では、本編をお楽しみください。
カーテンの隙間から差し込む光、少し肌寒いが徐々に春が近づいているのが感じ取れる。
だが、それにもかかわらず部屋の中ではけたましいアラームが鳴り響く。
「んん………」
僕は身をよじり、布団にくるまる。だが、鳴り止むことのないアラームに苛立ち、目の前にあるスマホの電源を落とし、目を瞑る。
やがて心地よい眠気が襲ってきて、
「いつまで寝てるの!?早く起きなさい!」
甲高い怒声によって阻まれる。十中八九母さんである。
「あんた今何時だと思ってるの!?早く起きなさい」
「…………ヤダ」
「ヤダ、じゃないわよ!もう八時なのよ!?一限に遅れるわよ!」
……今なんと言った?八時、八時と言ったのか?おいおい、ちょっと待ってくれ。ならなぜアラームはさっきなっていたのか。推測できる答えは一つ。一時間ほどなり続けていたのだろう。
「やばい、遅刻するっ!!」
「早く支度しなさい!ご飯も用意してあるから」
この後、大急ぎで支度したことによって一限にはなんとか間に合った。この時ほど、母親という存在に感謝しきれなかったことはない。
☆♪♡◇
午前中のうちに、今日受ける授業が終了した僕は、以前のように家へと直行するのではなく、ある場所へと向かう。ある場所とは、346プロの近くにある駅だ。そこで待ち合わせをしているのだ。新規プロジェクトに採用された新人達とね。
「えっと、今回は前説明してなかったから新田さんに今回初めて会うアナスタシアさん、前川さんに神崎さん、あとは緒方さんかな」
新田さんは前回あった時に説明していない部分があったので、今回ちょうどいいと思って呼んだのだ。その他の人たちは、僕も初対面である。
アナスタシアさん。北海道から来るのだが、果たして駅前で良かったのだろうか。あちらがそれで了承したのだからどうとも言えないのだが。ちなみに日本人とロシア人のハーフである。
前川みくさん。大阪から来るのだが、こちらも待ち合わせ場所が間違っている気がするのだ。決めた後で思った。空港にした方が良かったのではないかと。資料に書いてあるのを見る限り、この子は高校生だろう。多分。
神崎蘭子さん。こちらは熊本からお越しだ。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいである。あの時の僕はバカだったんだろう。……そうなると今もバカということになるのだが。神崎さんは、中学生?だろうか。写真からはそんな雰囲気は感じないが。
そして最後、緒方智絵里さん。三重県からお越しのようです。重ね重ね申し訳ありません。僕がバカでした。この子は、写真から判断するにおっとりとした感じの子だろうか。まあ会ってみなくちゃわからないけどね。
一通り資料を読み終えて手持ち無沙汰になる。今朝、ドタバタしていたせいでスマホの充電を忘れていたため、現在電池が20%まで着々と減りつつあるので無駄なことに使うのはやめた。電池が切れて、いざという時に使えません、じゃどうにもならないからね。
「武内さんから励ましの言葉もらったけど、不安そうな声で『頑張ってください』と言われてもなぁ……」
こっちが心配になってくるからねそう言い方。おかげでまた緊張してきた。
「僕に気づいてくれるとありがたいんだけど。スーツも着てきたんだし、分かるよね」
ちなみに、新田さんと対面を果たしてから一週間が経っている。スーツを大急ぎで見繕ってもらい、必要そうなものは揃えておいた。その間の勉強は欠かさない。単位を落とすわけにはいかないからね。
適当に空を眺めていると、控えめな声で声をかけられる。
「あ、あの………」
「ん?」
そこを見ると、ツインテールでスカートの裾をつかんでいる少女がいた。
「え、えっと……プロデューサー、さん……ですか?」
「ということは、君は今回採用された……緒方智絵里さんかな?」
「は、はい……」
資料の写真にあった通りの容姿だったから、良かった。資料を事前に読んでその内容を覚えておいた僕ナイス!ここで役に立つとは思わなかった。
「きょ、今日は………よろしく、お願い……し、します……」
「よろしくお願いします。そんなにかたくならなくて大丈夫ですよ」
「は、はい………」
と言いつつガチガチである。まあ気持ちは分からなくはないんだけど。なんというかその、愛でたくなった。例えば、頭撫でたりとか。まあしないけど。
「お待たせしまし……た………?」
ここで、唯一の知り合いである新田さん登場。だが、何かおかしい。僕と緒方さんを見るなり固まる。主に僕を凝視して。
「スーツなんだね……」
「え、それが何か?」
びっくりしたかのように言う新田さんに聞き返す。僕がスーツじゃいけないのだろうか?ちなみに、以前メールをした時に双方敬語はなしということで合意したため、タメ口だ。
「ううん、なんでもないよ。ただ……似合ってるなぁって」
「え?なんて?」
最後の方が聞こえなかったので、聞き直すとなんでもないと言い返される。隣にいる緒方さんも小首を傾げている。
「そういえば、他の人は?」
「まだ来てない。そろそろ待ち合わせ時間なんだけど」
「あ、あれじゃないかな?」
新田さんはどこかを指差す。そこには三人の少女がこっちに歩いてきていた。何か話しているが。
だが、新田さんの読みは当たっている。あの三人は、アナスタシアさん、前川さん、神崎さんだろう。あ、こっち見た。
こっちを見た瞬間、ハッとしてこちらに走ってくる。別に走ってこなくてもいいのに。
「お、お待たせしましたにゃ!」
にゃ…………?
