黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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 ロシア機関帝国の首都、心臓部にして頭脳、目にして足、そして剣であり盾である都市。その名も帝都サンクトペテルブルク。

 地政学的にも鉄道と航路の交通要地であり、バルト海沿岸であるから欧州各国に行くにも容易で、特に北欧や欧州各国に睨みを利かせる軍事的要地としても重要な役割を果たす大都市だ。

 もっとも、欧州が好きどころか崇拝の域まで達していたことで有名なピョートル一世が欧州に行きやすいように造ったという話もないわけではない。

 

 そういうピョートル一世が造ったため、この街は建築物の国様式と年代がごちゃごちゃしている。

 あるところでは英国式、あるところではオランダ、またあるところではドイツと、当時ピョートル一世が好んだであろう建築様式があちこちに並んでいる。

 そして、ピョートル一世の欧州崇拝の最たるものが都市の名そのものであり、その名の由来はドイツ語だ。

 

 中でもこの国における頭脳で心臓。

 かのエカテリーナ大帝が建てた絢爛たる宮殿。

 ロシア皇帝一族の王宮、冬宮殿。

 

 

 だか、この都市を覆う灰色は、

 この都市を包み込む黒色の雪は、

 ありとあらゆるモノを隠す、

 それは人を、命を、意思を、真実を隠す。

 

 それは

 この国の誰もが知りながら、

 この国の誰もが知らない。

 

 ここは、この国における真の頭脳で心臓。

 いや、ロシアそのもの。

 そうであるはずの場所、冬宮殿。

 

 一般的にはこの国を支配する皇帝一族の宮殿。

 されど、その姿は(灰色)に覆われる。

 

 外観の美麗さとは裏腹に、

 エカテリー大帝が愛したであろうロココ建築の表層とは違い、

 その内側(闇は)には機関による黒煙と(すう)で満ち溢れていた。

 

 数。それは欧州よりも果て地からもたらされた科学(ちから)

 数。それは碩学協会からもたらされた数式(ちから)

 数。それはこの国を、世界を灰色に染めた元凶(ちから)

 

 その王宮のもっとも深き場所にある玉座の間。

 正常なる者は誰一人として入ることの出来ぬ広間。

 複雑にして優美、繊細にして豪奢なロココ建築を黒く染め、健常なる者を蝕む黒煙の空間。

 

 その数と黒煙の最奥の玉座に座す男。

 数はもとより、数多の(くだ)が集積する玉座に繋がれた男。

 大きなマスクと玉座、それらと一体となった男。

 闇がもっとも暗い玉座のような男。

 

 その者はアレクサンドル三世。アレクサンドル・アレクサンドロヴィチ・ロマノフ。前ロシア帝国の皇帝(ツァーリ)であり、その体と脳の一部を大機関(メガ・エンジン)と同化させるという無謀を成功させた男。

 嘗ての最先端の大型機関都市(メガ・エンジンシティ)にして、完全環境型都市(アーコロジー)を目的としたあのインガノックでさえ低いと言われる人間の機関化手術を成功させた男。

 既に隠居した身でありながら、真に皇帝たる男。この国そのものにして、世界有数の富豪にして、この国をここまで近代化させてた傑物。

 

 この皇帝のみが存在する空間に、異物が紛れ込んだ。

 

「ご機嫌麗しゅう。皇帝陛下。

 ああ、相も変わらずの皇帝陛下。

 貴方はある意味機械卿よりも機械的で、ある意味赤錆よりも人間的で、数多のものを無差別に詰め込んだピロシキのような皇帝陛下。

 ああ、嗚呼、あー、その内にどんなモノを詰め込んでいるのか、どうなっているのか、この国のようにどう煮詰まっているのか、私は興味が尽きず、敬愛の念を持さずにはいられない。

 

 そう。その中身からあふれ出すモノはどれ程甘美で、芳醇で、豊潤で、厖大(ぼうだい)なそれを、私は味わい尽くしたい――」

 

