平凡な僕がプロデューサーになりました   作:夜明けの月

8 / 19
アニメ1話終了です。


春の息吹と共に少女の決心を見守りました。

島村さんへの通知から二日経った。

 

あ、どうも、二日連続で徹夜をして、現在襲い来る眠気と戦いながら歩道を歩いている蒼崎弘弥です。

 

なぜ僕がこんなところにいるか、疑問に思い人もいるかもしれない。その理由は、僕の隣にいる、ある人によるものだった。

 

「あのー……どっちに行けばいいんでしょうか?」

 

「そこを右ですね」

 

島村さんが訪ねてきたのを、平然と答える。

 

なぜ、島村さんが原因なのか、それは数時間前にさかのぼる。

 

 

 

僕は島村さんの通う養成所に来ていた。武内さんから、アイドル達の面倒を任されているためだ。

 

僕が、養成所のレッスン室のドアを開けると、島村さんが笑顔で迎えてくれた。

 

「おはようございますプロデューサーさん!」

 

「おはようございます。体調は良さそうですね」

 

「はいっ!前まであまり出来てなかったターンとかもできるようになったんですよ!ほら!」

 

そう言ってやってみせる島村さん。いやぁ、いいですよね。こうやってひたむきに頑張る人って。……え、僕?まず夢中になれるものから探さないとどうにも、ね?

 

「凄いじゃないですか。よく頑張りました」

 

「えへへ〜♪」

 

僕は多少の労いを込めて頭を撫でる。すると、島村さんは頬を緩ませ、にへらと笑う。

 

普通、女の子の頭など撫ではしないのだが、苦手なものを克服するまで頑張ったのだ。多少は褒めてあげなければ。

 

「あ、あのっ!よろしいでしょうか……?」

 

「どうかしたんですか?」

 

島村さんが上目遣いで聞いてくる。効果は抜群だけど、ここは高鳴る鼓動を抑える。

 

「私の所属するプロジェクトっていつ始まるんでしょうか……?」

 

うーん、これは困った。それ、僕も知りたいと思っていた事だったから返答に困るんだけど。

 

でも、武内さんが二次オーディションを始めたから一人はどうにかなるっていってたような気がする。

 

あと一人は………、やっぱり渋谷さんしか今のところ候補はいないか………。でも、無理強いするわけにはいかないし………。

 

「……すみません、まだ決まってなくて」

 

「あ、そうですか………」

 

僕がそう告げると、見るからに落ち込む島村さん。……どうにかしたい。女の子を落ち込ませたまま放置ってのは僕のポリシーに反するというか、男としてどうかと思う。

 

「でも、一人とは交渉中です。昨日、連絡が来たので今日会いに行こうかと」

 

これを言えばどうにかなるだろうと思って言い放ったことがそれだった。まあ事実このあと会いに行くわけなのだから、別に話したところでどうにかなるわけではない。

 

「このあとで、ですか?」

 

「ええ、まあ」

 

僕がそう言うと、先ほどまでの暗い顔はどこかに行ったのか、目を輝かせてこちらに迫ってきた。

 

「あ、あのっ!私、ついて行ってもいいですか!?」

 

「………へ?」

 

 

 

そして現在に至る。まあそこで断ることもできた。できたのだが……、断ろうとした時の島村さんの顔は凄まじく悲しそうになり、罪悪感を感じざるを得なかったのだ。で、押し負けてしまいました。本当僕って押しに弱いよなぁ……。特に女の子の。

 

「どんな人なんでしょう……楽しみです!」

 

まあ僕も本性は知らないし、楽しみではあるけど、断られる可能性だってあるのだ。多少の覚悟を持っていかなければ……。

 

そうしているうちに目的地へと到着する。そこは、渋谷さんに言われた花屋だった。

 

「あれ……、ここって……」

 

島村さんはここに来たことがあるようだ。まあ僕は当然ないけど。だって、花送る相手なんていなし。………ぼっちで悪いか畜生。

 

「は、ハナコ!お願いだから引っ張らないで!」

 

花屋から聞こえてくるのは、慌てた声と犬の鳴き声。そして出てきたのは、私服姿の渋谷さんとリードにつながれた犬だった。

 

「あ、やっぱり!」

 

……島村さんと渋谷さんって面識あり?

