私はヒロインよりサブヒロイン、ギャルゲーとかなら攻略できないヒロインが気になってしまうタイプの人間ですので、ルミルミはお気に入りなのです。
ゲームにルミルミルートを切望しています。
そんなわけで、どうぞ。
思いもよらず彼女は現れる。
冬は寒い。それは紛うことなき真実である。
恒温動物は寒ければ動きが鈍くなるのは当然であり、なんなら冬眠するまである。動けば暖かくはなるだろうが、その分エネルギーを使用する。エコが叫ばれている現在、省エネは全人類が取り組まなくてはならない問題だ。
誰かに優しくするためにはまず自分に優しくなければならない。故に、地球に優しく、人に優しくをモットーとする俺はヒーターが効いた部室内で、ページをめくる指と文章を追う目以外を動かさずに省エネに取り組んでいた。
やらなくていいことはやらない。やらなければならないことは手短に。名言である。あっちの省エネ男と俺は目が似ているように思うのだが、なぜあちらは目が腐っていると表現されないのか、解せぬ。
さておきふと目を見やれば、俺と同様に省エネに励む奉仕部部長雪ノ下雪乃に、この部屋で一人省エネに反対する由比ヶ浜結衣は、今日あったことを途切れることなく話している。よくもまあ話すネタが続くものだと感心する。
と、取り留めのないことを考えていると、俺の懐で何かが揺れるのがわかった。何か、と言っても俺の暇つぶし機能付目覚まし時計こと、携帯電話なのであるが。
俺が携帯を取り出すと、雪ノ下と由比ヶ浜がこちらを見てくる。珍しいのはわかるが、そんなに驚かなくてもいいだろう。
さて、差出人は……平塚先生?
From:平塚先生
比企谷くん。用件があるので生徒指導室まで来てください。
……めずらしく短文のメールだな。いつもの長文はどうした。長文にするほどの内容ではないが。っていうか電話でも……俺が電話でないことは知られているか。直接言いに来ることができないのか?
さすがにごめーん気づかなかったー作戦はできないか。
「ヒッキーどうしたの?」
「ん、ああ。何か平塚先生から呼び出しだ」
「すでに知られているならば、自首しても減刑はされないわよ」
「俺が何かやらかした前提なのやめてくれませんかね」
最近提出の課題はないし、シェルブリットをくらうようなことはないと思うが。
「ってわけで、すまんが行ってくるわ。遅くなったら先にあがっててくれ。先生の用事がどんくらい時間かかるかわかんねえし」
「あ、じゃあ、下校時間になっても戻れなそうなら連絡ちょうだい。カバン持っていったげる」
「そりゃありがたいけど、いいのか?」
「大した手間ではないし、かまわないわ。鍵も戻さなければならないし」
「すまん、助かる。それじゃな」
「ヒッキー、いってらっしゃい」
適当に二人に返事を返し、部室を出る。暖められた室内と違い、一気に冷え込む感じがする。
室内からは、話しかける由比ヶ浜と、ポツリポツリと返事をする雪ノ下の声が聞こえる。
まあ、うん。仲がいいのはよいことだ。だけども、本当にこのままでいいのかとも思えてくる。このまま、というのが何なのかもわかってはいないんだが。
ただ、最近ゆるゆりしているのはどうにかならないものか。時折すげえい辛くなるんだよな。
仲間外れはいけないと思います! でも仲間に入れられたらそれも困ります。
「……行くか」
くだらない脳内独り言が多くなる今日この頃。生徒指導室へと向かうのだった。
生徒指導室。思えばこの部屋に呼び出されたのが奉仕部入部の始まりだったか。いや、あれは職員室だったか。
ともあれ、最近呼び出されることはなかったから随分と久しぶりだ。
俺は基本優等生で、万引きもケンカもタバコもやらないから呼ばれることないのだ。
何ら指導される覚えはないのだが、何やかんやで平塚先生には指導を受けている。だからか入室するのはちょっと緊張する。
俺は軽く深呼吸して、ドアをノックする。平塚先生の声でどうぞ、と返事が聞こえる。
声の様子からして怒っている様子はないが……やべ、ホントに緊張してきた。
「失礼しまー……す?」
引き戸を開けて生徒指導室に入った俺の前には、予想通りの人と、予想外の人がいた。
「来たか比企谷。返信がないからもう帰ったのかと思ったぞ」
「部室にいたもんで」
平塚先生は片手に携帯を持って立っていた。メールを再送するつもりだったのかもしれない。返事がめんどくさかったということはないですよ。
