リーンボックスで過ごした夜は、トライユにとってアブネスと出会ってしまった事とは別な、良い意味での思い出となった。
そして夜は明け、改めてベールはトライユへ新作ゲームの制作に彼女の力を借りたいという旨を説明する。
「わたくしの国、リーンボックスは主に一人称視点シューティング――いわゆる、FPSなどが得意分野ですわ。そして新作は本格的なミリタリーをベースに作る事に決めていますの」
「それで私の力を借りたいというのはわかりましたけど、決して万人にウケるジャンルじゃないと思いますが……」
「承知の上ですわ。ですから、ミリタリーの中にアクションを加える……。『まるで映画の中』――それが、メインテーマになっていますわ。トライユさんには、是非銃器監修などを――」
ベールの話はトライユにもなんとなく理解は出来た。しかし、こういった物は『制作側が理解している』のと、していないのでは出来が大きく異なるであろう、という懸念も生まれた。
ベールはゲームに精通はしているだろう。だが、『サバゲーはどうだろうか?』――そう考えるとクエスチョンマークが浮かび上がる。
ここは“ゲイムギョウ界”。サバイバルゲームが盛んだ、という話はやはり聞かない。あくまでもバーチャルなゲームに限っている。
「あの、ベールさん」
「はい? なんでしょう?」
トライユは思い切って、ベールへ自身の考えを打ち明ける事に決めた。
「ベールさんは、サバイバルゲームなどのご経験はありますか?」
「いえ……自分でクエストをこなす以外はバーチャルですし、わたくしの武器は槍ですので――銃を使ったサバイバルゲームというのは……」
「なら、サバゲーしましょう! 自分で撃ってみて、それをより活かせるようにすればきっと説得力が増すと思うんです! ネプテューヌさんから聞いたんですが、ここには体感型のゲームがあるとか……」
「マネクトですわね。――なるほど、マネクトのVR空間を利用すれば、確かにサバイバルゲームも室内で可能になりますわ! そうと決まれば、早速準備あるのみです!」
部屋から飛び出したベールを目で追って、トライユは静かに紅茶を啜る。今回は久し振りの教官役――といっても、小難しくしてはかえって混乱させてしまう。
万人に極力受け入れられるカジュアルさ、そしてミリタリー系FPSとしての説得力を説明する上では、トライユのままでは難しいかもしれない。
ここは、女神として教えた方がプラスは大きいだろうか。トライユは少し悩んでから、女神化を決めた。
「マネクトをお持ちしましたわ――って、どうして女神化を?」
「いや、説明に関しては此方の方がやりやすくてな。それに、どこぞの旅人が教えた、というより女神が教えた、と言う方が箔も付くだろう?」
「どうなのか解りかねますが……それでトライユさんが満足出来るのであれば、わたくしはそれでも構いません。さ、起動しますわよ!」
マネクトの電源を入れると、部屋の中に広大な草原のフィールドが投影される。もちろん単なるマッピングではなく、足を踏み入れることも可能だ。
「では、まずは銃の扱いからだな……」
エルスタトリガーが拳銃を取り出し、スライドを勢い良く引き下げる。映画では良く見かけるシーンだが、なかなか現実でやることはない。
レクチャーシーンは割愛してしまうが、一時間も説明や実射を交えると、流石ベールというべきか、女神というべきか――瞬く間に吸収し、戦えるようになっていく。
普段のドレスを交えて銃を持たせると、ベールが美しい女スパイのように見映えした。
「なんだか、ゲームとはやはり違いますわね。この、腕に走る衝撃も硝煙の香りも。すべてが、現実なのだと教えてくれていますわ」
「それが大事だな。だがいい筋だ――さて、次はカジュアル路線向けにモンスターを討伐しよう。出来るか?」
「勿論ですわ。そうですわね……あまり強くし過ぎず、数を多く設定しましょう」
VR空間から設定を変え、モンスターを呼び出したベール。いくらバーチャルとはいえ、一瞬にして多数のモンスターに囲まれるのはあまり心臓に宜しくない。
エルスタトリガーとベールは互いに銃を構え、駆け出した。
「久し振りに駆け回った感じだ! いいぞ、冴えてきたッ!」
二挺のファイブセブン自動拳銃が、エルスタトリガーによって左右交互に火を吹く。
傍らではベールも教えた通りより、遥かにアグレッシブな動きで敵を殲滅していく。