「『こんにちは』こん、にちわです」
んん?最初らへんのはロシア語かな?
「現世に舞い降りた翼!(お待たせしました!)」
ごめん、ちょっと分かんないかな。
アナスタシアさんはまあハーフだから問題ないとして、前川さんは……キャラが立ってる。だが、神崎さんは中二病キャラかな?僕にもそういう時代があったからだろうか、勝手に脳内で言葉が変換されていく。うーむ、悲しいかな。ちゃんと治ったと思ったんだけどなぁ、あの忌々しい病気。
「どうかしましたかにゃ?」
「どうしました?」
「どうした『瞳』の持ち主よ(どうしたんですか?)」
「いや、なんでもないです」
ただキャラが濃いなぁ、と思っただけですよ。とりあえずここを移動しなければ……。
そう思った矢先に肩を叩かれる。誰かと思って振り返ると、そこには笑顔の警官さん。あれぇ?嫌な予感しかしないぞぉ?
「君、こんなところで何してるのかな?」
「えっと、仕事の待ち合わせで」
「取り敢えず署まで来て「三十六計逃げるに如かず!!」ちょっと君!待ちなさい!」
身内に言われたことがある。困ったことがあって、それが面倒くさそうなら、取り敢えず逃げろ、と。
僕は体力がなさそうな緒方さんと、走りにくそうな神崎さんを脇に抱えて走り出した。新田さん、アナスタシアさん、前川さんにはアイコンタクトして逃げるということを伝えた。……伝わってるよね?
次からは、待ち合わせ場所をあまり目立たないところにしようと心に決めたのだった。
☆♪♡◇
「つ、疲れた………」
なんとか346プロのシンデレラプロジェクトの事務所に入り、膝に手をつく。さすがに二人を担ぎ上げて全速力はきついものがある。僕は万年文化系なのだ。運動はあまり得意な方ではない。
「えっと、あれって逃げて良かったの?」
前川さんがそう聞いてくるが、そんなの答えは分かり切ってるだろう。
「そんなのダメに決まってるじゃないですか」
「な、ならどうして………?」
まだ困惑しているのか、緒方さんが恐る恐る聞いてくる。どうして?それを聞くのは愚の骨頂というものだ。
「面倒事は極力避けたかったんです。その理由ではダメですか?」
「あ、いえ……」
一同が困惑する中、僕に羨望の眼差しを送る人物が一人いた。
「あなたは、サムライ……ですか……」
「へ?」
「あなたはあの有名なサムライなんですか!?」
ひどく興奮している様子のアナスタシアさん。どうしよう、僕は言われようもない誤解を受けている気がする。
「僕は侍じゃ……」
「いえ!あの力強さ、そしてあれだけ走ったのに疲れていない様子。そして、自分の意思を曲げない強さ。やはりサムライはいたんですね!」
勘違いも甚だしいなぁ。あれは火事場の馬鹿力というものだし、あと疲れていない訳ではない。普通に疲れているが、息切れをしていないからだろうか。流石にそれで侍と言われるのは、昔を生きて死んでいったお侍さんたちに失礼である。
「だから、僕はそんなんじゃ「日本に侍がいて、カンゲキです!」………」
目をキラキラさせて思いにふけるアナスタシアさん。それを見るとこう思ってしまった。
もうなんでもいいや、と。
「取り敢えず、皆さん座ってください。自己紹介を兼ねて、本プロジェクトの説明などもやりますので」
諦めたかのように言う僕。諦めも肝心、だよね。
☆♪♡◇
「ーーーという事になりますが、何か質問はありますか?」
「ないにゃ」
「『
「ふふ、我にそんなもの必要ではない(ないです)」
「ない、です……」
「あの、少しいいかな?」
前川さん達は質問がないのに対して、新田さんは手を上げる。
「何かな?」
「えっと、その『欠員』ってどういう事なのかなって思って」
なるほど、その事ね。確か武内さんからの話によると、
「オーディションなんかに受かってた人たちがそれを辞退して、三人だけ枠が空いてしまったんだよね。今、武内さんがなんとかしてると思うから大丈夫だと思うよ」
「ちょっと待つにゃ。じゃあ、その三人が見つからなければどうなるのにゃ?」
「うーん、最悪見つかるまで待機って事になりますかね。まあ兎にも角にも、今決まっている人たち全員に説明はしていかなきゃなりませんが」
「了解にゃ」
これにて説明は終了だ。だが、どうしようか、思ったより早く終わってしまったため、時間が空いてしまった。やる事がないし………どうしよう。
「どうした?『瞳』の持ち主よ(どうしたんですか?プロデューサーさん)」
「……いや、思ったほど時間が空いてしまって、どうしようかと」
「あ、あの………」
僕がそう言うと、緒方さんが控えめに手を挙げる。
「どうかしました?」
「えっと……レッスン室とか見れますか……?あと、敬語は無しでも構いません……」
なるほど、レッスン室など見せてプロダクションを探検するというのもいいかもしれない。実際、僕も把握していない部分があるからね。てかさ、なんで僕が敬語使わないほうがいいの?
