チマチマ書き続けて、ようやくそれなりの量をかけたので投稿します。
とはいえ、まだもうちょっと続くのでよろしくお願いします。
ところでいいタイトルが思いつかなくて困っています。
深く考えもせずに数字入れて、拘ってしまったのが響いています。
じゃあどうぞ。
私や八幡の最寄り駅の近くにそのスポーツセンターはある。
中には筋トレ器具が揃っているトレーニングルームや定期的にエアロビ教室などが開かれているイベントルーム、外にはフットサルコートやテニスコートなどがある。別の支店では温水プールまであるとか。
全国展開されているスポーツセンターだけど、私は一度も来たことがない。というのも、小学校のころはスポーツにそれほど興味を示していなかったし、今では体操に集中している。集まって何かスポーツをするのなら学校でやればいいし、そもそもそういう友達はいないし。
……今度、真希ちゃんと来てみるのもいいかも。
珍しさに辺りをキョロキョロ見まわしていた私を横目に見て、八幡が苦笑しているのがわかった。ちょっとムッとしながらも、八幡に連れられて受付に行く。
「いらっしゃいませ」
「え、えーと、テニスコート予約したひきぎゃやですけど」
……噛んだ。八幡が噛んだ。店員さんにすらこれって、どんだけ人と話慣れてないんだか。吹き出しそうになるのを堪えるのに必死になってしまった。
あ、八幡がちょっとムッとしてる。軽く舌をべっと出して見返してやった。さっき笑ったお返しだもんね。
「はい、お待ちしておりました。テニスコートAを三時間お取りしています。サイズは男性の方は伺っておりますが?」
「留美、テニスウェアとシューズのサイズ」
「え、う、うん……」
うう……サイズかぁ。小柄なのは自覚しているから別にコンプレックスはないんだけど、八幡に体のサイズを知られるのが、何だか恥ずかしい。スリーサイズとか体重ではないのだから気にしすぎなだけなんだけど……ううん。
意を決して、私はメニュー表を見た。私の身長とウェアのサイズを対応すると……Sサイズか。わかってはいたけれど、実際目にするとちょっと切ない。
ウェアとシューズのサイズを受付のお姉さんに伝えると、ラケットと一緒に渡される。そういえば、初めてラケットに触ったのかな。
「それでは、ごゆっくりとお楽しみください」
お姉さんのにこやかな笑顔に見送られる間、八幡は居心地悪そうにしていた。本当に人付き合いが苦手なんだな。私も人のこと言えないけど。
「こういうところって、会員登録が必要なんじゃないかなと思っていたんだけど」
「ああ、前に友達と来たときに登録しておいた。一人登録してるのがいれば、片方は登録してなくてもいいんだとさ」
「ふーん」
前に言っていた戸塚さん、かな?
結局男の人なのか女の人なのかわからなかったけど、八幡が友達と言うからにはやはり男の人なのだろう。興味はあるけど、ひょっとして林間学校に来ていた人の中にいるのかな。
そんなことを話していると、私たちは更衣室に到着していた。
「ほんじゃ着替えてそこのベンチで待ち合わせな」
「うん、わかった」
土曜日の午後だからなのかはわからないけれど、更衣室の中には若い人がたくさんいた。若いと言っても、多分大学生くらいからOLらしき人達だ。
……スタイルいい人が多いなぁ。ジロジロ見るのはマナー違反だっていうのはわかってはいるけれど、気になってしまう。
適当なロッカーに決めて着替えを始めようとした私の左右に、綺麗なお姉さんたちが来て着替え始めた。どうやら友達同士のようで、私の頭上で何やらお話ししている。どうやら私は彼女らの真ん中を選んでしまったようだ。ちょっと気まずい。
右の人は私と同じスポーツブラだけど、可愛らしい上に大きくもある。健康的な色気っていうのはああいうのを言うのだろう。
左の人はタンクトップで、中に入っているのはリンゴ、いやメロンかな。パッと見だけど結衣さんと同じくらいはありそう。着替えるのに身を屈めただけで揺れている。
真ん中の私はというと、色気のかけらもないスポーツブラ。ガリガリではないけど細く、リンゴやメロンなんて見当たららない。下を見れば何も遮るものがなく地面が見える。揺れるところなんてどこにもない。むしろキャミソールとかでもいいレベル。
成長期にちゃんとしたのを付けないと後々形が崩れてしまう。小さいとちょっとした隙間で先端が見えてしまうので、楽だからなんて理由で気を抜いていてはいけない。ある意味では大きい人より気を付けなければいけない。男の人はスカートがヒラヒラしていれば目が向くし、大きくても小さくても胸元が空いていれば覗いてくる、というのを一緒にブラを買いに行ったお母さんから聞いた。その体験談はお父さんのことではないらしいけれど。
さておき、スポーツセンターのロゴ入りウェアに着替えた私は、ラケットを手に更衣室を出る。よく使いこまれているのだろう、ラケットのグリップは手になじむような感じがした。
外には、まだ八幡はいなかった。パッパと着替えて出てきそうなイメージがあったのだけど、トイレにでも行っているのかな?
