バーチャフォレスト保護地区入口前に、プルルートを乗せたバイクを停車させたトライユ。
彼女が譲り受けたバイクは決して乗り心地の良いものではない筈なのだが、プルルートはどういう訳かトライユをキツく後ろから抱き締めて寝息を立てていた。喧しい排気管が足元に在るというのに、その昼寝精神には恐れ入る。
「プルルートさーん? 着いちゃいましたよー。起きてくださーい」
「うぅん……あと24時間――」
「それもう昼寝の範疇超えてますよ!? 起きてくださぁい!」
半ば強引にプルルートの小さな身体を持ち上げ、バイクから下ろしたトライユだったが、その軽さに驚いた。同時に、少しだけ羨ましくも思う。
トライユも全く目立たないが、元の“国が国”。少なからず筋肉もついて、女神とはいえ体重計に乗るという行為が怖い。まぁ、些末な悩みではあるが。
「あたしぃ、寝ちゃってたんだぁ~」
「バッチリ寝てました。というか、眠いんだったら無理に付いてこなくても良かったのに――どうして付いてきたんです?」
拳銃、軽機関銃、そして散弾銃を準備しながら片手間にトライユはプルルートへ訊ねる。
「だってぇ、ねぷちゃんのお友だちだもん~。あたしだって、お友だちになりたいし~お話もたくさんききたいから~」
「は、はぁ……。でも、ありがとうございます。では、道すがらお話ししますね。あと、モンスターとエンカウントしたら是非手伝ってください」
「はぁ~い」
てこてこと足音を立てながら、トライユに並び立ったプルルート。そうして二人は、バーチャフォレストへと消えていった。
道中、敵を倒しながらトライユは様々な事を話した。自身のいた次元、国、思い出――だが、“あの思い出”だけは話さなかった。結局、現時点で『エルスタトリガーの過ち』を知るのはパープルハート――ネプテューヌだけだ。
辛い思い出は自分の中にあるだけで良い。笑顔で語るトライユはそう考えながら、プルルートに楽しい思い出だけを話していた。
「ふう……。クエストの進捗はこれ以上無しっと……」
ギルドでクエストを受ける前に、ネプギアに渡された三台目の『Nギア』でクエストの進捗を確かめ、終了した事を確信したトライユはプルルートを引き連れ、来た道を戻る。
「あうぅ、歩きつかれた~」
「え、えぇー……? あと少しですから、もう少し待てませんか?」
「むーりぃー……。もう足が動かないよぉ~」
何処ぞのアイドルのような台詞を吐きながら、完全に歩みを止めたプルルート。やはり連れてくるべきではなかったか――トライユの後悔も、既に遅い。
「どーしても、歩けない感じですか」
「足が棒だよぉ……。おぶって~」
「おぶっ!? あの……体格的には、プルルートさんより私少し大きいくらいで――」
「おぶってよぉ~」
「こ、困った……」
ここでトライユは思案に入る。プルルートは幸い、健康を疑いたくなるほどトライユにとっては軽いためおぶる事は簡単だ。しかし、背中には軽機関銃に散弾銃。とてもではないが、人をおぶるような状態ではない。
かといって武器を破棄する訳にはいかないし、プルルートは完全に座り込んで駄々をこねている。バイク移動をするにも、どちらにせよ森林から出なくてはならない。ただ、一つだけプルルートを移動させる方法はある。多少疲れさせてしまうだろうが――勿論“お互いに”。
「わかりました。プルルートさん、女神化する余力はありますか?」
「えぇ~? 変身していいのぉ~?」
「かくなる上は、です。森林出口まで、飛んでいけば良いんです!」
「おぉ~! めーあんだ~」
プルルートの言葉から間を置かず、辺りをまばゆい光が包んだ。勿論現れるのは女神、アイリスハート。
「ふわぁ……。それにしても、トライユちゃんってばぁ――わざわざこっちのあたしをご指名だなんて、とんだ変態さんねぇ……」
全てを蔑むようなアイリスハートの視線に、トライユは慌てて首を振る。
「いやいやいやいや、貴方が歩きたくないって言ったんじゃないですかぁーやだぁー!」
「そうねぇ、確かにこの姿なら飛んでいけるのよねぇ。少し疲れるけど、良い判断だわ。ご褒美は何が欲しいのかしらぁ?」
アイリスハートの“ご褒美”――相手がマトモな人格者ならともかく、アイリスハートはドのつくサディスト。
余計なことを口走ろうものなら、腰が立たなくなるまで攻め続けられるのだろう。
「い、いきますよ! モンスターと戦う必要がない以上、早くダンジョンから出てクエストを報告しないと」
「あぁん、つれないわねぇ。ま、その方が虐め甲斐も――あるんだけ、どッ!」
