とりあえず、四人は河童たちに協力を仰ごうと山を下り、にとりがよく集まる滝に来た。途中、天狗などと戦闘になるかと思っていたが、天狗とはほとんど出会わず、たまに見かける妖怪たちの弾幕にも力が入っていなかった。どうやら頑丈な天狗達すらこの暑さにはまいっているようだ。まあ、平均気温四十度ともなれば当然かもしれない。
「よし、到着だ。おーい!にとり、いるかぁ?」
魔理沙が川に呼び掛けると、しばらく間があき、水面に妖怪弾頭こと河城にとりが顔を出した。その姿はいつもの青い服の上から白衣を羽織っている。イメチェンだろうか。
「おう、魔理沙じゃないか。どうしたんだい?」
「ああ、ちょっと頼みたいことがあってな。」
「ふぅん。まあ、外は暑いでしょ。後ろの三人も我らの秘密基地に招待しよう。ちょっと待っててね。」
にとりはそう言うと、川の真ん中に進み水中に潜った。しばらくすると、何か機械音が聞こえてくるのに咲夜は気がついた。
「なに?この音。」
音は滝の方向から響いてくるようだ。そして、わずかに地面も揺れている。彼女らが滝のほうを向くと、信じられないことが起こっていた。
「滝が、割れた?」
滝が滝壺近くで割れて入り口ができていた。どうやら、河童は滝裏を改造していたらしい。滝が割れるところなど初めて見た四人が唖然とする中、にとりは滝にできた入口から四人を呼ぶ。
「おーい、そんなとこにいないで、早く飛んできてよー!」
たしかに、口をあけていても仕方がないと、四人は入口へ飛んでいく。そして全員が入った後、にとりは急いで入口を閉めた。そして、しばらく薄暗い通路を進むと、金属製の扉があった。にとりは、首にかけた札をそばにあった箱に挿しこむ。すると、なぜか自動で扉が開いた。そして、にとりは自信満々に魔理沙らのほうを向く。
「さて、我ら河童の誇る秘密基地にようこそ!」
扉の向こうは全くの別世界だった。壁は金属製、天井には謎の光源が部屋を照らしていた。白衣を着た河童らしき妖怪が歩き、いろいろ話し合っている。なにより気温が全く違う。外より格段に涼しいのだ。
「すごく涼しいわ。外とは大違い。」
「ああ。まるで生き返るようだぜ。」
どうやら、何かのからくり……外でクーラーと呼ばれる機械で空気を冷やしてるらしい。
「へえ、河童はクーラーまで開発していたんですか。」
早苗も久々に感じるクーラーの涼しさに顔がゆるむ。
「うん。早苗の家にあったクーラーとか、あの謎の建造物を参考に大型空調システムを開発したんだ。」
「そういえば、あの残骸は河童が引き取ったんでしたよね。でも。進歩しすぎな気が…」
この早苗のこの言葉ももっともである。確かにこの内装なら外の世界の研究所と言われても疑問を感じないだろう。
「ふふん。我ら河童の技術に不可能はない…といっても、この基地はまだ奥のほうが建造途中だし、なにより木更津主任さんたちの協力あってこそだけどね。」
「キサラヅ?」
「ああ。あの建造物の中の生き残りの一人だよ。いやーあの人達はほんとにすごくてね、彼らが来てくれたおかげで河童の技術は50年は進んだよ。」
そう話すにとりの目は木更津という人に対する尊敬の念で輝いていた。その時、ふと霊夢は自分たちを外の世界に返せと言ってきたあの建築物の生き残りたちを思い出した。
あの建造物の生き残りもまた、なぜか外に出られなかった人間たちだ。彼らのうち比較的若い四人が博麗神社に来たが、その時の彼らは自分たちは何が何でも外に帰らなければならないと、ほかの出られなかった者たちよりも食い下がり、一時は一触即発の雰囲気となった。しかし霊夢自身、彼らが出られない理由が分からないためどうすることもできず、彼らは気落ちして帰って行った。
次にやってきたのは中背で鍛えられた体と知的な光がある目を持つ中年男性が来た。彼は若者の非礼を詫びに来たようで、菓子折りとソーラーパネルを持ってきた。確か彼の名が木更津だった気がする。
そうしゃべっているうちに、にとりの部屋と名札がかかった部屋についた。そして部屋の中に入ると、にとりはよく冷えた麦茶ときゅうりの砂糖漬けを出した。
「さて、魔理沙。今日はそんな大所帯でどうしたの?」
冷えた茶でのどを潤した後、にとりは切り出した。
「ああ、実はな…」
