地底に住まうはさとりのペット、火焔猫燐は機嫌が良かった。元々沈まない性格だが、それを踏まえたうえでも今日は機嫌の良い日だろう。今日は仕事兼趣味である死体集めで質の良い、愉快な死体を3体も手に入れる事が出来たのだ。この死体ならしばらく地霊殿に飾ってもいい感じだろう。と思いつつ死体をコレクションルームに入れようとする。だが、その瞬間お燐の心は天国から地獄に叩き落とされ、絶望した。今まで集めていた死体コレクションが一体も無いのだ。
「な、何でー!」
お燐は主人であるさとりの部屋に飛び込み、自分の死体が無くなった事を伝える。だが、さとりもガラスが割れるような音がした気がする以外は特に何も起こっていないように感じていたので、そのまま伝える。かなりしょんぼりした様子のお燐を見て、今日の餌は高級ツナ缶にしてあげようかと考えるさとりであった。
この紛失した死体、この死体が後にとんでもない異変を巻き起こすのだが、この時は誰もその事を知る由もない。
滝の裏の秘密基地、そこの大きめの鏡がある部屋で、木更津はいつもの作業着ではなく礼服で、ネクタイを締めつつ身だしなみを整えていた。それを見て、にとりや大田は不思議そうにしていた。
「木更津さん、今日は気合が入っているね、どうしたの?」
「ああ、今日は八雲紫とかいう大妖怪と会うらしい。」
「へえ、あの紫が人間に会うだなんてね。明日は御柱でも降るんじゃない?」
「おい、にとり。大田」
「ひゅい!な、なに?」
「これでどうだ。失礼にならないかな。」
「大丈夫です。かなり魅力的に見えますよ。」
「そうか?ならいいんだが。」
そう言って木更津は部屋を出て、八雲紫と約束した部屋に向かった。そこには空間に開いたスキマから多数の目がこちらを見ていた。かなり不気味である。だが、勇気を出してスキマに入っていく。しばらく浮遊感が木更津を襲い、出口へと出る。そこは純和室だった。そしてそこには木更津が人生の中で見た事がないほどの豪勢な御馳走が用意されていた。
「ようこそいらっしゃいました。木更津さん。どうぞお座りください。」
木更津は、示された場所に座る。
「ご招待ありがとうございます。紫さん。」
「いえ、幻想郷を影で救ってくれているあなたにお礼をするのは当然のことですわ。」
「いえいえ、実際に幻想郷を救っているのは霊夢さん達と部下達です。」
「まあ、お話は食事をしながらしましょうか。」
「ええ、そうですね。」
そして木更津は料理に箸を伸ばそうとする。だが、木更津はこういった高級料理になれておらず、作法など知りもしない。知らず知らずの内に失礼なことをしないかと戦々恐々だった。その様子を見た紫は木更津の緊張を間違えて捉えた。
「御心配しなくても、人肉など使っておりませんよ。」
「じんに……!」
その言葉に木更津は固まるが、今の緊張をほぐすための紫のジョークと無理やり思い気にしない事にする。そして料理に再び箸を伸ばし、食べる。
「味はどうですか?」
「美味しい。実においしいです。」
「それはよかった。私の式も喜びますわ。」
木更津は料理に次々と手を伸ばす。滝の裏の基地ではキュウリ料理ばかりだったので、久々に別の味が楽しめた。だが、やけに油揚げが使われているなという疑問が浮かぶ。
その後、他愛もない会話を二三交わし、料理をふさふさの狐の尻尾をした女性と猫の様な少女が片付け、話しは本題に入る。
「では木更津さん。本題に入りましょうか。」
「はい。私はあなたが今まで隙間に入れた宇宙船の動力部位が欲しいのですが。」
「わかりました。」
紫は庭にスキマを開き、メトロン星人とレイビーク星人の宇宙船を出現させた。両方ともかなりボロボロだが、原形は保っている
「おお、これが他の星の技術の結晶……」
「これの動力部でよかったですか?」
「はい、十分すぎます。これを本当にもらっても?」
「ええ。」