八幡に言われたベンチに腰掛けると、前の壁に案内図があった。一階は受付や更衣室の他にトレーニングルームがあり、八幡が予約したテニスコートは一階の端の方にあるようだ。テニスコートは屋内と屋外があって、屋外テニスコートの隣にはフットサルコートがある。そして、更衣室の近くにあるストラ○クアウト? 何だろう、野球っぽいのは名前から想像できるけど。
ボーッと案内図を見ていた私に、声をかけてくる人がいた。
「あれぇ、鶴見さん?」
聞き覚えのある声。振り向くと、綾瀬さんと……開成くん。
「こんにちは。奇遇だねぇ。あ、その恰好、テニスやりに来たのぉ?」
「……こんにちは。そっちはデート、かな?」
「えへへ。ま、そんなところかなぁ」
綾瀬さんはいつになく嬉しそうに笑っていて、学校で私に話しかけてくる時よりも魅力的に見えた。
だけど、後ろにいる開成くんは何か変な表情をしている。イタズラをして見つかった子供の様な、苦虫を噛み潰したような表情をしている。せっかくのデートだろうに変な感じだ。
あ、そういえば、開成くんは野球部だったようだけど、確か野球部は午後も練習をするんじゃなかったかな。帰るとき、野球部の人たちが木陰でお弁当を食べていたような気がする。
「よ、よう鶴見。綾瀬とは別にデートってわけじゃねえけど、まあ、俺のコントロールが見たいっていうからさ」
今まで綾瀬さんの後ろにいた開成くんがずいっと身を乗り出してくる。数日前のこともあって身構えてしまうけれど、今回はあまり近づかないでいてくれたことにほっとする。
それにしてもデートなのかデートじゃないのか。言い訳しているように見えるけど、私に言ってもしようがないと思うんだけどな。
あ、綾瀬さんがムッとしてる。
「ほら、ストラ○クアウト、あれやりにきたんだ。鶴見も見ててくれよ!」
と、開成くんは一人で何やら言って、そのストラ○クアウト? のところへ走って行ってしまった。何がなんやら。
「ねえ綾瀬さん。ストラ○クアウト、って何?」
「え、鶴見さん知らないのぉ?」
「うん」
「的当て、みたいなものかなぁ。野球のストライクゾーンに数字が振られてて、ボールを投げて当ててくのよぉ。開成くんはパーフェクトを出したことがあるからって、遊びに来たんだけど」
「ふーん」
聞いては見たものの特に興味もないんだよね。開成くんはそれに自信があるのだろう。綾瀬さんにいいところを見せたかったのだろうに、置いて行っちゃダメなんじゃないかな。
「ところで鶴見さんは誰と来たのぉ? それとも、一人でテニス教室に参加?」
「彼氏と来たよ。テニスを教えてくれるって」
「あ、そうなんだぁ」
その彼氏役たる八幡がいまだに更衣室から出てこないんだけど……いい加減心配になってきたかも。転んで頭でも打ったのかな。
そう思って更衣室のを見ると、ちょうど八幡が出てきた、けど……何してんの?