魔理沙は今の状況…この暖冬の原因が怪獣ザンボラーによるものだということ、ザンボラーは小山のような巨体と山火事を起こすほどの体温を持つこと。そして、こちら側に有効な攻撃手段がないことを説明した。
「なるほど、そのザンボラーっていう巨大生物がこの暖冬の原因か…」
「ああ、そいつがまた馬鹿みたいに熱くて近づけないんだ。だからさ、耐熱防火服ってのがあったらくれないか。」
「うーん…確かにあるけど。こっちだよ」
すると、試作室と札の掛かった部屋に向かった。
「たしか、ここに耐熱服があったはずだ。探してくるから、入ってこないでね。」
そう言うと、札…カードキーというらしい物を使い、部屋に入る。もちろん、そんな忠告など聞かない魔理沙は部屋に侵入しようとするが、一瞬で扉が閉まる。そこら辺のセキュリティはしっかりしているらしい。
「まったく、何やってんのよ魔理沙。」
「そんなこと言ったって、こんなお宝の山を目の前にして、何もしないんじゃ私の名がすたるぜ。」
そんなこんなで再び扉が開いた。
「おまたせ。」
しばらくして、二着の銀色の服……らしきものを運んできた。目の部分は褐色のガラスでできており、頭の先から手の指、つま先まで全てを覆う銀色のメタリックな物質でできている。正直、とても動きづらそうだし、かっこ悪い。
「これは私と木更津主任さんが共同開発した特製耐熱防護服。一応、山火事の中で作業するために開発したんだ。だから、断熱性、耐火性ともに天下一品だよ。」
「へえ、でも、山火事の中でなんてやることがあるの?」
「さあ。主任さんが言うには、レスキューっていう活動に必要になるかもだって。とにかく、理論上は山火事の中でも3600秒は大丈夫。」
「へえ、じゃあもらってくぜ。」
そう言い、魔理沙は受け取ろうとするが、にとりは待ったをかけた。
「待った。これの性能はあくまで理論上だし、まだ実験前だから絶対に安全だなんて言えないよ。それでもいいの?」
そう、にとりが言ったのはあくまでこの耐熱服の理論上の性能。実験はまだ行っていないらしい。実際に森を燃やすわけにはいかないから当然である。それに、いくら理論上の性能は良くても、実際に現場で役立つかは疑問が残る。にとりにしてみれば魔理沙とは友人だし、安全と言いきれないものを渡すのには抵抗がある。だが、魔理沙はそんなことは意にも介さず、
「じゃあ、これが第一回実験だ。それでいいだろ。」
という。断っても弾幕ごっことなりそうな雰囲気である。河童の技術の結晶がいっぱいある部屋の前でドンパチは危険だ。仕方なしに、にとりはある条件を出した。
「仕方ないなぁ。じゃあ、これを持っていくのなら、私たち研究チームもも連れて行ってよ。」
自分達が行けば、万一の事態が起きても対策ができるし、リアルタイムでデータが取れるだろうと考え、にとりは自分と数人の河童と実験機材を神社に持っていくことを条件とした。だが、その前ににとりは確認することがあった。
「ところでこの服、誰が着るの?」
これをだれが着るかである。着るときにスリーサイズなどがわからなければ、服がぶかぶかになったり、腕が短くなったりして、安全性がぐっと下がってしまう。
その言葉に、少女四人は顔を合わせた。
「私は無理ね。ナイフじゃあの巨体と皮膚に有効なダメージは与えられそうもないもの。」
「私も無理よ。お札なんで全部燃えちゃいそうだし。」
これを着るの咲夜と霊夢は辞退した。有効な攻撃方法がないのだから仕方がないが、実際のところはこんなかっこ悪くて暑苦しそうな服は着たくないというのもあるだろう。
「じゃあ、私と早苗が着ることになるな。」
「はい。絶対に倒してみせます!」
それに対しもう二人は乗り気だ。片方は新しい物好きの好奇心を満たすためで、片方はまるで外の世界での恨みを晴らさんという意気込みからのようだ。
「分かった。じゃあ二人とも、体のサイズを測るからこっちに来て。」
そして河童による身体測定は終わった。そのあと、機材の持ち込みと耐熱服のサイズ直しのために明日までかかると言われたため、とりあえず明日、この時間に矢守神社に集合とし解散した。
「諏訪子様、加奈子様ただいま戻りました。」
