黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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 とある少女の話をしよう。

 その少女はとある浪人の一家の長女として生まれた。家族構成は父母と兄が一人の四人家族。裕福ではないが貧しいというほどでもないごく普通のありふれた一家。

 変わっているところと言えば父が新しいもの好きで、人伝(ひとづて)に聞いた黒船や江戸なので配備されいてる碩学製の機関兵器やまだ真新しい工場の数々を子供のように楽しそうに語ることくらい。

 

 先のとおり裕福ではないが余裕があるほどではないため先祖伝来の物を少し売っては割高で粗末な機関や機械を買っては調べて感心して満足したら売って次の物を買う、と家計に極力負担をかけずに自身の趣味に没頭する父親、されど家族を省みないわけではなく妻も兄妹等しく愛しており趣味の合間ではあるが、暇を見つけては釣りや自慢の碩学機械のショーを開いたりと彼なり不器用ではあるが家族を愛していた。

 妻も夫の浪費にいくかいかないかギリギリの趣味には苦笑いだが、家庭を省みに危ない時には手持ちの碩学機械を躊躇なく売り払っているのを知っているから公認しているし、自分と兄妹を愛しているのを理解しているからこのままでいいと思っていた。

 兄も妹のことを可愛いげっており、本当に幸せな時だった。

 

 時代という濁流がすべてを飲み込むまでは――

 

 最初は両親の死だ。団欒を踏み荒らしに来たのは武士の皮を被った野盗だ。父親が時折碩学機械を購入するのを知ってある程度の資産があると踏んで真夜中に襲ってきた。

 襲撃をいち早く察した父親は兄妹を軒下から逃げるよう言い含め、妻を裏から逃がそうとし、自分は三人が逃げるための時間稼ぎをするために最後の最後まで残すように妻が引き留めた刀を手に立ち向かう。

 

 だが遅かった。

 

 野盗は一人ではなかった。複数人が村そのものを襲っていた。

 

 男も女もなく。

 赤子も老人もなく。

 

 殺し

 犯し

 奪う

 

 地上に顕現した餓鬼道。尽きぬ飢えを満たすために貪り呑み喰らう悪鬼羅刹を幻視する所業。

 兄は一瞬剰りにもの惨劇に自身を喪失するも、即座に意識を取り戻し妹の瞼隠し『みるな』と小声で怒鳴る。だが、兄は妹の鼻を塞ぎ『きくな』とも言うべきだった。

 

 家が、作物が、家畜が、人が、隣人友人………家族の悲鳴がこだまつる。

 運悪く野盗に見つかった母親は身ぐるみ剥がされ犯された。助けようとする父親も剣の達人でもなければ名人でもない、故に多対一ともなれば結果は瞭然だった。

 妹は声さえ上げられなかった。脳が目の前の惨劇を拒否して悲鳴や逃げようとする衝動を停止させたからだ。それでも音と臭いという情報は残忍なまでに妹を侵す。

 

 血と人の焼ける臭い。

 人と物が焼ける音。

 老若男女の悲鳴。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁ」

 

やめて

「お願いします!助けてくだッ」

 

もうやめて

「痛い!いたい!イタイ!イた」

 

■■■■■

 

 声ならぬ悲鳴が妹の内に乱響する。外では地獄絵図の阿鼻叫喚が乱響する。

 終わることのない禍害。燎原は留まることなく広がり、残虐は妹の世界を赤く染める。

 

 だが、地獄は永遠ではなかった。

 

 女を犯し嬌声をあげていた男数人が鉄の刃風に両断され、斬殺に悦に入っていた男たちが鉄の斬突で吹き飛ばれていく。

 これには喜悦に染まっていた野盗たちも静まりかえる。

 

「貴様ら、何者だ」

 

 頭目らしき男が仲間を殺したであろう十人にも満たぬ男たちに問う。

 

「■■■だ」

 

 それが妹の、

 それが彼女の、

 それが市村鉄花(てっか)の、

 始まりでもあり、終わりの円環。

 

杉村道男(みちお)の祖父永倉新八。後の杉村義衛(よしえ)らと市村鉄花の邂逅。狼達の始まり。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 3月11日

 

 カレリア地峡 ロシア機関帝国側

 

「さてさてさて、やっとこさ奴等の意図が読めたよマリアちゃ――っとわ!」

 

「ねえ隊長殿、あなたの頭は腐ったピロシキなんですか? それとも蛆でも涌いているんですか? いい加減に私を『マリアちゃん』っと呼ばないで下さい。

 そう呼んでいいのは私の伴侶ただ一人です。ソレ以外の有象無象には呼んでほしくないんです。

 わかりましたか有象無象(隊長)?」

 

 カレリア地峡戦線のロシア機関帝国陣営指令部、その奥、指揮官席に座すラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフは変わらず機関量産性ウォッカを片手に飲みながらもう片方の手で副官のマリア・レオンチエヴナ・ボチカリョーワの腰に回そうとしたが、その手があった場所に銃弾が通過した。

