黒雪のコモリオム  --What a beautiful Fakes --   作:ジンネマン

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3-7

 3月11日

 

 

 

 カレリア地峡

 

 

 

 豪雪舞う渓谷にて、高熱弾の着弾音と鉄塊の破砕音。共に岩鉄を打ち砕き破散させる暴力。人が受けたならば、例え掠めただけであろうとも致命傷になりかねない必殺が応酬する。

 着弾音はミカとアキ。破砕音はマリアが発生源。視界不良、聴界不良、不整地、超低温の悪条件のフルコース。戦地以前に生存困難なこの地で2組は初動から些かも鈍ること無く動き続ける。

 ミカとアキの特殊機関製車椅子は2対の脚と2対の腕で縦横無尽に、マリアは立地と手数の関係で防戦気味ではあるが隙をみて鉄槌を撃ち込む。

 この時点では互いに無傷。息が上がることもなく、焦燥感もなく、ただ避けて打ち、ただ躱すしては撃つの応酬。

 

「フィンランド人は血も涙もないのね」

 

「なんのことおばさん」

 

「その特殊機関車椅子よ。あなた、友人(ミカエル)を演算装置にしてるでしょ? 生きた人間を兵器の一部にするなんて狂気の沙汰よ。あなたその事自覚してないの?」

 

「うん。わかってるよ。大事な友達のミカエル、ミカエル、ミカを車椅子に繋いで酷いことしてるのは馬鹿な私でもわかってるよ。

 でもね。私たちは友達なんだよ。今おばさんたちの部下を殺しているシムナも、大切な友達。だから、こうして一緒に戦えるだよ。

 おばさんにはわからないだろうね」

 

「そう。お友達を使い潰してゴミにするのがフィンランド人の友情なのですね。友情もなにもあったものではない。第一、その子、1人ではろくに生活できないのね。

 友人をそこまでに酷使するなんて人でなし、友情なんてくだらない」

 

「訂正しろ」

 

 刹那、空気が変わった。事前にミカに指示されたことは3つ。

 1つ、シムナ1人で処理できる敵ならアキはミカを連れて脱出。

 2つ、シムナ1人で対処しきれない敵と遭遇したら時間稼ぎに徹する。

 3つ、絶対に攻勢にでない。命を大事に、一撃が来たら反撃をしてを繰り返しするくらいに消極的に相手が撤退するまで我慢。

 

 その3つめ、攻勢に出ないを破った。怒髪天を衝く。余裕のあったアキ、アキはミカに絶対の信頼をおいている。彼女の言うとおりすれば全て上手くいく。仮に予想外の出来事があってもミカなら何とかしてくれる。そう盲信する程度には彼女を信じている。

 そんな激昂していても自分に知恵と(暴力)を与えくれる友人は特殊機関車椅子に拘束してある。

 腕を、

 脚を、

 頸を、

 頭をフルフェイスのヘルメットごと、

 

 フルフェイスの隙間から液体が垂れる。顔から無防備に垂れる体液。外気触れると凍り霧散する人として無様な状態を強要されている親友(ミカ)。この光景を見れば凡そ正気の沙汰とは思えず、非人道の極致と揶揄するもの当然。

 だが、アキは違った。

 

「訂正しろクソババア! あたしとミカの、あたしたちの友情を馬鹿にするなクソババア!!!!」

 

 激昂。殺意の気炎吐き散らすはもはや理性無き獣。しかし、無謀な特攻をしない狡猾な獣。

 

 対するマリアの蒸気式鉄杭噴射機(パイルバンカー)は強大な一撃と引き換えに連射も速射もできない文字通りの一撃必殺。無論慎重なマリアは蒸気式鉄杭噴射機に様々な改造を施していた。無敵の鉾を無敵の盾と併用出来るように強度を上げ、攻撃力を落とすこと無く取り回しを阻害ように予備彈倉増加。雑魚相手なら鈍器として、強敵相手なら鉄杭でと使い分け継続戦闘力も保持している。

《移動要塞》《人間城塞》《二足歩行型軍事基地》慎重で手堅く破格の攻撃力を持つマリアを(くつわ)を並べた者はそう彼女を称する。彼女自身は自身を非人間的な呼称を嫌っていてマリアと、そのマリア率いる部隊《婦人決死隊》を戰乙女(ワルキューレ)と呼称するも大概はアマゾネス(女戦士)と呼ばれる。