『――ラスプ ーチンか、何の 用 だ』

 

 話す声は、仮面の男だ、薔薇の華の。異形の男だ、黒い僧衣の。周囲を満たす黒よりも尚、色濃い《霧》だ、《闇》だ。否、既にそれは《混沌》だ。

 その混沌に対する男の声は黒煙を響かせる暗い黒色の声だ。もとより、彼には既に声帯はなく、生体機能も大半が機関を介した機械だ。故にその言葉は途切れ途切れに紡がれる。

 いや、そもそも初めは脳の一部のみ接続が目的であった実験であったが、後に身体機能に多くの障害が起こり、それを補助するために、それを補助するために命がけの、刃の上を歩くような確率の手術を次々とした結果が彼だ。

 

 そして、この広間は、彼そのものにして、彼の一部。

 そこに突如現れた《仮面の男》に、彼は意識を向ける。

 目も、口も、彼はどれ一つ動かすことなく、それを認識する。

 

「いえ、貴方が求めてやまない《解放》が偶然にも《赫い者》達の妨害にあい遅延している。それは貴方にとっては由々しき事態であり、これまでの苦労が水泡に帰す可能性もある重要案件だ。

 そんな憂慮すべき事態にありましては、そろそろわたくしめの占いが欲しい頃合いかと思いまして参上した次第です皇帝陛下」

 

『いら ぬ。既 にそのよ うな時 代は終わっ た。

 現 実が占 いたくば 機 関を使えばい い。既 に《ふるきも の》の時代 は終わ りを告げてい る。

 た しかに、貴様 の占いは 役に立 った。しか し、そ の役 目も既に終 焉を迎 えてい る。

 《解 放》と て、多少の遅 延なら 織 り込み済 みだ。なら ば、お前 がここ にいる意 味もなく、こ こに置いてい るのはた だの恩 情に過 ぎぬ。弁 えよ』

 

「恩情。恩情、くくくくく、あーーーーははははーーーーはあはーーーはははあああははは。

 なるほど、なるほど、なるほど。恩情ですか、それはたいそう嬉しゅうございます皇帝陛下。

 

 しかし、しかしながら、本当に用済みなら貴方は私を放逐するでしょう。貴方は幼少期に軍人として育てられたなら無駄は廃するべきと教わったはずだ。

 ああ、それなのに、それなのに出来ない理由は明白だ。

 それは、貴方自身を見れば明瞭だ。

 

 貴方は昔から自分にはあらゆるものが足りないと自覚している。

 そう、自覚しているからこそ、補おうとする。その結果が今の貴方だ。

 わざわざ健常な身体でありながら幾度にも及ぶ機関化手術の決行、機関の呼吸たる排煙と叡智結晶たる数を満たす玉座の間。

 これらは全て貴方がその手を伸ばしても届かないモノだ。

 

 そう、貴方は足らないモノを補う。だからこそ、私を手放せない。

 だからこそ、貴方は自身を管で巻いて引きこもる。

 

 そのために碩学協会を招き入れ、工業を発展させて、社会矛盾を剥き出しにして、この国を強くして、

 

 そして、

 

                   《解放》する

 

 私がいればそれが叶うと思っているから傍に置いているのでしょ?

 

 哀れで、

 脆弱で、

 醜い、

 

 皇帝陛下」

 

 《仮面の男》はこの場を染める黒煙の中に置いても、一層の存在を示しながらも恭しく礼をし、謙りながらもこの国の皇帝に喋り(嘲笑い)続ける。

 そこで初めて彼は《仮面の男》に視線を向ける。

 その瞳は機関化の影響か、それとも広間に満ちている黒煙の影響か、彼の瞳は黒い。

 その黒さは東洋人のそれとは違い、暗く、重く、濁っている。

 

