踏み出す一歩   作:カシム0

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 いつの間にやらUAが一万五千を超えていました。ありがとうございます。

 エピローグです。
 仕事やら忘年会で遅くなって申し訳ない。
 この後中学生編に入ります。

 じゃあどうぞ。


そうして、鶴見留美は……

 

 

 留美との演劇鑑賞の日の後。

 帰宅すれば小町にデートはどうだったとしつこく質問され、週明けに登校すれば由比ヶ浜にも同じ質問をされた上不貞腐れられ、一色は妹キャラであざとく絡んできた。俺の反応が鈍いことが分かったとたんに辞めたが。だって、天然ものの妹である小町や、天然で可愛いしぐさをする留美と比べるとなあ。

 そして放課後の雪ノ下は俺の眼鏡姿を見て誰と聞いてきた上に、眼鏡を外した俺を見て誰ときた。そのネタは去年の夏にやっただろう。

 全員揃ったところで留美の悩みについて簡単に話しておいた。演劇への興味については鑑賞後の雰囲気からすると深まったようだ。家族との関係については留美次第でどうにかなるだろう。

 本人の承諾なしに話していいことではないので若干ぼやかして話したが、三人ともほっとしていたようだった。

 

「ほら、やっぱりわたしの言った通りじゃないですか」

「まだ留美の悩みが解決したわけじゃないけどな。それに俺がどうにかしたわけじゃないし」

「でも、悩んでいるときに、誰かに聞いてもらうだけで楽になることってあるよ?」

 

 気楽そうな由比ヶ浜にも悩みはあるのか、と茶々を入れたくなったが自重した。俺や雪ノ下のせいで由比ヶ浜に負担を掛けさせてしまったことはまだ記憶に新しいし、俺が由比ヶ浜について知らないことは多々ある。

 

「結衣先輩も悩むんですねぇ」

「いろはちゃん、どういう意味!?」

 

 と思ったら一色が茶々入れた。もー、とか言いながら一色とじゃれあっている由比ヶ浜の姿を見るに、確かに悩みは無さそうに見えるが……あるよな?

 

「留美さんなら大丈夫でしょう。しっかりしているし、ロリ谷君が頑張ったようだしね」

「留美がしっかりしているのは確かだし、気にかけてんのは確かだが、人をロリにすんじゃねえよ。お兄ちゃんにしろ、せめて」

「ふふ、そうね。お兄ちゃんが頑張ったようだしね」

 

 涼やかに笑う雪ノ下にドキリとしてしまうが、その前の毒舌を忘れちゃいけない。だから、今動悸が激しくなっているのは気のせいだ。

 

「ったく、どいつもこいつも人をロリコンにしやがって」

「だって、先輩の留美ちゃんの可愛がり方、ずいぶんですよ?」

「留美ちゃん可愛いもんね」

「そりゃ留美が可愛いのは認めるが、歳が下過ぎるだろ」

 

 そんなにロリコンに思われるような扱いをしただろうか。異議を申し立てたいところである。

 

「へ~、それじゃあ先輩のストライクゾーンって私たちくらいですか?」

「ああ」

「へっ?」

 

 あ、いかん。留美への扱いについて考えていたら、条件反射で返事をしてしまった。

 迂闊な返事をしてしまい、何を言われるやらと思ったが、何も言われない。

 あざとさ全開で聞いてきた一色は髪をいじっているし、雪ノ下は目線が定まっておらずマグカップをいじったり、由比ヶ浜もニヘヘと笑ったりと落ち着かない様子だ。

 いや、そういう反応されるのも困るんだが。

 それから、何となく話すこともなくただ時間が過ぎていくのを待っていた。

 いや、ホントどうしよう。

 

 

 

 

 

 そして後日。

 川なんとかさんと三浦発端によるお料理イベントの準備は進んでいる様子だ。毎日のようにちょこちょこ一色が部室にきて、進展状況を語ってくる内容を聞く限りではだが。

 その日の奉仕部は、いつものように読書とお茶とお喋り(一部)に興じていたわけだが、不意に俺の懐が震えた。

 暇つぶし機能付き目覚まし時計であるところの俺の携帯電話を取り出す。二人してまたも珍しいものを見たような顔をしている。数日前にもこのくだりをやった気がするが、ともかく、メールを見る。