 そんな彼女とその部隊は確実に戦功を上げてきた。戦略的ではなく戦術的に。そんな彼女が、今初めて顔をしかめた。

 

「友情はずっとすごいんだ!! 愛なんていうゴミよりも!!! ね!!」

 

「うっせんだよ愛の至高を知らん餓鬼が!」

 

 否、しかめた程度には収まらなかった。赫怒。

 冷静というより冷徹無比な印象だったマリアが、激情をあらわにしている。温存していた弾薬と体力を一気に放出する。

 

「あたしたちは、あたしは、ミカのためならなんだって出来るんだ! 脚は動かないからずっと車椅子を押してあげるし! 体の筋肉が上手く動かないからトイレのお世話をしてあげるし! 体を洗ってあげるのもごはんも全部全部あたしがするんだ! これ以上のスゴいものはない!! 友情すごいいんだよクソババア!!!!」

 

「はっ! そんなのただの要介護者と介護士! 雇用関係! ただの利害関係でしかない! アホか小娘! 友情ごときが愛に勝るなどありえない! 身の程をしれゴミが!」

 

「だったら夫婦なんかゴミ以下だ! 勝手にあたしたちを産んで勝手に愛想尽かして! 気に入らなければ棄てて、平気でいる笑える害悪だ! ゴミ以下だ!」

 

 罵詈雑言。相手をこれでもかと口汚く罵り、自身の奉ずる思想を至高と断じ。それ以外をすべて、全て、総べてを格下とする。

 決して混じり合わぬ思想と情愛と思考。

 そのおもい(・・・)を物理的質量を伴って叩きつける。

 

 もはや人の言語ならざる呶鳴り、咆哮。

 激化する戦場。声を荒げては互いに攻撃頻度が増え地形を変えていく。後先を考慮せず、されども敵を確実に仕留めるために最後の最後まで狡猾に、老練ともとれる攻防が繰り広げれる。

 そして、ついに、マリアは被弾した。違う、被弾覚悟の乾坤一擲の一撃を叩き込むために被弾したのだ。マリアは最初から無傷ですむとは思っていなかった。マリアの揮う蒸気式鉄杭噴射機を使用するには上司ラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフの認可が必要となる。

 コルニーロフからいえば銃弾ならまだしも、蒸気式鉄杭噴射機のツッコミが怖いから防衛の点で認可式にしているのだが、別の側面でいえばコルニーロフが必要になると判断した戦場は例外なく苛烈を極める戦場だった。それでもなおマリアは顔だけは完全に無傷で帰還していた。

 

 そんな彼女が、初めて顔に傷を負った。

 目の下。右眼窩下孔から頬骨にかけて1cm程抉るように。

 同時に、アキとミカも被害を受けた。蒸気下鉄杭噴射機の一撃ではない。

 

 後の世に《街道上の怪物》と呼ばれる要塞が如きKV−Ⅱカーヴェー・ドヴァー重戦車がある。

 マリアが灰色の雪の大地を踏む。踏ん張るにしても、踏み込むにしても半端な動作。だが、雪の中から長い砲身が躍り出た。決して人に向けていい規格ではない砲身。装甲車や要塞などの城壁を対象にした大口径の鉄塊。

 

 それをマリアすくい上げるようにミカに照準を合わせて放った。

 放った一撃はミカに当たる前にアキがミカを特殊機関式車椅子から脱出させて地面に放り投げた。そうしなければ致命傷、否ほぼ確実に命を奪う凶弾からミカを守るためにそうせざるをえなかった。アキはミカを守るので精一杯で追撃の蒸気式鉄杭噴射機を掠めて左肋骨2本と内臓を持ってかれた。致命傷たりうる大きな痛手。去れども表情は苦痛よりも安堵が大きい。《友達を護れた》ただそれだけを優先しての結果。

 仮にミカを犠牲にすればマリアに致命傷を与えることはできたかもしれない。だが、アキはしない。絶対に――

 

「……………………………………………」

 

 マリアにとっても最後まで使う気もなかった必殺の攻撃を紙一重の結果とはいえ防がれたことに歯噛むも、思考を切り替えアキに近付く。明らかに致命傷を負ったアキには警戒すら必要はない。無防備ともとれる足取りで歩き、構え。

 

「シネ」

 

 獲物を潰す。抵抗することのできない敗者を、蹂躙するのではなく処理する。振り下ろすだけの簡単で瞬時に終わるはずだった……

 

「ッ!」

 