アイリスハートに背を向けてしまったのが、トライユの運の尽きだった。アイリスハートは自分の嗜虐心を満足させるためなら何でもする――と、いうより普段なにも言えないでいるプルルートの全てを発散させるかのように、人を廃人にしていくのだ。『神次元』のノワール達がそうされたように……。
「ふえっ!?」
トライユの足首に絡み付く、アイリスハートの蛇腹剣。流石に刃は反してくれたようで、この物語がR-18G指定になるような事態は避けられた。
しかし、盛大にズッ転けたトライユの足首に絡まった蛇腹剣は、アイリスハートによってじりじりと引き寄せられていく。
「あたしってぇ、抵抗されればされるほど燃えちゃうのよぉ。トライユちゃんは軍人気質だし、良い声で鳴いてくれそうだし……虐めちゃうしかないわよねぇ!?」
「眠気! 眠気はどうしたんですか!? ていうか、目が恐い!」
「眠気なんて失せたわよ。これからトライユちゃんにあぁんなこととか、こぉんなこととかしちゃうのを想像したらぁ――眠るよりトライユちゃんの泣き顔が見たくなっちゃったんだもの!」
非常にまずい状況だ。トライユは思う。
このままではR-18タグ待った無しか、放送事故で安全ヘルメットを被ったネプテューヌが頭を下げているイラストを用意しなくてはならなくなる。
どれだけもがいても、流石は女神。トライユを絡め取ったまま平気な顔で引き寄せていく。
「う……撃ちますよ!?」
辛うじて取り出した拳銃を見せつけて、アイリスハートを威嚇する作戦に出たトライユ。
――その筈だったのだが……。
「あらぁ、そんな事言うのぉ? 別次元から来て帰り方も分からないで彷徨いてるノロマのあなたが」
「来たくて来た訳じゃないです!」
「冷たいのねぇ。あたしたち、もうお友だちでしょぉ? だから、かわいく鳴いてね」
「確かに、皆さんはお友だちですが――ここで貴方に良いようにされる訳にはいかないんです……ッ!」
突然、トライユの身体を光が包んだ。前回の女神化と似た感覚だが、ずっと温かい。
というよりなにより、ここから抜け出さないと精神的に殺される。ある意味、この光はトライユの生存本能によるものだった。
「あら、またまた別なトライユちゃんはっけ~ん。今度はあたし達みたいになったわねぇ? 良い身体だわ、なぶり甲斐がありそうね」
アイリスハートの前に現れたのは、エルスタトリガー。だが前回のそれとは明らかに違う。
ネプテューヌ達と似たような露出の激しいコスチュームに、背中には戦闘機のような後退翼を模した淡い青に輝く『レシーバ』。これが、トライユの真女神化だった。
つまり、アイリスハートによる貞操の危機が、過去のトラウマすら乗り越えてトライユを本格的に目覚めさせたのだ。なんというか、すさまじく下らない理由である。
「ふッ!」
パァン!
花火が弾けるような音と、金属が打ち合う音。エルスタトリガーが足に絡んだ蛇腹剣を撃ったのだ。
衝撃は刀身を走り、アイリスハートの手首を軋ませる。女神とはいえ、エルスタトリガーも女神。その全エネルギーを解放できるようになった彼女の銃弾は、アイリスハートを怯ませるには充分だった。
「もう、つれないわねぇ。まぁいいわ、寝かせれば寝かせるほど――待てば待つほど、イイもの。ねぇ?」
「……もう、早く帰るぞ。任務が終わったんだ、報告しなければ」
「あら、あたしに命令するの? 良い度胸じゃなぁい? 変わったのはやっぱり、見た目だけじゃないみたいねぇ。あたしとしては、どっちのトライユちゃんもイケるけ、ど」
舌舐めずりして獲物を見定めるような眼光を放つアイリスハート。どうやら、そう簡単には逃がしてもらえなさそうだ。
仕方なく、スマートフォンの電源を確認してトライユは機関銃を構えた。
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「ふえっ!?」
トライユの足首に絡み付く、アイリスハートの蛇腹剣。流石に刃は反してくれたようで、この物語がR-18G指定になるような事態は避けられた。
しかし、盛大にズッ転けたトライユの足首に絡まった蛇腹剣は、アイリスハートによってじりじりと引き寄せられていく。
「あたしってぇ、抵抗されればされるほど燃えちゃうのよぉ。トライユちゃんは軍人気質だし、良い声で鳴いてくれそうだし……虐めちゃうしかないわよねぇ!?」
「ふえぇぇぇぇん! 顔ぶつけましたぁぁぁぁッ!」
「あ、あら? 少し、力加減間違えたかしらぁ? ほら、泣き止みなさい? 謝るからぁ」