大丈夫~?」
アイリスハートとは思えないまったり口調なプルルートに、大丈夫と一言告げて、トライユは何とか体勢を立て直す。
「何あれー……。ちょっと洒落になってないよー! とらちゃん!」
「だ、大丈夫ですよ。非殺傷ですから……」
「それ、信じて大丈夫なんですかっ!?」
その後、街へ戻ったネプテューヌ達は待っていたノワールと共に、改めてラステイション住人から深い感謝の意を伝えられる。
これで大団円。――とは、いかなかった。
「ちょっとー!? あたしの出番は何処に行ったのよ!? 前の話の最後、ちゃんとあたし居たわよね!? なんで忘れ去られてるのよー!」
――ユニの悲痛な心の叫びは、喜びに湧くラステイションによって儚く掻き消されていった。
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「さぁ、一丁おっ始めましょうか。まあ、ドラゴン相手なんてしたことないんですけど――ねッ!」
砂を巻き上げ、ドラゴンへと向かっていったトライユ――否、女神『エルスタトリガー』。
振り上げられるドラゴンの腕をライディングの技術で見事に回避し、脇から太股に移されたホルスター状のケースから拳銃を取り出し、ドラゴンの右肩へ女神の力を籠めた弾丸を連射する。
強固な外皮を持っていそうなドラゴンではあったが、あまりの衝撃に子供を取り落とした。
「ふッ――!」
土という地形を活かし、一度速度を落としてからのフルスロットルで一気に180度ターン。土を巻き上げ、左腕で少女を受け止めた。
あとはドラゴンの追撃を回避しつつ、ブラックハートへ少女を渡す。
「ノワールさんはその子をお願いします。ネプテューヌさん、ネプギアさんはあのドラゴンを極力、その場に縛り付けてもらえますか?」
「貴方、とらちゃんよね? 女神化出来たの!?」
「……これ、女神化って呼んでいいんですかね……」
「メタい、メタいわ! とらちゃん!」