平凡な僕がプロデューサーになりました   作:夜明けの月

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前回の続きです。


白衣の男襲来です。

みく達の立て籠もり騒動があり、一足早く日記を書き終えた僕は執務室でいつものようにデスクワークに励んでいたーーーはずのだが………、

 

「あー……集中できない……」

 

全く集中できず、仕事が全くと言っていいほど進まなかった。原因は、自分でも分かっていた。

 

みくの言葉に狼狽え、逃げようとしていた僕に囁いた声の主。どうしてあの人がここにいるのか、理解できなかった。そもそもそんなに暇な人ではないだろう。いつもならどこぞの施設に籠り、「俺の聖域はここだ。ここからは出ない」とか言いそうな重度な引きこもりなのに……。

 

そのこと気になって全く集中できない。でもしなければ仕事が溜まる。どうすればいいの!?

 

そんな葛藤を抱きつつ頭を掻きむしっていると、ドアがノックされる。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼しますね」

 

入ってきたのは、ちひろさんだった。予想外もいいところである。さっき説教されたばかりなのに……。もしかして言い忘れたことでもあったのかな?

 

「蒼崎さんにお客様が来ていますよ」

 

「お客様……?」

 

誰だろう。花梨だろうか。いや、花梨なら何も言わずに激突してくるし、ちひろさんにわざわざ言うわけがない。というか、頻繁に来すぎて、346プロに勤務している人にさえ顔パスで通ってしまう。ここはあなたの遊び場じゃないんですけどね……。

 

となると、候補が見当たらない。友人にはプロデューサーになったことは伝えていないし、親戚なんて以ての外だ。

 

ならば、兄貴か姉さんか?………あり得ないね。引きこもり中毒者に完璧(ブラコン)主義者だ。ここに来ること自体、確率ゼロ………

 

「お兄様がお見えですよ」

 

「………………………………はい?」

 

固まり凍りつく。えっと、嘘ですよね?あの引きこもりが……いや絶対にない。どうせちひろさんのいたずらに違いない。きっとそうだ。

 

だが、この時の僕は脳内からあることを排除していた。僕が他人に家族構成を話していないことを。

 

「よお、弘弥。久しぶりに顔見せに来たぞー」

 

ボサボサの短髪にメガネをかけているのだが、疲れているのか、全く覇気が感じられない顔の科学者っぽい白衣を着ている青年がそこにいた。

 

僕はその人を見た途端、無意識に大声を張り上げて叫んだ。

 

「なんであんたがここにいるっ!?」

 

何故だ、何故こんなことになった?というかどうしてここにいるんだ!?

 

「なんでとはご挨拶だな〜。一年ぶりの感動の再会だろう?」

 

「感動の再会が勤務先ってどうかしてるだろ!家で待ってろよ家で!」

 

「ほら、一刻も早く会いたかったっていうか」

 

「黙れ引きこもりが!」

 

僕と白衣の奴が言い合っていると、ルームにいたのか、みんなが集まってくる。

 

ちひろさんによってクールダウンさせられ、落ち着きを取り戻した僕は白衣を着込んだ奴に向き直る。

 

「で、本当に何の用だよ()()

 

「いやいや、会いに来たんだって()()()よ」

 

そう言い合った途端、その場にいた全員が驚愕の叫び声をあげたのは言うまでもない。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

「どうも、弘弥の兄の蒼崎拓真(たくま)です。どうぞよろしく」

 

蒼崎拓真、僕の兄貴はみんなに頭を下げながらかつ笑顔で告げる。これにはみんなも驚いたみたいで、

 

「プロデューサーさんの……お兄さん……?」

 

「いや、これは驚いたね。まさかプロデューサーにお兄さんがいたとは」

 

「でもでも、Pちゃんと結構似てる気がすりゅよ〜」

 

「確かに……似てるかも」

 

三者三様の感想を述べていく。うーん、似ているってところは否定したいんだけど……。

 

「それにしてもどうして今日なんだよ……?」

 

「さっき言ったじゃねえか。一刻も早く会いたかったって」

 

「……………………キモッ!」

 

「沈黙長いしその言葉を実の弟から言われるときっついなー……」

 

嫌悪を込めた表情で最も拒絶を示す言葉を放つと、見るからに落ち込む兄貴。それもそうだろう。物心ついた頃から顔をあわせることが少なく、親しいと言える仲でもなかった兄貴にそんなことを言われると気持ち悪いことこの上ない。

 

「さ、さすがに言い過ぎでは」

 

「いや、このぐらいでいいんですよ。こんな研究引きこもり中毒者は」

 

「さっきからえらく辛辣だなおい!?」

 

「五月蝿いマッドサイエンティスト」

 

「わぁ、弟の言葉が俺の心にグサグサと……」

 

僕の言葉が兄貴の心にクリーンヒット!効果は抜群というか瀕死まで追いやったようだ!