「い、違和感がある、からです……」
「お願い、心読まないで」
確かに使い慣れてないけどさ、体裁上は使わないといけない訳で……。
「智絵里ちゃんに同意にゃ」
「我も同じ故(同意です)」
「『
「みんなもこう言ってることだし、敬語やめたら?」
他の人達もそれに同意のようで、緒方さんの提案に同意する。新田さんは新田さんで僕に微笑んでそう言ってくるし。でも、ここで退ける訳がーーー。
「ならこうしましょう。敬語をやめてくれたら、アナスタシアさんに侍じゃないと説明しましょう」
「アナスタシアではなく、アーニャ、と呼んでください」
新田さんからの提案はありがたい。ありがたいのだが、相手を敬うというのは大事だとーーー
「もしやめないなら、私達も『侍』と呼ぶことにします」
「即効でやめさせてもらう」
諦めも肝心、ではなく引き際も肝心である。これから新人のアイドルの皆さんに『お侍さん』と呼ばれた時には、おそらく死を免れない。精神的にも、社会的にも。
「それじゃあ、まずはレッスン室に行きま……行くか?」
「はい!」「は、はい!」「はいにゃ!」「承諾した!(はい!)」「『
どうしてここまでバラバラなのだろう。この先が不安になるよ。
☆♪♡◇
さて、そんなこんなでやって来ましたレッスン室。誰も使ってないといいんだけど。
「お邪魔しまーす………」
恐る恐る扉を開き、そーっと中を覗く。するとそこには誰もいなかった。ほっと胸を撫で下ろし、部屋に突入する。
だが、僕はここで後悔する。部屋の隅々まで確認しなかったことを。
「お?新人さんじゃん」
部屋の隅の方から聞こえてくる活発な声。そこを見ると、ピンク色の髪のいかにもギャルという女子がいた。城ヶ崎美嘉さんだ。あらかじめ、武内さんの指摘によりプロダクションのアイドルの皆さんや、プロデューサーの皆さんには挨拶してあるので、この人は顔見知りだ。
だけど、うん、できれば会いたくなかったね。
「え、と……城ヶ崎、さん?どうしてここに……?」
「どうしてって、今レッスン中だよ?ちょうど、休憩時間入ったところ」
僕は右手で顔を覆う。ちゃんと確認しなかったのが運の尽きだろうか。最悪の展開である。
「んにゃ?誰かいるの?」
後ろから聞こえる前川さんの不安そうな声。現在、僕が入り口のドアをふさいでるせいで他の人達には中の様子が見えていない。
「あれ?誰か連れてんの?」
「……………」
「何その『面倒くさいけど説明しなきゃならないのか、でもそっちの方が面倒くさいなぁ』って思ってそうな顔は」
「………」
「今はどうせ『なんでこの人僕の心読めるの?』とか思ってるんでしょ?」
どうして皆さんは読心術なんか取得しているのだろう。僕の心にプライバシーはないのだろうか。
「ないんじゃない?」
「訴えてもいいですか?」
「冗談冗談!からかい甲斐があるからつい〜」
つい〜じゃないですよ。こっちもつい素が出るところだったよ。
「早く入ってくれにゃ!」
「あ、蒼崎君!早く入って!」
「早く入られよ、『瞳』の持ち主よ!(早く入ってください、プロデューサーさん!)」
「ア、アナスタシアさん……お、押さないで………」
「押して、ダメなら、押してみろ、デス♪」
アナスタシアさん、それじゃあ全く意味がないよ。押してダメなのに押したらもっとダメだよ。
そして、アナスタシアさんが力一杯押すと、皆さんがなだれ込んできた。
「わぁ!?」「「きゃ!?」」「のわ!?」
「ーーーーーーへ?」
僕の上に。
「ゲボァ!?」
悲鳴とは程遠い声が僕の口から出る。女子は軽い。それはわかるのだが、流石に四人もの体重を合計して軽いとは言えるほど僕に力はない。
どっちかというと非力な方だ。
「ぷ、あはははは!どんな状況よこれ!」