「やあ、すまないね、留美。待たせちゃったかな?」
「……うん、ちょっと待った、けど」
眼鏡を掛けた八幡が、さわやか風の笑顔で歩み寄ってきた。……キモい。
え、本当に何? よくみると頬が引きつっているけど、何で無理して笑っているの。全くわからない。
「君は留美の同級生かな?」
「は、はい! 綾瀬彩、です。鶴見さんとは同じクラスでぇ」
「そうか。留美をよろしくね。それじゃ留美、行こうか」
「う、うん。それじゃ綾瀬さん、また学校で」
「はー、……あ、うん。またねぇ」
気持ち悪い笑い方をしている八幡が、私の背に手を回してくる。いつもなら嬉しいところだけど、なんか今の八幡だと嫌だ。
綾瀬さんはなぜだかぼーっとしていて、頬が赤くなっているような気がする。……いやいや、まさかね。パッと見さわやか好青年っぽかったし、短い時間だからボロがでなかったようだけど。
八幡が変なことをしている理由はわかる。わかるんだけど、ね。
八幡に連れられてテニスコートに着いた。と、同時に、眼鏡を外した。ベンチに荷物を置いて、頭を抱えている。やっぱり無理してたんだ。
「何だったの、さっきの?」
「……更衣室出るときに、留美が同級生らしき子といるのが見えたんでな。葉山のマネしてみた」
「葉山? って、誰?」
八幡が眼鏡をするときは、私と一緒にいてもおかしくないように、とかなんとか言っていた。さっきのも綾瀬さんに会うための変装のようなものだったんだろうけど、あからさまにおかしかったよね、さっきの。
それで、八幡がおかしなことしてまで第一印象を良く見せようとマネをした人。多分人当たりがよくて友達が多い、八幡とは真逆に位置するような人、かな。
「あー、ほれ、金髪の」
「……ああ、あのひと。で、何アレ?」
「言うな恥ずかしい」
言うと、八幡は顔を背けた。後ろからだけど、ほっぺと耳が赤くなってるのが分かる。……可愛いかも。ああ、いや、うん。
えっと、葉山って人、思い出した。林間学校とクリスマスの時にもいて、同級生の子たちにやたらと人気があった人だ。イケメンで頼れるお兄さんって感じなんだろうけど、私からすると物事の表面しか見ていなくて、事なかれ主義の頼りにならなそうなイメージだ。その人を真似た八幡だけど、どうやら綾瀬さんには効果は抜群だったようだ。ちょっと、納得がいかないかな。
八幡は顔を振って頬をぱんぱんと叩いた。気を取り直そうとしているようだけど、こちらを振り向いた八幡の顔はまだ赤くなっていた。
「さて、準備運動でもするか」
「うん」
恥ずかしがっている八幡をいじってみたいところだけど、変に突っ込むのはやめておこう。せっかく遊びに来たんだしね。
屈伸、伸脚、腕回し、アキレス腱、と体をほぐしていく。午前中に部活をやっていたから適度に。でも八幡は、最近運動不足だと言って念入りに行っている。部活も文科系(奉仕部は文科系でいいのかな)だし、運動は体育の授業くらいでしかやっていないらしい。
私はついでに柔軟も済ませておく。関節の可動域を伸ばすようにゆっくりじっくりと。前屈をして床に手をぺたりとくっつけ、身を起こすと八幡が私の方を見ていた。
「留美、体柔らかいな」
「そりゃあ、体操部員だもん。これくらいはできないとね」
「おうおう、ドヤ顔してまあ。しかし、言うだけあってすげえな」
ドヤ顔って……うん、してたかも。八幡に自慢できることってあんまりないし。八幡に感心されたい、のかな。すげえ、って言われて嬉しいって思ってる。本当に単純である。
「八幡は、体は柔らかい方?」
「どうだろうな。小学生くらいならもっと柔らかかった気はするけど」
八幡は腰を下ろして体を前に倒したけど、指先がつま先まで届いていない。うちのお父さんよりかは柔らかいとは思うけど。
「固いね」
「体操部員と比べられてもな。よっ」
「あ、八幡。そのやり方じゃダメ」
「ん?」
勢いをつけて前屈をする八幡だけど、そのやり方は身体が痛くなるだけだ。私は八幡の後ろに回って背中を押した。……八幡の背中って、結構広い。
「ゆっくり、筋がちょっと痛くなるくらいのところで止めて、これを繰り返すの」
「おお。しかしなんだな」
「何?」
「まさか留美とこんなことをすることになるとはな」
「……どうしたの、急に?」
「いや、さっきの葉山のマネしてな。つい留美と初めて会った時のことを思い出した」
初めて会った時……林間学校か。正直なところあまり思い出したくないことが多々あるけど、その中でも結衣さんや雪乃さん、何より八幡に気にかけてもらえて、知り合うことができたのはよかったと思える。
正直当時は結衣さんのことはあまり気にしていなかったし、雪乃さんはちょっと怖かったのだけど。ちなみに八幡のことは、変な奴と思っていたと思う。
「カレー作ってた時の事?」
「初めて身近で聞いたセリフが『ほんと、バカばっか』、だったか。なあルミルミ」
