東方怪獣録   作:怪獣好き

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灼熱の侵略者

ここは現代と幻想の境界にある博麗神社。その見た目はごく普通の神社。少し新しい感じがするのは最近建て直したからか。だが、なぜか屋根に設置されている太陽発電の装置にはとても違和感がある。

 ここにはよく人外が集まるためあまり人間の参拝客が来ないが、今日は珍しく二人の人間……もとい魔女と風祝がきていた。

 

「暑い、暑いぜ!」

 

 そう叫びつつアイスキャンディを咥えるのは普通の魔女こと霧雨魔理沙。いつもの暑苦しそうな魔女服ではなく、夏用のラフな服装である。

 

「うるさいわね、余計に暑くなるじゃない。」

 

 そう言いつつ扇風機で涼んでいるのは楽園の素敵な巫女こと博麗霊夢。

その扇風機に横から手が伸び、首の方向が変わる。

 

「でも、この暑さは異常です。このところ毎日気温は三十度後半ですよ。」

 

扇風機の首を自分のほうに向けたのは祀られる風の人間こと東風谷早苗。

もちろんすぐに扇風機の首は霊夢のほうにむけられる。さっきからこの二人は扇風機の取り合いをしているのだが、扇風機を首振りにするという発想はないのだろうか。

 

「たしかに、このところ起きている訳のわからない異変の中でも飛びきりの異変ね。」

 

 彼女の言うとおり、最近の幻想郷ではちょっとした異変が立て続けに起きている。まず、何者かによって幻想郷内外から結界に強く干渉されるという異変。この干渉はスキマ妖怪こと八雲紫や霊夢が出張る前に終わったが、一歩間違えれば博麗大結界の崩壊につながりかねず、幻想郷中が肝を冷やした。

 次に、幻想郷に迷い込む人間や妖怪が増加した。特に数ヶ月前に何か金属でできた建造物の一部が迷いの竹林の近くに落ちてきたのには幻想郷中の皆が驚いた。それは何か強力な酸で覆われており、内部には何人分もの半分溶けた死体があった。だが、その中にもまだ息がある者が5人ほどおり、すぐに永遠亭に運ばれて一命を取り留めたらしい。

 さらに、神隠しにあった人間の中に外に出られない人間が出始めるという異変も起こった。だが、そういった人間はなぜか身体能力が高かったり知識が豊富だったりするため、人間の里で長屋の一部を借りてそこに住み人里で働く者や、一部妖怪などに懐かれたりスカウトされたりした者などもあらわれ、なんとかなっているらしい。一部には人里に新しい風を吹き込んでくれたと感謝する者もいるが、紫や幻想郷の仕組みを知る者達はあまり人里には発展しすぎてほしくなく、しっかりと見張られているらしい。

 彼女らが涼む扇風機を動かすソーラーエネルギー発電装置も実は外の人間の協力によるもので、間欠泉地下センターで研究される核エネルギーなるものに対抗心を燃やした一部の河童達が、妙に科学技術に詳しいあの謎の建造物の生き残りを秘密裏にスカウトし、共同開発したのだ。

 話は少しそれたが、最近の異変で一番うっとおしいのがこの妙な暑さだろう。

 

「でもよ、いったい何がこの暖冬の原因なんだ?この一週間幻想郷中を飛び回っても分からなかったじゃないか。」

 

 そう、この異変は暖冬、しかも飛び切りの暖冬なのだ。秋が終わり、そろそろ寒くなるなと思っていたらじりじりと気温が上がり、とうとう三十五度を超えてしまった。しかも、夏なら夜になるといくらか涼しくなるが、この暖冬はそんなに親切ではなく、夜も容赦なく気温が上がっていく。それにより人里では冬なのに熱中症で倒れる人が出てきているらしい。

