プラネテューヌでは、アイエフが突然掛かってきたトライユからの電話にかかりきりだった。
「ねーあいちゃん、どうしちゃったのさー?」
「ちょっと静かにして、ねぷ子」
「ぶー! ちょっとくらいいいじゃーん。けちだなー、あいちゃんはー」
ぶーぶーと文句を垂れるネプテューヌを無視して、ひたすら電話に集中するアイエフ。
聴こえてくるのは銃声、金属音、そして――艶かしいアイリスハートの笑い声だった。
「プルルート様? どうして――ねぷ子! 手伝って!」
「何を? 新作ゲーム? 一狩りいこーぜ! って、あれはルウィーのハードだし……」
「違うわよ! プルルート様とトライユが、どういうわけか戦ってるみたいなの。止めないと!」
通話は切らずに、スピーカーに切り替えてホルダーに戻しながら、アイエフは手早く出掛ける準備を済ませる。
ネプテューヌは“あの”アイリスハートを相手にするのか、と考えると逃げ出したくて仕方なかった。何しろ彼女自身もターゲットなのだから。
「ホント言うと、スゴく嫌なんだけど……。えーい! ままよー!」
女神化したネプテューヌ。彼女はバルコニーから飛び立つと、真っ直ぐにバーチャフォレストへと向かっていった。
アイエフも用意を終え、バイクを走らせるがパープルハートには追い付けそうにもない。しかし、それは計画通り。パープルハートならば、プルルートを止められる――最悪犠牲になっても、仲間同士の争いは止むと確信していた。
(もしそうなったらごめんね、ねぷ子)
いつのにか一話程度の腹黒属性が付加されるアイエフである。
◇
「いいわ! 刺激的じゃなぁい! それでこそ、いじめがいもあるってものよ?」
「拷問できるものならしてみるが良い! 私は貴様の思い通りの声は上げんぞ!」
「フラグ立てられちゃ……本気で泣かせなきゃいけなさそう――ファイティングヴァイパー!」
銃撃をひらりひらりとかわしていたアイリスハートが、女神化したエルスタトリガーへ雷撃を纏った蛇腹剣で斬り込む。
突然の素早い踏み込みに、エルスタトリガーの判断が一瞬鈍った。刹那、彼女に走る電流と痛み。
「グッ――あぁぁぁぁッ!?」
エルスタトリガーの苦しげな声が、アイリスハートを更に刺激する。このままではR-18待った無しだ。
だが、それはやはり破られる。エルスタトリガーの前へパープルハートが立ちはだかったのだ。紳士な方への残念なお知らせである。
「とらちゃん、どうして彼女に変身を許したのよ。結果は分かっていたはずよ?」
膝をつき、肩で息をするエルスタトリガーを後目にパープルハートは問う。
呼吸を整え、なんとか復帰したエルスタトリガーはゆっくりと立ち上がり、返した。
「私のミスだ。自分のことをこういうのもなんだが、普段の私は抜けているからな」
「そこは耳が痛いわね。クエストは?」
「完了している。あとは報告だけだ」
「そう。なら、追加でぷるるんを止めるわよ!」
まさかのアイリスハート、ボス化である。とはいってもアイリスハート自体、敵のような風格を漂わせているので違和感は無いのだが。
追加クエスト、サブ目標はアイリスハートを止めろ、だ。メイン目標より難易度が高いのはどういうことか。訴訟も辞さない。
「あらぁ? ねぷちゃんも参加してくれるのね。複数人も全然イケるから、まとめてサービスしてあげちゃう」
「サービスって、相手が喜んでこそのサービスよ!」
「一部の業界では御褒美というが、あいにく我々にその趣味はないのでなッ!」
女神同士の戦いは長いので割愛すると、アイリスハートは無事に停止した。というのも、遅れて現場に到着したアイエフに見られたことが、どうもアイリスハートの中で引っ掛かったらしく、渋々といった感じではあったものの変身を解いたのだ。
もっとも、その頃にはパープルハートもエルスタトリガーもボロボロだったわけだが。周囲も保護地区だというのに、弾痕やら切り倒された樹木やらで戦場跡地状態だった。
「うぅ……なんでわたしがこんな目にぃ……」
