東方怪獣録   作:怪獣好き

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親として、怪獣として2

 次の日、チルノと良平は霧の湖に来ていた。

「それじゃあ、このあたいが、弾幕ごっことはなんたるかを教えてあげるわ。」

 

そう言うと、チルノはカードのようなものを取り出した

 

「まずはあんたにどれだけこおりパワーがあるかがあるか試させてもらうわ。」

 

 チルノはそう言うと、湖の近くに生えていた太い木のところに連れてきた。

 

「さあ、この木を凍らせてみなさいな。」

「木を凍らすのかい?」

「そうよ。見本を見せるね。」

 

 すると、チルノは木へ向かって両手を出し、冷気を当てる。すると、バキバキと木がこおって行った。

 

「さあ、あんたもやってみなさい!」

「わかったよ、師匠。」

(といったものの、どうやったら凍らせれるんだ?)

 

 良平はとりあえず両腕を前に出し、フンと力を入れてみる。すると、両腕に冷気が集まって行くのを感じた。そして前に放出するかのように力を入れてみた。

 

「ハァ!」

 

 すると、両手から冷たい風が木へと吹き、木は見る見るうちに凍っていった。それにチルノも良平も驚いた。

 

「おお、あんた初めてにしてはやるじゃない。」

「ああ、俺にこんな力があるなんてな」

 

 正直、良平もここまであっさり凍らせられるとは思わなかったようで、唖然と自分の両手を見つめている。

 

「こおりパワーは十分ね、じゃあ、次はこれを弾幕にしてみるわよ。」

 

すると、チルノは空気中の水分を凍らせ、凍った木へ飛ばし、木を僅かに砕いた。

 

「さあ、これはできるかしら?」

「ああ、やってみるよ」

 

 良平はさっきの要領で冷気を集中し、空気中の水分を凍らせた。だが、できたのは大きな氷の塊ではなく、昨日のような雪玉だった。

 

「あれ?」

 

 それから何度も良平は氷を大きくしようとするが、どうしても氷が雪の結晶の域を出ない。

 

「おかしいなぁ……」

「アハハ、いいんじゃない?玉になるには変わりないんだし。」

「よし、じゃあ撃ってみるね。」

 

 そして、できた雪玉を木へとぶつける。すると、その雪玉は大砲のような音を立てて飛んでいき、木を砕いた。

 

「…………す、すごいじゃない。さすがは私の弟子ね。」

「…………あ、ああ。すごいな。うん。」

 

 チルノも良平もそれに唖然とした。

 

「と、とにかく、玉も出せるみたいね。じゃあ、次は本格的に弾幕ごっこするわよ。っと、ルールを言うのを忘れてたわ。」

「ルール?」

「うん、弾幕ごっこにはちゃんとルールがあるの。」

 

 チルノ曰く、そのルールとは弾幕ごっこではお札を使ったスペルカード宣言が必要であり、不意打ちはいけないということ、弾幕は美しさが大切であること。無意味な攻撃はいけないということ、弾幕を攻略された側は余力があっても負けを認め、スペルカード以外での報復はいけないということ等など。ルールを説明された。

 

「へえ、じゃあ、俺にもスペルカードが必要だな。」

「そうね、お札はあたいが余分に持ってるから、それを使っていいよ。」

「ありがとう、師匠。」

 

 そして、準備は整った。いよいよ模擬弾幕ごっこ開始である。

 

「じゃあ行くよ。」

 

 そう言うと、チルノは周囲の水分から氷の弾を作り、良平に向けて発射した。といっても、普段妖精同士でやる弾幕ごっこの時よりも弾幕の量はごく少なく、ほんの十数発だが。

 

「わ、わあ!」

 

 そうはいっても実際の弾幕ごっこなど初めての良平。あっという間に被弾する。

 

「もう、そんなんじゃそこらへんの雑魚妖精にも負けちゃうわよ!ほらほら、いくよ!」

「わ、っここのぉ!」

 

 今度はいきなりの被弾とはならなかった。といっても被弾するまでの時間が数秒延びただけだった。

 

「ぐわぁ!」

「あらら……ちょっと弾幕ごっこは早かったかしら?」

「い……いや、大丈夫。さあ、次いってくれ。」

「ふふ、それでこそあたいの弟子ね。じゃあ、避けきってよ!」

 

 三回目ともなると少しは弾幕の軌道が見えた。どうやら、チルノも気をきかせたようで弾と弾の間の隙間がよく見え、そこにうまく入ることができ、見事避けきることができた。

 

