これは冬の物語。伝説と妖怪と妖精の物語。親の魂は、妖精に何を見る。
ここは外の世界の教会。そこではある結婚式が執り行われていた。
式場に集まった若い人々は口々に新郎新婦を祝福する。
「おめでとう!!お二人さん。」「おめでとー」「幸せになれよ。」「おめでとさん。」
「ありがとう。必ず幸せになるよ。なぁ、小雪。」
「ええ。もちろんよ。」
新郎が新婦の肩を抱き、新婦は柔らかに笑う。
彼女は幼少のころ飯田峠という場所で父を亡くし、祖父に身を引きとられた。
渡る世間に鬼はなしとはよく言ったもので、彼女は優しい祖父祖母と友人に支えられ、立派な女性として結婚式を迎えるまでになった。
実は、この結婚式を見ているのは新郎新婦の親戚や友人だけではない。結婚式に浮かれ、
だれ一人気が付いていないが、空に極極薄く映る巨大な存在があった。
その顔は一見恐ろしく、体中が白く太い毛でおおわれている。そう、かつて飯田峠に出現した伝説怪獣ウーである。その表情は柔らかく、結婚式を優しく見守っている。
(小雪。立派になったな。)
この怪獣ウーの正体は、この結婚式の新婦である小雪の父である良平であり、
かつて飯田峠で氷超獣アイスロンに殺された彼が娘を守るため変化したものだ。
そして、アイスロンがエースに倒された後、彼は小雪の守護霊ならぬ守護怪獣として見守ってきたのだ。
(あの男は誠実でいい青年だ。きっと前を幸せにするだろう。)
良平は守護霊ならぬ守護怪獣として、新郎の身辺調査をしたが、資産と人格に問題はなく、
この男ならおそらく幸せな家庭を作るであろうと思い、安心して娘を託した。
だが、その姿はどんどん薄まりつつある。
ウーは雪山の怪獣。しかも、飯田峠に眠る親達の力を借りてこの世に存在しているにすぎない。だから、飯田峠から離れ、しかも一年中存在して娘を見守っていたため、体を保つためのエネルギーが尽きかけているのだ。
娘を思う一心でこの世にとどまっていたが、それも限界のようだ。
(もう…お父さん、限界みたいだ。でも、お父さんは…いつまでも…お前…を…)
そして、完全に空から消滅した。
その時、小雪の目からなぜか涙が流れた。
「…どうした?小雪。」
「いえ…何でもない。ただ……お父さんの声が聞こえた気がして……」
「良平さんか…そうだな。きっと、この空から見守っているさ。」
「…ええ、きっと。」
こうして、現実世界からウーは姿を消した。
だが、実はウーは消滅したのではない。この後、幻想郷に姿を見せることとなる。
ここは幻想郷の霧の湖。そこを氷の妖精であるチルノが飛んでいた。
その日の湖は特に霧が深く、ほとんど前が見えなかった。
「まったく、霧が深いと羽や服に霜がついちゃう。」
文句を言いつつ霧の湖をパトロールしているつもりで飛んでいる。ここは彼女のテリトリーなのだ。
そんな中、彼女の眼の前が急に暗くなった。
「あれ、こんな所に紅魔館ってあったっけ?」
どうやら、何か巨大な物の影のようだ。チルノは紅魔館かと思ったが、
見上げると巨大な人型である。
「う…うおーーー!」
チルノはひどく驚いた。ここまで巨大な人間がこの幻想郷にいただろうか。
「もしかして、今度こそ本物のダイダラボッチかも!」
チルノは目を輝かせ巨体のほうへ向かう。だが、その影はすぅっと消えてしまった。
「ま、まてぇー!」
チルノとしては、少し前に森の人形遣いが作った巨大な人形とダイダラボッチを
見間違えてしまったので、今度こそ捕まえて倒してやりたいのだ。
この少し後、森の中に倒れた一人の男がいた。まるで雪山にいたかのような厚い服装で、
猟銃がそのそばに転がっている。
「う…ここは?」
男は目を覚まし、周りを見回す。が、見渡す限り木、木、木と木ばかりで、なぜか森の中にいる。
しかも、なぜか自分の猟銃が転がっている。
「ここは、あの世なのか?俺はどうなったんだ?」
男はとりあえず立ち上がった。そして、自分の体を見渡す。
「服も怪獣になった時もままだ…どうなっている?」
ふと、耳をすませると遠くから少女の声が聞こえてきた。
「ダイダラボッチめ、まて~~!」
その少女…チルノは、良平になど目もくれず飛んでいった。
「何だ今の飛んでいった少女は…ん、飛んで?」
そう、少女は低空飛行だったが、確かに宙を飛んでいたのだ。何か、透き通った羽が生えていたかのようにも見えた。
「馬鹿な、女の子が宙を飛ぶハズはない。見間違いだろう。」
良平の常識の範疇では考えられない姿をした少女。良平は、見間違いということで処理した。
「しかし、じっとしていても始まらんな。」
そういうと、良平はチルノが飛んでいった方とは逆に歩き始めた。しばらく歩くと広大な湖が広がっている場所に着いた。
「おお、これは素晴らしい湖だ。」
