黒雪のコモリオム --What a beautiful Fakes -- 作:ジンネマン
要約すると
①冒頭の神性変更
②もともと出る予定の神性はそのまま出る
以上です。
あと今回はタマーラ視点です。
ごめんねアンナ、こんなことになって。
ごめんねアンナ、こんな場所に連れてきて。
ごめんねアンナ、助けられないのかもしれない。
私はアンナの手を引いて駆ける。脇目も振らず、後ろを振り替えることなく、ただ前を向いて。
今日は、いつもの日常のはずだったのに。
今日も、暖かな日常という演目のはずなのに。
今日を、いつも通りに閉幕して明日へとなる。
そうなると疑うことなかったのに。
聞こえる。背後から聞いたことのない獣の声が。
違う、アレは獣の声ではない。アレは獣以上のなにか。
「お…………ウ……ゴん………………ド…ウ」
背後のソレは追ってくる。私はアンナの手を強く握りしめる。少し痛いかもしれない。でも、我慢してほしい。
「ど……ko………………ダ」
声が近い、足音までもがすぐ近くに聞こえる。
もう、そんなに距離はない。あと、数分も逃げられない。
どうしてこんなことに…………
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
チクタク。
チクタク。
チクタク。
――世界が、時計が、日常が時を刻む音がする。
私はうっすらと目を開ける。時計の針はは目覚ましが鳴る三十分前を指している。
いつもならここで目を閉じて、僅かだが、細やかな二度寝という楽園に身を委ねる。のだか今日はそんな気になれなかった。
私タマーラ・カルサヴィナは暖かいシーツを払い除けて、ひどく、冷たく、冷えた、凍るような外気に身を晒して眠気を払う。
私は軽く体を捻り伸ばす。体の節々がコキコキと子気味よく音を鳴らす。その音は私が静かに、けれども明確に動き出した音だ。
暖房機関を起動させる。この
これは英国の暖房機関をモデルにし、ロシアの厳しい環境に対応できるよう出力強化をしつつも、大きさはそう変わらない。という売り文句で実際は、些か大きいとは思うが、確かにすぐ暖かくなるので重宝している。贅沢を言うなら静穏性をもう少し上げてほしい。
部屋が少しばかり暖まったのを確認する。私は一息つくと洗面所に足を向ける。
私は蛇口捻り、痛さを感じるほど冷たい水を顔に浴びせる。まだ微睡んでいた意識が鮮明になる。私は寝間着を脱いで籠に入れる、私の部屋には小さな脱衣所とシャワー室が備え付けてある。他の寮生の部屋にはほとんどついてない設備、たまにアンナと一緒に浴びたりしている。
シャワーは水圧も良く、温度はすぐに上がってくれる。初めは水圧も温度調整も今ほど良くはなかった、が、これもお父様がやってくれた。
――やってもらうのは嬉しいが過保護が過ぎると思う。実際はじめ備え付けてあった暖房機関は暖まるまで時間は掛かるし、音は工事中の工機並にうるさく辟易していた。本当に暖房機関については感謝してもしたりない。
――けれども、シャワーは初めの物でも問題なかったがお父様が部屋を視察(強制訪問)した時に『これは、ひどい』っと言って寮監を強引に押し切った次第だ。
――以降、寮監には睨まれて、私だけ他の子より規則に厳しい。本当に迷惑なことだ。
しかし、寮監もタダでは許可しなかった。備え付けての暖房機関は余りにうるさく排熱効率も悪いと前から思っていたらしく、全部とまではいかなったが幾つかの部屋の暖房機関を私の部屋のと同じものにすることで合意した。まったく抜け目ないことだ。
もちろんアンナの部屋のヤツは真っ先に替えさせた。他にも私とアンナの部屋の周りを中心的にしてもらった。
私は五分ほどで暖かいシャワーを終える。私は体に付いた水滴をしっかり拭き取り、自慢の髪を温風機で乾かし、櫛で整える。歯も磨き口をゆすぐ。
鏡に映る自分を確認、髪は寝癖で跳ねていないか、顔色はいいか、歯はきれいになっているか。
――よし!