 

 From:平塚先生

  比企谷くん。用件があるので応接室まで来てください。

 

 あれ、このメール再送信しただけじゃないの? 気になってメルマガの海に沈みそうになっていた前回の平塚先生のメールを見てみたが、今度は応接室になっていた。

 普通の学校生活を送っていたら、生徒指導室以上に要件のない部屋だ。いったい何の用があるのやら。

 

「比企谷くん、迷惑メール対策したら?」

「いや、平塚先生だよ。ある意味迷惑っちゃ迷惑だが」

「ヒッキーひどーい」

 

 いや雪ノ下も相当だと思うけどな。あの人のメールは時々……頻繁に、怖かったりめんどくさかったりするんだもんよ。

 

「何か知らんが、呼ばれたから行ってくる」

「そう……この時間なら下校時刻までには戻ってこられるかしら?」

「ああ、多分大丈夫だと思うが」

「それじゃ、待ってるよ」

 

 行ってらっしゃいとブンブン手を振る由比ヶ浜と、おずおずと恥ずかしそうに手を振る雪ノ下に見送られ、俺は部室を出た。

 

 

 

 応接室は職員室の隣にあり、普通の生徒が呼ばれることはまずない。考えたこともなかったが、誰が来た時に使うのだろうか。考えられるのは他校の教師だとか、後は保護者か?

 平塚先生がわざわざ応接室に呼び出したということは、俺に用事のある誰かが来たということだろう。それが誰かとなると……さっぱりわからん。

 考えてもどうしようもないことを考えるのは、俺の習性と言ってもいいかもしれない。

 適当なことを考えていると、いつの間にやら応接室に着いていた。

 

「失礼します」

 

 ノックし入室すると、携帯を片手にした平塚先生がこちらをギロリと睨んできた。

 

「比企谷、君はメールに返信するということをなぜしないのかね?」

「いや、だってすぐですから」

「……まあいい。君にお客様だ」

「はあ……」

 

 平塚先生が目くばせしたのは、部屋に入ってからすぐに目についていた人たちだ。ソファに座っている。

 年のころは四十歳くらいだろうか。柔和な表情をしたスーツを着た男性と、肩までの黒髪のキリッとした女性だ。おそらく夫婦だろうとは思うが、面識はない。

 面識はないのだが、女性の方に何か既視感がある。ありていに言って美人で若々しい。平塚先生と並んでいても同年代見える。いや、平塚先生がアラフォーに見えるという意味じゃなくてだな。

 

「比企谷、なんだその目は?」

「あ、いえ、何でもないっす」

 

 チラッと平塚先生を見ただけで何を考えているのか察せられてしまった。女性の勘の鋭さは恐ろしい。

 しかし、血の気が引いたためか、何が気にかかっていたのかがわかった。この女性は留美に似ているのだ。

 夫婦がソファから腰を上げ、俺に会釈をしてくる。

 

「はじめまして比企谷くん。鶴見留美の父です」

「同じく、母です」

「ど、どうも。比企谷八幡、でしゅ」

 

 いかん、うろたえて噛んでしまった。初対面の人にこんな丁寧な対応をされるなんてぼっちには厳しい。握手を求められなくてよかった。

 

「比企谷、呆けていないで座りたまえ」

「は、はい」

 

 平塚先生に促されソファに座る。対面に留美のご両親、横に平塚先生。なんだろう、バイトの面接より緊張する。

 

「えっと、これどういう状況ですか?」

「鶴見くんのご両親が君を訪ねてきたので呼び出した。簡単だろう?」

「いや、そりゃわかりますけどもね」

 

 居心地が悪くて仕方ない。ご両親を見ると、優し気に微笑んでいるのでさらに腰の座りが悪くなる。

 

「比企谷くん。いきなり訪れて申し訳ない。忙しくはなかったかな?」

「は、はあ、部室にいただけなんで、特に問題はないですが」

「それはよかった。今日君に会いに来たのは、留美のことなんだ」

 