木更津は思わずガッツポーズをしてしまった。それくらい嬉しい事であった。木更津は、この宇宙船二隻を滝の裏の秘密基地に運んでくれるように紫に頼んだ。
「しかし、ここまでして頂いたのに、こちらは何も……」
「いえ、いつも怪獣の異変解決に協力してくれるお礼と思ってくれればいいのですよ。それに……」
「……?」
「あなたにはこれからやってもらう事が山ほどありますから。」
紫が最後に言った言葉の真意がつかめず、首をひねりつつ滝の裏の秘密基地に戻る木更津。まあいい、今考えるべき事は違う星のエンジンをどうマッキー3号に搭載するかだ。木更津は、明日には来るであろう宇宙船の事を思い、まるでクリスマスに玩具を待つ少年の様な心境だった。
次の日、宇宙船二隻が格納庫にスキマ経由で入ってきた。そして、それを好奇心の塊である河童たちが解体していく。無造作にではなく、木更津の指示の下ではあるが。そして動力の中枢部は未知であり、危険が伴うので木更津とその部下で慎重に解体していく。解体開始から何時間経っただろうか。やっとの思いで動力の中枢を取り出す。
次の問題はこの動力中枢をどうマッキー3号に積めるようにするかだ。木更津と大田達は部屋にこもり、不眠不休で動力の解析を行う。だが、木更津達全員が倒れ、にとりが永遠亭へ運ぶ事態になるまで頑張っても動力の解析は終わらなかった。結局木更津達は無理をするなと永琳に怒られ、適度に休みつつ解析を行い、三週間かけてやっとの思いで解析した。
さて、木更津達が人間の集中力の限界に挑戦していたころ、人里では不気味な事件が起こっていた。人里に身元不明の死体がばらまかれたのだ。ついこの間人を襲う花が咲いたと思ったら、今度は死体が人里中に転がっているのだ。人里の人間が受けたショックは大きいだろう。気味が悪いので人里の外に捨てて妖怪達に処理してもらおうかという人間もいたが、白蓮が、
「幾ら身元が分からない死体とはいえ、元は生きていた人間です。手厚く葬ってあげましょう。」
と言うので死体は命蓮寺に集められ、腐らないうちにお経をあげ、墓地に葬る手はずになった。
その夜の事であった。夜は妖怪が最も活動する時間だが、命蓮寺の妖怪達は白蓮に合わせ昼型なので皆眠っている。そんな命蓮寺の夜、蠢く影があった。月明かりに照らされ、障子に映る影。それに最初に気がついたのは二ッ岩マミゾウだった。マミゾウはそっと障子に近づくと、勢いよく障子を開ける。だが、そこには何もいなかった。
「……?なんじゃ、今のは。」
「ん~どうしたの?マミゾウ。」
ぬえも目を覚まし、眠気目を擦る。
「ふぅむ、何事も起こらなければいいのじゃがのぉ。」
「……?」
「ぬえ、目を覚ましておけ。何事か起るかも知れんぞ。」
マミゾウが警戒する中、影は死体に合わさった。すると、死体だった物が動き出したではないか。その死体はふらふらと動き、白蓮の眠る部屋へと歩いてゆく。そして白蓮の部屋に到達し、その中にぞろぞろと入っていく。そして白蓮の首に手を……その時だった。その手は掴まれ、大きく投げ飛ばされる。そして、白蓮は素早く起きると、肉体強化呪文を唱える。白蓮の特異な魔法は肉体強化だ。肉体を強化した白蓮に勝てるのは鬼などの一部に限られる。白蓮は、目の前の集団を睨む。
「何者ですか。」
だが、その集団はその言葉に反応せず、白蓮に襲いかかる。白蓮はその相手を吹き飛ばせ、かつ致命傷にならない程度の力を込めて突っ込んでくる集団を吹き飛ばす。その騒ぎを聞きつけ、マミゾウ、ぬえ、一輪、水蜜、星が集まってきて、白蓮に加勢する。時間にしてほんのⅠ分もせずに侵入者は全滅した。
「こいつら何なの?」
ぬえはその倒れている侵入者を触る。すると、その冷たさに驚く。
「わ!」
「どうした、ぬえ。」
「こ、こいつら、死んでる。」
「何ですって?」
一輪と水蜜も侵入者を確認したが、全員死体だった。しかも、よく見てみると今日運び込まれた死体ではないか。