 《仮面の男》その黒い瞳を見れて満足したのか、恭しく頭を下げながら黒煙に溶けてゆく、まるで初めからそうであったかのように。

 

「では、失礼します。我が敬愛なりし皇帝陛下、私めに御用あらば即座に駆け付けます。

 ですので、遠慮なく、その内に秘めたる(殺意)を私に向けてください。

 私はいつでもお待ちしているので」

 

『――――――――』

 

 黒煙に残響する声に耳朶を震わせながら、かの皇帝は静かに目蓋を落とす。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ――その日は朝から忙しそうだった。

 今日はコンスタンチン先輩とウラジミール先輩が所属している飛空艇研究会に足を運んだ。

 目的はモスクワにいるコンスタンチン先輩についてだが、それを聞くのも憚れるように、訪れた私たちに気づく様子もないほど研究会の人たちは忙しそうにしている。

 あちこちから、『あの資料は何処だ』とか『アイツは今どこにいる』とか様々言葉が、相手に正確に伝わっているかどうか怪しく行き交っている。

 

 そんな中、その場に立ち尽くす私とは違い、タマーラが目の前を通ろうとしたウラジミール先輩を(少々強引に)捕まえる。

 ウラジミール先輩はと言うと、タマーラがウラジミール先輩を捕まえる際に襟をつかんだので『ぐぇ!』とカエル(リグーシカ)みたいな声を吐き出して咳き込んでいる。

 

「やっと止まってくれましたねウラジミール先輩」

 

「ケホン。Ms(ガスパジャー)タマーラ、淑女なら人を引き留める際にもう少し穏便にした方が良いよ」

 

「すいません。これからはそうします。相手が穏便な方法で止まってくれるなら」

 

 引き止められた際に落ちた眼鏡を拾いながらタマーラを糾弾するウラジミール先輩だが、タマーラの迂遠な文句にウラジミール先輩も自分の失態に口を閉ざすしかなかった。でもタマーラのやり方にも問題はあったけれど、部屋の前ノックしたり、声を掛けたりしたのに反応がなかったのもやはり問題だったと思う。

 しかし、それほどまでに部屋の中は忙しようで、止まってくれたウラジミール先輩を呼ぶ声もあり、ウラジミール先輩にしては珍しくどう動いたものかと視線と体の向きがあちらこちらに動き、本当にどうしたものかと思ったとき、

 

「実はねMsアンナ、モスクワに行った同志たちが『今のモスクワは物騒すぎて帰ります』とか言って、コンスタンチン先輩一人残して帰ってきてしまったのだよ。

 そのために急遽モスクワに行く人員を選抜という名の押し付けが終わった途端、向こうに持っていく資料と機材などの手配で右往左往しているのだよ」

 

「シェーホフ。またお前――」

 

 いつものように背後から――とはいかなかったが、私の横からシューホフ先輩が事を説明してくれた。

 ――なんだかシューホフ先輩はいつも私の死角から現れている気がするけど、気のせいかな?

 そんなシューホフ先輩と私たちの間に入る形でタマーラがシューホフ先輩に問いかける。

 

「シューホフ先輩、それってあの事件がまだ長引いているからって、この研究会で一番年長者で、この研究会で一番熱心なコンスタンチン先輩を置いてきた人たちがいるってことですか?」

 

 普段とは違う、バレエの真剣さとは別の真剣な顔でタマーラがシューホフ先輩に、いや、研究会全員に静かに問いかける。

 けっして大きな声ではなかった、けれどもその存在感のある声はさっきまで忙しそうにしていた研究会の人たちはみんな足を止め、声を静め、その場に顔を下げた。

 下げていなかったのはウラジミール先輩とシューホフ先輩だけだった。

 

 私も、この嫌に重い空気を変えたくって、咄嗟に口を開く。開きかけた。

 

「ぅ、ウラ――」

 