 

ここまで心を折ればいいだろう、と抱えていたストレスのほとんどを吐き出して話を切り出す。

 

「まあ鬱憤を晴らすのはこれぐらいでいいとして、本当に何しに来たんだ?」

 

この男が何のメリットもなしに動くとは思えない。僕が一番気になるのはそこだ。

 

「だから一刻も早くーーー」

 

「茶番はもういいから」

 

「………成長したなぁお前も」

 

メガネの奥から値踏みしたような目線が僕を貫く。先程より少しだけ目つきが鋭くなっていた。

 

兄貴はソファーに深く腰をかけ、真剣な眼差しで僕を見る。僕はその目つきに覚えがあった。それは真面目な話の時しか見ないものだった。

 

「実はな……」

 

「実は?」

 

「………家への帰り方忘れたからつれていってくれない?」

 

「この愚兄が!自宅への帰り方ぐらい覚えときなよ!というかなんでここまで来れたの!?それが不思議で仕方ないんだけど!?」

 

「いや、弘弥の声が聞こえた気がしたから」

 

「彷徨ってたのかよ!ていうか携帯は?」

 

「研究所……」

 

「これから兄貴って呼ばずにダメ兄って呼ぼうかな……」

 

忘れてた。兄貴が自分の興味あること以外は全くダメなことを。一年あってないとこんなことまで忘れるのか。いや、今はそんなことはどうでもいい。それよりも、この愚兄をどうするかが先だろう。

 

「ちひろさん、仕事終わるまで兄をここに置いてていいですか?」

 

「俺は置物じゃないんだが「黙ってて」………はい」

 

僕が問うと、ちひろさんは少しだけ考えるようなそぶりを見せ、すぐに笑顔になって了承してくれた。

 

……その笑顔にはどんな思惑が含まれているかなんて全くわからないけど。というか分かりたくもないけど。

 

とりあえず兄貴をルームに放置して僕は執務室に戻った。

 

 

 

☆♪♡♢

 

 

 

side 蒼崎拓真

 

ども、弘弥の兄の拓真だ。

 

弘弥は仕事に戻ると言って執務室というところに入っていった。「仕事終わるまで待て」ということらしい。

 

まあ別にそれは気にしない。携帯忘れたり帰宅するための道を忘れたりした俺が悪いのだから。

 

でもなぁ、周囲から感じるこの視線はなんなのか。さっきから黙りこくってこっち見てるし。

 

346プロダクションっていうんだからアイドルなんだろうけど、でもこの視線を感じ続けるのは居心地が悪い。弘弥のいう通り、引きこもりがちな俺は人の視線には慣れていない。

 

かといって初対面の女の子にどう接していいかわからない。詰みましたわこれ。

 

そう思っていると、黒髪のツインテールのちっちゃい子が隣まで歩いてくる。初対面なのに怖くないのね。

 

「白衣のお兄さん、一つ聞いてもいい?」

 

上目遣いで見上げてくるツインテールっ子。かわいい。でもな、俺がそんなこと口にしてみろ。科学者から通報待った無しのロリコンに成り下がることになる。それだけは避けたい。

 

「なんだい?」

 

とりあえず、紳士的な対応を笑顔でする。多分これであってるはず。

 

「私ってプロデューサーさんに嫌われてるのかな?」

 

「うん?どういうことだ?」

 

嫌われてる?弘弥がこの女の子を?