「どういう事でしょう?」
「さあ……私の命を狙う何者かが死体を操る術を使ったとしか。」
「きっとあの道教の奴らの仕業だよ。奴ら、姐さんを殺そうとするなんて卑劣にもほどがある!」
「一輪、それは違うと思いますよ。豊郷耳神子は私と考え方は違えど、こんな卑劣なまねをするような人間ではなかったように思います。」
「聖、甘いよ。あいつらの仲間にはあの邪仙が居るんだよ。あいつならやりかねない。」
「とにかく、これは我々だけで解決するには事が大きくなりそうですね。ムラサ。」
「はい。」
「明日の朝一番に博麗神社に飛んでください。これはもしかしたら侵略者の罠かもしれません。」
「わかりました」
「姐さん、この死体はどうするの?」
「とりあえず、鍵を掛けてしまっておきましょう。」
そして次の日、霊夢とついでに魔理沙がやってきた。
「おはようございます。お待ちしていましたよ。」
「おはよう、白蓮。で、朝っぱらから私を呼び出して、何があったの?」
白蓮は昨晩の事を話した。
「……なるほどね。で、あんたは死体に殺されかけたと。」
「ええ。あれがただの死体なら、ですが。」
「ま、調べてみるわ。」
霊夢達は鍵のかかる倉庫に並べられた死体を見に行った。
「ずいぶんきれいな死体だな。」
「はい。目立った外傷もありませんし、調べてみましたが魔法の類は使われていませんでした。」
「ふぅん。」
霊夢はしばらく死体をいじくり、札を貼ったりした。
「特に呪詛的な物も感じないわ。ほんとに動いたの?」
「聖を疑う気?昨日たしかに動いていたんだ。」
「あんたの命を狙う奴らはほんの一握りよ。そいつらを締め上げれば白状すると思うけど……」
「どうしたんだ?霊夢。」
「いえ、私の勘が言ってるのよ。これは侵略者が起こした異変だってね。」
「侵略者……こないだのレイなんたら星人みたいな奴らの一味が起こしたってことか?」
「そう考えた方が自然だと思わない?術や魔法ではないとしたら科学、それも私達よりずっと進んだ科学を使わないと無理な事よ、これは。」
「ふぅむ、たしかにな。」
「とにかく、札を貼っておいて今夜まで待ちましょう。それでこれがどういう異変か見極められるわ。」
「そうだな。」
こうして霊夢達は夜まで待つことにした。
その夜、顔に札の貼られた死体の影が動き、倉庫の外に出る。そこに待ち構えていた少女達の弾幕が降り注ぐ。だが、後ろの倉庫が壊れただけで影は意に介した様子は無い。すると影は、白色の霧を発生させる。その霧を浴びた者はなぜかコップに入る程度の大きさに縮小されてしまった。そう、この霧こそミクロ化フォッグであり、この影の正体は、かつウルトラセブンをコップに閉じ込めると言う奇策を行った蘇生怪人シャドウマンなのだ。シャドウマンは命蓮時に運び込まれた死体を操り白蓮を殺そうとしたが、それは本命ではなかった。本命は、その異変を起こすことで出てくるであろう博麗の巫女を捕らえることだ。そしてシャドウマンは見事それを成し遂げてしまった。シャドウマン達の手の中には、博麗霊夢、霧雨魔理沙、聖白蓮があった。他の妖怪もミクロ化してしまったが、そんな有象無象に用は無い。例え攻撃してきても自分達に攻撃は全く効かないのだから。シャドウマン達は暴れる三人を抑えつけつつ、そのまま人里を通り抜け、ぼろい小屋に着く。そして、その地下にある自分達の宇宙船へと乗り込み、宇宙船を動かす。空に開いたひび割れに向かって。
その宇宙船の下部は円筒状のカプセルになっていて、その中に三人は閉じ込められていた。
「く、くそ!まさか宇宙人に連れ去られるなんて!」
「このまま幻想郷から連れ去られるのはごめんよ。魔理沙、マスタースパークでどうにかならない?」
「ああ、八卦炉は取り上げられちまったぜ。」
「なら、私が!」
