冬だと言うのにまるで真夏の様な深夜の人里。その道を歩く一人の男がいた。
「~~~~♪」
その男はただの人間だった。やっと一日の仕事が終わり、鼻歌を歌いながら家に帰れば苦労して手に入れた妻と娘が待っている。そう言う普通の男だった。
「~~~~♪」
だからこそこの男に起こった事は理不尽だろう。悲劇だろう。
「……?あんた、だ」
ジュパ!!
ただ言える事は、この男は底なしに不幸だったということだ。
次の日、道端で肩から腰にかけて斜めに真っ二つになった死体が発見された。
さて、これから始まるのは親子の物語。いがみ合い、分かりあおうとしない二人が和解できるだろうか、それをこれから語ろう。
人里。普段は人が道を行き賑わうこの場所であるが、今はしんと静まり返っていた。無理もない。ここ数日葬式が立て続けに行われているのだ。
そして、人が集まれば、ここ数日起こっている連続通り魔事件の話で持ちきりとなる。
「これで何人目だ。」
「ああ。△△さんも可哀そうに。奥さんと娘さんを残して殺されちまうなんて。」
「まったく、人里はどうなっちまったんだ!」
「知ってるか。死体の断面はどんな刃物でもあんなにすっぱり行けないそうだ。」
「どうせ妖怪の仕業だろう……」
そんな話を聞きながら、道具屋香霖堂の主、森近霖之助は人里一番の大きさを誇る霧雨道具屋に来ていた。
「ごめんください。」
「いらっしゃい……ああ、霖之助さん。」
「やあ杉さん。親父さんはいるかい。」
「ああいるよ。さあ、上がって上がって。」
霖之助は杉という老人に連れられ、奥へ行く。奥の部屋では難しい顔をして壺とにらみ合う老けた男がいた。
「先生。霖之助さんが来ましたよ。」
「……む、霖之助。よく来たな。まあ座れ。マチ!霖之助が来たぞ。茶を用意してやれ」
「親父さん。お構いなく。ちょと用事があるだけでして。」
霖之助は座布団に座る。すると間をおかず初老の女性がお茶を持ってきた。
「ありがとう。マチさん。」
「いえいえ。それにしても珍しい。霖之助さんが来るなんて。」
「いえ、実は魔理沙の事でお話が……」
魔理沙、その言葉を聞き、先生と呼ばれた男の顔色が変わり、忌々しげな表情になる。
「その名を私の前で言うな。気分が悪くなる。」
「親父さん。」
「あの娘のことなら話は聞かんぞ。霖之助。」
「魔理沙が大怪我したとしてもですか。」
「……!」
その言葉に杉とマチの表情が変わる。
「霖之助さん。それは本当ですか!お嬢が大けがをしたなんて!」
「ええ。明日の新聞に載るかと思いますが、異変の解決に乗り出して解決と引き換えに大やけどと骨折をしたと聞きました。」
「先生、どうしましょう。お嬢様が大けがを……」
「ふん、下らん。」
「先生!」
「話はそれだけか。霖之助。あの娘とは縁を切ったのだ。怪我をしようとのたれ死のうと関係ない。」
忌々しげな表情を変えず、そう言い放つ霧雨。
「先生!それはあんまりじゃないですか。」
「ふん。話が終わったのなら帰れ。今、壺の鑑定で忙しいのだ。」
杉が諌めようとするが、そんな物を歯牙にもかけない霧雨。その様子に軽くため息を吐き、霖之助は懐に手を入れる。
「ハァ……もうひとつ用はあります。これを。」
そう言って懐から、小型の銃の様な者を取り出した
「何だそれは。」
「さあ。たぶん銃でしょう」
その言葉にあきれ顔となる霧雨。
「全く。またお前の収集癖が出たか。お前の能力があれば使い方くらいわかるのだろう。」
「ええ。これの使い方は至ってシンプルで、引き金を引くだけです。威力はここでは試せませんが、少なくとも岩や木などを紙きれのように飛ばす程度はあります。これを護身用にしてもらおうと思って。」
「護身用だと?」
「ええ、近頃は物騒ですから。昨日も一人殺されたらしいじゃないですか。」
「ああ。痛ましい話だ。で、これを私に持てと。」
「はい。」
「……ふん。お前に心配されるとは、私も年をとったな。」
「親父さん。僕はあなたに死んでほしくない。だからこれを携帯してください。」
「……いいだろう。ありがたく貰っておく。」
霧雨は、霖之助から銃を受け取った。この銃こそ、かつて科学特捜隊の天才イデ隊員が開発した対怪獣用の新兵器、スパーク8である。