「――Msタマーラ・カルサヴィナ、そう言ってやらないでくれ。

 誰だって自分の命は大事だし惜しい。それに今もモスクワでは行方不明者は見つからず、殺された人は今も増え続けている。

 そんな中に居続けるの大変な心労だろうし、正直そんな処にコンスタンチン先輩を置いて行くのは心苦しかったに違いない。

 いや、彼らもコンスタンチン先輩を説得していた。が、あの人はそんなことで動くわけもなかった。あの人の情熱はそれほどまでに強い。だから、彼らにそんなこと言ってくれるな」

 

「そうだよMsカルサヴィナ。同行した彼らも本当はこんな形でアカデミーに帰って来たくはなかった。

 しかし、学会の運営が解散宣言をしない以上誰かは留まらなければならないし、帰るにしてもこの国の国土と準備などの関係上不参加と言うことになりかねない。

 それにこの飛空艇研究会もそれほど潤沢な資金を提供されているわけではない、このアカデミーは基本的に軍事的、もしくは国家に直結貢献さそうな処ほど資金が回される。

 

 この研究会は基本的にそう言ったのを度外視して作っているし、将来的には軍事的に貢献できるかもしれないがコンスタンチン先輩の方針は知っての通り、あの永遠の灰色を突き抜けて(そら)の果てに行くことを至上目的だから尚のこと厳しい。

 そのためにも何らかの功績を残すためにコンスタンチン先輩はモスクワに残ることを選んだと思う。

 だから、しょうがないのだよ」

 

 ウラジミール先輩とシューホフ先輩がコンスタンチン先輩に同行していた人たちをを擁護する。

 たしかに今のモスクワは危険で、必要最低限の買い物以外で屋内から出ることは無いほどだという。

 そんなところに留まると決めたコンスタンチン先輩、帝都に戻ってくることを決めた会員たち、どちらも責めることは出来ないと思う。責めてはいけないと思う。

 

 元々の原因はそのようなことをする人たちにあり、それから逃げることは何にも間違っていない。

 ――だって、この国は貴族やそれに属する人たちと富裕層以外の人の命は軽いのだから……

 ――だから、『自分の命は、自分で守らないといけない』って、みんなは言う。

 ――ここは、そう言う国だから……

 

 ――それだけじゃないって、そうじゃないって思っても、違う、と言っても、私自身の命すら守れない。

 ――黄衣の王、ユーリー・ハリトン、ユーリーさんに守ってもらわなければ、ここで息をすることさえ出来なかったのだから。

 

 知らず知らず他の会員同様に視線を下に落としていた私の肩に誰かが手を置いた。

 視線を上げた先にいたのはシューホフ先輩だった。

 

「すまないが二人とも、さっきはモスクワに行く役割の押し付け合いと言ったが、本当は行く人員は私とベルナツキー先輩に決まっているんだ。

 いや、ほんの冗談のつもりだったのだが、気分を悪くしたのなら謝るよ。

 すまなかったMs.アンナ。Ms.カルサヴィナ」

 

「シューホフ! お前――」

 

 ウラジミール先輩がいきなりシューホフ先輩の肩を乱暴に掴む。

 シューホフ先輩はそんなウラジミール先輩を気にすることなく言葉を続ける。

 

「いいではないですかベルナツキー先輩。いずれバレるのなら今言おうが明日言おうが変わりません」

 

「そう言う問題ではない! さっき決めただろ、二人には後日、もしくは帰ってきた時言うとみんなで」

 

「違いますよベルナツキー先輩、今の精神状態でモスクワに行って大したことは出来ず、僅かな手違いですべてを台無しにしかねません。

 なら、そういった心配事や不安をここに置いていった方が賢明だと思いますよ?」

 

「だからと言って――」

 

 私は二人の言葉に、二人の話に一つの安心と幾つかの不安を覚えた。

 安心したことはみんながコンスタンチン先輩を見捨てていないと言うこと。

 でもそれは同時に不安へとつながる。

 