「よし、避けきったよ、師匠。」

「ふん、まあまあね。じゃあ、次はあんたの弾幕をあたいに当ててみなさい。」

「え、いいのかい?」

「あたりまえじゃない。っていうか、当てなきゃ負けちゃうわよ。まあ、当てられるわけないけどね。

さあ、こい!」

 

 チルノが言うので、仕方なく雪玉を作り、チルノに向かってて投げる。だが、それをチルノは空へ飛んであっさりと避けた。

 

「へ?」

「そんなんじゃ当たらないわよ。それに、一発じゃ弾幕なんて言えないわ。もっとたくさん撃たないと!さあ、次つぎ~!」

 

 その言葉に挑発され、良平は目の前に冷気を漂わせ、数発分の雪玉を作り、チルノに向かって撃ち出した。だが、いつもケンカなどで弾幕ごっこをしているチルノにとってはそんなものなんでもなく、スルスルと避ける。

 

「ううん、難しいなぁ。」

「キャハハ。そんなのじゃ当たらないわよ~だ。」

(ふうむ……一発も当てられないのは悔しい。もっとトリッキーじゃないと当てられなさそうだな…………そうだ!)

 

 空中で笑うチルノめがけて良平はもう一度、今度はやや大きめの雪玉を発射した。だが、それは簡単に避けられてしまう。

 

「だからそんなんじゃ当たらないって・・・て、え?」

 

 すると、良平は猟銃をむけクレー射撃の要領で雪玉を砕き始めた。すると、雪玉は花火のようにはじけ、チルノに襲いかかる。

 

「きゃ!……この~、考えたわね!」

 

 結局、チルノは避けた弾幕に気を向けていなかったのが仇になり、雪玉の破片に当たってしまった。

 

「ちぇ、当たっちゃった。あんた、呑み込みが早いわね。師匠として鼻が高いわ。」

 

 そして、しばらくの間互いの弾幕を飛ばし合い遊んでいると、すっかり日が暮れてしまった。

 

「じゃあ、今日はこれまでね。帰りましょ。」

「ああ、そうだね。」

 

 こうしてチルノとの特訓日々は過ぎて行った。

 

 

 

 良平は毎日のようにチルノと弾幕ごっこの練習に励んだ。そして、ウーの力によるものか、はたまた良平自身に素質があったのか、良平はめきめきと腕をあげ、秋が終わるころにはチルノと同じくらい弾幕を撃てるようになっていた。

 

「いくぞ、師匠。{雪符 スノーショット}」

「いくぞー!{雹符 ヘイルストーム}!」

 

 ある日の光景、二人の弾幕が飛び交い、湖やその周りの木々、そしてたまに飛んで来る不運な妖精が次々と凍っていく。

 良平の使う弾幕は、雪玉を吹雪に乗せて相手に当てたり、飛ばした雪玉を猟銃で打ち抜いて砕き弾幕にするもの。まだまだ弾幕というには荒いが、様になってきている。といっても、まだチルノに当てられるのは十回に一回という程度だ。

 

「とどめだ!{雪符 ダイアモンドブリザード}!」

「ぐわぁ!……っとまた負けたなぁ。」

「ふふん。あたいに勝とうなんて百万年早いわよ。でも、こんな短い間でここまでできるなんて大した奴ね。よし、もう一発でもあたいに当てられたら免許皆伝してあげる。」

「ようし、次は当ててやるからな、師匠。」

 

 そういうと、再び弾幕を飛ばし合う二人。

 そんな二人に近づく影があった。

 

「あらあら、あなたはいつもは元気いっぱいね。チルノ。」

「え、その声は……ウー、ストップ!」

「え、ああ。」

 

 チルノは弾幕ごっこをやめると、その声の主に向かって飛んで行った。

 

「レティ、レティじゃない!お帰りなさい!」

 

そういうと、冬の妖怪ことレティ・ホワイトロックに抱きついた。

 

「はいはいただいま。チルノ」

 

そう言うと、ポンポンとチルノの頭をなで、良平のほうを向いた。

 

「あら、あなたは誰?」

「ああ、あいつはウーっていう雪男で、あたいの弟子だよ。」

「ウーです。よろしく。」

「へえ、雪男ねぇ……」

 

 そう言うと、レティは良平に顔を近づけた。

 

「……ふぅん、中々の妖力ね。」

「あの…あなたは?」

「え、ああ、私の名はレティ。雪女よ。よろしくね、雪男さん。」

「ああ、よろしく。」

 

 そして、二人は握手をした。と同時に、お互いの冷気が手を伝って伝わり、混じり合う。

 