 ご主人の方が話をするとでも決めていたのか、奥さんの方は話す様子がない。

 とりあえず、ご主人の話を聞くことにした。

 

「先日、留美が演劇を見に行った日、私と妻を呼んで話をしてくれたんだ。私たちに相談できなかった学校でのこと、クリスマスのころから感じていた違和感のこと、そして自分のせいで私と妻がケンカしていると思っていたこと」

 

 なるほど。留美はあれから腹をくくってご両親に思いの丈をぶつけたようだ。それがこうしてお二人が俺に会いに来ているということは、事態は好転したと見ていいのだろうか。

 

「昔から留美は賢く優しい子で、私たちが共働きしていることで寂しいだろうにおくびにも出さず、協力してくれていてね。内心を隠すのがうまくなってしまったんだ。私たちはそれに甘えて、気づけたであろうサインにも気づかず、留美を怖がらせてしまった。両親の不仲など、子供が恐れる最たるものだというのにね」

 

 ソファに座り手を組んでいうご主人の姿は、自分のしたことを悔いているように見える。だからこそ、なんで俺にそんな話をしてくるのかがわからない。

 

「あの、お話し途中にすいません」

「ん、何かな?」

「結局俺を呼びだした理由は何なんです?」

 

 いきなり呼び出されて、言い訳がましく事情を説明されて、俺にどうしろというのか。そもそも俺に鶴見家の事情に首を突っ込むつもりなんかないのだ。

 

「言い方が悪いのは申し訳ないですが、懺悔だったら教会にでも 行って牧師さんだか神父さんにしてください」

「おい比企谷」

 

 留美本人から結果を言いに来るのなら聞かないでもないが、俺としては留美の相談はもう終わっている。別にご両親に対して怒っているわけではないのだが、俺に何を話したいのか。

 俺の無礼な物言いにも関わらず、奥さんは俺をじっと見ており、ご主人はなぜか笑っていた。

 

「はは、いやすまないね。留美の言った通りの性格のようだね、君は」

「はあ」

「年を取ると話が回りくどくていけないな」

 

 歳の話はしないでください。隣の人が微妙に反応しますから。

 ご主人は、佇まいを直すと俺に頭を下げた。

 

「比企谷くん、ありがとう。留美の相談に乗ってくれて。これからは留美を悲しませることをしないと誓う」

「……俺に誓わないで、留美に誓ってくださいよ」

「はは、もちろんだ」

 

 そしてご主人は隣の奥さんに目配せすると、今まで黙っていた奥さんが口を開いた。

 

「改めて、私からもお礼を言わせてもらいます。ありがとう、比企谷くん」

「あー、その、そもそも俺は何もしていないので、お礼を受け取るいわれもないんですがね」

 

 ご主人も苦手だが、奥さんはもっと苦手だ。クールな美熟女が微笑んでこちらを見ているだけで腰が引けてしまう。

 

「あなたのおかげで留美ちゃんの気持ちがわかったし、私たちがいかに親であることをさぼっていたかを自覚させられたわ。家族という立場に甘えて努力を怠っていたのだから、これから取り返さないとね」

「はあ……頑張ってください」

「ええ。留美ちゃんを賢く優しい子に育てたのは私たちですからね。頑張るわ」

「……」

 

 留美め、そんなことまで話したのか。気恥ずかしくなって目を反らして頬をかいていると、平塚先生が慈愛の目で見てくるものだから俺はどこを見ればいいのやら。

 なんであれ、留美の悩みはやはり勘違いだったということだ。こんなに留美のことを愛しているのが伝わってくるのだから。

 

「えーと、お話はこれで終わりですか?」

「ああ、そうだね。君にお礼を言うことが目的だったから。わざわざ来てくれてありがとう」

「比企谷くん。留美も来ていて、今奉仕部の他の人たちにご挨拶に行っているの。会ってあげてくれるかしら?」

「ええ、もちろん。それじゃ平塚先生」

「ああ、ご苦労だったな比企谷」

 

 そうして俺は応接室を後にした。

 しかし、留美もさっそく会いに来るとは。あいつらそうとう慕われてるようだな。

 

 

 