早苗は解散した後すぐ神社に戻っていた。しかし、河童との話し合いは思いのほか長く続いたようで、すでに二人…いや、二柱の神は帰ってきているようだ。
「お帰り、早苗。」
「お帰りー」
二つの目のようなものがついた帽子が特徴的な少女のような見た目のミシャクジ様である洩矢諏訪子と、グラマスな姿に威圧感満載の元風の神様な山の神様、八坂神奈子。二人はかつて諏訪大戦で戦った敵同士だが、今は机を囲み夕食を待っている。そう思えば中々シュールな光景だろう。
二人とも、伊達に早苗と家族のように住んではいないようで、早苗の異常にすぐに気づいた。
「どうしたの、遅かったじゃないか早苗。」
「なんだか顔も青いし…もしかしたら、あの巫女になんかされたのか?」
「いえ…実は……」
早苗は事情を説明した。すると、二柱の雰囲気が一変する。
「怪獣…だと。」
神奈子は威圧感の中にも温和な感じがしていたのが消え、すさまじい殺気をまとい、
「へえ、ここにまで来たのかい。」
諏訪子は幼い感じが消え、黒いオーラをまとう。
「いいだろう、あの時の借り、返してもらおうか!」
「外じゃ辛酸をなめさせられたけど、ここでなら…」
二神とも何か怪獣に恨みがあるようだ。立ちあがり、無縁塚へ向かおうとする。
だが、それを早苗は止める。
「待ってください。これは、私にやらせてください。」
それに、二神は驚いた顔をする。
「…!早苗、何を言うんだい?ここは私たちに任せな。」
「そうだよ、確かに早苗が気持もわかるけどさ、さすがに危険だ。妖怪とはわけが違うんだよ。」
今度は二神が必死で早苗を止める。早苗はこの神社の大切な風祝であり、家族だ。死んでもらっては困る。
「いえ、やらせてください!私は……私は、父と母の仇が打ちたいんです!」
「早苗……」
なぜ早苗が怪獣に恐怖していたのかというと、かつて外にいたときに起こった悲劇が原因なのだ。
かつて早苗たちは外の世界にいた。そして、もちろんのことだが早苗には父も母もいた。二人とも神は見えずとも自らが祭る神々に対する信仰は厚く、神が見えると言う早苗を気味悪く思わずに大切に育ててくれた。早苗にとっても、二柱の神にとっても誇れる人間だった。
だが、二人の人生の終わりはあっけないものだった。
外の世界での怪獣による被害は、防衛チームによる活躍で確かに少なくなってきている。だが、それでも怪獣の出現は突然であり、その猛威は凄まじい勢いで人の命を消す。
早苗の住んでいた所に出現したのは百足怪獣ムカデンダー。その強靭な生命力でタロウやメビウスを苦しめた怪獣であるが、まだ別個体がいたようで、次々と家を踏みつぶし、炎で焼き払った。その足元で早苗たちは逃げ遅れてしまったのだ。早苗らは何とか逃げようとするが、早苗の両親は家の下敷きになってしまった。早苗の目の前で……
その姿を早苗は忘れられない。忘れられるような記憶ではない。それから、早苗は怪獣に対する憎しみと恐怖を心に宿していた。
もちろん、二神はその早苗の心を知っている。それでも、だからこそ止めようとする。
「ダメだ。早苗、おまえが戦おうとする理由は憎しみだろう。」
「……!それが…いけませんか!?」
「いけないね。憎しみで戦う人間は簡単に命を落とす。そんな心構えのやつを戦場にだなんて…」
「あなたたちに…神奈子様たちに私の憎しみはわからない!」
ダン!……と机をたたき、自分の部屋に向かう早苗。
「ま、待ちなよ早苗!」
諏訪子の言葉も今の早苗には届かない。早苗はわずかに振り替えり、河童達との話し合いで決まったことを伝える。
「明日、河童達が機材を持ってきます。あと、霊夢さん達4人も来るので、その間はどっかに行っていてください。では。」
そういうと、部屋に入って行った。すぐに諏訪子が扉を開けようとするが、内側から強力な封印がされているようでびくともしない。
「早苗……」
「諏訪子、今はそっとしておいてやろう。」
二神は不安げな表情でそのドアを見つめる。
次の日の昼、まず矢守神社に着いたのは機材を持った河童たちだった。だが、水生の河童にとってはこの暑さは拷問のようなもの。すでにフラフラで今にも死にそうだ。それを出迎えたのは神奈子。どうやら、昨晩から早苗は部屋を出ていないようだ。とりあえず水を与え、落ち着かせる。
