踏み出す一歩   作:カシム0

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 前回後書きでヒロインが非処女どうこうと書いたら感想で多くの反応がありました。
 ヒロインが主人公の前に好きな人がいた場合はどうでしょう?
 少女漫画ではよくある展開ですが。

 それはともかくいいタイトルが思いつかなくなってきました。

 それでも書き続けますので、どうぞ。


山北真希は三角が嫌い。

 

 

 

 心と体がつながっているとはよく言ったものだ。

 部活前に開成くんともめた(と言っていいのかわからないけど)せいか、全然練習に身が入らなかった。真希ちゃんや先輩にもそれが伝わったのか、ずいぶんと心配させてしまった。

 掴まれた肩が痛かったのは少しだけで、部活を始めるまでに痛みは引いていた。あざにもなっていなかった。でも、いざ練習をしようとしたとき、肩に痛みが走った。

 技に入る前だったのでケガも何もなかったのだけど、調子の悪さを先輩に見抜かれてしまい、補助と基礎連だけをすることになった。調子が悪いのは事実なので仕方ないとは思うけど、どうにも消化不良というか、部活が終わっているのに体が疲れていないのに違和感がある。私も随分体育会系になったものだ。

 そして、いつもの真希ちゃんとの帰り道、私は真希ちゃんに公園に引っ張られていた。

 

「私が何を言いたいのかわかるよね?」

「……うん」

「私が心配しているのもわかるよね?」

「……うん」

「じゃあどうぞ。何でも聞くよ」

 

 真希ちゃんは強引だ。隠すつもりはないし話したくないわけでもないんだけど、この強引さが今はちょっと、嬉しい。

 私は、部活前の開成くんとのあれこれを真希ちゃんに話した。その内容に真希ちゃんは驚き、怒り、そして心配してくれた。

 

「ケガの具合はどうなの?」

「ううん、全く。練習中はちょっと違和感を感じたけど、今は何とも」

「そっか……」

 

 ほっとした顔をする真希ちゃん。ずいぶん心配をさせてしまったようで申し訳ない。

 そして真希ちゃんはうーんと思案顔になる。

 

「開成くんって、隣のクラスの子だよね。小学校の頃留美ちゃんとの仲はどうだったの?」

「普通のクラスメイトだったよ。ただ、その……」

「うん?」

「……そのころ仲が良かった子たちとうちのクラスだったら誰が好み、みたいな話になって。特に興味がなかったから、クラスで人気のあった開成くんの名前を出したことはある」

 

 日常のなんてことのない一コマだったから、今の今まで忘れていた。ひょっとしたらそれがねじれ曲がって伝わって、私が開成くんを好き、という話になったのだろうか。

 

「あー、それってありそうだね」

「ほとんど話したこともないし、あっちも私を気にしていた様子はなかったんだけど」

「奥手をこじらせちゃったかー」

 

 奥手、なのかな? 開成くんはいわゆるクラスの人気者で、彼を好きな子はけっこういたはずだ。よく男女数名のグループで遊んでいたようだから、慣れているような気がするけど。

 返す返す思うけど、何で開成くんの名前を出してしまったのか。あの時話していた子たちは、みんな男子の名前を出していた。その中で私だけ言わないわけにはいかない、ある種強迫観念があったように思う。

 今も昔も怖いのは場の空気というやつだ。恐れずに自分を殺さずいられたらよかったんだけど、当時は周りから外れることを恐れていた。強くはいられなかった。

 たった一言がここまで後を引くことになるとは思いもしなかった。

 

「噂の広まり具合は上々なようだけど、変なのひっかけちゃったね」

「変なのって……まあ、そうだけど」

「どうしたものかね。あっちが告ってきたら振っちゃえばいいんだけど」

「うん……でも、二人きりで会うのはちょっと、嫌かな」

 

 というより今は男子が怖い。男女の力の差を思い知らされたようで。

 今回はケガがなかったけど、次もそうだとは限らない。思い返すとまた怖くなってくる。

 

「私も一緒に行くよ。隠れてて、変なことされそうになったら出ていくから」

「え、だめだよそんなの」

 

 今度は真希ちゃんは眉をひそめて私を見る。むうと口をへの字にしている。あれ、何か変なこと言っちゃったかな?