脱衣所を出ると部屋は裸でも寒さを感じないくらいに暖まっていた。衣装棚から今日着る服を出し着替える。今日はそれほど寒くないので少し薄着でお洒落なものを選ぶ、アカデミーは公序良俗に反しない限りは多少は羽目を外しても文句は言わない。
――仮に寒くっても厚手の
着替えを終えた私は片手に外套、もう片方に鞄を携えてある部屋に向かう。そう、アンナの部屋に向かう。
いつもは屋内を走るアンナを注意するけど、今日は、今は、早くアンナの顔が見たいから特別に走る。
アンナの部屋の前に着く、私は
アンナに貰った合鍵、友情の証、親愛の証、私にしか持っていない物。
私は鍵を使って扉を開ける。静かに、足音、服の擦れる音、呼吸さえ抑えてアンナに近づく。
寝ているアンナの顔を覗く。静かな寝息を立てているアンナ。安心しきって悪戯したくなる寝顔だ。
可愛い後輩のアンナ。
大切な親友のアンナ。
私はじっとアンナの寝顔を見つめる。見ていて飽きない可愛い寝顔。ツンツンとアンナの頬を突っつく。
アンナは『うんうん』っと唸るだけで起きる気配がない。最後にはシーツを顔まで被ってしまった。
――どこまで可愛いんだこの子は。
私はひとり悶える。何しにこの部屋に来たか忘れかけるほどに。
正気を取り戻した時には部屋に入ってから十分は経っていた。
――本当、何しに来たんだか。
――自分に呆れる。しかし、今からでも間に合う。
私はアンナのシーツを思いっきり剥ぎ取る。多少の抵抗はあったが力技でどうにかする。
「ん~~タマーラ、どうしたのこんな時間に? 」
時計を見たアンナが眠たそうに、不服そうに、恨めしい顔をして私を見る。
「んふふ。今日はなんか目が覚めちゃってね」
「それで?」
私は深呼吸をして、とびっきりの笑顔をして告白する。
「暇だからアンナをからかいに来た」
「なんでそうなるの!?」
アンナが寒さをものともせず、大声で、いきり立つ。
――アンナのこんな表情は初めて見た。
「ごめんね。でも、目が覚めちゃったから早めにアカデミーに行って練習しよ」
「はぁ。わかった。着替えるから外で待ってて」
アンナは何もかも諦めたのか深いため息をついた。そして私を追い出そうとする。
が、私は追い出そうとするアンナの手を掴み、それを阻止する。
「――ねえ、アンナなんで追い出そうとするの?」
私はさっきよりもいい笑顔をしてアンナに迫る。
「……え? だって、なんか、今のタマーラは……」
私はもう一歩アンナに迫る。
「私がなあに?」
私はもう一歩アンナに迫る。
「タマーラ、ちょっと落ち着いて……」
私は迫る。目と鼻の先には可愛いアンナの顔がある。
「私は冷静よアンナ、さあ着替え、手伝って
あ げ る」
「ちょっと、タマーラ、待って、あ、い、や、あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
私は額にかいた汗を輝かせ、この一言を言いたい。
「うん。いいことした」
「うう、ひどいよタマーラ」
笑顔で、ホクホク顔の、私とは正反対の表情をするアンナ。
「どうしたのアンナ? 朝からそんなに消耗して」
「うぅ、もういい。早くアカデミー行こう。
もうお嫁に行けない……」
アンナは落ち込んだ顔をして、トボトボと扉に向かう。
私は、そんなアンナ後ろから優しく抱きしめる。
「ごめんねアンナ、ちょっと、ふざけ過ぎたわ」
アンナはまた、ため息をつく、でも今回のは優しいため息。
アンナはお腹に回した私の手を、優しく包み込む。
「もう。いいよ。タマーラ」
「ありがとうアンナ。帰りになにか美味しいもの買ってあげるね」
「でもタマーラ、いつもは登下校中の買い食いは感心しないって」
私はアンナから手を離して、軽やかに、ステップをきかせてアンナの前に踊り出る。
「いいの。今日は特別」
「変なタマーラ」
「さあアンナ朝食を食べに行きましょ」
私はアンナの手を握りしめて引っ張る。
――今日のような幸せが、
――明日もこんな楽しさが、
――二人でいつまでも、
――《美しいもの》が、続くと、いいな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
楽しい時間はあっという間だ。
朝の楽しい楽しい時間から、既に二限目の選択科目の時間だ。
私は政治学は選択をしている。だから、ここでアンナと別れる。因みに私が第三文学と政治学を選択した理由は社交界の話題作りのためだ。政治学に関しては親の勧めが強かったというのもある。
――だから、アンナと第三文学が一緒になったのは、とても嬉しい偶然だ。
ただ、アンナが二限目に選択している芸術科篆刻写真部は正直どうなのかと思う。
芸術科篆刻写真部、別名チェーカー。担任はフェリックス・エドムンドヴィチ・ジェルジンスキー先生。細身で長身、とても優しい人、イエズス会の
先生としてはとても真面目で、罰則者には厳しいけれどレフ先生とは違って酷くはない。だって罰を与える時のあの人はとても悲しい顔をするから。いつも『こんなことはしたくない』っと言っているくらいフェリックス先生は子供が大好きな人だ。先生の家にはたくさんの子供がいるけれど、みんな孤児で、フェリックス先生が引き取って育ている。