「どう……も。滝…裏の…河童……です。早苗…さん…は…いますか……。」
「ああ。いるが……お前達大丈夫か?早苗!河童たちだぞぉ。」
そう神奈子いうと、前日から開けられなかった扉が開き、早苗が顔を出す。
「あ、河童さん達お疲れ様です。こちらにどうぞ。」
早苗は河童たちを居間に通す。そこには、すでに無縁塚への隙間があいていた。
その周りに河童たちは機材を置いていく。
「ふわぁ……居間では少し狭かったですかね。」
「ま…まあ、足り…なければ…外まで…ケーブルを……延ばすまでです。」
河童達はつらそうにフラフラしているが手際は良く、ソーラーパネルや何やら無縁塚の地図が映った液晶機械。他にも、何に使うのかわからない機器がズラリと並べた。
「あれ、ニトリさんはどこに?」
「ああ…サイズ…合わせや、木更津……さんとの…話し合いを…していました。でも、すぐに…
来るはず…ですよ。」
そう話してる間に、石段を数人上ってきた。
「あら、ニトリさんと…あの人は?」
「あ…あの人が…木更津さんです。」
階段を上ってきたのは薄汚れた作業着を着た男たちと、暑さでげんなりしたニトリだった。
ニトリの隣には、男たちの中で小柄ながら一番の存在感を放つ男がいた。
「おぅい、早苗。来たよー。」
「お待ちしてました。ええっと、隣の人が…」
「初めまして。木更津三四郎と申します。気軽に木更津と呼んでください。」
どうやら、この人が河童の技術革新の中心人物のようだ。なんだか優しそうな人のような雰囲気がする。だが、こう言っては何だがなぜ来たのだろうか。
そして、木更津は男たちに声をかける。温和な表情は引き締まり、目には炎が宿る。
「おう!!お前ら!ボーっとしてねえで河童のみんなを手伝わねえかぁ!!!」
その一声の下、男たちは作業中の河童達のほうへ向かうい、木更津自身も作業に入る。だがその大声に思わず早苗は耳をふさいでしまった。
「やっぱり驚いた?早苗。」
「え…ええ。」
「私も、今でも普段のあの優しい木更津さんと鬼の木更津さんのギャップに驚かされるよ。」
だが、いったい木更津は外で何をしていたのだろうか。早苗の胸にそういう疑問が浮かんだ。
早苗は気づかなかったが、木更津はぼそりとつぶやいていた。
「しかし……怪獣か。まさかここでもやつらと戦うことになるとは……人生はわからんな。」
その作業着の胸には、三つのアルファベットが刺繍されていた。
しばらくニトリと話をしていると、空から三つの影が降りてきた。どうやら、三人が来たようだ。
「あれ、皆さん早いですね。」
「ま、神社にいても暑いだけだしね。暇つぶしに来たのよ。」
「お嬢様にせかされてしまって…」
「早くあのスーツを着たかったんだよ。」
三者三様の答えが返ってきた。まあ、三人らしいと言えばらしい答えである。
「じゃあ、早苗に魔理沙。実際に着てみようか。」
ニトリの言葉にうなづき、二人は早苗の部屋に向かう。…はずだったが、魔理沙は廊下や外まではみ出す機器に興味があるようだ。河童にあれこれ聞いている。
「ま…魔理沙さん…」
早苗はその様子を見て少し飽きれている。本当に戦って勝つ気があるのだろうかとも思うが、いつも道理の振る舞いでで少し安心でもある。
早苗は駄々をこねる魔理沙を引きずり部屋に入る。そして、何もすることがなく、河童達が並べる機械を見ている二人に木更津が近づく。手には、1つの突起物の付いた何か四角い箱のようなものを持っている。
「お久しぶりです。霊夢さん。」
「あら、たしか木更津さんだったっけ?」
「はい。ええと、お隣の方は…」
「初めまして、十六夜咲夜と申します。」
「ああ、咲夜さんですか。実は、お二人にも手伝っていただこうと思いまして。」
「手伝う?言っておくけど、私たちは機械はからきしよ。」
「いえ、実はこれを。」
そう言うと、手に持っている箱の突起物を動かす。すると、彼の後ろからキュルキュルと音を立て、なにかが近づいてきた。
大きさは膝ぐらいまでの高さと三尺くらいの全長のある小型の車だった。どうやら、木更津の持つ箱に付いた棒によって動いているようだが、どういう理屈かは見当もつかない。
「これは私たちが開発した小型偵察車マッカー。このレンズのところで捉えた画像を送るだけでなく、温度、湿度などをリアルタイムに発信してくれる。それだけじゃない。気休め程度だけどレーザーも搭載しているから牽制もできる。」