「まあいい。君を呼んだのは他でもない。比企谷に会いたいという客が来たからだ」
「はあ。この状況なら、まあ、わかりますけど、俺なんですか?」
「そう言っているだろう」
俺の目はソファに座っているもう一人の人間へと向いていた。
結構最近会ったばかりの、この場にいるのは明らかにおかしな人間。
サラリと長い黒髪の下の顔は、まだその年齢ならば可愛いと評されるだろうに、綺麗な顔立ちをしている。クールな印象を受けるのは、やはり目つきのせいだろうか。
服装は、これまた非常に似合っている。凹凸がない身体をしているのだが、すらっとしていてどんな服でも着こなせそうだ。いや、勝手な想像だしどんな服持っているのかはよく知らんが。
そして横に置かれたランドセル。荷物が詰まっているように見えるから学校帰りに直接来たのだろうか。
「今年は会うの初めてだな。久しぶり、でもないか。元気か、ルミルミ?」
「だからルミルミっていうの、キモい」
相変わらず小生意気な口調で、ソファから足を浮かせながら鶴見留美はそう言ったのだった。
促されて留美の対面に腰掛けると、ドアに寄りかかっていた平塚先生が事の次第を聞かせてくれた。
「簡単なことでな。私に用件があるという来客があって、行ってみたら鶴見さんがいたのだよ。そして鶴見さんの用件というのが、『八幡に会いに来た』ということなのさ」
「はあ。それって個人情報的にどうなんですかね」
「小学校に目の腐った高校生が児童に会いに来たなら通報するがな。君と鶴見さんに必要かね?」
そりゃごもっともで。こちらとしても留美に会うことが嫌なわけではなく、適当に言っただけだし。
ただ、留美はそう受け取らなかったようだ。それはそうだ。俺と平塚先生の普段のやり取りなんて留美が知っているわけもない。
留美は目を伏せ、ポツリと呟いた。
「迷惑、だった?」
う……罪悪感が半端ない。というか、小町よりも年下の女の子を悲しませるとは、千葉のお兄ちゃん失格ではないか。
「い、いや、そんなことはない。それより、どうしてわざわざ俺に会いに来たんだ?」
留美は俺の問いに口を開きかけ、チラリと平塚先生を見てまた口を閉じた。そして俯いて俺を見る。上目遣いになるからやめろ、可愛いから。
平塚先生も躊躇している留美の様子に気づいたのか、フッと笑って寄りかかっていたドアとは別のドアへと歩いていく。
「どうやら私がいると話しづらいようだから席を外すが、狭い部屋に男女二人きりというのもよろしくない。隣の資料室にいるから、話が終わったら声をかけてくれたまえ」
言って、平塚先生は指二本で敬礼をして隣室へ消えていく。どうしてあの人はやることなすこと親父くさいのにかっこいいんだろうか。いや、かっこいいのに親父くさいから結婚できないのだろうか。誰かもらってあげて、切実に。
っていうか狭い部屋に二人きりがよくないって、俺結構先生と二人きりの時があった気がするが。
「かっこいいね、平塚先生」
「ん? ああ、本人曰く『かっこつけてるからな』だそうだ」
留美は平塚先生が出て行ったドアを見ている。その顔を見るに、平塚先生への感想は事実なのだろうが、話しづらくて別の話題を振っているようにも思えた。
俺のボッチにより培った観察眼から見るに、留美は何やら話しづらいことを話そうとしているようだ。ここでリア充、例えば葉山辺りならばうまいこと話を聞きだした上、肩に手を回すぐらいのことは出来るのだろう。
だが俺のボッチにより培った会話力では、断言するがそんなことは不可能だ。無理に話そうとして微妙な空気に陥り、新たなトラウマが生まれるまである。
ここは、先達として留美が話し出すのを待とうと思う。甘やかすだけでは人間ダメになる。甘やかされなくてもダメになることもあるが。ソースは俺。
「……」
「……」
待つことしばし。留美は話の糸口を探そうとしてチラチラと周りを見ており、時折俺の方を見ては目をそらす。
直視することすらはばかれるってか。このままでいたら、俺のMPがゼロになるまで削られるんじゃないだろうか。そういえばエムゼロって面白かったよな。
「ん、とね。相談? が、あるの」
「……相談、ねえ。俺に? 親とか先生とかじゃなくてか」
フワフワしていると言うか、とりとめがない。留美の態度を見るに、自身でも相談の内容が掴みきれていないのだろうか。
