黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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「いやーあのビーフストロガノフ美味しかったですね。

 ごちそうさまですコンスタンチン先輩」

 

「そうですね。僕は一緒に盛ってあったサフランライスが良かったです。

 いや本当にごちそうさまコンスタンチン先輩」

 

「そうね。あのビーフストロガノフはこの辺りでは見ないやつだったわね。どこ風かしら?

 でも、本当に美味しかったわ。誰かの奢り(・・)だと思うと喜びも一入(ひとしお)ね。ねえアンナ?」

 

「……ええ……そう、ね――」

 

 私たちは今、モスクワ市街を五人で歩いている。

 五人で食事の帰りだ。

 

 本当は六人の予定だった食事。

 そのこれなかった一人の少年。金髪で溌剌とした少年。

『夢は灰色曇の向こう、宇宙に行くこと』と豪語した珍しい少年。コンスタンチン先輩と話しが合う明るい少年ユーリィ・アレクセーエヴィチ・ガガーリン君。

 彼も飛空艇学会の発表会を見に来ていたところ、コンスタンチン先輩と会って意気投合、その後もコンスタンチン先輩とのいるモスクワ郊外の宿泊施設まで足しげく通うって語り合ったんだとか。

 もちろん彼の親は止めた、止めはしたのだが、聞かずに通うものだから最終的に諦めてしまったらしい。

 

 それからコンスタンチン先輩とガガーリン君は暇な時間がある度に語り合い、笑い合い、騒ぎ合った。

 その間、二人はお祭り騒ぎで食べ物を消化、研究会の人たちが帰る時も後先考えず消化。

 結果今回の外食につながる。

 

 しかし、ガガーリン君も夜の外食となると話は別で、今現在危険地帯であるモスクワで夜に外を出歩くのは流石に看過出来ず、両親から待ったがかかり、ガガーリン君を家まで送っていったあと、改めてモスクワ市街の飲食店に向かった。

 が、そもそも街がこんな状況で、夜に営業しているお店も少なくなっていたので、探すだけで苦労してやっとの思いでお店を見つけたのが夜八時。この街に来てから時間が掛かってばかりだ。

 

 コンスタンチン先輩が彼を気に入っている理由は、彼が灰色曇の向こう側に行く(・・・・・・・)っと、言っていることに感心しているのだ。

 そう。彼は自分が行くことを夢見ている点、それに感心、いや感銘を受けたと言っていた。

 なまじ学問を学んだがために有人による突破を諦めていたコンスタンチン先輩に衝撃が走ったと言っていた。

 

 次にビーフストロガノフのお皿に一緒に盛り付けてあったサフランライスの感想を言うシューホフ先輩。

 シューホフ先輩は純粋に美味しいものを食べさせてもらった感謝をのべているだけで他意はない。

 

 最後に、お淑やかに歩きながらも、自分たちよりも後ろをトボトボと歩く人を、コンスタンチン先輩を時折睥睨しながら歩くタマーラ。

 タマーラの(げん)には、何か、棘のような物があるが、まぁそれは少しばかりしょうがないと思った。

 

 ウラジミール先輩はそんなコンスタンチン先輩に憐れみの視線を向けている。

 

 私はというと、やはり少しコンスタンチン先輩が気の毒だと思ったので『少しは出しましょうか?』とは言ったが、先輩は『大丈夫だ』と、ひきつった笑顔で強がっていた。

 ――なんか、ごめんなさい。

 

 そんな私の肩にタマーラの手が置かれた。タマーラは目を伏せて無言で首を振る。

 

「いいのよアンナ。むしろこれで少しは計画性と言うものを学んでほしいくらいよ」

 

「ああ、確かにコンスタンチン先輩は設計や計算力は素晴らしいものがありますが、それ以外は本当にダメですからね。ええ、そこさえどうにかなるなら手放しで尊敬できるんですけどね」

 

「いや、それを言うなら生活態度というか、私生活そのものがいい加減ですよね。いい加減ですが、不思議と結果的にはちょうどいい具合と言うか、予め誤差を計算に入れているような事をするから侮れないんですよね。

 実際、どうなんですかコンスタンチン先輩?」

 

 ウラジミール先輩とシューホフ先輩がタマーラの後に続くが、毀誉褒貶の判断がしずらい物ばかりで、全部ではないものの、一部についてはわからないが、少なくとも私が知る限りでも正鵠を射ているあたり弁護がしづらい。