「すいません……軽率すぎました」
「ほんとだよ! これはゾンビ映画で自宅に立て籠っちゃうくらい有り得ないことだよ!」
「ねぷ子、細かすぎて伝わらないわよ」
ギルドで報告を終えたトライユ達は、再び教会へと戻って行く。
その後ろをひっそりとついて行くナイスバディな美(?)少(?)女。金色の髪を優雅に揺らし、そして豊満な胸も揺らし歩く彼女はリーンボックスと呼ばれる国の女神、ベール。
おしとやかな印象を抱くが、その実は廃人ゲーマーだ。一度火が着くと一週間教会から出ないなど、当たり前である。
「なるほど……あの方が噂のガンナー。FPSやシューティングなら、わたくしの国が一番ですわ。是非、次のゲームソフト制作に彼女の力を借りたいですわね」
一応は友人の国なのだからこそこそする必要もないのだが、プラネテューヌとリーンボックス――いや、リーンボックスに限らずラステイションやルウィーといった国々も、シェア争いのライバルである事に変わりはない。
出来るならば、新作ソフトの根幹システム開発には他国を入れたくはないものだ。ベータテストならばともかく。
「行きましょう。少し、ネプテューヌから借りるだけなのだから大丈夫大丈夫……ですわー」
スニーキング状態から素早く変わり身。友人モードで、ベールはプラネテューヌ教会の扉を叩いた。
その頃、トライユは自室でぐったりとしていた。その様足るや、垂れてるパンダのよう。
「なんか……三日って、スゴく長く感じる……。まだ二日目だよね。明日には帰れるのかな……」
この発言は帰れないフラグである。折れれば可能性もあるが、ごくごく低確率。ゼロと表示されても小数点以下といったレベルで、彼女は帰れない。大体察されているだろう。
「このままだと身が持たないよ……。皆さんには良くしてもらってるし、女神化も復活したけどさ~。少し休もう――」
「ガラッ! ですわ! ――なるほど、こうすれば横開きになるのですね。爽快です」
突如、トライユの部屋の扉が横にスライドして開いた。そこにいるのは無論、ベール。ネプテューヌに話を通したのか、特に彼女の見張り役は居ないらしい。
アブネス流ドア横開き術を勝手にマスターしつつ、ベールはベッドで項垂れるトライユへ歩み寄った。
「トライユさん、ですわね? わたくし、リーンボックスという国を治めるベールと申します。今回は、お願いがあって来たのです」
「なんでしょう……」
もはやトライユに、ベールが何者かなどという考えは浮かばなかった。
考えるだけ無駄。トライユはなんとなくだが、超次元の生き方を学んだ気がしていた。
「わたくしの国へ、是非一度いらして欲しいのです。是非トライユさんのお力をお貸しくださいな」
「いいんですけど……休んでからでいいですか」
「ああ! 失礼致しました……。ごゆっくり、休んでくださいまし。申し訳ありません、気が回らなくて……」
「いえ……では……」
(計画通り……ですわ)
リーンボックス行き、決定。
トライユに本調子が戻れば彼女も気に入る国なのは間違いないが、なにぶん濃密な二日間のせいでヒットポイントは限界だ。
明日を待ち、イストワールの話を聞いてからでも遅くはないだろう。ネプテューヌとゲームをやるため、部屋を出ていったベールを見送って、トライユは少し早い眠りについた。
■
「なんか……三日って、スゴく長く感じる……。まだ二日目だよね。明日には帰れるのかな……」
この発言は帰れないフラグである。折れれば可能性もあるが、ごくごく低確率。ゼロと表示されても小数点以下といったレベルで、彼女は帰れない。大体察されているだろう。
「このままだと身が持たないよ……。皆さんには良くしてもらってるし、女神化も復活したけどさ~。少し休もう――」
『ガラッ! ですわ! ――あら? 開きませんわね……んっ! おかしいですわ……アブネスさんはいとも容易く開けているのに! すみません、開けてくださいましー!』
結局開きませんでした。