 

「私、頼りにならない?」

「真希ちゃんは頼りにしてるよ? でも真希ちゃんが危ない目にあっても嫌だし」

「留美ちゃんが危ない目にあったら私が嫌なの!」

 

 真希ちゃんがギュッと手を握り、私の目を見つめてくる。本当に私のことを心配してくれているようで、嬉しい。

 私は、いい友達と出会えたんだなと思うと、胸が熱くなる。

 

「……ありがとう、真希ちゃん」

「どういたしまして」

「えへへ」

「ふふ」

「……」

「……」

 

 そのあと、真希ちゃんと見つめあっていたんだけど、お互いに気恥ずかしくなっちゃって、自然と離れた。

 

「コホン。と、とにかく、だね。開成くんのことは放っておいていいと思うんだ。あっちから何かして来たら、その時に対処する。ね?」

「う、うん、そうだね」

 

 なんか変な雰囲気になっちゃった。そりゃ真希ちゃんのことは好きだけど、なんでこんなにドキドキしているんだか、私は。

 

「ところで、八幡さんとのデートはいつ?」

「土曜日の午後。八幡が予備校に行くから、それが終わってからだって」

「体操部も土曜日は午前だけだからちょうどいいね。どこ連れて行ってくれるって?」

「街をぶらつこうかって言ってたけど、具体的にどこかは聞いてない」

「へー、期待持たせてくれるね。サプライズするにしても、近くに珍しいとこあったかな」

「多分、サプライズとか考えてないよ、八幡だし。そんなにデート慣れしてないとか言ってたから、ただ行先決めてないだけだと思う」

「そっかぁ……ん、そんなに?」

 

 あ、やっぱり真希ちゃんもそこ気になるんだ。頷いて真希ちゃんの疑問を肯定する。

 

「同級生とか後輩の人とかと何回かデートしたことはあるって。本人はデートって言葉を使いたがらなかったけど」

「ほほぅ。八幡さんって、実は結構もてるの?」

「本人は絶対否定するし信じないと思うけどね。周りに可愛くて綺麗で優しい人が何人もいて、私の知っている人は、多分みんな、八幡が好き、だと思う」

 

 直接聞いたわけではないから、確実にではないけど。でも、短い時間でしか会っていないしやり取りしていないけど、みんなが八幡を気にしているのはわかった。

 そう言うと、何やら真希ちゃんは考え始め、意を決したように私を見た。

 

「ねえ留美ちゃん」

「なに?」

「私八幡さんとお話していい?」

「……どういうこと?」

 

 あれ、なんだかすごい低い声が出たような気がする。真希ちゃんが神妙そうながらも、ちょっと嬉しそうに見えたから、いや、真希ちゃんが嬉しそうなのに私が不機嫌になる理由はないよね。

 でも、このタイミングでその話をすると、なんか、うん。

 

「る、留美ちゃん? 大丈夫、八幡さん取ったりしないってば。いい人なのはわかるけど、ちょっとお話ししたいだけだから」

 

 真希ちゃんが八幡と話したがっているってだけで。ああ、そうか。私嫉妬しちゃったんだ。

 あれ、でもどっちに、かな。真希ちゃんに気に入られている八幡にか、八幡を気に入った真希ちゃんにか。……あんまり考えたくないな。

 

「あ、いや、ちょっと喉が詰まっただけだから。それで八幡と話すって、会いたいってこと?」

「ううん、それでもいいけど、私の電話番号伝えてくれればいいよ」

「ん、わかった。今夜伝えておくよ」

 

 真希ちゃんが八幡と話しても、仲良くなってもまったく問題はない。まあ八幡だし、真希ちゃんと仲良くなれるかどうかわからないけど、私の友達同士が仲良くなっても、問題はないよね、うん。

