神霊廟の仙人、豊聡耳神子のとある一日のお話。

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最近右足が異様な痛みに苛まれている千羽鶴です。
今回は息抜きに書きました。とある仙人のお話です。
どうぞ楽しんでいってください!


とある仙人の一日

「おいコラ布都!貴様また掃除をやり忘れただろ!」

 

神霊廟に少女の声が響く。その聞き慣れた怒鳴り声に私はまたか、と閉じていた目を開けて修行を中断し、少々目つきの悪い声の主の方へと足を運んだ。

 

太陽はまだ東から出たばかりの位置にある。

普段ならばこんな時間に起きていない事が多いというのに何故今日に限ってとは思うが、早起きは三文の徳だ。早朝の空気は修行に適しているし、そこはまぁ良いとしよう。

しかし怒鳴り声を聴くのはあまり気持ちの良いものではない。

落ち着いて修行に励む為にも、これから起こるであろう二人の部下の喧嘩は止めなければ。

 

「屠自古、どうしたんですか?こんな朝早くに・・・周りの迷惑を気にせず怒鳴り散らすのは感心しませんね」

「えっ?あ、た、太子様⁈申し訳ございません、修行のお邪魔をしてしまって・・・」

 

声の主である少女ーー蘇我屠自古は慌てた様子で私に向かって頭を下げた。

そんな彼女に頭を上げるよう命じてから、私はあるべき姿が辺りに居ないのを確認する。やれやれと思いつつ屠自古から事情を聞き、外へ出ようとしていた白髪の少女を捕まえて自室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーだから、ちゃんとやったと言っているではないか!」

 

「だったら逃げようとする必要なんて無いだろ!さっさと白状したらどうなんだ⁉︎」

 

「二人共やめなさい!そんなつまらない口喧嘩を聞く為に此処へ来たのではないのですよ!」

 

私がそう言うと、部屋は沈黙の空間と化した。屠自古と白髪の少女ーーもう一人の部下である尸解仙ーー物部布都は口をつぐんで私の言葉を待っているものの、互いを睨み合っている。

 

「・・・・・布都。何故逃げようとしていたのですか?疚しいことが無いのならば堂々としていればいいでしょう」

「そ、れは・・・」

 

布都が口ごもるのを見て、屠自古が「何も言えないんじゃないか」と追い討ちをかけた。それに黙っているわけが無く、布都はムッとした表情で言い返す。

 

「違う!言えないのは太子様のお手を煩わせる程のことではないからだ。我はそれを解決しようと外へ・・・」

 

そこまで言って布都は再び口をつぐんでしまう。余程言えないことなのだろうか。

先程から目立つ布都の不審な行動に様々な思考を巡らせてみるものの、思い当たる節がない。私が布都に細かく説明するよう求めても、布都は「自分だけで解決できる」の一点張りだ。

 

何度か同じ会話を繰り返したところで、私はようやく頑固な尸解仙から聞き出すことに成功した。屠自古が怒鳴り声を上げた時から二時間が経過している。

怪しい人影を見たから捕まえようとしたと告げた彼女に「危険かも知れないことには一人で首を突っ込まず報告するように」と約束させ、私は思い当たる人物の元へと神霊廟を出た。

 

ちなみに掃除をやったやっていないに関しては布都がやり忘れていたという実に彼女らしい結末だった。屠自古がそれを聞いた直後神霊廟に雷が落ちる音が響いたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、何の用で此方へ?」

 

目的は解っている。だが私は敢えて目の前の鎌を持った「敵のような者」に質問した。

案の定返ってきたのは

 

「お迎えだ。寿命を延ばして生きる仙人」

 

という聞き飽きた言葉だった。

私達・・・正確には私と布都は仙人だ。だから地獄の者達から命を狙われるのは至極当然のことであり、それが『人を超える力』を持つ上での代償なのだ。

そんな代償を恐れず日々の修行に励むことを『仙人として生きる』ということだと私は思っている。

この死神も仙人として生きる上で何度も出会ううちの一人だと思っていたが、今日はいつもと違った。

 

「仙人よ。何故お前は長命と力を求める?」

 

突然の質問に一瞬動揺してしまう。

そんな質問を死神からされたことなど無かった。

 

(長命を、力を求める理由・・・私は・・・)

 

「・・・・・人を、超えたかったからです」

「人を超えて何になる?我々地獄の者と敵対し、命の危険を冒してまでお前が求める理由は随分無意味なのだな」

 

死神の口調には苛立ちを覚えるものの、何処か私は彼の低い声で紡がれる話は正論だと思ってしまっていた。

だから自分の中に生じた迷いに戸惑ってしまって、死神特有の大きな鎌を振り下ろされたことに気付くのが遅く、私はギリギリのところで攻撃を避けた。

 

「精神攻撃をしてからの攻撃か。卑怯者め」

 

この上ない嫌悪感を声に滲ませながら死神を睨む。

風変わりな言動に油断したが、やはり彼は死神だ。

 

 

 

私の、敵だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

溜め息を吐き、死神の去って行った方向を一瞥してから、私は死神の発言について考えた。

 

仙人になったことに後悔は無い。地獄からの使者も怖くない。

 

しかし、本当にそこに意味はあるのか。私が仙人になって、二人の部下を率いて、果たして救われた者がこの幻想郷に居るのだろうか。

その役目は、本当に私がやるべきものなのだろうか。

 

「「太子様!」」

 

二つの声が聴こえた。それは昔から私に尽くしてくれた、今では喧嘩ばかりしている部下達の声。

いつの間にか、私は自分の考えていたことが馬鹿らしく思えてきた。

我ながら本当にくだらない。

 

(私は正しい。それはきっと未来が証明してくれる)

 

私はくだらない考え事から現実に引き戻してくれた部下の待つ神霊廟へと戻って行った。




前書きでも失礼しました、千羽鶴です!
神子様も好きなので、今回は神子様にしました。
次もまた書くかもしれません。その時はお願いいたします!


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