 

「危ないな〜マリ………うおほん。副官殿は本当に私のことを上官と思っているかどうか怪しいくらい怖い愛情表げ………ってあぶ!」

 

 コルニーロフが飛び引く数瞬後、彼の正面にあった机と広げられた地図を幾つもの銃弾が穿った。正確に言えば彼の心臓等の臓器があった場所を穿った(・・・・・・・・・)

 コルニーロフの背後に控えていた副官のボチカリョーワは無表情で愛銃の拳銃(ハンドガン)を抜いていた。

 

「ッチ! ………隊長、早く話を進めてください。私は早く運命の殿方を探さないといけないので、こんな下らない些末事に(かかずら)っている時間が惜しいんです」

 

 直後ボチカリョーワが吐いた言葉にコルニーロフはもとより、周囲にいた部隊長達の時間と思考が一瞬凍った。

 

「………あのさ、親愛なる副官殿。俺が言うのも何だけども、一応ここは国防の最前線であって『下らない』ものでも『些末事』でもないはずなんだけど理解してます?」

 

「は? 愛のために人は生きているんですよ。だから私の愛を邪魔するものは全て障害物であり取るに足らない些末事、ちょっと突起の出た路傍の石程度モノでしかありません。それが戦争だろうが仕事だろうが何だろうが同じです。

 まあ、その愛を得るために、育むために、逃がさないためにお金がいるからしょうがなく仕事をするんですが、本当に最低な仕事ですよね。軍隊って、いいのは給料だけで、しかも士官になってからやっとって辺りが本当に最低。何よりもこんなコルニーロフ(ゴミ)が隊長なのが一番最悪。

 だから隊長殿、はやくこの仕事終わらせてもらえませんか? そうしないと私、いつ銃が暴発するかわからないんですよ♪」

 

 笑顔で答えるボチカリョーワに周囲にいる人間全員の心境はただ一つ。『今までの発泡はカウントしてないのか!?』もっともそれを問うたところで愚問にしかならず、触れず、気にする素振りも無いよう話を進める。

 

「うん、まあ、確かに此処は寒いし敵は鬱陶しいことこの上ないから早く仕事を終わらせたいのは賛成だけども、その敵が我々をここから離れられないように立ち回っているからそうはいかないんだよね。

 しかも奴らはこの戦闘に執着しならがらも、この戦線どころか他の戦線の勝敗にすら頓着していない。明らかに異常事態だ」

 

「そんな事はわかりきってます。

 問題はなぜ敵がそんなことをするか、そしてどうやったら早く仕事を終わらせられるかです。耄碌するなら仕事を終えて私を帰してからにしてください」

 

「あははは。いやーさすがにこの歳で耄碌はないよ副官殿、いや、でも副官殿が介護してくれるな――」

 

 爆音と衝撃音がテント内に発生した。擬音で説明するなら『ドガガン』っと、発生源と発信源の場所と時間がほぼ同じであることと、そこには一瞬ながら限界異常の反応速度で回避し息も絶え絶えなコルニーロフと粉砕された椅子、その椅子に向けて人一人分はあろう大きさのパイルバンカー(蒸気式鉄杭噴射機)を上官に向けて放ったボチカリョーワが無表情で立っていた。

 

「ねえ副官殿! 流石にバンカーは洒落にならないと思うよ! いくら俺でも当たったら死んじゃうし、掠めるだけでも欠損する案件だからね!」

 

「ッチ。すいませんでした隊長殿があまりにも不快な言動をとるので試運転もかねて手が滑りました。反省しています。すいませんでした。

 今度は避けられないタイミングで撃ち込み(殺し)ますので」

 

「うわー反省するゼロですね副官殿は」

 

「何か問題でも隊長殿?」

 

「いえ、何も問題ありませんよ。親愛なる副官ど、いえ、真面目に話をしますあらバンカーを構えないで下さい」

 

「フン」

 

「え~とだね。北欧連合、正確にはフィンランドは今回の戦闘を負けるため(・・・・・)に仕掛けたんだ」

 

「………どういうことですか隊長殿」

 

「なに、簡単な話。要は自分達が弱者であると、ゲリラ戦もまともにできない狡兎でしかないとアピールするため戦い。それが今回の真相さ。

 一時期から頻発するようになった撤退するタイミングを逸した損害も、無謀な特攻も、こちらに被害を出せない兵器で戦闘も全部自分達が取るに足らない雑魚だと錯覚させるための作戦。

 これがやつらの全容だよ」

 

「――それは、次の戦争に勝つための布石――」

 

Да(yes)副官殿。敵軍は此方から仕掛けるか、奴らから仕掛けるかは定かではないが、少なくとも、確実に起こる次の戦争のための必要経費、前提条件、下拵えのために彼等は戦っている。