 真希ちゃんと別れ帰路に着いた私の頭には、開成くんのことはもはやなく、自分の心に生まれ出てきてしまった妬心をどうするか、それしかなかった。

 

 

 

 

 

 夜、夕飯を終えてお風呂に入り、部屋に戻った私は携帯電話を片手に悩んでいた。

 八幡に電話をして、ちょっとお話をするだけだというのに、昨日までだったらすごく嬉しいことだったはずなのに、躊躇ってしまう。

 八幡は何も知らないし、真希ちゃんだって他意はないはずだ。だから、私に問題があるだけだ。私のことを心配してくれる友達にさえ嫉妬してしまう、私の醜い心だけだ。

 

 ピリリリリッ

 

「っ!」

 

 悩む私の手の中の携帯電話が音を立てて震える。あまりに慌てたものだから取り落としそうになってしまった。

 相手は、八幡だ。

 ……もう、なんでこのタイミングで電話してくるんだろう。

 

「……はい」

『お、おう。そろそろ切ろうかと思ってたところだ』

「ごめん。お風呂から出てきたところだから」

『……そうか、悪いな』

「服着てるよ?」

『いやいや、別にそれで謝ったわけじゃないからな?』

「想像した?」

『してない』

 

 八幡の声を聴いたら嬉しくなっている自分がいる。さっきまで悩んでいたというのに、現金なものだ。

 

「それで、どうしたの? 八幡から電話って、珍しいね」

『そうだな。相当レアなことだぞ』

「雪乃さん達に自慢できる?」

『やめてくれ。雪ノ下はともかく、由比ヶ浜と一色は色々とうるさそうだ』

 

 奉仕部のみんなは相変わらずのようだ。雪乃さんも八幡のこと好きなんだろうと私は見ているけど、八幡はどう思っているのかな。結衣さんといろはさんはなんだかんだ言いながら結構押しが強いようだけど。

 ……うん、やっぱり私ももっと頑張らなきゃかな。

 

『土曜日のことなんだけどな』

「うん」

『テニスでもしに行こうかと思ったんだが、考えてみりゃ留美は部活明けだったんだよな』

「テニス? 部活は午前中だけだからそんなに疲れはしないだろうから大丈夫だと思う。八幡がテニス?」

『俺はインドア派だがスポーツができないわけじゃないんだぞ。テニスは得意な方だ』

「八幡がテニス……」

『意外なのはわかるが、そこまでか?』

 

 新たな事実。八幡がテニスか、想像つかないな。一人で黙々と壁打ちやってそうなイメージがあるけど。

 

『留美はやったことあるか?』

「ううん。いずれ体育の選択科目でやるみたいだけど、まだしたことない」

『だったら、軽くやってみるか。駅近くにスポーツセンターあるだろ? あそこレンタルもあるから手ぶらでいけるぞ』

「うん、やってみたい。八幡は行ったことあるんだ」

『ああ。前に友達とな』

「……友達?」

『意外そうに言うな。俺にも友達の一人や一人』

「一人だけじゃん」

 

 これまた新たな事実。八幡に友達がいたなんて……いや、いてもおかしくはないか。八幡の周りの人って女の人ばっかりナイメージがあるから。……それも面白くはないけど。

 

「それって男の人?」

『いや戸塚は戸塚……ああ、いや、な。男……だよ、うん』

「……?」

 

 今更隠すことないのに言いよどむのは何なんだろう、その戸塚さん? どういう人なのかな。

 八幡と友達になれるのなら相当にいい人か、変わった人なんじゃないだろうか。偏見かもしれないけど。

 

『とりあえず、そんだけだ。予定変わったら連絡くれ。ああ、待ち合わせは駅前でいいか?』

「うん、大丈夫。あ、それと……」

『なんだ?』

「真希ちゃん、覚えてる?」

『真希ちゃん? ああ、この間会った留美の友達か。えーっと、山北さんだっけ?』

「うん」

『どうした? ケンカでもしたか?』

「……」

 

