時間共に飛んで卯月たちのCDデビューのあたりの話です。
「………どうしたものか」
僕こと蒼崎弘弥は現在ちょっとした壁にぶつかっています。その壁というのが結構厄介なもので。
「デビュー順を考えるとこうなる。でもそれだとストレス溜めたり不満が出たり……どうすりゃいいのこれ」
風邪なら十分な休暇を取れ、と自宅に強制送還された後に武内さんとちひろさんからそう電話で言われた。そのため、卯月、凛、未央のーーーバックダンサーとしてだがーーー初ステージを見逃してしまった。武内さんに聞くと、上々の出来だったという高評価だった。
そして、それに合わせてCDデビューということになったのだが、これがこれで問題があった。
まず、数段階に分けてのデビュー。第一陣、第二陣などデビューするのをずらしていく。だが、結構リスクが高い。これだとぶっ倒れた時に蘭子が言っていたように、劣等感を覚えて『周りのみんなはデビューしていくのに、どうして私だけ?』と思う可能性がある。それが万一にでもレッスンなどに反映してもらっては元も子もない。
次に、組み合わせである。武内さん達がユニットを組んでくれているので、僕はそれを伝えるのが役目なのだが、いかんせんユニットメンバーに問題があるのだ。
今回は第一陣として、アナスタシアと美波の二人、卯月と凛と未央の三人といった感じでユニットを組んでもらうことにする。美嘉さんのコンサートで勢いづいているため、このタイミングで間違いはないとは思う。のだが、
「これだと余計に反感を買うんだよな……」
おそらく、これを発表した際に不満の声が出るだろう。『なぜあの三人だけ優先されるの?』とか。大いにあり得る。この件を全面的に任せられてる僕としてはどうにかしたいのだが……。
だが、予想できるからといって解決策を練っているが、思い浮かばない。まだ風邪治ってない……事はないな。一週間休めば嫌という程でも治る。
「とりあえず様子見しかないねこれだと」
解決策を保留にし、僕は執務室をあとにする。だが、この保留が後の事件を招く事をこの時の僕は知らない。
☆♪♡♢
『し、CDデビュー!?』
アイドル達をプロジェクトルームに集め、例の件の事について告げると声を揃えて驚かれた。いや、なんでそこまで団結してんのさ……。
「ええ、まあ……」
んでなぜ僕は圧倒されてんのさ。自分で情けなく思うよ。…………うんこれ結構堪えるね。やめよう、自分で自分を貶すのは。ダメージが大きすぎる。
「今回は美波とアナスタシアの二人、卯月と凛と未央の三人でユニットを組んでもらい、CDデビューという事になる」
僕が伝えると、アナスタシアは美波の手を取り喜び、満更でもないのか美波も顔を緩ませる。卯月達三人は、まあいうまでもないよね。
でもここからが本題。おそらく不満が出てくる。おそらくじゃない。僕の経験上からいって
「ねぇ、みくたちはどうなるの?」
その瞬間、浮かれた空気は消え失せ、重い空気が流れ始める。デビューが決まった五人も『しまった』というふうに表情が暗くなる。
「Pくん、私達はどうなるの?」
「どうなるのプロデューサー?」
「みくたちもデビューできるの?」
「…………………」
理解はしていた。こうなる事も、それで空気が重くなる事も。だが、実際にそうなってしまうと頭が真っ白になり、思うような解答が浮かんでこない。
結局、僕が出した答えはーーー、
「今は検討中なんだ。………ごめん」
謝罪と保留だった。悩んだ末に出てきた答えが最も最悪な答えだった。
「そう、なんだ……」
「だけど、デビューを前提に企画を進めていくつもりだから、あまり気を落とさないでほしい」
とは言いつつも内心では無理だとわかっている。ただでさえ、先輩アイドルに選ばれなかったのに、この仕打ちだ。気を落とすなという方が無理だ。
とりあえず僕は全員に今日の予定を伝えて、最初の予定であるレッスンへと行かせる。たちまち、部屋にはいるのは僕一人だけになる。
「……逃げてばっかだなぁ、僕は」
ソファーに座り込み、頭を掻く。こんな自分が嫌になる。でも、そう後悔したとしても、言ってしまったものら変わらない。落ち込んでああすればよかった、ではなく、これからどうするか考えるのが先決だ。
「よしっ、気合い入れ直して仕事だ仕事!」
頬を叩いて気合を入れ、執務室へと向かった。
☆♪♡♢
CDデビューへと順調に事が進み、ユニット名も『ラブライカ』と『ニュージェネレーションズ』というふうに決まり、歌の収録へと順調に歩み続けていたはずだった。でも、それは突然起きた。予想できていたはずの
「プロデューサーがみく達の要求を呑んでくれるまで、ここから動かないにゃーーーーー!!!」
突然聞こえたみくの声に何事かと思って急いで来てみると、そこには346プロのカフェを占領したみく、莉嘉、杏の姿があった。
「あ、プロデューサーさん!」
「ちょっと、これ一体どういう事?」
「これは……ヤバいんじゃないかな〜……」
ニュージェネレーションズの三人は心配そうに立て籠もっている三人を見ている。
「………………くそったれが」
僕はというと、小さな声でそう呟いていた。分かっていたのに行動しなかった。そんな自分に腸が煮えくり返るような怒りを感じた。
最低だ。分かっていたのになぜ行動しなかったんだよ僕は………!