 そして、次の戦争で勝つ。

 

 何に確信を持っているのか、

 

 人物。

 兵器。

 同盟国。

 

 何れにしろこの戦争は九割が無駄で一割は利がある。その一割が」

 

 突如テント内に備え付けの通信機が外の吹雪に負けない音量で鳴る。

 普段なら誰かが2コールか3コール内に取るハズだが誰も取ろうとはしない。正確に言えば通信機に一番近い隊長たるコルニーロフが取ろうとして直前で手を止めていた。しかも苦い顔で手を停めていた。

 

「取らないんですか隊長殿?」

 

 今もなおけたたましい騒音を発する通信機にイラつくも、苦い顔で通信機を取ろうともしないコルニーロフを

 訝しんでボチカリョーワに通信機を取るように催促する。

 が、依然としてコルニーロフは取ろうとしない。

 

「いや、ね。なんかイヤ予感がするんだよ。コレを取ろうと取ろまいとスゴくイヤな予感が………って!」

 

「はい。こちら対北欧連合軍指令部ラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフ将軍麾下(きか)マリア・レオンチエヴナ・ボチカリョーワ副隊長です。

 ――はい。わかりました。

 隊長殿グリゴーリイ・パーヴロヴィチ・チュフニーン海軍中将率が用があるそうです」

 

「………………は~。イヤな予感が当たった………。

 もしもし、なんのようだ――――………………はあ!

 ふざけているのかグリゴーリイ・パーヴロヴィチ・チュフニーン中将、貴官のその行為は帝国に対する反逆行為ともどれ………………くそ!」

 

 取る素振りを見せようとしないコルニーロフに代わり通信機を取り渡した直後怒号と悪態。状況を察せない周囲に困惑と動揺が広がる。

 そして、数秒の沈黙、コルニーロフが口を開く。

 

「――状況が変わった。我らはこれより帝都に行く」

 

「それは戦線を放棄するという意味ですか?」

 

「違う。チュフーニンの阿婆擦れに一杯喰わされた。あの女は情報の一部を妨害して断片的にしかこちらにようにしていたんだ。特に帝都の情報に関して徹底的に。

 だがら初動の遅れを取り戻すべく一部隊(・・・)を残して我らは即時撤退する」

 

 一部隊(・・・)その言葉を聞いた者は先程とは違う感情でどよめいた。

 

 ただ一人を覗いて、

 

「――――やっと、私たちの出番ですか。隊長殿」

 

 ボチカリョーワは口角をあげる。獰猛に、なお凶暴に、喉から漏れる呼吸は炎熱となり空気を白く染める。

 

「ああ、さっきの話の続きだけどね。利のある一割がこの戦場いる仕掛人、いや黒幕の首だ」

 

「いるのですか、元凶がここに?」

 

「いるとも。負けるにしても匙加減は必要だからね。将来有望な新人に経験を積ませたり育てたりで、戦場を俯瞰しないことには判断できないからね。

 それに本人はいないにしても代行できるだけの人材は確実にいるからそいつの首を所望するよ副官殿の――マリアちゃんのアマゾネスに」

 

 先のボチカリョーワに呼応するかのようにコルニーロフほ笑う。普段なら禁句を口にした瞬間攻撃されているはずコルニーロフは悠々とテントの外へ向かう。

 残されたボチカリョーワはバンカーを担いでコルニーロフの反対方向へ、互いに背を向けて歩き出す。

 

「今は気分がいいので今の戯れ言2つは聞かなかったことにしてあげます隊長殿」

 

「おや? ボチカリョーワ副官殿になにか気に障ることを言ったかな?」

 

「ええ。私を『マリアちゃん』と呼称するのと私の部隊、『婦人決死隊』をアマゾネス(女戦士)呼ばわりしたことです。

 何度でも言いましょう。私のことは『ボチカリョーワ』か『副官』と、間違っても『マリア や『ヤーシカ(愛称)』で呼ばないで下さい。

 何よりもアマゾネス(女戦士)ではなくワルキューレ(戦乙女)と呼称してください隊長殿」

 

「ハイハイ。何でいいから頑張ってきてね期待してるよ。最愛たる副官殿(ヤーシカ)

 

「ええ。その任務完遂してきますよ。最悪なる隊長殿(ローリャ)

 

 最後、互いがテントを出る瞬間、吹雪の音にかき消されるように、二人は呟いた。




お久しぶりです。遅くなってすいません。

色々なことで立て込んでいて、というか仕事が忙しくなったという言い訳をしつつ、この三国戦争編はあと三話くらいで完結予定です。じゃないとぜんぜん終わらないからです。てか、終わらせないと私の脳内キャパが粉砕する。

あと様々な言い訳がありますが割愛して、

親愛なる皆様、良き青空を。
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