 

絶対にない、と脳内で肯定する。あの弟に限ってそれはない。あれは基本的に誰かを嫌うことはない。よっぽどタイプが合わない人は例外だが。

 

それにも関わらず、こんな人当たりの良さそうな子が嫌われるなんてことはない。

 

ということはどういうことだ?何故嫌われてるなんて思ってるのか。そう思っていると、見上げていた顔をうつむかせて悲しそうな顔をして言った。

 

「だって、この頃お話ししたくてもできないし、私たちを避けてる気がするし。それに、話しかけても知らんぷりするんだもん!」

 

徐々に大声になって声を荒げて言った。その次の瞬間、何処かからガタッと何か倒れる音がした。まあ気にせんでいいだろう。

 

それにしてもあいつが無視ね〜……。何の間違いだろうか。というかこの一年であいつに何があった?

 

「あー、それ思った!Pくん話しかけても無視するんだもん!前なんて服を引っ張っても気づかなかったもん!」

 

お次は金髪の快活な子がソファーの背もたれあたりから乗り出して口を尖らせて言った。服を引っ張ったのに無視?うーん、ますます分からん。

 

「ダー、目の前に立っても、ズプスチェノスツ、無視、されましたね」

 

今度は銀髪碧眼の容姿端麗なハーフだ。こんな子もアイドルにいるんだな、と思いつつ、こんな子も無視したのかよ。いかん、そろそろ執務室とやらという場所に殴り込みたくなってきた。

 

銀髪の子が発言した後に再度何かが倒れる音がした。さっきから一体なんなんだ?どんな怪奇現象だよ全く。

 

「うん、話は分かった。とりあえず弘弥(あのバカ)ぶん殴ってくるな」

 

「いやいや、流石に飛躍しすぎでしょ」

 

ほら言うじゃん。拳で(一方的に)語り合えば通じることもあるって。

 

黒髪長髪の制服を着た子の言葉により思いとどまり、真剣に考察する。

 

あの弟が人を無視するなんてことは滅多にない。ならば考えられるのは、余程嫌っている、もしくは話できるような状況じゃなかったか。前者はこの子達の性格上あり得ない。無視されたことを気にして悲しそうな顔をするような人に悪い人はいない、と思う。それに、こんな可愛い女の子を嫌う弟なんて俺は信じない。

 

となると後者の話ができるような状況じゃなかったか。話ができるような状況じゃないってどういうことだ?音楽聴きながら歩いてたとか、それとも寝ながら歩いて……た………。

 

なるほどね。そういうことか。母さんから聞いてた話を含めると思いあたりがある。

 

「一つ聞いていいか?」

 

「何〜?」

 

「その時弘弥の足取りはどうだった?」

 

「足取り?そんなのが関係あるのかにゃ?」

 

関係はある。というかそれによって何が原因か判断することができる。

 

「ミナミ、覚えてますか?」

 

「うーん、そうだったようなそうでなかったような……。どうだったかな蘭子ちゃん」

 

「うむ。混乱しており、力を秘めし瞳は封印されておったぞ」

 

「えっと………」

 

「なるほど、おぼつかない足取りで目はほとんど閉じていたと」

 

『え、今ので分かったの!?』

 

周囲から驚きの声が上がるが気にしないことにする。よし、結論は出た。

 

「無視した理由は、多分寝ながら歩いてたんだろうあいつ」

 

「寝ながら歩いてた?」

 

「杏子ちゃんみたいだにぃ〜」

 

「杏子は寝ながら歩かないよ。寝る時は寝転がる」

 

それが普通なんだけどなぁ。頭を掻きながら俺は執務室のドアへと向かい、ノックせずに開け放つ。するとそこには地面に倒れ伏す弘弥の姿があった。

 

「の、ノックぐらいしないと………ってプロデューサーさん!?」

 

「い、一体何、が…………?」

 

「大丈夫ですか〜!?」

 

女の子達は驚いているが、これも想定内。さっきまで聞こえていた何かが倒れる音は、こいつが椅子ごと倒れる音だったというわけだ。

 

それを察したのか、先ほどの黒髪長髪の子はため息をついている。

 

「はぁ、またか」

 

「またなのか。というか名前聞いてなかったな」

 

「そうだったね。私は渋谷凛。よろしく」

 

「年上にも物怖じしないその性格、大物とみたが敬語ぐらいは使おうな」

 

本当にこの頃の若者は……まあ俺も若者だけど。

 

そんなことを思いつつ、弘弥の元に寄り添う女の子達を見ながら俺は笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

その後、仕事は早めに終わったが帰路に着いたところで弘弥が力尽きて少しだけ迷って苦労したのは別の話。

 

 

 




次回はアニメの内容ですかね。
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