 この大迷惑な異変を、暇を持て余していた霊夢達が見過ごすわけがなく、競い合って解決に乗り出したが、どうも原因が分からないのだ。

 とりあえず、冬の妖怪であるレティが寝坊しているのだろうと思い霧の湖に行ったが、暑さにやられてぐったりとしてはいたがレティはちゃんと来ていた。次に、一緒にいた雪男を名乗る男を怪しんだが、必死に熱中症にかかった氷の妖精を看病する姿から、無害と判断しそこを去った。

 次に比那名居天子がまた天候を狂わせたかと天界に殴り込みをかけたがどうも違うらしい。

 ならば核エネルギーによるものかと霊烏路空を締め上げに地霊殿に行くが、地下のほうが涼しく関係がないことが分かった。

 その後も知り合いを片っ端から当たるがどうも関係ある者が見つからず、逆に早くこの異変を解決しろと文句を言われることもあった。そして手詰まりとなったため、とりあえず話し合おうではないかと早苗が提案し、二人はしぶしぶだが受け入れ、博麗神社に集まったのだ。

 

「私としては、温暖化という概念がこちらに流れ込んできたのかなと思います。」

「オンダンカ?」

「はい。外の問題で、簡単にいえば気温がジワジワと上がっていく現象でしてね、外で一時大問題になったんです。」

「ほー。外は大変なんだな。でも、それならこんなに急激に気温は上がらないんじゃないか?」

「むぅ、そう言われてみればそうですね。温暖化なんて何百年単位の問題ですし。」

「なによ、使えないわね。」

 

そう少女達が話し合いをていると、何者かが境内に入って生きた。

 

「あら、咲夜じゃない。珍しいわね。」

 

現れたのは紅魔館の完全で瀟洒な従者こと十六夜咲夜だった。どうやらさすがの咲夜もこの暑さにはまいっているようで、涼しい顔をしているものの、うっすらと汗をかいている。

 

「ええ。異変の解決をお嬢様に言い渡されたのだけど、どうも原因がはっきりしないのよ。だからあなたなら何か知っているかと思って。」

 

 詳しく話を聞いてみると、紅魔館内の気温はパチュリーの魔法である程度ましだが、妖精メイド達がダウンしてしまったらしい。元々役立たずとはいえ廊下にぐったりとされているのは目ざわりなので、なんとかしろと言われたという。妖精は自然が具現化したようなもの。かつて春が来ない異変が起こった時はそうでもなかったが、今回の異変は人間だけでなく妖精たちにも大きくダメージを与えたらしい。

 

「残念ね。あたしたちも手詰まりよ。」

 

霊夢はひらひらと手を振り、伝える情報なんかないと示した。まあ、万一持っていたとしてもただで教えるほどの親切さがこの巫女達にあるかどうかは疑問であるが。

 

「ん?咲夜。何持ってるんだ。」

 

ふと、魔理沙は咲夜のメイド服のポッケからのぞく紙を見つけた。

 

「文文○新聞よ。とりあえず何もヒントが無いよりましと思ったんだけど…眉唾なものばかりね。」

 

 部屋に上がり、机の上に新聞を広げる。ざっと記事が目に入るが、{恐怖!!巨大なモップの妖怪が幻想入り!?}{独占取材!緘口令が敷かれた賽の河原での紛争!?}と、どうも眉唾な内容である。

ぱらりぱらりと新聞をめくり続けるが、同じような記事が続く。

 

「そんなガセ新聞なんか…ちょっと、ストップ。」

 

霊夢は興味無さそうにそれを見ていたが、新聞のある部分を見たとき、何かをひらめいたようだ。

 

「なんだ?ただの天気予報の欄じゃないか。」

 

その欄には幻想郷各地の天気と気温が意外と事細かに記されている。どうやら、射命丸文は天気予報の欄をつけたらどうだという意見を反映したらしい。

すると霊夢は部屋の奥に行き、墨と筆を持ってきた。

 

「わかったのよ。この異変の発生源の場所が!」

 