「いやー、中々に難物ですね、彼」

「捻くれて歪んで面倒くさい奴ですからね」

「そんな彼だから留美ちゃんの悩みに気づけたのでしょうね」

「ふふ、機微には聡いようですから」

「んー、男親としては複雑な気持ちだなぁ」

「え?」

「あら、女親としてはいい子を見つけてくれたと思うわよ」

「え?」

「まあ、まだ何年後かの話だとは思うけど、彼と酒を酌み交わすのも面白いかもね」

「うちに連れて来たら留美ちゃんが頑張って手料理振る舞うんじゃないかしら」

「ええ~?」

 

 

 

 

 

 部室に戻ると、中から会話が聞こえてきた。姦しい感じからすると、一色もいるようだ。ホントにあいつはいつでもいるな。

 

「うーい、戻った」

「あ、先輩、留美ちゃん来てますよ」

 

 いつもの位置に腰掛けていた一色が振り返り手招きする。

 言われずとも留美の姿は部室に入ってすぐに目に入っていた。俺の席に腰掛けていたからだ。

 

「八幡」

「おうルミルミ、元気か」

「うん、元気。でもルミルミっていうのキモい」

「まあそう言うなよルミルミ」

「気持ち悪いです」

「あ、敬語辞めてください。ごめんなさい」

 

 別に先住権を主張するつもりもないので、イスを持ってきて留美の隣に座る。なぜか、留美に不服そうに睨まれた、何故だ。

 

「っていうか、ヒッキー。あたしのあだ名の話の時、笑ってたよね?」

「ああ、ユイユイな」

「なんで留美ちゃんはルミルミなの?」

「いやほら、だって、歳考えろよ」

「同い年だよ!?」

 

 同い年だから言ってんだけどな。いや、今はそんなことどうでもいいか。

 

「留美、さっきご両親に会ってきたぞ」

「うん。八幡のこと話したら、お礼言いたいっていうから」

「俺は何もしていないんだがな。悩みが解決したのなら、それは留美が頑張ったからだろ」

「八幡はそう思ってるかもしれないけど、私も、お父さんもお母さんもお礼を言いたかったの」

 

 留美はそういうと、持っていたカバンから何かを取り出して後ろ手に持ち、俺の横に立った。

 

「八幡、ありがとう」

「……ああ。留美が元気になったんなら、何よりだ」

「……うん」

 

 ちょうどいい位置に頭があったので、留美の頭を撫でる。この間の反応から嫌がられていないだろうし、もはや留美にお兄ちゃん行動をするのに躊躇いはない。

 

「比企谷くん、女性の頭に勝手に触れるのはどうかと思うけれど」

「そうですよ! 私だったら許可出しますけど」

「留美ちゃん……いいなぁ」

 

 だから他の連中の声なんか気にしない。お兄ちゃんとして普通の行動をしただけだ。

 

「それでね、その……」

「うん?」

「これ……もらってくれる?」

 

 言って、留美が隠していたものをもじもじと俺の眼前に差し出した。軽くて中には何個かが入っている感じがある。

 可愛くラッピングされた四角形の箱だ。はて、俺はこれと同じものを見た記憶はないような、ずーっと昔に見たことがある様な。

 で、何で三人は固まってるんだ?

 

「あー、なんかわからんけど、もらっとくよ。ありがとな」

「……絶望的に察しが悪い」

「だから絶望的は余計だと」

「はあ……バレンタイン」

「あん?」

 

 バレンタイン? 何だっけ、それ。ああ、お菓子屋の陰謀の日か。

 ん、っていうことは、これはひょっとして?

 

「だから、バレンタインチョコ。当日に会えるかわからないし、もうすぐだから持ってきたの」

「お、おう、そうか」

「昨日、お母さんに教わって手作りしたんだけど……初めてだったから、味の保証はできないけど」

「いや、嬉しいよ。初めて妹以外からもらったかもしれない」

 

 思い返せば、同級生からすらもらった記憶はない。お袋は家にチョコレート菓子を置いておいて、それをバレンタインと言い張るレベルだし。今年は小町はチョコくれるかなぁ。受験で忙しそうだしなぁ。

 

