時系列的には前の話で出たお披露目の場と、前話自体との間の話となります。
ナザリック地下大墳墓にて、新たなる盟に加わったオウル・アマルガム、そのお披露目を兼ねた宴が終り。
しもべ達はその熱が冷めないままに各々がそれぞれの場所で再度飲み明かさんと散って行く中、その主役ともいえる男は悪魔に連れられて地獄の一角に訪れていた。
「悪魔に地獄に連れてこられた、とか言ったら字面的には即死っぽいよないやホントに」
「ふふ、確かに。 ですが取って食おうなどと言うわけではありませんからご安心を」
そう呟くオウルにその悪魔、デミウルゴスが笑いながら応じる。
「何もご安心される要素がねえんだけど、意味深な笑いが怖いわ」
「何、イキツケノ店デ盃ヲマジエテハナス、ト言ウダケノ事ダ」
何とも言えない顔でぼやくオウルに、共に歩くコキュートスがそう声を掛ける。
「安心はしたが、背筋は寒くなったな」
「ム、スマヌナ」
「さて、着きましたよ。 どうぞお入りください」
そうして、オウルは二人に伴われその店へと足を踏み入れた。
その店、バーと呼ぶべきか、その中には既に客が何名か入っていた。
「って、闘技場で戦った面子ばかりじゃねえの。 何、俺ってここで死ぬの?」
「いやいや、ご冗談を」
「矛ヲ交エタ者同士デ、酒ヲ交エナガラ腹ヲ割ッテ話ヲスルノモ乙ナ物ダト思ッテナ」
「酔って迂闊な事喋ったら即死しそうな面子なんだが・・・そう言われちまうと断れねえな」
そう言ったやり取りを冗談めかして交わしつつ、三人は闘技場で戦った他の四人の元へと歩み寄って行った。
こうして挨拶もそこそこに『無礼講』と言う前置きでオウルとの盟約、そのお披露目が終った後の、矛を交えた上位者達との再度の会合、俗に言う二次会のような物が開始された。
最初の内は全員が同じテーブルに着き、オウルとの闘いについての検討を、対戦した互いが感じた様々な感想などを交わす固い話題から始まったものの、それも粗方終わると各々思い思いの話を始めた。
そして、それも一段落つくとそれぞれに好きに席を移動して個々の会話へと移って行った。
そうやって各々が別のテーブルやカウンターへと席を移すのを見送りながら、オウルはそうなった原因から逃げ遅れた事を後悔していた。
目の前には、
「こんのチビすけ、もう一遍言ってみなさいよコラァ!」
「何度だって言ってやるわよこのニセチチ!」
姦しく言い争う、オウルから見れば将来性は兎も角、どっちもどっちな貧乳チビ助が睨み合っていた。
まあ、そんな事を思いつつも決して口になど出せはしないとも考えていたが。
(あー、村のガキどもを思い出す。 しかし、俺からしたら実力的に微笑ましさが皆無)
喧嘩するほど仲が良いとは言うものの、その実力が自分よりも上では迂闊に間に入って巻き込まれるのも勘弁願いたいとげんなりしつつ、助けを求める様に店のカウンターに目を向ける。
そこに居る店長だかバーテンだと思しきキノコのような人物と視線が交わったような気がしつつも、顔がキノコな為に表情も何もわからない。
わからないなりに必死に視線で助けを求めるが、カウンターに着いているデミウルゴスに呼ばれたのかそちらへと行ってしまった。
その視線、顔の向きをこちらから外す直前に、
(だから女って奴はウザいんだ。
こういった店に似合うのはダンディな男であって、めんどくさい女なんかじゃない)
と、その全く変化がわからない顔に書いてあったように思えたのは、オウルの気のせいかはたまた自身の心境を投影した物であったのか。
「年中発情して頭ん中がピンク色だからコイツにボッコボコにやられたんでしょーが!」
「コレの鎧の効果に大はしゃぎして自分の階層めちゃくちゃにしたおバカに言われたくはないわ!」
「「何ですってぇ!?」」
(めんどくせえ、てか俺を出汁にして仲良くじゃれ合うのはいいけどよ・・・)
コイツだのコレだのと自分を差しながらぎゃーぎゃーと喚くシャルティアとアウラに、その扱いに文句を言う気にもならずにげんなりしながら、自身の経験からこのままではマズイと何か席を離れる理由を探すが。
「なにおう―――!?」
「あぁん? 吐いた唾は飲めんぞー!」
「「オウル!」」
(チクショウ! やっぱり来た!?)