「……っ!」

 

 その不思議な感覚に思わず良平は手を離してしまう。

 

「ふふふ、冷気もいい感じのを持っているわね。でも、制御がへたっぴだわ。」

「あ、ああ。」

「仕方がないよ。ウーってば妖怪になったばかりだもの。」

「へえ、そうなの。」

「そうだ!レティも一緒に弾幕ごっこの練習しようよ。」

 

 いいことを思いついたかのようにきらめく笑顔でそう提案するチルノ。それに対し、レティは少し困ったような表情をした。

 

「そうねぇ………いいわよ。やってあげる。」

「やったぁ!」

 

 だが、チルノの笑顔にレティは折れて、レティも一緒に弾幕ごっこを行うこととなった。

 

「じゃあ、ご指導よろしくお願いしますね、レティさん。」

「ええ、分かったわ。手加減しないわよ、雪男さん。」

 

 それから泉のほとりでは、弾幕ごっこをする三人の姿がよく目撃されるようになった。

 

「行くぞ、{吹雪 スノーサイクロン}」

「じゃあ私は、{寒符 リンガリングコールド}」

「がんばれーレティ!負けるなウー!」

 

 そして日が落ち、弾幕ごっこが終わると、三人は一緒の帰路につき、共に夕食をとる。そんな毎日が続いた。 遠くから見れば、まるで親子のような三人。こういった日が積み重なり、三人は絆を深めあっていく。そんな暮らしの中で、良平とレティはお互いを呼び捨てで呼び合う仲になっていった。そして、季節は冬に近づいていく。

 

 季節は冬、普通なら雪が降り、子供たちや犬は雪野原を駆け回り、猫はこたつで丸くなる季節である。だが、今年の冬はいつもとは全然違うものになっていた。気温はどんどん上がり、まるで真夏のような異常気象が幻想郷を襲っていた。

 

「何だ、この暑さは……」

 

 いつも分厚い服を着ている良平は上着を脱ぎ、比較的軽装にしている。何とか自分の周りは自分の力で温度をやや下げることはできているが、それでもまるで真夏のような気温は和らぐことなく、良平達三人を襲っている。

 

「おかしい、おかしいわ。」

「何がおかしいんだい、レティ。」

 

 暑さで顔が赤くなっているレティは、どうやらこの異変に疑問を持っているようだ。

 

「私は冬をつかさどる妖怪…ってことは知ってるでしょう。」

「ああ。」

「私がここ幻想郷に来ているということは、即ちもう冬になっていないとおかしいの。なのにこんなに暑いなんて……」

「確かにおかしいな。そう言えば、チルノはどうしたんだ。」

「そう言えばそうね、もう来てもいいぐらいなんだけど。」

 

 すると、緑髪の妖精、よく周りから大妖精と呼ばれる妖精が何やら焦ってやってきた。

 

「ウーさん、レティさん。大変です。チルノちゃんが……チルノちゃんが倒れちゃいました!」

「何だと!」

 

 それを聞いて慌てて森へと向かう良平とレティ。しばらく走ると、そこには倒れひどく汗をかき息も浅いチルノがいた。

 

「チルノちゃん!」

「ひどい熱……きっと熱中症だわ。」

 

 熱中症、それは人間でも下手をすれば命にかかわる病気だ。しかもチルノは氷の妖精。危険度は人間の比ではないだろう。

 

「とにかく冷やして水分を摂らせないと。」

「ああ。」

 

 良平は大妖精に水を持ってくるよう指示し、レティと共にチルノの手を握り冷気を送り込んだ。しばらくそうしていると、チルノは目を開けた。

 

「チルノちゃん、俺が分かるか?」

「うん……ウーに……レティね。」

「すぐに大妖精ちゃんが水を持ってくるからな。」

「うん……」

 

チルノは弱弱しくも少しだけ嬉しそうに言った。

 

「なんだか、レティとウーってお父さんとお母さんみたいだね。」

「おとう……さん?」

「うん。私達妖精には親はいないけれど、でも、親がいたらこんな風なのかなって思ったの。」

「チルノ……」

 

 レティは優しくチルノの頭をなでる。

 

「今日はあなたの親になってあげる。だから安心して。」

「うん、レティ。」

「親……か。」

「あら、どうしたの。ウー」

「いや、何でも無い。とにかく、チルノを冷やしてやらないと。」

 

こうして仮の父と母は仮の娘に冷気を送り続け、三日経った。その間に巫女や魔法使いにコスプレした少女が訪ねてきたりした。だが、チルノはまだ苦しそうである。

 