留美は俺の質問にこくりと頷くと、話の取っ掛かりをつかめたのか先ほどよりはスムーズに話し始めた。
「この間、クリスマスイベントの時のことなんだけど……」
「おう。『賢者の贈り物』やったときか」
「うん。衣装とかショボくてセリフも棒読みで、改めて思うとひどいものだったよね」
「ん、まあ、時間がないのによくやったと思うぞ? というか、お前は声通ってたし、顔立ちも綺麗だから舞台栄えするなって思ってたけどな、俺は」
当日の留美を思い返す。金髪のカツラを被り、衣装に身を包んだ留美は、演劇の初心者にもかかわらず実に堂々と演技をしていた。その様は、誰もの目をひきつけ、冗談抜きであのイベントで一番目立っていたと思う。妹の写真撮影に夢中になっていた川ナントカさんは恐らくあまり見ていないだろうが。
「お前じゃなくて留美」
「お、おう。すまん。何で急に怒るんだよ」
「別に。怒ってない」
若干頬を膨らませて顔を背けられた。何故急に不機嫌になるのか。年頃の女の子はわからん。小町も時折よくわからんところで怒り出すが、俺に微妙な機微をわかれというほうが無茶な話だ。というわけで俺は悪くない。
「まあ、とにかくだ。演劇がどうしたって?」
「……うん。ひどい演技で、雑な衣装と舞台装置で。台詞が出てこない時あったし、感情込められなかったし」
と、留美は自らを振り返る。何とも自分に厳しいことだ。俺からすれば留美の演技は及第点なんてものではなく、本気でアイドルプロデュースを考えるレベルだったんだが。属性は間違いなくクール。もしくは熱いアイドル活動のキュート。
「それでも、ね。面白かったの。面白かったし、楽しかった」
留美は、そう言って自然と笑みを浮かべた。自然と笑顔が出てくるってことは、心底そう思っているのだろう。
楽しいと思えることが出来たのならいいことだ。いいことなのだが。
「それで、その……演劇に興味がでてきた、っていうか。何と言うか……」
「演劇、やってみたいのか?」
「うん、と……そうなのかな?」
留美は自問するように呟く。なんともはっきりしない答えである。
答えはいつも自分の中にある。とはいえ、俺の問いに答えられるほどはっきりした想いではないのだろうか。
何故それを俺に相談に来たのかはともかくとして、まずは留美の考えをまとめたほうがいいのかもしれないな。
「留美。俺の質問に答えてもらっていいか? 答えられなきゃ沈黙でいい」
「え? う、うん」
きょとんとした顔で留美は頷いた。さて、どういう順序で質問したものか。
「それじゃあまずは、演劇に興味がある」
「うん」
「演劇をやれる環境があればやってみたい」
「……うん」
「将来演劇で食べて生きたい」
「……そこまでは、まだ」
「進学する中学校に演劇部はあるか?」
「規模とかはよくわからないけど、ある」
「演劇部に入ってみたい」
「………」
「中学校で何か部活に入ったとして、うまくやっていけるか不安だ」
「……うん」
うむ。だいたいわかった、と世界の破壊者のようなことは言えないが、少しわかった。
留美自身の気持ちが固まっていないようだが、演劇に興味があるのは間違いない。だけど、やりたいことがはっきりと決まっているわけでもないのか。
それに、恐らく留美は若干人付き合いに臆病になっている節がある。去年の夏のあれで、大なり小なり団体に所属することに抵抗があるようだ。あの件は肝試し後にドッキリでした、と説明したから問題にはならなかったものの、クリスマスイベントの時まで引きずっていたようだし。
そのクリスマスイベントの時は一回きりではあったが、演劇部に所属して継続的に活動すれば、また何かあるのではと考えてしまっているのだろう。
例えば、俺が演劇のためにはこうすればいいんだ、友達との思い出は辛いものだけじゃなかっただろう、と言った所で、留美の悩みが解決することはないのだろう。特に友達関係のことは色々な意味で俺が言えた義理ではないし。
いずれは留美の気持ちも固まるのだろうが、留美は今、何らかの答えを欲しがっている。しかしすぐに答えは出せない。思考がループしてしまっている。
ループから抜け出すにはどうしたものか。答えは簡単。閉じているループの外側から抜けてしまえばいい。とりあえずは、演劇のことについて、だな。
「先生、紙一枚もらいますよ」