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

僕は今公園のベンチに座っています。渋谷さんと島村さんはというと、島村さんの強い要望で二人きりで話している。渋谷さんが飼っている犬、ハナコは僕が預かっていて、僕は時間つぶしのために適当に撫でていた。

 

「もふもふだな……。ちゃんと手入れされてるし、大切にされてるんだなハナコ」

 

「わふっ!」

 

僕の言葉に返事をするように鳴くハナコ。やっぱり犬ってこういうところがいいよね。

 

実のところ、僕は動物好きだったりする。特に好きなのが犬だ。ハナコのような小型犬も仕草などが可愛くていいが、大型犬の時折見せる可愛さもたまらない。中型犬はその二つの特徴を兼ね備えている場合があるのでなお良しである。

 

っと、話が逸れた。まあ今の状況を簡単に言うと、『話したいから待ってて』という感じである。

 

まあ公園に着いてから、30分ぐらいは経っているんだけどね。話すにしても長いとは思うけど、僕は気にしない。それでもし、渋谷さんがOKを出してもらえるならばいくらでも待とう。断られたらそれはそれでどうしようもないけど……。

 

「プ、プロデューサーさーん!来てくださーい!」

 

島村さんがこちらに手を振りながら呼んでくる。話が終わったのだろうか?何はともあれ、僕はハナコを抱えたまま、島村さん達の元へと向かう。

 

「何ですか?」

 

「えっと……凛ちゃんが聞きたいことがあるって……」

 

聞きたいこと?僕に答えられる範囲ならなんでも答えるけど、一体なんだろう?

 

「あの、さ………私さ、今までやりたい事とかなくて、ただ友達と話したりして、時間が過ぎていくだけだった。でもさ………」

 

渋谷さんは俯きながらも言葉を紡いだ。

 

「それが、私にとっては楽しいとは思えなかった……。ねぇ、蒼崎さん。アイドルになれば、見つかるの?私が夢中になれる『何か』って」

 

今にも泣きそうな目でこちらを見てくる。その目は僕には、救いを求めるように見えた。何もないところから救いを求めるような………そんな気がした。

 

「それは………」

 

嘘偽りなく、ただ正直に、自分の感じたように言うしかない。そうすることしか今の僕にはできないのだから。

 

「それは僕にも分かりません。僕はアイドルではないですので」

 

そう言うと渋谷さんは下を向き、暗い表情になる。救いを求めたがそれを拒まれ、絶望したという風になっているが、ここで話を終わらせるほど僕は薄情じゃない。

 

どこかの主人公みたいにとはいかないけど、助けを求められたなら、完膚なきまでに助けるのが僕の信条だ。それが例え、どんな助けであっても。

 

「以前は僕もそうでした。プロデューサーになる前は、ただ講義を受けて、友人と駄弁って、ただそれだけでした。空っぽで何もない、ただただ平凡な暮らし。でも、あるきっかけで僕の暮らしは一転しました。それが、今の仕事です」

 

「プロデューサーになった……ってこと?」

 

「ええ。最初は勝手に申し込まれて乗り気じゃなかったんですけど、いざプロデューサーになってからは景色が変わった気がするんですよ。まるで、今まで見たこともなかったものが目の前にあるかのように」

 

仕事は大変だし、寝る間も惜しんでしなくてはならないこともたくさんある。だが、それら全てが少しでも楽しいと思えてしまう。別に僕がMというわけではない。単にそう言う経験がなかったからこその感情なのだ、とそう僕は思っている。

 

「つまり、どういうことですか?」

 

「どんなきっかけだったとしても、『踏み出せば、何か楽しいことが見つかる』ってことです」

 

「踏み出せば………見つかる………」

 

「だから」

 

僕は手を差し出す。未だ迷う渋谷さんに。『平凡』という型にはまった彼女に。

 

「見つけに行きませんか?君が夢中になれる『何か』を。僕たちと一緒に」

 

渋谷さんは僕が差し出した手を見て、考える間もなく僕の手を取る。

 