予想通りに自分にお鉢が回って来てしまった。
それを予測しつつ逃げられなかった事に罵声を浴びせつつ、思わず口から出そうになった、
(ほんと仲良いなお前等・・・)
という内心のぼやきを飲み込みながら、諦めたように二人の話に巻き込まれていった。
(お前等との闘いの話は今日何度目だっつーのよ。
それぞれに俺にとっちゃお強い、格上、どちらが上などとてもとても、って持ち上げても納得しねーし。
なんでこう優劣を付けたがるかね。 『やりよう次第でひっくり返せる』もんだろうがよ)
はあ、マジ女ってめんどくせー、などとやはり口には出さずにため息を付く。
カウンターに居るキノコから同情交じりの視線を感じた様な気がしたオウルだった。
ようやく姦しいチビ共から解放された、と言ってもそれを口にしたら明日はないので出しはしないが、オウルは別のテーブルへと逃げる様にやって来た。
「疲れた・・・」
「あはは、お疲れ様です・・・」
「お二方のお相手、お疲れ様ですアマルガム様」
ぐったりとしたオウルをそう言って労ったのは、何時までも丁寧な言葉遣いを崩さない執事と先ほどまで自分絡んで来たおチビの片割れの妹・・・のような弟だった。
「オウルでいいって言わなかったっけか、チャンさんよ?」
「失礼致しました。 ではオウル様、と」
「サマもいらねーんですけどねえ、セバスさんよ」
「こればかりは職責から来る性分のようなものですので、ご容赦を」
セバスの何時までも崩れないその執事然とした言動と所作に、未だ先ほど逃げ出してきた先にて姦しく遣り合っているおチビの片方を見る。
ありんすありんす言ってたのが完全に崩れ去ってるあの残念なのと比べてこの差はなんなんだろうか。
(俺の知ってる執事と違うんだが。 いや、こっちが真っ当なそれなんだろうけどよ)
「まあまあ・・・あ、どうぞこちらへ」
益体もない事を考えていると、マーレがそう言って椅子を引いて席を勧めてくる。
「おう、態々悪ぃなマーレちゃ・・・君よ」
「あはは・・・呼び捨てでいいですよ」
そう礼を言って勧められるままに腰を下ろしつつ、出来た弟だなと思って再度先ほどまで居た場所を見る。
それに比べて、と再び益体もない考えに耽りそうになりつつ頭を振る。
そうしてセバスとマーレと話し始めたのだが、
「私などに『さん』付けでは困ります。
アインズ様へのそう言った話し方は、ご当人同士で了承なされているのですから私如きでは口を挟むような事は致しませんが―――」
「いやいやいや、据わりが悪いんだよなんか、セバス『さん』って呼ぶのがしっくりくるって言うの?
なんか俺の気分的にも語感というか語呂的にも」
「ああ、わかる気がします」
何かよくわからない話題で盛り上がっていた。
セバスが、やはり自分如きに敬称を付けて呼ばれるのは困ると、特にアインズに対しても同様の敬称を付けているのだから示しがつかないし恐れ多いと苦言を呈し、本来であればその言葉遣いに対しても大いに言う事があるのを目溢ししているのだから云々といった盛り上がると言うより、
「説教!? なんだこれお説教なのか!?」
「大体ですね、これから盟に加わるのですからこのナザリックの威を損なわない最低限の立ち居振る舞いは覚えて頂かねば、貴方をお認めになったアインズ様の品位が―――」
「うわあ・・・お説教だあ・・・」
いつの間にか小洒落たバーが説教部屋へと変貌していた。
助けを求めて無駄とは知りつつカウンターに目を向けるオウルの視界に、
(この店に似合うのはダンディな男とその雰囲気なんだ。
断じて場末の酒場で上司から説教をされて、項垂れるような情けない男じゃないんだ)
と、全く読めないその顔に書いてある様を幻視した。
(チクショウ! やっぱり執事ってのは鬼門なのか、ロイヤルクソ野郎!)
村に残された数々の解除不能の
それを仕掛けたという執事という名のクソッタレと言われる男に因んで、罠に嵌って愉快で不愉快な目にあった村の人間が口にするお決まりの台詞を内心で吐きつつ、脱出の糸口を探して視線を彷徨わせる。
ちなみに、その話を後に聞いたアインズが、
「『ゴーレムクラフトのクズ野郎』みたいなものか・・・」
と感慨と諦観を交えて深く呟いたとか呟かなかったとか。
兎にも角にも、説教を受けつつも、逃げ道を探していたオウルだったが、
(ってマーレの奴いつの間にか逃げてやがる!?)