「では、僕はこれで……」
「まて、お前も気をつけ……いや、心配は無用か。」
「ええ。親父さんも知っての通り、自分の身を守れるくらいには強いですから。では。」
そう言って、霖之助は霧雨道具屋を後にする。霖之助が帰った後、杉とマチが霧雨に詰めよった。
「先生。あまりにもお嬢に冷たくはありませんか。」
「そうです。仮にも、血を分けた……」
「黙れ!」
その言葉に二人の言葉が止まる。
「出ていけ。私は今忙しいのだ。」
「先生……」
「出ていけと言うのが分からんか!」
その言葉に二人はしぶしぶといった感じで部屋を出ていく。
そして誰もいなくなった部屋。そこで霧雨は鑑定していた壺を置くと戸棚に歩み寄る。そして、一枚の写真を見た。
「マリー……」
その写真には、魔理沙によく似た、というより瓜二つの女性が写っていた。
部屋の外では、杉とマチが魔理沙の見舞いのための準備をしていた。魔理沙が好きだったまんじゅうを風呂敷に包み、早く怪我が良くなると言われているお守りを準備した。そしていざ出発という所で呼び止められる。
「おい、杉、マチ。」
「せ、先生」
二人は、魔理沙の見舞いへ行くことを怒られるかと思った。だが、霧雨は、壺を投げてよこす。
「これは偽物だ。捨てて来い。」
「先生?」
その壺は少しは芸術に通じていれば一目でわかるほど美しく、見事な物だった。それを偽物呼ばわりするとは普段の霧雨からしてみればあり得ない。これはもしやと二人が考えていると、霧雨の怒声が響く。
「どうした、早く捨てて来い!」
「は、はい!」
そして二人は、永遠亭へと向かう。
永遠亭では、魔理沙と霊夢が暇そうにすごしていた。魔理沙は鈴仙に家から持ってきてもらった魔道書を眺め、霊夢は何をするでもなく、ただ魔理沙の横に座っていた。
「あ~暇だぜ。」
「そうね。」
「まったく、幻想郷を救ったヒーローをもっとみんな崇めてもいいとも思うんだがな。」
「ヒーローは自分をヒーローと呼ばないものよ。でも入院って暇ねぇ。」
暇と言いつつ、魔理沙は何度読んだかわからない魔道書のページをめくる。烏天狗も嵐のようにやってきて、嵐のように去って行った以降は来ないし、見舞客もなかなか来ない、まあ、幻想郷の住人がザンボラーを魔理沙が倒し大けがをしながらも倒したというのを知るのは、烏天狗の新聞が発行される明日以降の話なのだから仕方がないのだが。
そうこう言っていると、てゐがやってきた。
「魔理沙。面会だよ。」
「お、やっと魔理沙様を称える奴がき……た……」
魔理沙の言葉はそこで止まる。面会に来たのは魔理沙にとって懐かしい顔だった。
「お嬢!」
「お嬢様!」
「マチに杉じい!」
魔理沙は予想外の来訪者に驚愕していた。彼らとは、自分が家を飛び出して以来になる。
「この人たち誰よ。」
魔理沙にとっては重要人物でも。霊夢にとっては知らない人だ。霊夢は魔理沙に聞いた。
「あ、ああ。この二人は、私の、実家で世話になった人だぜ。」
「ふうん。」
二人は、霊夢を見ると、嬉しそうに話しかけてきた。
「ああ、博麗の巫女様。巫女様がお嬢とご友人なのは新聞で知っていましたが、本当だとは。」
「別に友達なんかじゃ……」
「いえいえ、お嬢様の怪我の後ずっと付き添っていると聞きました。お嬢様は立派なご友人を持たれて……」
「マチ、杉じい、恥ずかしいからやめてくれ。」
恥ずかしそうに魔理沙は顔を赤らめる。
「さあ、お嬢様、お嬢様が好きだったまんじゅうです。」
「お、マチ。ありがとうな。」
「あ、それ人里で一番人気のまんじゅうじゃない。私にもよこしなさい。」
「あ、大きいの取ったな!」
そう言いつつ、霊夢と魔理沙は競ってまんじゅうに手を伸ばす。そしてそれを微笑ましそうにマチと杉は見る。
「所で杉じい。その持ってるでかい立派な壺は何なんだ?」
「ああ、これは先生がお嬢にと……」
先生、その言葉を聞いた魔理沙は、甘いまんじゅうを口にしながらもまるで苦虫を噛んだかのような厳しい表情となる。
「……嘘だな。あの冷血漢が見舞い品なんて用意するはずないぜ。」
「お嬢。先生も心配しております。」
「それも嘘だ。あいつに人を心配するような立派な心がある筈ない。」