「渋谷凛、15歳。高校一年。よろしくお願いします」

 

決心した顔で告げた。その瞬間、風が吹き抜け、桜吹雪が舞う。踏み出したことを、そして彼女達の新たな世界への門出を祝福するかのように。

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

僕は二人と別れ、プロダクションの執務室にいた。しかし僕の与えられた部屋ではない。武内さんのだ。

 

「渋谷凛さんをスカウトに成功しました」

 

僕はシステムのようにそう告げた。すると、武内さんは驚いたかのように目を見開く。

 

「本当ですか?」

 

「ええ。資料も受け取ってもらえましたし」

 

「……お疲れ様です。それと、ありがとうございます」

 

「いえいえ、僕もプロデューサーの端くれなんで。少しでもみんなの役に立ちたいですから」

 

頭を掻きながらそう言う。礼を言われるのは慣れてないから、こういう時に返答に困る。

 

「そういえば、オーディションどうなったんですか?」

 

確か、三人のうちの一人はそれで決めるとか言っていたような気がするんだけど。多分もう終わってるよね。

 

「本田未央さんに決定いたしました。なので明日、シンデレラプロジェクトの皆さんの宣材写真を撮ろうと思ってます」

 

「へぇ……。新田さん達には伝えてるんですか?」

 

「はい。ちょうど、今日レッスンがあったものですから」

 

やはり武内さんは仕事が早い。僕がやっているならもう少し遅くなるだろう。多分、明日か明後日ぐらい。

 

理由?………だってさ、カオスになる気しかしないからさ、少しぐらい気を休めてたっていいじゃない。今の所、(欠員の三人、新田さんを除く)顔合わせはすべて混沌と化してるのだ。訳が分からないよ……。

 

とりあえず、僕が島村さんと渋谷さんに連絡するということで話はついた。

 

「すっかり、染まりましたね」

 

「へ?」

 

武内さんが子供を見守るかのように微笑みながらそう言う。えっと、何に染まってるか大体わかるけどどういうことだろうか……?

 

「いえ、最初の頃は初々しかったのですが、今になってはしっかりと仕事ができるプロデューサーになったなと思いまして」

 

嬉しいことを言ってくれますね。でも、少し違う。しっかりとは仕事はできていない。だって、一昨日は入力したデータを再度襲来してきた妹によって削除され、昨日なんて途中寝落ちして、気づいたら画面がすごいことになっていた。訳のわからない文字の羅列で埋め尽くされてた。まあキーボードの上で寝てたらそうなるのも当たり前だよね。あの時心臓止まりそうになったけど。

 

ということで、僕はしっかりとなんて仕事はできてない。将来的にはできるようになりたいけど。

 

「まだまだですよ。なのでこれから精進していきます」

 

「そうですね。私も蒼崎さんを見習わなくてはなりませんし」

 

「え?」

 

「皆さんと敬語なしで話せているではありませんか」

 

「あー………それですか………」

 

違うよ武内さん。あれは僕の意思じゃない。新田さん(悪魔)によって強制的にタメ口になったんだよ……。

 

それから、僕は武内さんの認識を変えた後で自分の仕事に移った。

 

 

デスクワーク中にみりあちゃんと莉嘉ちゃんがノックなしに執務室に乱入してきて、驚いてデータ(10ページ分)をすべて消し飛ばして泣いたのはまた別の話。

 

 

 

☆♪♡◇

 

 

 

蒼崎弘弥P活動記録⑥

 

人生初のスカウトに成功した。いや、断られた時どうしようか本当に悩んだし、心臓に悪い。これ以降はあまりしたくない。

渋谷凛。彼女は今は何も持っていない。だけれど、いつかずば抜けた武器を持つはずだ。多分。

あと一人は資料しか見ていない。

本田未央。一見明るそうな少女だった。武内さんが言うには、明るく、誰かを引っ張っていくような子だったらしい。本当にそうであるならば嬉しい限りだ。

さて、明日から本格的にプロジェクトが開始される。気合を入れていかなければ。

 

 




次は2話か。
多分1、2話で終わるかな。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。