城ヶ崎さんはこの状況が面白いのか、腹を抱えて笑っている。お願いだから笑わないで助けてほしい。
「たす、けて………」
今出せる力を振り絞り、声を出す。それに気づいたのか、新田さんたちが急いで僕の上から退く。
「す、すみません……!」
「ごめんなさい!」
「すまない!(ごめんなさい!)」
「ごめんなさい!大丈夫!?」
「なん、とか………」
今回の件で、少しは筋トレでもしようかと思った。じゃないとこういう事態に対応できなくなる。
え?じゃあ何で序盤で女子二人抱えて逃げられたかだって?僕だってわからない。最初に言った通り、あれは火事場の馬鹿力だ。多分だけど。
「あら?何か大きな音がしたと思ったら新人君じゃない」
「わぁ〜、新人さんだ〜」
その大きな音に気づいたのか、他の人達も反応する。川島瑞樹さんと十時愛梨さんだ。
「あの、呼び方………。ていうか以前、自己紹介しましたよね僕?」
「ええ、したわよ。確か………」
「え〜と………」
「あはは………」
川島さん、十時さん、城ヶ崎さんは三人揃って僕から目をそらす。ああ、そういうことか。
「……いいんですよ。僕は陰が薄いただの凡人ですから。忘れられて当然なんですよ」
僕は蹲り、床にのの字を書く。別に落ち込んだり不貞腐れたりしてるわけじゃないんだからね!(涙目
「ごめんなさいって!」
「からかい甲斐があるからつい〜!」
「落ち込まないでって!」
「でも忘れてるんでしょう?」
「「「……………」」」
僕の言葉に詰まる三人。いいんだ、僕そういうのに慣れてるから。べ、別に泣いてなんてないもんね!(泣
「あの、Pチャン。この人達は?いや、知ってるけど」
前川さんが尋ねてくる。で、その『Pチャン』って何?それ僕の事?
僕は立ち上がり、咳払いをして言う。
「多分みんなも知ってると思うけど、一応紹介しておくよ。この人達は、346プロの先輩アルドルである城ヶ崎美嘉さん、川島瑞樹さん、十時愛梨さんです」
僕がそう言うと五人が固まる。というか部屋に入って、僕の上から退いていた時から固まっていた。で、硬直が解けた顔思うと、
「ほ、本物のアイドルにゃぁ!」
「スゴイ、です!!」
「夢、みたい………」
「神々の奇跡!(すごいです!)」
「信じられない………」
感嘆の声を上げる。どうやら少しの間は、興奮が冷めない様子。まあ君達もアイドルになるんだけどね。
そして、自分の後輩だと知った城ヶ崎さん達も笑いながら五人と話す。僕はその光景を入り口付近から見て、落ち着くまで待った。
この状況が落ち着くまで、三時間も費やしてつい寝ていたところを、城ヶ崎さんのイタズラで起こされ、また一騒動あったのはまた別の話。
☆♪♡◇
蒼崎弘弥活動記録②
今日は、新田さんを合わせた五人と顔合わせかつ、本プロジェクトの説明を行った。
前川みく。彼女は、常時語尾がネコ語?だが、おそらく誰かを引っ張っていけるような人になるだろう。
神崎蘭子。彼女は……、まあいい子なのは間違いない。しっかりとした信念を持っている。言葉遣いは、まあ目を瞑るとしよう。
アナスタシア。もう少し落ち着いて行動してほしい。だが、彼女もまた魅力的だ。他の子にない魅力を持っている気がした。
緒方智絵里。極度の人見知りだが、それを乗り越えればおそらくもっと輝けるはずだ。
今日あった子達は、全員根はいい子だし、それに磨けば輝ける原石だ。
まだ会っていない子達もどんな輝きを秘めている原石なのか、期待することにしよう。
神崎さんの言葉遣い難しい……。あとキャラ崩壊してないか不安……。
今回までで5人。残りの6人は後々。
アニメ本編まで入るのにまだ少し時間はかかりますので、ご了承ください。
それでは、次回もお楽しみに。