「ヒッキー何ニヤニヤしてんの!? キモイんだけど」

「先輩、ドン引きです」

「一色さんの言う通り、留美さんへの対応はかなり違うわね、ロリ谷くん」

「俺ホントいい加減に訴えたら勝てるレベルだと思うんだけどな」

「あなたと私の社会的信用を鑑みてみたらどうかしら?」

「あ、はい、そうですね」

 

 ダメだ。口で勝てる気はしない。俺を傷つけるこいつらは放っておいて、留美で癒されよう。

 

「あー、その、ありがとうな留美。大事にいただくよ」

「……うん。あと、この間来た時の八幡が書いていた紙、まだ持ってる?」

「ん? ああ、あれか。そういや、なんとなく持ってたな」

 

 書いた紙、とは職業を書きなぐったあの紙だろう。全く意味はないがなんとなく捨てずに懐に入れっぱなしにしていた。

 

「ほら」

「もらっていい?」

「まあ、別にいらんし」

「……うん。演劇は、よく考えてみたいから」

「参考になるかはわからんが、わかった」

 

 内ポケットから紙を出し留美に渡すと、カバンを手にタタタっとドアに駆けていった。日が暮れてきているせいか、顔が赤く見えた。

 

「雪乃さん結衣さんいろはさん、お邪魔しました。八幡、またね」

 

 振り向いて一気に喋ると慌ただしく留美は部室から出て行った。ゆっくりしていけばいいのに、とは思うが、せっかくご両親と仲直り(?)したんだ。他人である俺たちより、ご両親との時間を長く取った方がいい。

 

「留美ちゃん……やはり伏兵か」

「一色、何をわけのわからんことを言ってるんだ」

「ヒッキー、あの、今年のバレンタインは、ほら、ね?」

「いや、ほらとか言われても」

「……」

「雪ノ下、無言で睨むなよ、怖い」

 

 しかし、留美が去った後のこの奉仕部の雰囲気はどうしたものか。留美がいなくなっただけで雰囲気が悪くなるとか、こいつら留美のこと好きすぎだろ。

 まあそれはともかくとして。留美の悩みは解決したということでいいのだろう。それに、少しでも力になれたのなら、誇ってもいいのではないか。

 若干清々しい気持ちにはなったが、当面はご機嫌斜めな三人の女子をどう宥めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の廊下を走ってはいけないとはわかってはいるけど、少しでも早く部室から離れたかった。

 いやな場所じゃない。あそこにいる人たちはみんないい人で、すごく良くしてくれる。でも、今は八幡の近くから早く離れたかった。

 顔が熱い。胸の鼓動が激しい。

 きっと今私の顔は赤くなっているのだろう。

 走っているのが理由ではないのはわかっている。嬉しいのと恥ずかしいのが半分ずつだ。

 小走りで応接室に向かう。ちょうどお父さんとお母さんが部屋から出てくるのが見えた。

 私は、その勢いのままお母さんに抱き着いた。

 

「あら、留美ちゃん。ちゃんと渡せた?」

 

 お母さんの質問に、私はお母さんのお腹に顔を埋めたまま頷いた。

 

「ふふ、真っ赤にしちゃって。可愛いんだから」

 

 お母さんが優しく髪を撫でてくれる。この間は落ち着けたけど、今日は全く落ち着けない。胸の鼓動が鳴りやんでくれない。

 

「お父さんは複雑な気持ちだよ」

「あなたにもチョコレートはくれたでしょ?」

「それでも、ね」

 

 お父さんも頭を撫でてくれた。

 平塚先生に挨拶をして、私はお父さんとお母さんと手を繋いで学校を出た。二人とも今日は休みを取っていて、外食をして帰ろうと話をしている。

 学校を出るときに、夕焼けに染まって赤くなっている校舎を見た。どこらへんが奉仕部なのだろうか、八幡はどこにいるのだろうか探してしまった。

 ああ、もうどうしようもないほどにわかってしまっている。

 落ち着かない気持ちだけど、これだけは一つしっかりしている。

 

 

 

 私は、八幡が、好き、だって。

 

 

 




 これから出勤なので公正はまた後日。
 全体の後書きを投稿するか、活動報告に乗せるか、考え中。
 12月24日とか、平日ですよね。なんの行事もありませんよね。

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