「みく達もデビューさせろにゃーーーー!!」
「そうだそうだー!」
「え、杏はそんなの聞いてないよ………?」
……………最後のは今は放っておこう。今はあの二人の説得が先だ。
「なんで、みく達じゃないの……?」
大声で叫んでいたはずの抗議の声が途端に小さく涙ぐんだものになる。
「なんで、なんでいつも頑張ってるみく達じゃないの?なんで卯月ちゃん達なの?私達だっていつかそういう日が来るんだって思った。思ったのに、なんで!?」
みくの頬から光る粒がこぼれ落ちる。涙。顔を歪め、涙を流していた。今まで押しとどめていた感情を全て吐き出すかのように。
「卯月ちゃん達より先に来て、頑張って、辛い事も苦手な事にもチャレンジして乗り越えようとして、なのにどうして!?なんでなの!?」
みくの声が僕の心に突き刺さっていく。僕は知らず知らずのうちに俯き、歯を食いしばっていた。この言葉を受け止める責任が僕にはあるのだから。
「こんなんじゃ、今までやってきた事はなんだったの………?意味なんてなかったの……?」
悲痛な声が辺りに響く。僕以外は悲しく感じるかもしれない。でも、僕は激烈な痛みと共に体を蝕んでいく。後悔と嫌悪が自分を満たしていくのが分かる。
「みくだって……デビューしたいよ………」
みくは泣きじゃくりながら小さい声で言った。それは先程までの言葉よりも深く、僕の心に突き刺さる。
これが逃げた代償。僕にはそう受け止めるしかなかった。どうすれば……僕はどうしたら………。
その時、耳元で誰かが囁いた。
「逃げんなよ」
その声でハッとする。何をしていたのか。後悔しないようにって決めたのに真っ先に自分がそうしてどうするのか。否、今する事はそんな事じゃない。
僕は一歩前に出て、みくの顔を見ながら告げる。
「何にゃ………Pチャン」
「ーーーーーすみませんでしたっ!!」
僕は地面に頭がつくんじゃないか、という勢いで頭を下げる。
「現在、みんなのデビューも視野に入れて企画を進めているんだ。第一陣、第二陣といった風に分けてデビューさせていく」
「……………本当なの?」
今まで沈黙していた莉嘉が顔をひょこっと出して僕に問う。
「ああ。だから遅くなるかもしれない。でも、絶対に、必ず全員デビューさせる。だから、待っていてくれないか?」
僕が問いかけると、返答の代わりに嗚咽が聞こえてくる。
「それを先に言ってにゃ…………」
枷が外れたのか、大粒の涙を流すみく。とりあえず、難所を越えたことで安堵のため息を吐く。生きた心地がしないよ……。
「よ、良かったです……」
「一時はどうなることかと思ったよ……」
「というかそれを先に言いなよ」
「面目ない……」
全くだ。どうして思いつかなかったのだろう。最初から言っていればこんなことにはならなかったのに。
「やれば出来んじゃねえか」
と、後ろの方から男の声が聞こえてくる。さっき耳元で囁いていた声と同じ声だ。というかこの声はーーーッ!
僕は振り返って声の主を探す。だがいない。周りを見渡すと、その声の主は白衣を着ていて、プロダクションに背を向けて歩いていた。
「どうかしたんですか?」
「あの人……確かプロデューサーに何か囁いてたよね?誰なの?」
「いや、気にしなくていいよ」
説明するのも面倒なので、はぐらかす。あとで何故ここにいたのか追求しよう、とこの件を頭の片隅に追いやり、僕はこのあとに待つ謝罪と説教を予想して天を仰ぐのだった。
案の定、カフェの従業員さん達に謝罪し、武内さんから注意を受け、ちひろさんから笑顔で説教を受けた(僕だけ)のは別の話。
☆♪♡♢
蒼崎弘弥P活動報告⑧
今日は僕のせいで大変なことになった。
忘れないように今後の注意点と目標を記しておこう。
注意点:アイドル達を不安にさせないこと、決定事項はその企画が協議中でも伝えること etc.
目標:全員をアイドルとして輝かせる!
これからは人一倍頑張ろう。適度に休息を取りながら。
という具合に三人の初ステージぶっ飛ばしました。
なんというかすみません。
あと、弘弥に囁いた白衣の人物は誰だったのか。
これは次回明かしたいと思います。