ソファの脇にあった紙束から一枚抜き、隣室の平塚先生に声をかける。間延びした声で返事が返ってくる辺り、どうやら先生はくつろいでいるようだ。
白紙をテーブルの上に置き留美を見ると、きょとんと首をかしげていた。いちいち挙動が可愛いな、こいつは。一色と違ってあざとくないし。
「さて留美。今留美が陥っているような、明確な答えのない問題に立ち向かうにはどうしたらいいと思う?」
「え? ん、と。別の視点から考えてみる、とか?」
「そうだな。スタート地点がわからないなら、ゴール地点から考えてみればいい。答えから逆算するってことだな」
「答えのない問題なのに?」
「明確な、答えのない問題な。つまり、答えは幾通りあっても間違いじゃない」
言うと、留美はさらに首をかしげていた。小学生にはまだ難しかったかもしれないな。というか、俺が留美にわかりやすいように伝えてやらなきゃいかんのだろうが。
「今、留美は自分が何をしたいのか、何が出来るのか、どうしたらいいのか、わからない状態にある。間違いないか?」
「……うん」
「そんな時はとにかく選択肢を全部出す。出来る出来ない、なれるなれないは考えずに解答を出す。そこから過程を逆算する」
スタートがもやもやしているならゴールから逆算する。ついこの間、一色発案による修羅場を経験した時にも重宝した手法だ。
懐からボールペンを取り出す。さて、何を中心とするべきか。
演劇、俳優、演技……いや、ここはこれでどうだ?
「舞台?」
「ああ。舞台で活躍する職業をとにかく出しまくる。思いつく限りあげてみな」
「舞台……まずは俳優、だよね」
「舞台俳優、だな。他には?」
「えーっと、……あ、吹奏楽。フルートとか吹くやつ」
「ほいほい。それは音楽家ってことでいいか」
舞台から線を伸ばし、舞台俳優、音楽家、と書く。
「他には思いつくか?」
「そんなすぐにポンポン出ないよ」
「んじゃ、俺が、っと」
別の角度でマジシャン、芸人、と追加する。
「え、私そんなのできないよ」
「いいんだよ。とにかく解答を出すと行ったろ? バンバン出してけ」
昔、受験漫画で読んだのだが、メモリーツリーという記憶方法がある。関連する事項を繫げていき暗記する方法だ。今回は暗記する必要は無いが。
それに加えてブレインストーミングをやっているのにも近い。シミュレーションを繰り返しスキームの作成に注力する必要があるのだ。おっと、また意識が高くなってしまったな。
まあ、それにしてもお笑いはないな。留美がコントをするなんて、色々と無駄遣いだ。
「とりあえずは全部出し切ろう。他には……ああ、オリンピックでやってる体操とか新体操なんかも舞台の一種か」
「ん……そういうのもありなら、フィギュアスケートとかもそうかな。お母さんがよく見てる」
うん。留美も乗ってきたようだ。
「あと、バレエとか」
「バレエって、あれか。トゥシューズ履いて踊るやつ」
「画鋲入れられたりするやつ」
何故その年齢で知っている。留美……おそろしい子! あ、でもあれの元ネタってガラスの仮面じゃないんだよな。
「オペラもあったな。確か、バレエってオペラから派生したものだってどっかで聞いた気がする」
「そうなの?」
「詳しくは知らんけどな」
と、ここまで書いたあたりで俺も留美もネタが尽きてきた。
第二段階として項目から派生させるわけだが……適当に書いた割にいい感じに隣り合っているように見えた。
「さて、それじゃ項目同士で連想するものをあげていくぞ。今度は舞台に限らなくていい」
「うん。まずは舞台俳優からドラマ俳優かな。テレビに出てる方」
「テレビに出てくるっつったら歌手もそうだな」
何となくテレビを見ているだけの俺には特に好きな俳優も歌手もいないのではあるが。アニソン・ゲーソンは別として。
「そういや留美。日曜の朝はどうしてる?」
「日曜? 別に友達と遊ぶこともないし、適当に過ごしているけど?」
「スーパーヒーロータイムとか、プリキュアを見たりなんかは?」
「昔は見てたけど、今は別に興味ないし」
むう。最近の小学生がませているのか、留美が大人びているのか。ハピネスチャージしたりプリンセスを夢見たりはしないのか。
「そうか。変身前のヒーローは俳優がやっているけど、変身後はスーツアクターがやっているってのは知ってるか? スタントマン、とはちょっと違うけど」
誰か一人芸能人に会える権利をもらえるとしたら、俺は高岩成二さんを選ぶ。岡元次郎さんも捨てがたいが。