「? キモい。身近でって?」
なんでいきなりルミルミ呼びなんだろう。八幡のことだから、何か元ネタがあるんだろうけど。
「留美と初めて話したのはその時だったけど、オリエンテーリングの時から留美のことは気にしていたぞ、俺と雪ノ下は」
「そうだったの?」
「ああ。ぼっちはぼっちを知るってな」
その格言めいた言葉は聞いたことがなかった。けどそっか、あの時から見られていたんだ。あ、そういえばオリエンテーリング中に高校生と一緒になってたっけ。あんまり周りを見ていなかったけど、その中に八幡と雪乃さんがいたのか。何か、もったいないことをしていた気分になってしまう。
「どんなふうに見えてた?」
「んー、小学生でもああいうのあるんだなーとか」
「そうじゃなくて、私を初めて見た時」
「ん、そうだな……他の子に比べりゃ大人びているとか、可愛いとか、そんなことは思ったけど」
「……」
「っつ、おい、留美! 痛いって!」
「あ、ごめん」
いけないいけない。つい力が入っちゃった。八幡の背を押している今でよかった。絶対私の顔はにやけているだろう。
声に嬉しさがにじまないように注意して、と。
「初めて会話した時は?」
「んー、小生意気?」
「……」
「あだだっ、だからいてえっての!」
正当な対応だ。意図をして力を入れている。八幡の背を押している今、私の顔は絶対ムッとしている。
八幡が抵抗してくるので、私は八幡の背に腰を下ろした。
「って、コラ! おも、くはねえけど、いてえって!」
「ひゃっ!」
私の腰の下で暴れる八幡が手を振り回し、私のお尻を叩いた。関節技を受けてタップしたようなものだろうけど、お尻を抑えて飛び上がってしまった。
いてて、と言いながら立ち上がる八幡を睨みつける。顔が赤くなっていそうだ。
「お前なあ。ゆっくりやるとか言っておきながら何してくれやがるか」
「……八幡のエッチ。あと、留美」
「緊急避難だ。ったく、留美は旦那を尻に敷く奥さんになりそうだな」
腰を回して体を伸ばしている八幡を見ながら、私は顔がまた赤くなるのを抑えきれずにいる。八幡の言葉に、奥さんである自分を想像してしまったのだから仕方ない。
「さて、準備運動はもういいか?」
「うん。午前中に部活もやってたから」
「そうだったな。頑張ってやってるか?」
「また最近新しい技覚えたよ」
「へえ。機会があれば見せてもらいたいもんだ」
「いいよ」
「お? マジか」
八幡と会話している間に赤面を抑えられ落ち着くことができた。
本当はロンダートからの基本技を見てもらいたいところだけど、床がマットでないと危ないし、先輩の補助がないとまだちょっと怖い。
新しい技というのは、先日部活中に成功したものだ。まだ感覚が残っている内に試しておきたいというのもあるけど、これを見せれば八幡がまたすげえと言ってくれそうだ、という打算もある。
私は地面にラケットを置くと、少し離れて八幡と正対する。八幡はワクワクしているように見えた。子供っぽいところが見えて、ちょっと嬉しい。
さあ、お披露目だ。腕の反動をつけて、真上を意識して、飛ぶ。腹筋で膝を引き付けて、できるだけ体を小さく、地面を見続けて、足首を捻らないように、着地。
成功した。後方宙返り、いわゆるバク宙だ。いずれは平均台の上でやることになるとか。体操の代名詞ともいえるこの技を覚えられたのは、素直に嬉しい。
技の成功に笑顔で八幡を見ると、なぜかそっぽ向いていた。え、何で?
「八幡、ちゃんと見てた?」
「いや、見てない」
「何で? せっかく成功したのに」
「あのな……いや、気づかなかった俺も俺だけど、スカートで今のやめろ」
八幡はモゴモゴと顔を歪めていた。スカートって、そんなことわかってるのに。
「スパッツ履いてるよ?」
スカートをめくり上げる。その下にはスパッツがある。アンダースコートなんて持ってないからあらかじめ持ってきていた。というか、スカートから見えているのに、わからなかったのかな。八幡はまた目を反らした。
「だからやめろっつうに。恥ずかしくないのかよ」
「八幡以外だったらしないよ」
「俺でもやらんでいい」
たとえスパッツを履いていても、八幡以外の男の人だったら恥ずかしいと言うよりも嫌だ。スカートをめくっていると、八幡がこっちを見てくれないのでやめておく。八幡は顔を赤くしていた。
うん、そっか。八幡は以外でもないけど結構紳士だ。それに、私でも八幡をドキドキさせることができる。覚えておこう。
「さあ、今度こそ始めるか」
「うん」
籠に入ったボールを持ってコートへ向かう八幡を追って私もついていく。ちょっと、ワクワクしてきた、かも。
ここまできてまだテニスをしていないという。
次にはしますから、はい。
そして、感想返しはまとめてさせていただきます。
目は通していますし、励みになるのでありがたいです。
じゃあまた。