 振り下ろそうする構えからKV−Ⅱの砲身を盾として庇う。数発の弾丸がマリアの急所を穿たんと放たれたのだ。

 防いだマリアは空砲を撃つと身を翻し撤退を開始した。マリア既に察していた、味方の被害と成果を、その釣り合いが全くとれていないことも。敵方の狙撃手は仕留められず自身も指揮官を仕留められずにいた。

 失態。空砲は撤退の合図でそこからは保身第一に指定地点まで迅速に急行する。

 

 ロシア側の成果と言えばミカ、アキ、シムナの戦闘力と容貌。アキに再起不能の致命傷を負わせたことだけだ。カダスからの流入した技術いかんでは再起する可能性は否定できない。ここで確実に始末するのが最善だが、最後に横やりをいれてきた狙撃手は部下達が対しているのと同格と判断して撤退。

 あまりに無様。マリアは今まで任務成功率100%と言うわけではない。失敗もそれなりしているし、むしろ成功率の方が低い。だが、今回の失態は毛色が違う。あの愛する(・・・)ラーヴル・ゲオールギエヴィチ・コルニーロフが部下()を信頼し信用し後事を任された。

 

 ――なのにこの汚辱。いえ、恥辱。アキには。

 ――フィンランドの屑ども……いずれはこの雪辱は何倍にもして返す、絶対に果たす――

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 同日フィンランドside

 

 スロ・コルッカは撤退するロシア軍に追撃することなく静観する。アキに向かう。駆け足で。

 

「アハは〜ーだいじょうぶ! ねえダイジョウブ! アキ大丈夫!」

 

 涙目。声が震え、悲しみが滲んでるのに――顔はニヤ(・・)けてる。嬉しく楽しくワクワクした童子の顔。

 チクハグ

 矛盾

 声と表情が乖離した童子。

 

 スロ・コルッカは真に負傷した仲間を心配しているのと同時に、自身の存在意義を噛み締めていた。

(仲間のために戦う。仲間が傷付き介抱する。嬉しい)

(仲間が傷付いた。血を流して息も絶え絶え、悲しい)

 苦痛と塊根を自責と歓喜で陶酔するスロ・コルッカがアキを的確に処置をしている間に、アキによって放り出されたミカはシムナが特殊機関式車椅子と共に回収してこちらに近寄ってきた。

 

「了解。ミカは軽症。車椅子は半壊。被害は想定内。結果は上出来。撤退する」

 

 無言のシムナとミカを見て状況確認し淡々と見送り、アキの治療を再開する。

 

 あまりに大差。

 ありえない格差。

 驚愕の対処。

 

 だが常軌を逸する対応に異議異論もなく周囲の者達は警戒し撤収作業をすすめる。なにもなく、何事となく、当然の光景を目を向ける事無く時針の如く動く傍らアキの口が動く。

 

「ああ、悲しいな。

 嗚呼、苦しいな。

 アキもミカこんなに傷付いて、なんて楽しみなんだ! 

 私は役に立つ。皆の助けることができる。仲間に必要とされている。

 なんて幸せなんだろう~。ふふん。

 早く戦争にならないかな〜〜〜ふんふんふーん」

 

 無邪気に重傷の同胞を労り。同時に傷害を望む。スロ・コルッカは歪な自分を顧みることなく、平然と当然に――鼻歌交じりにこれ以上もなく丁寧に、慰撫して同胞を合流地点まで運んでいく。

 

 その後、シムナとコルッカが撤退している最中にもマリアの部下『婦人決死隊』は殿としてKV−Ⅱカーヴェー・ドヴァー重戦車の装甲板と砲身を1班数人単位で運用して追撃部隊を殲滅には成功するも、肝心のフィンランド側の幹部たちは誰一人として仕留めてないことに臍を噛みカレリア地峡を後にした。




お久しぶりです。

一応これでフィンランド方面の戦闘は終わりです。
次に日露の方も戦闘を終わらせたら、今回の戦争の全体像とその他諸々を書いていく予定です。
隊長さんはなんで戦線離脱したかもその時に書きたいと思います。

あと、とある作品のリスペクト(?)を少しでもしようとしたんですがなかなかうまくいかない(いつものこと)のと無理矢理感が半端ないですがご了承ください。

最後にフィンランド側のキャラが幼い理由は後の冬戦争に参加してもらうためですね!いやー楽しみだ!

では、親愛なる皆様方へ良き青空を
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