そんなフェリックス先生が芸術科篆刻写真部をなぜチェーカーと呼称するかというと、曰く『子供はこういった堅苦しい名前よりも、言いやすい愛称の方がいいだろうから』らしい。なんともフェリックス先生らしい理由だ。
無論フェリックス先生には文句はないが……なぜかチェーカーにはフェリックス先生が優しいせいか、変な人というか、癖のある人というか、兎に角いろんな人が集まる。
その筆頭がラモン・イワノヴィチ・ロペス、十歳にも満たないのにこのアカデミーに入れる登山が趣味の優秀な碩学の卵、性格は割と猪突猛進で感情的なところが大いにある子供だ。ただ問題なのは事あるごとにレフ先生との衝突が絶えない。前にアカデミーの風景写真を撮っていた時に偶然、その写真にレフ先生が写っていて『なに、私の許可なく、私を撮っている』っと詰問され、写真機は壊されて、殴られた。
途中で他の先生が止めなければ酷いことになっていた程で、それ以来ラモンは『レフの野郎、いつかその頭かち割ってやる』などと物騒なこと言う始末。他にも何にもいるがここでは割愛したいと思う。
一つ言えるのは、そういった変な奴らに限って優秀だから頭が痛い。
なにはともあれ今日は、なんら厄介ごともなくバレエの時間が来た。
私とアンナはいつも通り、一緒に柔軟をしてバーレッスン、センターレッスンをこなして音楽合わせとなる。ここ最近アンナはさる方からの要望の戯曲の練習を一人でしている。台本はまだ渡されてないらしく、公演の直前に渡されるらしく、今は曲合わせをしている。
この戯曲の依頼者は私やアンナどころかコーチも知らない。この依頼はアカデミーの学園長からのトップダウンでその詳細はわからない。
楽しいバレエの時間も終わり、あとは帰宅するだけなのだが、朝にアンナと約束した買い食いがある。
「じゃあアンナ、なにが食べたい?」
「うーん、特に要望はないかな。タマーラがくれるならなんでもいいよ」
――以前にも同じようなことがあった。なにか買ってあげると言ってもアンナは特に要望もなく、なんでも良いと言う。無欲な子だ。だからこういう時は私が決める。いや、全部私が決めている。
「じゃあ、あのピロシキにしましょ。ほら、以前コンスタンチン先輩が教えてくれた路地う」
「君たち」
誰かが私たちに声をかけてきた。後ろを振り返るとフェリックス先生が立っていた。
「
アンナはフェリックス先生にいきなり声をかけられて小さくなる。フェリックス先生は普段優しいが、悪いことをすると途端に厳しくなる。だからアンナは今の会話が大丈夫か心配なのだ。
「大丈夫ですフェリックス先生。寄り道と言ってもすぐに済みますし、私たちの寮はすぐそこですらね」
私はフェリックス先生をはやく振り切ろうとする。
「しかし、最近はこの近くも物騒な噂が立つ、それに今日は早く暗くなる」
『早く暗くなる』私はなにが言いたいかすぐにわかった。
「? おかしなこと言いますねフェリックス先生。まるでもうすぐチェルノブイリ
「いえ、なんとなくですよ」
フェリックス先生は少し困り顔をする。
「本当に大丈夫ですよ。そんな一時間や二時間寄り道しませんし、せいぜい掛かっても十分くらいですから。ではフェリックス先生また明日」
最後の方は捲し立てるように言って、早足で校門へ向かう。
「あ、タマーラ、待って。フェリックス先生また明日」
アンナが私を追いかけようと、慌てて走り出す。
「あ、二人ともくれぐれも寄り道せず、まっすぐ帰りなさいよ。
黒い雪が降る前に」
フェリックス先生が最後に何か言ったように思えたが聞こえなかった。多分小言の類だろう。
私は校門の外に出て少し行ったあとアンナを待つ。
――アンナ早く来ないかな――
私はアンナを待つ。そして思い馳せる。
――今日のような幸せが、
――明日もこんな楽しさが、
――二人でいつまでも、
――《美しいもの》が、続くと、いいな。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ここはサンクトペテルブルクにあるであろう地下室。
でも本当にあるかどうかもわからない地下室。
一般人は決してたどり着けない地下室。
そこはとても深く、暗く、黒い場所。
階段も、扉も、天窓も、照明さえもないこの場所に置いて、その中心は明かりがともっている。
否、これは明かりなのか。
その中心は赤かった。紅かった。朱かった。
そのような場所にいる男も赫い。
血も、目も、服も、思想も、すべてが赫い男。
「閣下、本当にこれでよかったのでしょうか」
いつの間にか細身で長身の男が赫い男の傍にいた。
「問題ない。これもすべてわれらのため」
男は紡ぐ、赫い言葉を。
「そう、すべてわれらが悲願のため」
男はただ一人、赫き言葉を紡ぐ。
「この国を、世界を、我らの赫きモノで染め上げる」
ここには男の声を聴く者はいない、その赫き言葉を。
「たとえ■■■が来ようとも、たとえ彼女が印を手にしようとも、たとえ黒い道化師が奪われし知恵を手にしようとも、われらを誰も止めることは能わず」
ここに一人、赫い言葉を紡ぐ。
今回の反省。もう少しちゃんと勉強してからこの作品を書くべきだった……
うん。というわけ(どういうわけ)で不穏な影が二人に迫っています。あと二話ほどしたら自分初のテンプレ戦闘になります。正直不安でしょうがないですが頑張ります。
では親愛なるハーメルン読者の皆様方、良き青空を。