とりあえず、水場は確保した。つぎは誰か人のいる場所にと考えたが、そこである問題に気がついた。
「そうだ。俺は……もう人間ではなかったな。」
そう、自分は今は人の姿をしているとはいえ、すでに死んで怪獣となった身。なので人里からは離れたところに暮らしたほうがいいだろう。そう考えた良平はふたたび考えにふけった。
その結果、山へ行こうという結果にたどり着いた。山になら山小屋があるかもしれないし、食糧にも困らない。というより、食事する必要は死人的に考てないだろうと考えた良平は、山へと向かい歩みを進めた。
森はすっかり紅葉し、秋の雰囲気漂う道を歩く良平。川に沿って山へと向かう同中、妖精や妖怪からの攻撃は奇跡的に受けなかった。そして、何事もなく妖怪の山を登り始めた。
「ふう。ここらで一服するか。」
そして、中腹にある湖で一休みし、ふたたび山を登る。すると、周りに何者かの気配を感じ取った。
「誰だ!」
銃を構え、見えぬ相手を威嚇する。すると、犬耳をはやして剣と盾を構える白狼天狗たちが姿を現した。
「貴様こそ何者だ。ここは我ら妖怪の山。人間ごときが侵入して良い場所ではない。」
「な、何だ君達は!」
良平は白狼天狗に驚いた。もちろん初めて見る武装した白狼天狗である。驚くのも無理はない。とにかく、荒事はご免である。
「俺は良平というただの……人間だ。君たちこそ、そんな剣や盾で武装しているなんて、非常識じゃないか。」
「何を言うか。侵入者め、さては外来人だな。」
「ガイライジン?」
「悪いが、我らは河童のように甘くはない。が、外来人となると話は別だ。今回だけ、今すぐ山から出て行くのなら見なかったことにしてやろう。」
「待ってくれ、何が何だか分からない。ガイライジンとは、白狼天狗とは何なんだ。」
「答える義理はない。とっとと出ていけ。」
取り付く島もなく、良平は山から追い出されてしまった。仕方なしに川を下り広大な湖にもどる。
「はあ、これからどうするかな。……うん?」
野宿を覚悟した良平の眼に一人の少女が見えた。親がコスプレ趣味なのか、背中に透き通った羽が見える。仕方なしに、ここら辺の地理に詳しいであろう少女に一晩過ごせるあばら家の場所でも聞こうと近づく。
「ねえ、お嬢ちゃん」
「はあ、ダイダラボッチ、けっきょく見つからなかった……なによ。」
「ここらへんにさ、一晩過ごせるようなあばら家でもないかな。」
「あばら家?あんた死にたいの?」
少女ことチルノの言うとおり、ここは幻想郷。人里離れたあばら家に一晩泊れば、妖怪のおやつとなるのが関の山である。だが、そんなことを良平が知るはずがない
「なんだって、そんなに物騒な場所なのか?こんなにのどかなのに。」
「あんたも猟銃なんか持って十分物騒じゃない。」
チルノは良平の猟銃を指さし言う。
「あ!さては私を狙いに来た刺客ね。」
「え?」
「さては三月精に頼まれたのでしょう。あいつらもバカね。こんな弱っちそうな人間を刺客に送ってくるなんて。」
「待って待って。」
「人間だけど手加減なんかしないよ。さあこい、{氷符 アイシクルフォール}。」
チルノは聞く耳を持たずスペルカードを使用し、良平に向かって氷弾を飛ばす。
「わ、わあ。」
良平はそれをすれすれでよけるのがやっとで、何とか木の陰に隠れる。
「こらー!隠れてないであんたもスペルカード宣言しなさいよ。」
「何だいそのスペルカード宣言って!」
良平が隠れた木もがりがりと削れていく。何とか少女を止めなければ良平はハチの巣になるだろう。と言っても、あっちは興奮しているようで、何とか鎮めないといけない。冷静に考えをまとめようとする良平。
(スペルカード……たぶん、こうやって撃ち合いをすることだろうか。こっちから打ち返せるものと言ったら……)
良平は猟銃を見るが、すぐに首を振る。あんな年端もいかなそうな少女を撃つなんて、元人間として絶対できない。
(そうだ、私には怪獣ウーとしての力がある。それが利用できないか……)
「ふふん、どうだ、降参か!」
そう自信満々に良平の隠れる木へと近づくチルノ。そこに…
「えい!」
「きゃ!」
ウーの力で作りだした雪で作った雪玉を投げつける良平。大人げない気がするが、ハチの巣よりましである。
「びっくりしたぁ…って、雪?」
「ああ、俺はね、雪を自由に作り出すことができるんだ」
この良平の自分の能力に対する認識は大体あっている。ウーと融合した良平は、幻想郷風にいえば吹雪を吹かせる程度の能力を持っているのだ。
「へえ、すごいすごい!でも、あんた、人間じゃなかったんだね。」
「ああ。そうだよ。」
「じゃあ妖怪だったんだね。」
「よ……妖怪?」
良平は、改めて自分について考えてみた。思えば、自分こと伝説怪獣ウーは、破壊の限りを尽くす怪獣というより、見た目は昔話とかに出てくる妖怪の雪男に近くはないだろうか。