「お嬢、それは違います!先生はいつもお嬢の事を……」
「うるさい!」
そう魔理沙は怒鳴る。そして、それが足に響き、苦しむ。
「お、お嬢!お怪我が……」
「何ともない。それより、そんな物いらないぜ。」
「あら、もったいない。かなり立派な壺じゃない。」
「要るならやるよ、霊夢。仮にあいつからの見舞い品なら、一秒たりとも見たくないからな。」
「お嬢様!」
「マチ、杉じい。お見舞いは嬉しいよ。でも、私は家には帰らない。絶対に。まあ、あいつが土下座でもして見せれば考えなくもないぜ。」
「お嬢……」
「さあ、二人とも、見舞い品がこれだけなら帰ってくれ、今、あいつの話を聞いて気が立ってるんだ。」
「お嬢様、言わせていただきます。店の者は皆お嬢様がお帰りになることを望んでいます。異変解決なんて危険な事などやめて、実家に……」
「黙れ!私がしたいからやっているんだ。それをどうこう言われたくない。仮に私が帰る時はあいつが死んだ時だ。帰れ、帰れよ!」
そう言われ、しょんぼりして二人は部屋を出ていく。その様子を、霊夢は呆れかえった目で見ている。
「はぁ。」
「魔理沙、いいの?あんな立派な壺。」
「だからやるって言ってるだろ。まさかお前まで。」
「別に興味ないわ。ただね……」
「ただ?」
「親が死ぬのを望んじゃいけないわ。親のありがたさを死んでからわかるのは遅いのよ。」
「何だ、説教かよ。」
「別に、気にしなくてもいいわ。ただね、親が生きているだけありがたいものよ。」
「ふん。気分悪いぜ。」
それから数カ月が経った。やっと冬らしくなったと主思ったらもうすぐリリーホワイトが春を告げに来る季節である。魔理沙は退院し、少し不自由ながらも歩けるようになった。そして、アリスにもらった魔道書に書いてあった薬を作るため、家で怪しげな実験を行っていた。
そんな時だった。家の扉が激しくたたかれた。
「……?一体誰だ。」
ドアを上げると、行き切れをしている霖之助が立っていた。
「なんだ、香霖じゃないか。珍しいな。」
「魔理沙、落ち着いて聞いてくれ。」
「……なんだ、お前がそんなに慌てるなんて珍しい。」
「親父さんの事だ。」
「ああ、聞く気をなくしたぜ。帰ってくれ。」
魔理沙は扉を閉めようとする。だが、扉は霖之助によって掴まれている。
「魔理沙!」
「何だよ。まさかあいつが死んだわけじゃないだろ?」
「……」
「……何だよその嫌な間は。」
「魔理沙、昨日の夜、親父さんが通り魔に襲われた。今永遠亭で手術が行われている。」
昨晩のこと、霧雨は珍しい道具を買いに人里の長に会い、その帰り道だったという。最近の人里の夜は通り魔のせいで出歩く者などおらず、出歩くにしても護衛が必要だった。霧雨も例外ではなく、三人の屈強な男と共に帰り道を歩いていた。すると、道の向こうに怪しい影が立っていた。
それに気がついた時だった。護衛の一人が真っ二つに切られた。
その時霧雨が見たのは、人間ではない、妖怪でもこれほど醜悪な姿の化け物はいいないと言うほど恐ろしい姿だった。二人の護衛が剣を抜こうするが、、抜く前に真っ二つに切られ、霧雨も斜めに深く切り裂かれそうになり、実際半分切られたのだが、霖之助からもらったスパーク8を力を振り絞って発射し、寸での所で追い払う事には成功したという。
「……」
「はっきり言って手術の成功率は3割だそうだ。魔理沙、急いで……」
「ふん。あいつもやっと死ぬのか。」
「……」
「何だよ、その目は。私とあいつは関係ない。分かったら」
その瞬間、魔理沙は何が起こったかわからなかった。分かるのは、霖之助の手が動いた事と、自分の頬が痛むことだけであった。
「……君がそこまで親父さんを憎んでるとは知らなかった。じゃあ、僕は永遠亭へ行くからね。」
その目は何を語っているのだろうか、悲しみと落胆、怒りの入り混じった瞳だった。魔理沙は、去っていく霖之助の背を見ている事しかできなかった。
家に入ると、自分の叩かれた頬を触る。霖之助に殴られるなんて一体何年振りだろう。
「はは、なんだ、あいつも怒る事があるんだな。」
魔理沙は散らかった部屋を進む。そして、鍵のかかった箱を開ける。その中には……