東方怪獣録   作:怪獣好き

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子の心、親の心2

それから数日経過した。霖之助からのそっけない手紙で手術の一応の成功が伝えられた。だが、以前予断を許さないらしい。

その夜の事、永遠亭に忍び込む影があった。その影は霧雨の眠るベッドの近くまで来る。そして、影は霧雨に語り始めた。

 

「よう、あんた会うのは何年振りだ。」

「……」

 

霧雨は答えない。だが、影は語り続ける。

 

「別にあんたが死のうとどうも思わない。死んで清々する……はずなんだけどな。」

 

影は写真を取り出す。自分と、父親と霖之助が並んで撮った写真。

 

「何でだろうな。この写真、あの日から捨てよう捨てようと思っていて、捨てられないんだ。」

「……」

「それに最近よく眠れない。ご飯も酒もまずい。実験は失敗続きだ。全部、あんたのせいだ。」

「だから、早く目を覚ませよ。あんたがそんなんじゃ胸張って罵れないじゃないか。」

「なあ……」

 

 その時だった、部屋の外で動きがあった。

 影は慌てて窓から逃げる。そして、部屋には霖之助がやってきた。

 

「……親父さん。今のが、魔理沙の本音ですよ。」

 

 霧雨は、目を開く。そう、手術は大成功。目など始めから覚めていたのだ。だが、霖之助はあえて魔理沙の不安を仰ぐような手紙を出したのだ。

 

「……何のつもりだ、霖之助。」

「……僕はね、あなた達が見ていられないんですよ。」

「何?」

 

 霖之助の後ろから、マチと杉が顔を出す。

 

「先生。先生がお嬢の活躍を新聞で見ている時、それは嬉しそうにしておられるのを気がつかないんですか。」

「先生、マチは、夜中に懐かしそうに昔のアルバムを見ている事を知っています。」

「親父さん。僕はあなたが冷血漢でも無責任な男でもない事も知っています。だからこそ、あなたは皆に愛されている。」

「……」

「親父さん!」

 

 霖之助は珍しく声を荒げる。霖之助にとって、二人は家族のように大切なのだ。

 

「……ふ。」

 

霧雨は自傷気味に笑う、そして、重い口を開く。

 

「魔理沙の奴、見舞いに来やがった。あいつが出ていった日、あれだけ酷い事を言ったのにだ。」

「……」

「あの通り魔に切られた時、そして手術を受けるとき、俺の頭には二人の大切な存在の姿が見えた。」

「……」

「霖之助、俺が魔理沙を嫌ってると思うか。」

「いえ、思いません。」

「ああそうとも。あいつは目に入れても痛くない、俺にとって店よりも大切な宝だ。そして俺の妻、マリーの忘れ形見だ。どうして嫌えようか。」

「……」

「この間な、マリーが夢に出てきた。俺を罵り、殴り、蹴ってきたよ。なぜあの子を孤独にするのかとね。」

「……」

「だがな、俺は、どうしても魔理沙に、魔法使いにはなってほしくなかった。あんな、あんな……」

「親父さん。そこから先は、魔理沙に聞かせるべきです。」

「……そうだな。だが、昼間に会ってくれるだろうか。」

「何としてでも連れてきます。必ず。」

 

その次の日の事、魔理沙の家に霖之助とアリスはきていた。縄を持って。

 

「何なんだぜ香霖、それにアリスも。こんな朝っぱらから……ロープ?」

「魔理沙。何としてでも来てもらうよ。」

 

そう言うとアリスの人形達が縄で魔理沙を縛る。

 

「さあ、病院へ行くわよ。そこであなたのお父様に会うの。」

「……!死んでもごめんだぜ。」

「ああそう。でも、連れていくわ。」

 

 そう言って、魔理沙を無理やり永遠亭へと運び、父親の前に降ろす。そこには、マチと杉もいた。

 

「……」

「……」

 

 二人してにらみ合ったまま動かない。ピリピリする空気の中、アリスが口を開く。

 

「霧雨、何娘を睨んでるのよ、そんなんじゃマリーが浮かばれないわ。」

「……!アリス、こいつと知り合い?というか、何で母さんの名を?」

「どうするの?別に私から話してもいいけれど。」

「……いや、私が話す。」

 

 そう言って、霧雨は語りだした。

 

「魔理沙。」

「……あんたに名前を呼ばれるだけで鳥肌が立つぜ。」

「すまなかったな。あの日、勘当なんて言ってしまって。」

「……!何だよ、いきなり。」

「お前には話したい事が山ほどある。だが、今日はお前の母について、そして私がなぜ、お前が魔法使いになる事を否定したかについて話したい。」

「……私の……母さん。」

「そう、お前が生まれる4年ほど前だったか……」

 