 それは、今このロシアで一番危険であろう場所に、一番安全とはかけ離れた場所に行く人がいるというのだから。

 それはもう二度と会えないかもしれないということ、この研究会の人たちはみんな顔見知りだし、なによりもみんなが夢に向かってひたむきに頑張る姿は好きだから。

 そんな人たちが今のモスクワに行くのはすごく怖い、けれどもコンスタンチン先輩一人をモスクワにいさせるのも怖く、誰かが迎えに行くか、そうでなければ発表の手伝いをするしかない。

 

 そうでなければ今行く意味もないし、私たち二人にできることはないかと思案する。

 そして、私が思い至ったことを、タマーラが先に口にする。

 

「――ねえ、そのモスクワに私も付いて行っていいかしら?」

 

「あの、私も付いて行っていいですか?」

 

「……はあ!? 何を言っているんだ二人とも! 今のモスクワは危険なんだぞ! そんなところに女の子を連れていけるわけないじゃないか!」

 

 普段温厚で紳士なウラジミール先輩が激怒している。髪の毛が逆立っているようにも見えるその形相は、以前本で読んだ極東の化け物(ヂェーモン)のそれだった。

 しかし、そんなウラジミール先輩にひるまない勇気ある者がいた。

 

 タマーラ・カルサヴィナだ。

 

「――お言葉ですけどウラジミール先輩、アンナはともかく、私は連れて行った方が良いですよ。

 だって、コンスタンチン先輩はもとより、ウラジミール先輩やシューホフ先輩も生活力低そうですもの。

 いいえ、低いですね。それはこの部屋の惨状を見れば一目瞭然」

 

 私は部屋全体を見渡す。

 たしかに部屋の中はあちこちに紙の束や分厚本などが散乱し、端っこの方には……汚れた衣服の類がひっそりと積まれていた。

 研究会の人たちはそれらから視線を逸らす、中には口笛なんかを吹いて誤魔化そうと強いる人までいる。

 そんな現状を放置する人たちに抗議も弁護も出来ず、私は沈黙するしかなかった。

 

 ただ一つを覗いて、

 

「――ねぇタマーラ、さっきの『アンナ()はともかく』いくら私でも生活力低いは言い過ぎだと思うんだけど。ほら、部屋だっていつも綺麗にしてるし、毎日体も清潔にしているんだよ」

 

 そんな私の抗議にタマーラは笑顔で応えてくれる。

 

「そうね。アンナは何もなければ、何の問題は無いわよ。

 ただね、私が注意しなきゃ練習や台本に集中するあまり、食事や睡眠をおろそかにしてしまうことを除けばね」

 

「はい。すいません。タマーラにはいつもお世話になっています」

 

 深々と頭を下げた。

 

「と言うわけで、私は将来世界中でバレエの公演をすることを目標にしてるの、だから普段からの自己管理等々厳しくしているからいて損はないわよ。

 まぁ、アンナもバレエさえ関わらなければ品行方正だから付いてきたも問題ないと思うわよ」

 

「! それはダメだ。よしんばMsタマーラが来ることはあってもMsアンナまでもが来ることは容認できない!」

 

 それまで静かに聞いていたウラジミール先輩が再度激しく抗議をする。

 私たちのことが心配なのは嬉しいが、それでも、私はついていきたいと思う。それを伝える。

 

「ウラジミール先輩、私も付いていきたいです。そして、みんなの役に立ちたいんです」

 

「しかし――」

 

「大丈夫ですよウラジミール先輩、私が常に一緒にいますし、もしものことがあっても護身術のシステマでどうにかします。私、結構強いんですよ」

 

「そうは言うが、君はついこの前も暴漢に襲われた時、たまたま通りかかった人がいなければどうなっていかわからないのか?」

 

「あれは――裏路地で不意を突かれたからです。今度はそんな不用意な場所には入らないし、警戒もするので大丈夫です」

 