 コンスタンチン先輩はしょげていた顔をあげ、私たちに向き直り声をあげる。

 

「う。うるさいな! いいじゃないか別に、万事は滞りなく済んでいるんだから。

 それに、俺は電報に来てくれなんて書いてないぞ。それなのに勝手に来た後輩たちに飯を奢らさせられる身にもなれ。

 

 まあ。来てくれたのは嬉しいけどよ。

 でも、俺は資材や資料を送ってくれとは頼んでも、来てくれなんて書いてない筈だ」

 

「え?」「は?」

 

 私とタマーラが同時に疑問符を浮かべる。

 コンスタンチン先輩は呼んでいないと言う。しかし、ウラジミール先輩たちは呼ばれたと言っていた。いったいどちらが正解なのか? それとも双方に誤解があるのか? どちらにせよウラジミール先輩たちに視線を向ける。

 ウラジミール先輩たちはお互いに視線を交わしてから、一緒にため息をつき。

 先の動作でずれた眼鏡を直したウラジミール先輩が滔々と喋りだした。

 

「コンスタンチン先輩、たしかにあなたは『来てくれ』何てことは一言も書いてありませんでした。

 けれどね、逆に言えば、一言も言及してないのがいけないんですよ。さっき言った通り貴方は設計、計算、組立までこなす正に将来碩学になるに相応しい方です。残念ながら」

 

「おい。最後一言は余計だぞ」

 

「されど、そんな貴方でも一人で飛空艇の整備、あるかもしれない発表会当日の作業を全部こなすのは不可能だ。でも、あなたはそんなことを承知の上で、私たちに応援の一言もなく残ることを選んだ。

 

 それは勇気と言える。

 それは無謀とも言える。

 それは無責任と言える。

 

 貴方は私たちに居場所をくれた。違う貴方が居場所だ。

 そもそも研究会は貴方が初めて、貴方が集めて、貴方が回しているんだ。貴方は研究会の機関(エンジン)だ、貴方がいなければ機能しないんだ。それだけじゃない、貴方は私やシューホフ、他にも周りからは理解されない事ばかりしていた者たちとそうでない者たちも一緒くたに集め、まとめた。

 

 貴方は私たちに居場所だけでなく、友を、同志を、夢を与えてくれたんだ。今回私たち二人が来たのだって立候補したからなんだ。無論、他の者たち、研究会の大半が立候補した。それでも私たち二人だった理由は直接的に飛空艇に携わることが少ないからだ。

 変えは効く、とは言いたくないが、少なくとも私たち二人がいなくっても飛空艇の研究には差し支えない。

 

 帰ってきた者たちも本当はコンスタンチン先輩が強制的、いや、自分も一緒に帰るとか言いながら列車が出発する直前に降りて彼らを帝都に帰したんでしょ? この研究会に属する者がコンスタンチン先輩を置いて行くわけがありません。

 そんな貴方を私たちが放っておけるわけないじゃないですか。

 だから、貴方は責任をとって私たちが手伝うのを了承するしかありません」

 

「……ウラジミール先輩、私、あなたがこんなに饒舌に話したの初めて聞いたんですけど――」

 

 そうだ。普段喋る時は端的に、親交ある人には少々言葉を増やして、コンスタンチン先輩には辛辣なウラジミール・ベルナツキー先輩が、コンスタンチン先輩を褒めている。

 ――いったいどいう風の吹き回しだろう? ん? でも一部まだ辛辣な気が……

 

「――まぁ、たまにはこの残念ながら尊敬してやまない先輩に自分の価値と、認識の甘さを確認してほしくってね。

 それに、あなたたち二人いた時の方が堪えると思いましたからね。

 本来この手の役回りはシューホフに任せたんだろうけど、少々この色々無自覚な男が癪に触って、つい、ね。

 

 というわけで、私が柄にもないことまでしたんですから、おとなしく手伝わせてください。

 残念ながら敬愛してやまないコンスタンチン先輩――」

 

「……まったくですよベルナツキー先輩、そういういい場面は僕にこそ相応しいのに――」

 

「シューホフ先輩が相応しいかどうかは別にして、私たちをダシに使ったのは感心しませんけど、しませんけど、私とアンナも三人の手伝いをしにここまで来たんですから、今更追い返すなんてことは無しにしてくださいね。コンスタンチン先輩」

 