「ウー……暑い、暑いよ。」

「チルノちゃん……ごめんな。」

 

 レティと良平は手を抜いていない。だが、それ以上に気温が高すぎるのだ。良平は考える。どうすればこの暖冬を終わらせられるのか。答えは一つしかない。自分が、ウーになる事。ウーの力をフルに使えば解決できるかもしれない。だが、ウーになれるのは今のままではせいぜい数秒。どうすれば……そう考えていると、チルノの言葉を思い出す。

『私達妖精には親はいないけれど、でも、親がいたらこんな風なのかなって思ったの。』

そうだ、親だ。親の力を借りれば長い時間変身できるかもしれない。

 

「レティ。」

「何?」

「チルノの事、頼む。」

 

良平は決心した目をしていた。そして、チルノの家を飛び出した。

 

「ま、待って。」

 

レティが止めるが、良平は振り向かない。そして、森の開けた場所に出ると。両腕を高く上げ、叫ぶ。

 

「幻想郷の親の魂よ、頼む!俺を父と呼んでくれた少女が命の危機に瀕しているんだ!おれは父親としてそれを見捨てられない!だから頼む!俺に、力をくれ!」

 

全身に力を入れ、ウーに変身しようとする。するとどうだろう。良平の体の周りに光が集まってくるではないか。そして、良平の体は伝説怪獣ウーとなった。

 

「あなた……ウーなの?」

 

ウーは頷く。そして、レティとチルノに冷気を分ける。すると、レティとチルノの顔色がよくなり、力がみなぎってくる。ウーはレティに話しかける。

 

『レティ。俺は行くよ。』

「行くってどこへ!」

『この熱さの元凶を倒してくる。』

 

ウーとなった良平は本能で気がついていた。この世界に、自分以外の異物が紛れ込んでいると、そして、それがこの熱さの原因であると。

 

『さようなら、レティ。チルノを大切にしてやってくれ。』

 

 ウーは、最も暑さの強い方向へと走って行く。レティはそれを追いたかったが、ウーの最後の言葉を守るため、チルノの家へと向かった。

 ウーは走った。そして、その周辺に貼られている結界の内部に足を踏み入れる。すさまじい反発があったが、今のウーは幻想郷中の親の魂と一体化している。無理やり入りこんだ。そして、暑さの元凶と対峙する。

 

ウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォ

 

ウーは咆哮し、暑さの元凶、パワードザンボラーへと向かい、体当たりをかます。すさまじい熱さに気が遠くなったが、こんなもの、チルノ達が味わった苦しさに比べたら何ともない。そしてパワードザンボラーをつかむと、全力で横倒しにした。

このまま殴ろうかと思ったその時、自分を構成する親の魂の内の一体が話しかけてくる。

 

『私の娘を助けて!』

 

 ウーは周りを見る。すると焼けた木に足をつぶされた人間がいた。ウーは急いでその木をどけてやる。そして、再びパワードザンボラーに向かい、のしかかる。そして全ての力を使い冷気を浴びせる。

 ウーの体はパワードザンボラーの熱でジュウジュウと音を立て溶けていく。だが、それでもウーは離さない。高熱と冷気の我慢比べである。この戦い、五分に見えるが実際はウーのほうが不利であった。ウーは親の魂の力で何とか体を保っているようなものだ。その力がどんどん弱まってくる。このままでは何もできずに消えてしまう。それだけはだめだ。ウーは、目の前の少女達に思いを託す。

 

『討て!俺ごと怪獣に止めをさせ!』

 

 その叫びは少女達に届く。少女の持つ何かから、極太のレーザーが放たれた。それが直撃する寸前でパワードザンボラーから離れる。そして、ザンボラーにそのレーザーが直撃し数分。レーザーが消え、ザンボラーは数歩歩くと、倒れた。少女達の勝利である。

 ウーの体はもう霧のように薄くなっていた。もう自分の体が限界なのを悟る。ならばと残りの力をすべて使い、幻想郷に雪を降らす。そして、良平としての意識が完全に消える寸前、自分の名前を叫ぶ少女の声が聞こえた気がした。

 

『チルノちゃん。さようなら。』

 

 

 無縁塚に無数にある名もなき墓の中、ほとんど誰にも知られずその内の一つにこう記されていた。

幻想郷を救った妖怪、ウー。ここに眠る。

 その墓には、氷でできた花が数本供えられていた。

 ここに眠る英雄を知るのは、冬の大妖怪と氷の妖精だけである。

 

 

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