「ああ、君のその強気で自立したところは嫌いではないが、それも場所と時世を弁えるべきだよ」

 

 なおも、私たちの同行に反対するウラジミール先輩。

 だが、それを隣のシューホフ先輩が制す。

 

「まあまあいいじゃないですかベルナツキー先輩、コンスタンチン先輩も可愛い女の子の後輩二人と自分を尊敬する研究会の後輩二人がくればいつも以上に頑張るだろうし。

 もっとも、私たち二人は非正規会員みたいな、食客みたいなものですが」

 

「シューホフ先輩――」「シューホフ!」

 

「と、いうわけで、二人ともベルナツキー先輩と研究会の説得、事務手続き諸々私がしておくので研究会に同行申請書類だけ書いてきなさい。

 あと出立は明日の午前六時にアカデミーの校門前に集合だ」

 

「ありがとうございますシューホフ先輩。じゃあアンナ行こうか」

 

 タマーラは私の手を強く握ると、シューホフ先輩の言葉を研究会の了解を得たと強引に解釈して、申請書類を提出するため総合事務室へ走り出す。

 ウラジミール先輩は私たちを追い掛けよと扉の外まで出るが、その間にも私たちどんどん速度を上げて総合事務室へ向かう。

 典型的な碩学見習いのウラジミール先輩はそんな私たちに追いつけないと悟って部屋に戻りシューホフ先輩を叱ることに向きを変えた。

 

「シューホフ! お前は――」

 

 

 

 それから私たちは総合事務所でモスクワへの一週間特別休学と寮に帰ってからの準備でその日を終えた。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 そう。みんなでモスクワに尊敬する先輩の手伝いにいくのね。

 素晴らしいわ。ええ。なによりも、あなたが熱心な子も連れてくることが特に。

 

 ねえウラジミール・シューホフ。前も言ったけど私はあなたの研究に理解がある、頑張って欲しいと思っている。

 でもね、それだけじゃ駄目なの……

 

 あなたには決定的に足りないモノがあるの、

 それはね、

 

                                      《黄金瞳》

 

 すべてを見抜くであると言われている《黄金瞳》それさえあれば、あなたは、あなたの理論は完成する。

 そう、それさえあれば、ね。

 大丈夫、あなたの思い人は、あなたの理解者なのでしょ。

 

 なら彼女は喜んで協力してくれるわ。

 ええ、そうよ。

 それはもう。涙を流しながら協力してくれるわ。

 

 モスクワに行って、二人きりになって、ここ来なさい。

 ここには必要な物が揃っているから、ええ。そこは凄腕の検視医が根城にしていた場所だから設備は万全よ。

 

 そう。だから、彼女と二人で、二人きりで来ると良いわ。

 さあ、約束の時は近いわ。

 あなたの悲願が、達成される日も、私の悲願も、

 

 だから、頑張ってね。ウラジミール・シューホフ。




と言うわけで、遅くなりました。

うん。これがテンプレになってきましたね。
本当はFate/ Thunderbirdの方を先に投稿するつもりだったのですが、なんかうまく書けず、こちらを書くことにしたんですよ。
あれですかね、これがいわゆるスランプなのかな? それとも私の雷電王閣下への思いが足りないせいかな?

用語

総合事務所。
その名の通りアカデミー全体の運営に関わる大きな事務所、その他にも宗教関係や特許、外国からの入学者転校生(本来の意味の転校生)などを専門に扱う事務所など、一言に事務と言っても多岐に渡り、それらすべてがアカデミーを支えている。

最後に、予定ではあと3、4話で2章は完結予定です。
まぁ長くなることはあっても、短くなることはないので、取り敢えず頑張ります。

あと、今回初めてプーさんが攻撃を受けていません! 
快挙です!

では親愛なるハーメルン読者の皆様方。良き青空を。
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