 ウラジミール先輩が、タマーラが喋りだ終えるとコンスタンチン先輩に手をさしのべた。

 その表情は暖かく、柔和な笑みを浮かべて、普段コンスタンチン先輩や私たちでも見ることのない。見たことのないウラジミール・ベルナツキー先輩の顔がそこにあった。

 

 件のコンスタンチン先輩はと言うと、

 

「……ウラジミール。お前本当にウラジミールか? 偽物じゃないか?」

 

「…………はぁ。全くこの人は、人がせっかく本心からの言葉を掛けたのに――」

 

 後輩を疑っていた。

 ――たしかに、さっきのウラジミール先輩はいつもと違って、ううん。いつもとは違っていたけど、コンスタンチン「先輩に対して真剣に向き合って説得するウラジミール先輩はとても素敵でした」

 

「な!?」「!」「――!」「――」

 

 四人が一斉に振り向いた。四人の表情。

 顔を紅くして、口をパクパクさせているウラジミール先輩、

 そんなウラジミール先輩と私を交互に睨むタマーラ、

 なにか、酷く困惑しているシューホフ先輩、

 なぜかニヤニヤし始めたコンスタンチン先輩、

 

 四者四様のそれに、私は疑問を覚える。

 ――あれ? 私何かしたかな? 特に何もし……

 

「……もしかして、私、口に出てました?」

 

 口に手を当てて、恐る恐る聞いてみる。

 

「おいおいウラジミール、お前も女の子に褒められたからってそんなに顔を紅くして、初心だな~~」

 

「ちょ! や、あ、アン、な。ってやめてくださいコンスタンチン先輩! だか」

 

 コンスタンチン先輩がウラジミール先輩の左腕で捕まえ脇腹を突くも、ウラジミール先輩はうまく言葉でず身を捩るばかり。

 

「――ウラジミール先輩、あとでお話が」

 

 タマーラは……怖い顔をしている。

 

「……………(なぜ)

 

 シューホフ先輩は、先程よりも暗く、何か呟いている。

 

「あ、あの私は――」

 

 私は何か話題を変えようとした時、すぐ近くの角から大きな音がした。

 その音は、爆発音と粉塵と共にボロボロの男が転げながらも立ち上がり、私たちに気づく様子もなく走り去ろうとした。

 だが、逃げ惑う男の足が、突然、何らかの圧力により、理解の外にある力により。まるで雪を握り潰したかのように膝から下が細くなった。無論そんな足で自分の体重を支えられるわけもなく転倒し、片足が使えないせいか先程のように上手く受け身が取れず、そのまま転がり壁に激突した。

 

 ――――そして

 

 粉塵の中から足音がする。

 その足音はなんら変わった音と言うわけではない。

 

 ――――近づいてくる

 

 そう。なんらおかしいということはない。ただの足音、

 ただ、冷たく、硬く、思い、人が歩いているとは思えない足音にも聞こえる。

 

 ――――だめだ、早く、みんなと逃げないと

 

 未だ晴れぬ粉塵の中、その容貌すら見えぬ粉塵の中、それほとの粉塵を巻き起こす暴威を受けながら平然と歩いてきたナニカ(・・・)

 それは、転げた男の前で止まると、喋り出す。

 

 それは、人の発する声と到底思えないモノだ。

 鉄をも上回る鋼鉄の強度を持って。

 重たく、硬く、鉄の軋むような声で。

 

「逃げても無駄だ。おとなしく話せ。すべてを」

 




思ったよりも早く書けたので投稿。
うん。というか、休みに一気にやろうと決めて、そのままの勢いで書いてみたから、うん。いろいろアレかもしれない。

コンスタンチン先輩をしばらく書いていなかったからこんなんで良かったか自分で不安。それとコンスタンチン先輩がなんで慕われているかを軽く説明の回でした。
一応年長者だし、みたいな理由で慕われているわけではないのですよ!
まぁそんなことは置いといて、誰だ! 小鳥ちゃんが鋼鉄の人に会わないなんて言ったのは! あ、俺でした。
うん。会っちゃいましたね。さて、どうなるやら、とにかく、鋼鉄の人から逃げるには一目散に、気付かれぬように逃げるのが肝要だ。もしも気付かれたら逃げれない。
うん? あれ? なんで俺そんなこと知ってるのかな? うう、頭が……

うぅでは、親愛なるハーメルン読者の皆様方。良き青空を。

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