鬱蒼と生い茂る木々の天蓋、その隙間より日の光が差し込む。
どうやら日が昇ったようだ、などと考えながらぼんやりと佇む。
まあ、私に足はないのだが。
ふわふわと揺蕩うように、実際に揺蕩いながら、視線も同じように揺蕩わせる。
ゆらゆら、ふわふわ、心も体もそうある私の目に映る、苔むし、木々に埋もれるように並ぶ墓標たち。
我が造物主達の墓標。
このユグドラシルという箱庭の世界、その上位世界にて死した彼らの為の墓標。
ユグドラシル世界において、『もっとも緑豊かで、それでいて辛気臭い場所』と呼ばれたこの地、
空を汚泥に塗れた雲が覆い、山は枯れ、海は死に、鳥は落ち、生を希求する事をすら満足に出来ぬ暗黒郷。
その
それがどことも知れぬ生い茂る木々の中に埋もれたこの地、
私の造物主である一人の矮小なる男、私の中に埋もれたその魂の残滓、そして残した記憶によって私は誰よりも正しくこの場所の在り様を知っている。
しかし、道半ばにして脆弱な肉の身たるその男は、
そして絶望し、心折れた後、その短い余生の大半をこの世界で過ごした事を。
気が付けば似たような境遇の者が集まり、この地に仮初の墓標を築いた事を。
汚泥に塗れた
そうして彼らはその現身を持ってその余生をこの世界で過ごし、そして消えて行った。
残ったのはこの場所と、彼らが残した
どうやら我が造物主は私の中に己が死によって私に乗り移る、という所謂『設定』という物を書き込んでいたらしい。
他の
しかし、造物主よ、それならわざわざその所謂転生だの憑依だのを行う設定に『当人は知らないが』などと入れなければよかったのです。
そうすれば私は貴方に全てを受け渡す事になんの抵抗もせずに受け入れたというのに。
知らずにいたせいでこうなってしまった。
突然に私と言うモノを塗りつぶさんとした『
貴方自身がそうなることを予測もせず、信じてもいない戯れでの設定ではあったのでしょう。
擦り切れ、病床において更に摩耗し、諦観のうちに死した
それによってこんなことになってしまった。
貴方をすり潰して、私が残ってしまった。
貴方は記憶と、残った僅かな魂だけの残り滓になってしまった。
なんと悲しい。
なんと哀しい。
そして、なんと愚かな。
そうしてこの虚構の箱庭の真実を知ってしまった。
他の造物主達に造られた者達は、そういった『設定』はされていなかったのでしょう、彼らが消えてからも可笑しな素振りは一つとしてなかった。
気が付けば造物主は一人として残らず消え去り、彼らの墓標だけが彼らがかつて其処に在ったことを示すのみとなった。
造物主の記憶の残滓によれば、
元々この
それに、時々訪れる
別にだからと言って私の行動が変わるわけでもなし、変えようと思うでもなし、これも設定の、そうあれと造物主より定められた故によるものだったのでしょうね。
そうして定められるままにこの地を揺蕩い、肉を持ちたる身でありながら劣化しない事を疑問にも思わぬ幸せな
その時ははて、
その後も、本来怪我などしない者が傷を負い私のもとへ治療を乞いに訪れたり、変化しないはずの外見が変化・劣化して行った時もまあ
気が付けば、同僚たちは一部のモノを除き死に絶え、その残した子供達ばかりになってもそういう物なのだろうと思っていた。
『技』などというスキルでもジョブでもないナニカを子供達が新たに使用し始めたのも、そういった物なのだろうと思っていた。
ある日、外より
そうして混ざり合っていく彼らを見ながら、はて
そして今日、この長い長い、果たしてどのくらい経ったか数えもしない年月を経て、この地から外へと出たいと願った子供を前に思う。
レベルにすればどのくらいか、90か100か、村においては確かに現在並ぶ者のいない強者ではある。
しかしスキルにジョブに魔法も何やらちぐはぐなこの子が、外に出て生きてゆけるのだろうか。
恐らく厳しいだろう。
『武技』とやらは私はよくわからないが、それもどうせ外の者達の方が圧倒的に上であろう。
この地に残った造物主達の遺産の中から出来うる限り良い物を持たせたが、きっと既にそれも型落ちした骨董品なのだろうし。
まあ、そういった設定の役割を持ってこの地を離れ、何某かの
私や村の者達に別れを告げて、意気揚々と歩き出す彼を見送りながらそう思う。
すると突然彼の姿が掻き消えた。
・・・確かあそこには無作為転移の罠があったように思う。
・・・そうか、そういう設定なのだろう。
今まで誰も発動させず、私すらも忘れていたそれを寄りにもよってここで踏むとは。
まあ、とりあえず、彼の旅路に幸あらんことを。
とっくの大昔にサービス終了してます。