そして、新聞の天気予報用に幻想郷の略図が載っている欄に筆を走らせた。

 

「まさか文文○新聞なんかにヒントが載っていたとはね。」

 

そして皆の方向に自信満々に新聞を突き付けた。

 

「見なさい。」

「おお。」

「これは…」

「こんなことに気がつかなかったなんて…」

 

 そう、霊夢は新聞に天気と一緒に乗っていた気温に注目したのだ。霊夢の手には、ある点を中心にほぼ等間隔で半円が描かれた新聞があった。そして、その半円の線上の場所はほぼ同じ気温なのだ。

 

「この点は…無縁塚ですね」

 

その半円は無縁塚付近を中心に広がっていた。そして、その点に近づくほど気温も上がっている。つまり、何かしらの異変の元がある可能性が高い。

 

「そうと判れば、一番乗りはあたしだぁ!」

 

異変の場所が分かればじっとしてはいられない。魔理沙は箒にまたがり、フルスピードで無縁塚の方向へ向かう。

 

「待ちなさい魔理沙!これは私の仕事よ!」

「いえいえ。霊夢さんは今回はお休みになっていてください!この異変は私が!」

 

その後ろから霊夢と早苗も競って飛び立つ。

咲夜も出遅れたと感じつつも、このままではレミリアに叱られてしまうと急いで無縁塚に向かう。

 

 

 ここは現と幻想の境界が最も薄く、結界のほころびがある幻想郷の中でも指折りの危険区域である無縁塚。そこに4人は降り立ったが、神社を出た時の勢いはすでに消え、暑さにやられへろへろである。

 

「そ、想像以上の暑さだ。」

 

 魔理沙は自慢の帽子で扇ぐが、熱い風が来るだけで涼しくもなんともない。

 早苗が持ってきた温度計を見ると、四十度を超えいた。

 

「はやく解決しましょうよ。これじゃあ私たちが先に参ってしまいます。」

 

 早苗も少しぐったりしている。霊夢や咲夜はすでに調べ始めているが、無縁仏と彼岸花が織りなす辛気臭い雰囲気と暑さなど感じていないような幽霊たち以外どうも目立ったものはない。

 

「…何もないわね。」

 

 霊夢は紫の桜の下にいる幽霊を締め上げているが特に新しい情報は得られないようだ。

 

「でも、ここが一番気温が高いってことは、熱気を操る程度の能力を持ったやつとかいてもよさそうだけどな。」

 

 無縁仏を調べている魔理沙と早苗。やはり幽霊や彼岸花以外に特に目につくものはない。

 

「ううぅ、なんだか、さらに暑くなってきていませんか?」

 

 調査している間も気温はじわじわと上がっているようで、もはや息をするのもつらいほどだ。

 

「みんな、これを見て。」

 

 そんな中、咲夜がなにか見つけたようだ。彼女は行き止まりの空間に指をさす。皆がそこに注目すると、なんだか空間が歪んでいるのが分かった。

 

「なんだ?蜃気楼か?」

「冥界につながろうとしているのかも…」

「あの歪み、だんだん大きくなってるわ。たぶん、あそこから熱気があふれてるんじゃないかしら。」

 

 そうと判れば話は早い。この歪みを正せば少しはましになるだろう。

 

「結界の綻びなら私に任せて、あんたたちは引っ込んでいなさい。」

 

 そう言うと、霊夢は結界を直し強化するための札を取りに戻ろうとする。だが、そんな悠長に構えている暇はないようだ。一気に歪みが大きくなり、気温も急激に上昇する。歪みの拡大を見た四人は各々の武器を構え、異変の元凶を待ち構えようとするが、あまりの熱気に目も開けていられなくなる。そして、元凶がいよいよ出てこようとしたときだった。

 

「きゃ!」

「うわぁ。」

「…ッ!」

「キャァ!」

 

四人の足元の空間が裂け、四人はどこかに落ちて行き、そして意識を失った。

 

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