「四年前、私は霧雨道具屋を継ぐため様々な道具……特に魔法に関連した道具についての研究をしていた。」

「……?でも今は魔法の道具なんて販売していないじゃないか。」

「お嬢。お嬢が生まれる前は普通に魔法道具を商っていました。」

「そう、その研究の中で、俺はある魔女に惚れた。その魔女の名はマリー。ちょうどお前のような金髪でな、美しく、優しく、変わりものだったが立派な人物だった。そして俺は彼女に愛の告白をし、マリーはそれを受けた。お互いに一目ぼれだったのだ。」

「……マリーは私の親友でもあったわ。私とマリーは私が人間だった頃からの付き合いだったの。ま、霧雨に惚れてからは惚気に付き合わされてうんざりしたけれどね。」

「先生と奥さまはそれは仲が良く、幸せな夫婦でしたよ。」

「だが、一つだけ問題があった。魔法使いは、子を為せないのだ。だが、私は後継ぎが欲しかったし、マリーも子供を作りたいと言っていた。」

「マリーは言ってたわ。彼と同じ時間を生きたい、赤ちゃんは自分が生きた証拠だと。それで彼女はとんでもない事をしたわ。」

「とんでもない事?」

「魔法使いをやめたの。捨虫の法をすて、人間として生きることを選んだのよ。マリーは。」

「そんな……」

「そして程なくしてマリーはお前を身ごもった。その時の喜びは、とても言い表せなかった。」

「先生ったらお嬢様用の食器を自分で作ろうとする始末でしたよ。」

「だが、その日からマリーの地獄が始まった。マリーの事を、魔法使いどもが虐めてきたんだよ。」

「そんな、なんで?」

「恐らくだが、魔法使いである事を捨て、人間になろうとした彼女は魔法使いの恥と映ったのだろう。とにかく、マリーは日に日に弱った。」

「霧雨道具店が魔法に関する道具を商うのをやめたのはこの時期です。先生は、少しでも魔法使いのいじめから奥さまとお嬢様を守ろうとしていらっしゃったのですよ。」

「そして決定的な事が起こった。とある魔法使いが、忌々しくも、子を産むと母体が死ぬという呪いをかけてきたのだ。」

 

その言葉を言う霧雨の目には怒りしか映っていなかった。

 

「その魔法使いは私が殺したわ。でも、呪の解除ほうも分からないまま時が過ぎていった。」

「俺は子供を堕胎させることを提案した。だが、それにマリーは怒り、そして泣いて懇願してきた。この子を産む事が、私が残せる唯一の物だと。おれは、マリーの命がけの懇願を受け入れた。その日は一日中泣いたよ。」

「そんな……母さん……」

「そしてお前が生まれ、マリーは死んだ。そして俺は決意したのだ。お前には魔法と全く関わらずに生きてもらおうと。だが、お前は魔法使いになりたいと言いだした。俺はそれだけは許せなかった。俺はアリス以外の魔法使い全員に憎悪を抱いている。魔法使いどもは傲慢で、恥知らずで、研究しか頭にない馬鹿どもだ。そんなのになってほしくなかった。」

「……なら、ならなんであの時それを言ってくれなかったんだ。」

「お前が魔法使いになりたいと言い出した時、俺の頭は真っ白になった。その時は冷静な判断ができなかったのだ。だから、お前に対して、勘当などと……」

 

その時の霧雨は目に涙を貯めていた。

 

「魔理沙、いまさら何を言っても遅いかもしれない。だが、言わせてくれ。すまなかった。このとおりだ。」

 

 霧雨は頭を下げた。深々と。ベッドの上でしかも大けがをしている体では土下座はできない。だが、それに迫る気迫の謝罪だった。

 

「……何だよ。もう、遅いよ。」

「ああ。」

「私はもう一人の魔女として活動してるんだぜ?」

「ああ。」

「私、あんたに死んでほしいと言うほどのバカ娘だぜ。」

「ああ。」

「でも、それでも……」

 

 魔理沙も泣いていた。整った顔を崩し、ボロボロと泣いていた。

 

「それでも、私の事を娘と言ってくれるのか?親父。」

「ああ!」

 

しばらく、すすり泣く声が病室に響く。霧雨、魔理沙、マチ、杉の泣き声が響いていた。

この日、一組の家族の絆が元に戻った……とはまだ言い難いが、きっかけはできた。後は時間をかけ、ゆっくりと修復されていくだろう。

 その姿を見て、霖之助は満足げな表情となった。霖之助もこの二人が仲たがいして深く心配していたのだ。

 これでやるべき事の1つは終わった、後は……

 そう思いつつ、霖之助は病室を去る。

 