広い草原に響く銃声はVR空間を通り越して教会中に喧しく反響するのだが、そんなものはどこ吹く風。知ったこっちゃねぇと言わんばかりに、二人は銃を振り回していた。
「ふう。久し振りに運動したな。平和にこしたことはないが、たまには撃たなければ鈍ってしまう。――少し休憩したら、要素について話し合おう」
「はい。ここからは、ゲイムギョウ界きっての懐の広さを持つ我がリーンボックスの本領ですわね。では、紅茶のおかわりを用意してきますので、漠然とで構いません。良い案があれば、用意しておいてくださいな」
ベールはそう言うが、実のところエルスタトリガーには既に意見はあった。どのようなゲームがこれまでリーンボックスで販売されたか分かりはしないが、トライユ=エルスタトリガーの目指すところはただ一つ。
(やはり、カジュアルに且つマニアにも受けるような要素――だろうな。操作が複雑化するのは避けたい……)
色々と思い浮かべることはあるが、今回はエルスタトリガーの欲張りセットでもある程度は話が通りそうである。
無論、販売に関わる以上は自分の欲望だけを突っ込むわけにはいかないが。
「失礼致しますわ。紅茶とお茶菓子です、ここでこのまま草案を練っていきましょう」
ベールが新しいティーカップとクッキーをトレーに載せて部屋へ戻ってきた。
エルスタトリガーの言うことは決まっている。
「私から何かあるとすれば、銃器のカスタムは多数に。オンラインで差が付かないように、オフラインはシナリオを敷きながらオンラインでの動きを練習させつつ、カスタムパーツのアンロックは共通にする。そのままオフライン勢がオンラインに行っても通用するほうが、差は生まれないだろう」
「確かにそうですわね。あとは銃器のバランスですわ。爆発物無双になったゲームもありますし……いわゆる厨武器は無くしたいですわね」
「その辺りは結局腕だろう。実戦で活躍する特殊部隊の教官も、ゲームにいけばゲーマーにやられたしな」
その後、話は数時間に及び――
「これであらかた終わりですわね。出来上がりのテストプレイは、初心者から上級者まで幅広くさせていただきます」
「それがいい。武器のアンロックがランク制じゃないのがいいな。使い込めば、拳銃も戦力になるものがある……」
もはや単なるゲーム開発ではないような気もするが、一応の仕事は終わりである。
ゲームの発売を見ることなくトライユがこの世界を去ってしまうか――それはわからない。だが、彼女がいた証はどんなクソゲーと評される事となっても、残るのだ。良しとするのが、それはまた良し。
「ところで、トライユさん?」
「はい?」
女神化はとっくに解いている。仕事が終わり、バイクにまたがったトライユへ不意にベールは問い掛けた。
「十次元の女神、というお話はうかがっていますが、実際にはどういった女神なのですか?」
「銃の女神です。文字通りに」
エンジンをかけつつ語ったトライユは、ベールへちらりと視線を向ける。
「では、お疲れさまでしたベールさん」
「はい。プラネテューヌに居られるのであれば、今度は遊びに行きますわ」
トライユを半ば無理矢理誘った時もしっかり遊んで帰った、というのは秘密である。前々話で漏れてしまったが気のせいだ。
すっかり夕陽の色に染まったリーンボックスから、プラネテューヌへ向けてトライユはバイクを発進させる。
まだイストワールが連絡をつけるには早い。少し気を落としつつ、それでも超次元での生活に楽しさを見出だしていくトライユ。
「ねぷてぬ! あそぼっ!」
「おー! 来い、ピー子!」
教会に戻ると、小さな子供が増えていた。
なにこれ意味わかんない、とはその時のトライユの談だ。
まだまだ、濃密な日々は過ぎ去っていきそうだ。夜のプラネテューヌで、トライユは夜景を見下ろしながら思う。
『おぐぉっ!? み、みぞおちは殴ったら……ダメって言ったよね……?』
『ネプギアが例の顔に……! 今のはがっつり入っちゃってたねー』
黄昏るトライユの後ろが修羅場だが、大丈夫だ。問題ない。
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「ところで、トライユさん?」
「はい?」
女神化はとっくに解いている。仕事が終わり、バイクにまたがったトライユへ不意にベールは問い掛けた。
「十次元の女神、というお話はうかがっていますが、実際にはどういった女神なのですか?」
「えっ?」
「えっ?」