「妖怪……うん、そうか俺は妖怪だったのか。」
「あんた、そんなことも気づかなかったの。バカねー。」
バカ呼ばわりは少し恥ずかしいが、思えば、自分はこの場所のことを何も知らないのだ。ちょうどいいから目の前の少女にいろいろ質問することにした。
「ああ、俺は妖怪になって日が浅いんだ。いろいろ教えてくれないか。その……妖怪とか、スペルカードとか、この場所のこととか。」
「ふん!仕方ないわね、この幻想郷最強であるチルノ様があんたにいろんなことを教えてあげるわよ。ところであんた何て名前?」
「俺かい?俺は……」
良平と言おうとしたが、それはかつての人間としての名前である。だが、怪獣……いや、妖怪である今の自分は……
「ウー。雪男のウーだよ。」
チルノの話は無駄が多く、非常に分かりにくいものだったが、そこから様々なことを知ることができた。ここが幻想郷と呼ばれる場所であること、ここには、人間や様々な妖怪、妖精が住まうこと。そしてそれらの強さの差を埋めるための決闘ルールである弾幕ごっことスペルカードルールについて。
「………ってことよ。分かった?」
「ああ、よくわかったよ。チルノちゃん。さて……」
チルノの説明では、弾幕ごっこはここ幻想郷では挨拶のようなものらしい。だが、良平は全くそんなものは使えない。
「ふぅむ……チルノちゃん。」
「なにさ。」
「俺にその弾幕ごっこを教えてくれないかい。」
「ほえ?」
「弾幕ごっこはここでは挨拶のようなものなのだろう?でも、俺は外から来たばかりでやり方がわからないんだ。」
その提案にチルノは驚いた。まさか、自分に教えを請うとは……
「………あんた、分かってるじゃない。この幻想郷最強のあたいに教えを請うなんて」
「それじゃあ。」
「いいよ。このチルノ様が弾幕ごっこについて教えてあげる。だから、あたいのことは師匠と呼びなさい。」
「はい、師匠。」
こうして、見た目おっさんが見た目少女を師匠と呼ぶ奇妙な関係が始まった。
良平がチルノと話し込んでいるうちに、周りはすっかり夜になり、月の光が幻想郷を照らしていた。
「じゃあ、特訓は明日からでいいかな、師匠。」
「うん、いいよ。ところで、あんたが住むとこだけどさ……」
「ああ、それなら心配しないで。野宿でもするからさ。」
「こんなとこで寝てたらあたい以外の妖精にいたずらされるわよ。いいから来なさい。」
良平はチルノに連れられ、しばらく歩く。すると、秋の風景に合わないかまくらが見えてきた。
「かまくら…かい?」
「うん、あたいの家だよ。さあ、入った入った。」
そう背を押されかまくらに入る良平。大人の良平にとって、妖精サイズのかまくらはかなり狭く感じた。
「あんたでっかいから狭いけど、外よりは安全だよ。」
「ああ、そうかもしれないね。でも、泊っていいのかい?」
「うん、別にいいよ。」
そう言うと、チルノは小さな布団に入る。
「じゃあ、あんたは床でいいわね」
「ああ、いいよ。」
「そう、じゃあ、明日から弾幕ごっこについてみっちり教えてあげるわ。じゃ、お休みー」
「はい、お休み。」
しばらくして、チルノが夢の世界に入って行ったのを確認すると、良平はかまくらの外に出た。
(さて、今日はいろんなことがあったな……)
良平は、今の自分の置かれている状況を整理しようと思った。まずは、自分の能力についてだ。さっきチルノにあてるために雪を作りだしたが、自分はどれだけの力を持っているのだろうか。
(まずは……ウーになれるか試してみよう。)
だが、どうやればウーになれるのだろうか。とりあえず、チルノの家から離れ、全身に力を入れてみた。
「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァ……」
そして、体を大きくする感じで体内の力を動かす。すると、良平の周りに冷気が集まりだした。そして……
「おおおおおおおおおおおおお!!」
体はどんどんの大きくなり、顔にしわがより、体中から白い毛が生えてきた。
「うおおおおおおおおお!!」
そして数秒のうちに身長40メートルの巨体の伝説怪獣ウーとなった。
(おお……これはすごい。)
だが、その姿を保てたのはほんの一瞬だけだった。
(う……ぐぐ…ああああああああ!)
すぐにウーの体は崩れだした。そして、疲れ切った良平と大量の雪が残った。
「うう……これはつらいな……」
とりあえず、今の良平ではウーの体を保つ何かが足らないようだ。
(これは……しばらくはウーに変身しないほうがいいだろうな。)
そして、次にこの体でどれだけの力があるかを調べたかったが、ウーへの変身が思った以上に体に負担となったため、明日にしようと思い、チルノの眠るかまくらへと戻って行った。