留美はへーっとばかりに俺が書いた文字を見ていた。
「それに敵の怪物とか、アニメのキャラとか、バラエティのナレーションなんかは声優が声をあてている」
「ふーん。八幡は見てるの?」
「見てるぞ。今時幼稚園児も見てるんだから、留美も見ておいたほうがいいんじゃないの? 遅れてるよ」
「……ふーん」
侮蔑の言葉こそなかったが、留美の視線は明らかに俺を蔑んでいる。クールな美少女小学生にそんな視線で見られる俺に謎の感覚が走る。
小町に嫌がられている親父もこんな感じなのだろうか。だから親父はいつまでも小町への過干渉をやめないのだろうか。どうでもいいか。
「俳優、歌手に加えて声優となると、ここらへんからアイドルっていう線も出てくるな」
「アイドル? なんかバカっぽくてやだな」
クール、キュート、パッションな彼女たちは真面目にひたむきに頑張ってはいるが、現実のアイドルは留美のお気に召さないようだ。いざやるとなればアイ!カツ!とか言いながらトレーニングしそうだが。
「バカっぽいって、おい」
「斧で木を切ったり、紐で引っ張ったりするんでしょ」
まあ、確かに最近のアイドルというか、テレビは迷走している感が否めないが、それはアニメの話だ。アニメと現実の区別がつかない今時の子供がここにいた。っていうか、まさにアイカツじゃねえか、それ。
心配そうに留美を見やると、留美は小さく笑った。
「ちょっと前に、チャンネル適当に回してたときに見ただけ」
「……あれ、ひょっとして俺、からかわれた?」
言うと、留美はフフッヒと笑う。うーむ。いつもこんな感じに笑っていればボッチ脱却、モテモテ間違いなしなのだろうに。
ボッチとはかくも厳しいものなり。
「あ、バレエで思いついた。夜、駅の中で踊ってる人見たことある」
「ああ、俺もあるわ。ストリートダンサーか。大会とかあるらしいな」
ストリートダンサーのライダーもいることだし、最近ではメジャーになってきたのではなかろうか。それが判断基準なのもどうかと思うが。
あの監督だから主要人物全滅エンドもありえるかと思ったが、思いのほかマイルドに締めたなと思ったものだ。
「そういや、サーカスと大道芸人があったな。体操で思いついた」
「どうして?」
「体操経験者がサーカスに所属するってのがよくあるらしい」
からくりサーカスアニメ化しないかな。うしおととらもアニメ化したことだし。しろがねとか、いいよね。
「吹奏楽とオペラで思いついたぞ。声楽家だ」
「声楽家って歌手とは違うの?」
「合唱する人とか、楽器を使わない音楽家みたいなもんか」
さすがにそろそろ本当にネタ切れか。俺も留美も意見が出なくなった。ここで別の視点に切り替える。
「それじゃ、次に演劇を中心に考えるとだな。こんな感じか」
余白に演劇を中心に、演者、裏方、台本、監督、とクリスマスの演劇の経験を元に思いつく限り挙げる。
「演劇に関わる人って、実際に演じる人だけじゃないのはわかるよな」
「うん。小道具作ったりする人とか」
「他にも、劇途中で舞台装置を入れ替えたりもするだろうな。ほら、場面が変わるとき書割を変えるだろ? そこらへんをまとめて裏方と書いたが」
「手早く正確にやるの大変そうだよね。台本って、書く人?」
「そうだな。元ネタのストーリーをシーン分けしたり、公演時間に合わせてやる部分を取捨選択したり。もちろんオリジナルを作ったりもあるだろうけど」
「うん、なんとなくわかる。監督はわかるけど、八幡がやっていたプロデューサーって結局どんなの?」
「全体の管理者だな。興行とか演者の選定とか……会社で言うなら社長みたいなものか?」
「ふーん……?」
まあ、ここらへんは付随のものであって、留美の進路には関係ないことだからな。何となくわかっていればいいだろう。
と、まあつらつら書き連ねたが留美の相談はここからだ。結果は大体そろったので、過程を考える。
とはいえ、
「さて、書いてて思ったんだが、実はこれらを経験するためには部活とか町の教室とか、そういうのに通えばよかったりするんだな、これが。アイドルだって養成所ってのがあるし。調べれば付近で開催している教室とか結構ありそうだけどな」
「うん。うちの近くにピアノ教室とかあったと思う」
職業の脇に、教室、部活、養成所などなど、紙にさらに書き込む。マジシャンとお笑いは、弟子入りでいいのかな?