 

とある墓場、そこには霧雨マリーと書かれた墓標があった。それにアリスはそっと花を手向ける。

 

「あなたの夫と娘、和解したわよ。よかったわね。」

 

 そう言いつつ、目を瞑る。すると、マリーの記憶が浮かんでくる。

 初めて会った時魔法使いになる指導を受けた事。

 霧雨に会った時の惚気。

 子供ができた事の報告。

 全てがいい思い出だ。もう一度、心の底から言う。

 

「よかったわね。マリー。」

 

 

魔理沙は一通り泣いた後、家に戻るついでに香霖堂へと向かった。いつの間にかいなくなった霖之助を探すためだ。そして、魔理沙は香霖堂の前で信じられない物を目にする。

あのめんどくさがりで優男風である霖之助が、刀を振るっていた。それも、鬼気迫る表情で見えないほどのスピードで。

 

「こ、香霖?」

「……ん、魔理沙か。どうしたんだい。」

「何してるんだ。いつもはインドアのお前が。」

「何、この頃体がなまっていてね、少し運動してたんだよ。」

「……嘘だな。あの振り方はただの運動じゃない。香霖、お前……」

「魔理沙。僕はね、霧雨の親父さんを傷つけた奴が許せないんだよ。」

「……」

「僕は半人半妖で世間から冷たい目で見られてた。そんな僕に商売の何たるかを教えてくれたのが親父さんだ。それに……」

「それに?」

「もしかしたら君と親父さんが和解せずに永遠に別れる所だったんだ。僕は決して通り魔を許さない。」

「香霖……」

「親父さんの話では、相手は妖怪、しかも二刀流らしい。だけど僕は剣士とは戦った事が無いんだ。どうしようか……」

「ふうむ、二刀流ね。なら、適役がいるぜ。」

「……そうか、妖夢は二刀流だったな。彼女と協力すれば。」

「ああ、そうと決まれば行動開始だぜ」

 

「私に稽古をつけてほしい……ですか。」

「はい。僕が通り魔を倒すために。」

「ふうむ。事情はわかりました。ですが、もっと手っ取り早い方法があります。」

「?」

「私と霖之助さんが同時に仕掛けるんです。私が二振りの剣を止めます。その隙をついてあなたが切りこむ。どうでしょうか。」

「そうか、同時攻撃って奴だな。なら、二人の空気を会わせなきゃな。」

「はい。ところで、霖之助さんはどのくらい強いんですか。」

「まあ、そこらへんの妖怪には負けないよ。」

「そうですか。ならば、勝負!」

 

妖夢は、いきなり霖之助に切りかかってくる。それを見た霖之助は眼を鋭くし、刀を抜く。そして、妖夢の連撃を裁いて見せた。

 

「ふむ、この強さなら特訓は要りませんね。」

「そうかい?そう言われるとうれしいね。」

「それでは、二人の空気を合わせる特訓をしたいと思います。覚悟はいいですか。」

「ああ。」

 

 そして二人の特訓は三日三晩続いた。その中で、お互いの呼吸、間合いを考え、相手を切る修行を行った。

 

「ふう、これくらいすれば大丈夫でしょう。後は相手の出方次第ですね。」

「ああ。そうだね。」

 

そして二人は、夜の人里を練り歩く。すると、目の前に怪しい影が出てきた。そして、その影は一瞬で間合いを詰め、霖之助を切り裂こうとする。だが、それを横から妖夢が止める。赤い眼光、トカゲのような姿。こいつこと、かつてウルトラマンレオを苦しめた快楽殺人の宇宙人、奇怪宇宙人ツルク星人であった。ツルク星人は一旦距離をとる。そして、二振りの刃を構え、襲いかかってくる。右の剣を右の刀で、左の剣を左の刀で受ける。その一瞬の隙を、霖之助は見逃さず、剣でその頭を切り落とした。多くの人間をただ殺してきた快楽殺人の常習犯はここに死んだのである。実にあっけなく。だが、凶悪犯罪者にとってはあっけない死のほうがお似合いだろう。

 

 こうして、霧雨と魔理沙の仲は一応元通りとなった。と言っても、魔理沙は一人暮らしを続け、偶に実家に顔を出す。そして杉やマチは魔理沙の内の掃除をするなど手のかかる孫にするような事をする。そういう風に落ち着いた。ちなみに、霧雨はうっかり孫が早く欲しいと言ってしまい、顔を真っ赤にした魔理沙に殴られしばらく入院が長引いたそうだ。

 なにはともあれ、一組の家族が元に戻りかけているのだ。めでたい、実にめでたいことである。

 

 




 ツルク星人が活躍してない……次回はもっと派手にしようかな。
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