白蓮は肉体強化の呪文を唱えると、力一杯カプセルを殴る。だが、びくともしない。このカプセルはかつてウルトラセブンも捕らえられたのだ。白蓮の力で割れないのも無理は無い。
これまでか、そう諦めかけた時、一陣の光が船を揺らす。
「きゃ!」
「な、なに?」
「見てください。赤い鳥が……」
そう、空を飛ぶ赤い翼が光線を発射したのだ。そう、この機体こそ、木更津が精魂込めて作り上げたマッキー三号である。
話しはシャドウマンに霊夢達が捕まった所までさかのぼる。滝の裏の秘密基地で木更津達はちょっとしたパーティーをしていた。ついに、マッキー三号に搭載できるエンジンが完成したのだ。
「やりましたね、主任!」
「ああ、ああ。」
木更津は思わず男泣きしていた。自分の長年の夢がここに実現するのだ。後は、テスト飛行をすればいいだけだ。無論、テストパイロットは木更津。このフライトで、この幻想郷に新たな希望を見せられるかもしれない。人は、魔法や能力がなくとも空を飛べるのだと。
だが、河童たちはこれが飛ぶというのに半信半疑だった。まあ、あの木更津があそこまで喜んでると言う事は飛ぶという事なのだろうが。
そこに、スキマが開き、八雲紫が現れる。
「木更津さん。」
「ああ、紫さん。見てください。私の、いや、私達の翼マッキー三号です。」
「それはおめでとうございます。ですが、緊急事態です。」
その真剣な表情に木更津も真剣な表情になる。
「どうされました。」
「いま、霊夢達が異星人に連れ去られようとしています。」
「何ですって!」
その言葉に木更津達は驚く。
「いま、私の力が何者かの力でジャミングされてあの宇宙船には使えません。お願いです、彼女達を、救ってください。」
「……わかりました。おい、お前ら!カタパルトから物をどけろ!」
「主任、まさかマッキーで出撃する気ですか?」
「もちろんだ。」
「そんな無茶だ!ミサイルだって積んでいないし、テスト飛行だって……」
「大丈夫だ!俺達はこれを作るためにどれだけ計算した。計算に計算を重ねて、今のこいつがある。もっと自分が作った物に自信を持て。」
「……わかりました」
そして、荷物などがどかされ、発進口が口を開く。
「いよいよか、頼むぞ。マッキー三号。」
「木更津さん。進路、オールグリーン。……ご武運を。」
「ああ。木更津、マッキー三号、出るぞ。」
滝の裏の秘密基地から、赤い特殊な合金の鳥が飛び立つ。それに、大田達、河童たちは歓声をあげて見送った。
「宇宙船め、この星から何一つ奪わせんぞ。」
マッキー三号は宇宙船の上をとると降下しつつレーザー光線でダメージを負わせる。宇宙船もミサイルやレーザーで応戦するが、それをギリギリで回避していく。そして宇宙船の下を見ると、カプセルの中に三つの影が確認できた。彼らか。どう助けようかと一瞬考え、カプセルと宇宙船の継ぎ目をレーザーで攻撃し、溶かしていく。そして、宇宙船が空の割れ目に入る寸前でカプセルを切り離すことに成功する。
シャドウマンの宇宙船には逃げられてしまったが、奴らの作戦をくじく事が出来た。基地に帰った時は河童たちからの歓声で耳が痛くなった。しかも、数人の記者天狗もおり、このマッキー三号についてじっくりと話をした。そして、ミクロ化してしまった者達はレイビーク星人の機械を応用して巨大化させた。
その次の日、木更津は墓参りに来ていた。最初にMACステーションが落ちてきた場所に作った墓である。
「ダン隊長。俺、空を飛べました。これからは、幻想のための翼として戦って行きたいと思っています」
「幻想郷を頼んだぞ、木更津。」
「……え?」
慌てて周りを見るが誰もいない。空耳だろうか。だが空耳でもいい。ダン隊長、遠くから見守ってください。
こうして死者の起こした異変は一応の終息を見せた。だが、皆さん、死体の扱いにはくれぐれもご注意を。もしかしたら、その死体はシャドウマンかもしれませんよ。