――西暦1904年。 

かつては世界を覆い尽くさんばかりの真っ白な雪があった。
その雪は西の征服王にしてフランスの大英雄ナポレオンさえも屈した。その雪は家を、道を、街を、国を、真っ白に染めた。
しかし機関文明が西欧諸国からこの国に入り発展、人々は暖かな熱と光を得た、代わりに空だけでなく、元より灰色な曇り空が、春には広がるはずだった青空が、本来なら白いはずの雪まで暗く染めている。どれだけ暖かな熱と光を得ようとも、暗い雪は全てを覆い尽くす。
たとえどれほどの機関灯で家を、道を、街を、国を、照らそうとも世界は暗いままだ。

だからと言って人々はこの機関の熱を、光を、利便を手放すことはないだろう。
手放したとしても昔の空は戻ってこない。帰ってこない。ただ今よりも少し明るいだけの世界。ただそれだけ。

そして、その暗い世界は、すべてを覆い尽くす。なにもかも。
悲鳴も、慟哭も、嘆きも、すべてを覆い尽くす。なにもかも。
そこに隠れる赤い旗と、赤い服と、白い少女さえも覆い尽くす。

でも、もしも彼女がその右手を伸ばすのならば。

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