 ケンカ、ではないんだけど。八幡は変なところで鋭いから困る。不意を突かれて言葉に詰まってしまった。

 

『ん、なんだ、本当にそうなのか?』

「う、ううん、違う。その、真希ちゃんが、八幡とお話ししたいって言って。八幡が良ければ、真希ちゃんに電話してもらえる?」

『は? 何だそれ。嫌だよ』

 

 ああ、八幡ならそう言うよね。確かに意味がわからないよ。一回会っただけの友達の友達が話したいとか。

 普通なら興味持たれたって思うところだろうけど、八幡はそうは思えないだろうし。

 

「無理に、とは言わないけど……」

『俺に女子中学生と話せとか、相当無茶ぶりだぞ』

「私も女子中学生だけど?」

『いや、留美はもう妹みたいなもんだしな』

「……へえ」

 

 また低い声が出た。

 八幡が私のことを小町さんのように、妹のように思ってるのはわかってはいたけど、いざ本人から言われると……何だろう、ムカツク。身内のように思ってもらえるのは嬉しいけどさ。

 

『……まあ、いいよ。電話する』

「いいの? 女子だよ? 中学生だよ?」

『そこまで連呼するなって。普通のキャピキャピした子なら嫌だし無理だけど、留美の友達なら、何とか大丈夫、だと思う』

 

 すっごい嫌そうな声なんだけど、本当に大丈夫かな。

 

「私の友達なんだから、変なことしないでね」

『電話で何ができるっつーんだよ』

「電話じゃなかったらするの?」

『……俺って、そこまで信頼ないか?』

「だって、八幡挙動不審で変なこと言いそう」

『……反論できないところだな』

 

 ヘタレの八幡だから変なことをしないとは思う。でもヘタレの八幡だからこそ変なことを言いそうではある。

 

「真希ちゃんは八幡初心者なんだから、気を付けてよね」

『俺からすりゃ難易度はベリーハードだよ』

 

 そうしてあらかじめメモしておいた真希ちゃんの携帯電話の番号を八幡に伝え、電話を切った。

 伝えておいてなんだけど、自分の友達同士が知らないところで仲良くなられるというのも、なんだか落ち着かない。

 八幡だし、仲良くなるよりドン引きされるのが関の山、と普通なら思うところなんだけど。真希ちゃんもどこか変わっているというか、私と仲良くしてくれるだけあって似通っているところがあるというか、正直八幡と真希ちゃんの会話がどうなるのか読めない。

 何とも言えないもやもやしたものを胸に、私はベッドに寝転んだ。

 

 

 

 

 

 お風呂から出て念入りにストレッチをする。体が温まっている内がより効果があるとは聞くけど、その効果は目には見えづらい。部活で体操部を選んでから継続してやっている日課だけど、小学校からやり続けていた留美ちゃんに柔軟性はまだまだ及ばない。それでもいつかは留美ちゃんみたいにペターッと開脚で地面に胸をつけてみたい。

 柔軟体操もじっくりやれば小汗をかくくらい疲労するものだけど、お風呂に入っているのにまた汗をかくことはしたくないのでほどほどに。

 そうしてストレッチを続けることしばし、私の携帯電話が震えるのがわかった。相手が見知らぬ番号なのを確認し、私は笑みを作るのを抑えられなかった。

 

「はい、真希です!」

『お、おう元気だな。えーっと、山北さんで間違いないか? 比企谷だけど』

「はい、間違いないですよ八幡さん」

 

 留美ちゃんはちゃんと八幡さんに教えてくれて、八幡さんはちゃんと私に電話をしてきてくれた。

 八幡さんとお話ししたいと言った時の留美ちゃんはちょっと怖かったけど、これも留美ちゃんの恋路のため。他意はないんですよ、うん。

 