「へえ、{はいてく}とかいうやつですね。」
「本当なら我らが動かしたいのですが、私たちは機器につきっきりでないといけないので、お二人に動か していただけたらなと。」
どうやら、二人にこのサポートメカの操縦を頼みたいらしい。
「ふぅん…面白そうね。あいつらの姿を眺めてるだけよりかはいいか。」
「まあ、何もやらず帰ったら怒られそうですしね。」
二人も乗り気のようで、木更津から手渡された{こんとろーらー}とか言うのをいじくる。
「うおお!マッカーが襲ってきたぁ!」
「機材は死守しろ!一つ一つが河童の技術の粋だぞ!」
「し、試運転なら向こうでやってくれぇ!」
向こうのほうで、河童達がワーワー言っているが気にせずいじくる。
そうしていると、早苗の部屋ら二人が出てきた…出てきたのだが、
「プ…くく…なに、その格好。」
二人はまるで箱人間のようになっていた。頭、胴は完全に銀色の箱で背についている箱がかなり重そうである。そして腕と脚はなんだかぶかぶかな筒になっており、手と足が一番まともだが、かなり分厚い。
見ためは恐ろしく暑苦しく不格好である。
「い、息苦しくて暑苦しくて重い…何とかしてくれ。」
「おう、悪いね。ちょっと待ってね。」
そう言うと、ニトリは手に持ったリモコンをいじる。すると……
「おお、涼しい。」
「その背中のは伊達に重くて大きいんじゃないよ。それにはクーラーや換気浄化機能がある。そのかわり、空は飛びにくいから、スピードは生かせない。地上から目や背びれみたいなところ、
腹など柔らかそうな所を狙うんだ。」
「げ、飛べないのかよ。」
「うん。第一、木が自然発火しているのに箒なんて…燃え上がるよ。」
「むむ…やっぱり断ったほうがよかったかな?」
「もう遅いですよ、さ、行く準備は整いました。行きましょう。」
「待った待った。まだ微調整をしないと。霊夢と咲夜は先にマッカーを使っててよ。」
「分かったわ。」
そして、最初にマッカーが出発した。そのマッカーから送られる映像や温度のデータを調べ、怪獣の
大体の位置を把握するのだ。
マッカーが送ってくる映像は、地獄と化した無縁塚だった。もはや彼岸花はすべて燃え尽き、地面はからからに乾き、空は雲で覆われ、点々と生えていた木はほとんど立った炭の柱となっている。
その光景を見て、これが本当に現の光景かとみな言葉を失った。
そして、気温データも送信されてきた。どうやら、紫のはった結界を何とか破って幻想郷に侵入しようとしているらしく、巨大な熱源が無縁塚に張られた円状の結界に沿って移動している。
「ううむ…平均気温330℃最も高い点で700℃。文献よりははるかに低いが、
かなりの脅威ですね。」
気温を見ていた河童が報告する。
「ううぅ…魔理沙、大丈夫?死なないでね?」
ニトリは急に不安になってきた。魔理沙は確かに人間としてはかなり強いほうだろうし、旧地獄にまで行ったこともあるある意味超人だ。だが、今回の異変は今までとは違い、行動がかなり制限される。しかも、弾幕ごっこと違い、下手をすれば死ぬかもしれない。
「大丈夫さ。この魔理沙様を信じろっての。」
しかし、魔理沙は自信ありげに言う。実は、幻想郷有数の火力を誇る八卦炉が使えなければさすがにまずいと、香林堂で耐熱性に改造してもらったのだ。最大火力は山を消し飛ばすほどの威力。さすがにその出力のマスタースパークを放てば自分もただでは済まないかもしれないが、最大出力で打たなければいいだけのこと……と魔理沙は考えている。
「じゃあ、早苗は大丈夫?」
「ええ。当たり前です。」
早苗もまた、戦闘準備は万端のようだ。
いよいよ出発の準備が整い、スキマから無縁塚へ向かおうとしたとき、そこに神奈子と諏訪子ががやってきた。
「早苗…聞け。」
「………」
「お前がそこまでいうなら戦うのは認めよう。」
「……!」
「ただ、これだけは心にとどめておいてよ。憎しみは戦う力にはなる。でも、冷静さを殺す両刃の剣だってことをね。」
「……わかっています。」
「ならいいんだが…」
二神は不安そうだが引きさがる。
そして、二人は無縁塚へはいって行った。