先程まで同じテーブルに居た筈のマーレの姿を別テーブルに見つけ、その裏切りに愕然とする。
尤も、そこはシャルティアとアウラの居るテーブルなので、逃げたのではなく二人に捕まったと言った方が正しいのかもしれないが。
こうして暫くの間、見兼ねたデミウルゴスが救いの手を差し伸べるまで、その話は続いた。
「全く、セバス・・・職務に熱心なのはいいが程々にしておきたまえ」
そう切り出してオウルとセバスをカウンターに誘ったデミウルゴスだったが、
「チラチラこっち見ながら笑ってやがったじゃねえか、もっと早く助けて欲しかったんだが」
どうにも酒の肴にされていたような向きが感じられて素直に感謝できないオウルだった。
「ウム、言イタイ事ハワカラヌデモナイガ、ソレモ必要デハアッタトイウコトダ」
「俺の説教される姿をツマミに飲む事がか?」
互いに何かを腹に抱えたような会話を行うセバスとデミウルゴスを尻目に、そう言って話しかけて来るコキュートスにふて腐れたようにぼやく。
「ソウ腐ルナ。 アレモオマエノ事ヲ思エバコソダロウ。
実際ニ剣戟ヲ交エタ我々ヤ、アノ場ニ居合セタ者タチナラバ兎モ角、他ノ者タチに示シガツカヌノモ事実・・・ソノ
そんなオウルにそう言ってコキュートスは、彼にしては珍しく多くの言葉を紡ぐ。
我等上位のしもべ達はあの闘技場に居合わせ、そのやり取りの始終を見届けて多くの納得を得た。
特に矛を交えた自分達は各々その重みは違えどその辺りは弁えているが、場に居合わせたものの一部、そして居合わせなかった者の中には未だに人間がこの地をうろつく事に納得がいかない者もいるだろう。
まあ、その程度であれば釈然としないまでも収まりは付こうが、加えてその態度だ。
「尤モ、言ッタ所デオマエガソレヲ変エルヨウナ者デナイ事ハ既ニ理解シテイル」
そういう所も含めて御方はお前を買っているのであろうと言いつつ、それでも納得が出来ない者も残念ながら出る事だろう、とも。
それを踏まえて、角が立つことは避けられないまでも心構えだけは、そう思う者も居ると理解だけはさせておこうと考えたのだろうと。
「俺の心情を曲げたくなけりゃ、せめて心構えはしておけよってか?
全く、過保護なこった・・・精霊様を思い出すぜ」
そうぼやくオウルだったが、その顔は何処か面映ゆい物が漂った苦笑いだった。
「シカシ、ソウ考エルトコノ場ニ居ナイアルベドニハ、損ナ役回リヲ押シ付ケテシマッテイルナ」
「ん? あのおっかねえねーちゃんがなんだって?」
唐突に出た、オウルにとって現状最も警戒している女の名前に思わず怪訝な声が出る。
「イヤ、矛コソ交エテイナイガ、アルベドモコノ場ニ呼ボウト声ヲ掛ケタラシイノダガ、ナ」
何某か理由を付けて断られたらしいとの呟きに、アレが来てたら冗談抜きで命の危機だったわとそっと胸を撫で下ろすオウルの内心に気が付かないままコキュートスは続ける。
「恐ラク、守護者クラスノ者達ガ全テ馴レ合ウノハ良クナイト考エタノダロウ」
上位者が全てこうしてオウルを認めるような立場を取ってしまうと、下々の者の不満の捌け口が無くなり思わぬ暴発が起こるかもしれない。
それを守護者統括と言う立場の者がこうして距離を置く姿勢を取ることで、その捌け口として上手くその問題を処理しようとしているのだろう、と。
だからこそセバスも、そんなアルベドの口から直接言ってしまうと角が立ちすぎる部分を、言葉による忠告をする事にしたのだろうと。
そんな話を、何とも言えない微妙な気分で聞きつつ、ふと視線を他所に向けると、
(そうそう、ようやく『らしく』なってきたじゃあないか。
渋い男の会話、そういうんでいいんだよ、そういうので)
またしてもその無貌が目に入り、そこにおかしな感想を幻視してげんなりする。
そんな感じで何か釈然としない気分のまま話を聞いていると、
「やれやれ、コキュートス・・・君もか。 セバスにも言ったがそれは少々気を回し過ぎと言うものだよ」
突如、横から入って来たデミウルゴスの言葉によって中断された。
「ム・・・ソウナノカ?」
「そうだとも、我々が考えている事をアインズ様がお考えにならないはずがないだろう?」
終わらねえ、やっぱり大仰に長くなる気がして堪らない。
年末進行の前に一区切り行きたいのに(吐血)
二次会、まだ続きます。