「急なお願い聞いてもらってありがとうございます!」

『あー、まあ、めっちゃ悩んだけどな。しかし、最近の子は個人情報をどう思ってるんだ?』

「ケー番教えたことですか?」

『ああ。友達の知り合いだからって、たいして知らない男に電話番号教えちゃだめだろ、山北さん』

「真希でいいですよって、前に言ったじゃないですか」

『それは難易度高いって言ったよな?』

 

 むう。この間と変わらず八幡さんはガードが堅い。同級生の子なんか、こちらに承諾を得ないで何も言わずに名前呼びしてくる失礼で距離感むやみに近いのがいるというのに。でも、こっちがいいと言っているのに頑なに拒否されるのも何というか、癪に障る。

 

「知らない仲でもないじゃないですか。それに八幡さんのこと信じてますから」

『一回しか会ってないのに知らない仲とは言わんし、そんな男を簡単に信用するなって』

「留美ちゃんとのやり取りを見て、八幡さんが悪い人だなんて思えませんよ。これでも私、人を見る目はそれなりにあると自負してますから。なんたって、留美ちゃんと友達なんですよ」

『それは説得力がある様なない様な……ともかく、子供が変な自信もって行動すると失敗するのが世の常だ。人を騙すのがうまい奴なんていっぱいいるんだから、個人情報は大切に』

「はーい」

 

 やっぱり面白い人だな、八幡さんって。年上の振舞いが自然とできる人なんだろう。すれた子だったらうざったがるかもしれないけど、私を本気で心配しているのが、めんどくさそうな口調からでも伝わってくる。

 電話でこれなんだから、直接会って一緒に行動したら相当世話を焼いてくれそうだ。このお兄ちゃんスキルに留美ちゃんもやられちゃったのだろうか。

 

「ところで、留美ちゃんはどうでした?」

『どうって、電話した時か?』

「ええ」

『特に何も言ってはこなかったけど、何か言いたそうな雰囲気はあったな』

「それで、八幡さんは何も聞かなかったんですか?」

『留美が助けてくれって言うなら聞くし動く。そうじゃないなら留美が自分でどうにかできるか、しようとしているってことだろ』

 

 ふーん、甘やかすだけじゃないのか。放任主義というわけでもなさそうだけど。

 本当に留美ちゃんのお兄ちゃんみたいだ。留美ちゃんはそれが不満なんだろうけど。

 

「留美ちゃんが何も言わなかったなら、私も何も言いません。けど、今日ちょっとしたことがあって、留美ちゃんちょっと疲れているんです」

『はあ。ちょっとしたこと、ねえ』

「ええ。だから、今度の留美ちゃんとのデート、しっかりと楽しませてあげてください」

『……善処はする、けどな。そもそも女子中学生が喜ぶデートスポットなんか知らないから』

「でも、留美ちゃんの喜びそうな所はわかるんじゃないですか?」

『……まあ、多分』

「ふふっ」

 

 今八幡さんが目の前にいたら目を反らしながらほっぺたをポリポリと掻いていそうだ。年上の男の人にどうかとは思うけど、なんか可愛らしく思える。

 留美ちゃんは八幡さんと一緒だったらどこでも楽しめると思いますよ、と言ってみたいけど、これは留美ちゃんが自分で八幡さんに言うべきことだ。傍から見ているだけの私が言うべきじゃない。

 八幡さんに大事にされている留美ちゃんがうらやましい、のかな。私にもこんな人がいてくれたら、とか思ってしまう。

 私も彼氏が欲しいと思わないでもないけど、留美ちゃんに群がる男子を見ていると、同年代に興味を持ちづらい。学校の先輩も年上ではあるんだけど、やっぱり留美ちゃんへの態度を見ると、ね。

 

「くれぐれも言っておきますけど、留美ちゃんを悲しませたら怒りますよ?」

『ああ、そりゃ怖い。怖いから全力で頑張るよ』

 