「そこでまた質問だが、留美はそういうのに通ってみたいか?」
「通えるのなら。でも何に通いたいかって聞かれると、わからない」
留美は眉根を寄せて答える。大体留美の葛藤が掴めてきた気がする。思春期特有の悩みってやつだな。
やりたいことがあるけど、何をどうすればいいのかわからない。
先が見えないから動くことにすら踏ん切りがつかない。
それと、まとまっていない考えを親に伝えるのを躊躇っているってところか。
俺には無かったけどな。将来の夢は専業主夫だし。お料理教室とかに行ってみるべきだろうか。
「アイドルとかなら、千葉駅あたりをうろついていればスカウトとかに会うかもしれないな」
「そういえば、同級生にそういう子いた。何か、読モ? っていうのになるんだかなったんだか」
「普通に可愛い子なら結構ある話らしいな。一回こっきりか、専属モデルになるか、その子次第だろうけど」
小町が読モになるとか言い出したら、俺はどうすればいいのだろうか。応援すべきか、止めるべきか。千葉の兄貴として応援すべきか?
ともあれ、ここで俺は紙をもう一度見直す。一通り見て漏れがないことを確認した。
「さて、留美。それじゃ本題の劇団員なんだが……」
「うん」
「どうすりゃなれるのかよくわからん」
いや、正直な話まったく身近でない上に、テレビ俳優と違ってマイナーといっていい職業だ。スカウトなんてやってるのかわからんし、養成所的なものがあるのかもわからん。
劇団の人が練習しているのはテレビで見たことがあるが、ある程度の実力がないと所属も出来ないのか? 試験とか面接があるのか?
「そう……そう、だよね」
「ただ、調べることは出来る。お前が……留美が俺以外のやつに今回の相談事を話してもいいのなら、色々と情報を得ることは出来るぞ?」
「え……?」
俺だけでは手詰まりである。であるならば、文明の機器の力を使うべきである。
つまり、インターネットだ。
まだ部活の時間はあるので、雪ノ下も由比ヶ浜もまだ部室にいるだろう。さすがに携帯電話では限界があるので部室のパソコンを使いたいのだが、留美を連れて部室に行き、二人がいる中で二人に内緒でパソコンをいじるのは無理がある。
となればあいつらに留美の事情を話さなくてはならない。安易に人の手を借りるのは好きではないが、今回の件ならば多方面からの視点も重要ではある。
むしろ、雪ノ下辺りなら劇団公演とか見に行ったことがあって詳しいかもしれないし。
ただ、それも留美が許可すればの話だが。
「というわけで、奉仕部の部室にパソコンを使いにいこうと思うんだが、どうだ? 留美が嫌だって言うんなら、家で調べてくるぞ。急ぎってわけじゃなければ、そっちでも俺としては一向に構わない」
俺の言葉に、留美は少し考え込む。
わざわざ親でも教師でも無く、俺に相談する類の悩みだ。殊更に人に知られたくはないだろう。ひょっとしたら、あるかどうかわからん留美の俺への信頼を裏切る提案かもしれない。
だが、留美のことを考えれば万全を期しておくのは悪いことではあるまい。
留美は、しばらく俯きながら考え、小さくうなづいたのだった。
俺ガイル2期の良かった点:留美可愛い・玉縄の面白さを引き出した
俺ガイル2期の悪かった点:キャラデザは1期のほうが好き・はしょりすぎ。2クール使って欲しかった・なんでクリスマスイベントダイジェストなの
他にも、会議のとき棒立ちと言うか棒座りと言うか、ただ並んで座っているのが気になったりしてました。肘かけたり寄りかかるとか、差異をつければいいのに。
巷では脚本の1期、作画の2期なんて言われているようですが、それでも私は俺ガイルが大好きです。