 口調はめんどくさそうなんだけど、八幡さんが嘘を言っておらず、留美ちゃんのために動いてくれるだろうことは予想がつく。

 本当に、留美ちゃんは大事にされているんだな。

 胸がトクンと鳴った。

 

『あー、ちょっと聞いてもいいかな?』

「はい? 留美ちゃんのスリーサイズとか知りませんよ?」

『んなこと聞かねえっつの』

 

 不意な胸の鼓動に驚いて、ついつい八幡さんをからかうようなことを言ってしまった。

 ないない、胸が高鳴ったりなんてしていない。

 

「それで、何です?」

『いや……留美と何かあったか?』

「はい?」

 

 八幡さんが言うには、私とケンカしたかと聞いたときに留美ちゃんの反応がおかしかったそうだ。

 ケンカなんかしてないけど……あ、ひょっとしてあれか。私が八幡さんとお話がしたいって言ったとき、留美ちゃんの機嫌が急降下したんだ。

 留美ちゃん、あれを気にしていたのか。私が留美ちゃんの嫉妬を煽るようなことしちゃったんだから私が悪いのに、なんて思えないいい子だもんなぁ。

 

「いえ、ケンカとかではないんですけど……」

『話し辛いなら別にいいけどな。まあ、なんだ……留美は小学生のころ色々あったのは知っていると思う。仲良くしてやってくれ』

「それは、もちろんです! 八幡さんに言われるまでもありませんよ」

『ああ、留美と友達になれるんだから大丈夫だとは思ってる。山北さんもいい子なのはわかるし。ただ、留美の兄貴分として心配はさせてくれよ』

「……」

 

 トクン

 八幡さんは、ずるい。留美ちゃんを信頼しているからこそ、友達である私も信用してくれているんだろう。

 だけど、そんなこと言われてしまったら、嬉しくなってしまうじゃないか。

 

「それ、は……いらない心配ですよ。留美ちゃん大好きですし、一生友達とでいたいと思っています」

『……そか。いらないお節介だったな。ところで、俺と話したかったって留美から聞いたけど、どんな話?』

「いえ、目的は達しましたから」

『そうなの? こんだけの会話で何かわかったのか?』

「ええ、こんだけの会話でわかりましたよ」

『ふーん、まあいいか。それじゃ、夜更かししないでちゃんと寝ろよ。お休み』

「はい、お休みなさい」

 

 八幡さんとの電話を切って、私はベッドに倒れこんだ。

 うう、いけないなぁ。私が八幡さんに会ったのは一回だけで、電話をしたのも一回だけ。話をしたのは一時間もない。

 だと言うのに、八幡さんが気になっている自分がいる。

 えー、私って、こんなにチョロイ女だったのかなぁ。

 ダメだってば。八幡さんは留美ちゃんの彼氏役で、留美ちゃんが好きな人で……優しくて頼りになる人。

 私は八幡さんのことをほとんど何も知らない。本当の八幡さんはもっとダメで変な人かもしれないじゃない。でも留美ちゃんが好きな人なんだから、そんなことはないんだろう。

 留美ちゃんに向けている優しさとかを少しでも私にも向けてもらえたら……ダメだってば、そんなこと考えちゃ!

 留美ちゃんと三角関係なんて、絶対嫌だ。あ、でも八幡さんの周りには八幡さんを好きな人がもっといるようだから、多角関係? いや、どっちにしてもダメだ。

 真希とか呼んでもらえたらとか、留美ちゃんみたいに気安い感じで接してもらえたらとか、ドンドン考えてしまっている自分がいる。

 ベッドの上で足をバタバタさせて暴れていたら、下の階からお母さんに怒られてしまった。

 うう……今日はもう寝てしまおう。起きたら、一時の気の迷いってことになってるはず。きっと、メイビー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 山北真希ちゃんがちょっとでしゃばりすぎかも?
 でも動かしやすいんですよ。書きやすいから仕方ない。
 だけどヒロインは留美。
 次回は八幡と留美のデートと、ちょっと修羅場?
 じゃあまた。

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