違和感なく仕上がってばいいのですが……じゃあどうぞ。
ある日の放課後。奉仕部はいつもの通り暇だった。
依頼はなく、来訪者もなく、春の陽気に誘われて眠気増し増しの放課後である。見れば由比ヶ浜も眠そうにしているし、心なしか雪ノ下もそうだ。
読んでいる本も一区切りついたことだし、いっそのこと一眠りしてしまおうかと思ったところで、安寧をぶち破る来訪者が現れた。
「せんぱーい! ちょっと手貸してくださーい!」
「……はあ」
「ちょっと、先輩? 可愛い後輩を見てため息つくとか、ありえなくないですか!?」
うつらうつらしていた由比ヶ浜も、由比ヶ浜が肩に頭を乗せてきて邪魔そうにしていた雪ノ下も、闖入者である一色の突然の登場に驚いている様子。
俺はまた面倒ごとかとため息をつくも、それを理由に絡まれる始末。ああ、面倒な。
「んで、今日は何だ一色?」
「なんか対応が雑なのが気になりますけど……先輩に手を貸してもらいたいんですよ」
「生徒会の仕事なら自分たちでやれよ。小町が入って人手増えてんだから、手は足りてるだろ?」
「小町ちゃんは別件やってるんです。アンケートの集計とか行事の報告書の誤字脱字とか、そういうのでいいんでちょっと手伝ってくださいよ」
「……はあ」
経験上、ここで断ったところで一色が折れることはなく、だったらとっとと片づけた方がいいのは明らか。ただ、この考えは社畜一直線な気がする。……働きたくない。
「んじゃ、ちょっくら行ってくるわ」
「ヒッキー、弱いね」
「うっせ」
「はあ……一色さん。手が足りないようなら私たちも行くわよ?」
「ああ、今日は先輩一人で大丈夫です。だから雪ノ下先輩と結衣先輩はここにいてください、ね?」
「う、うん……わかった」
ん? 部室の外に向かった俺の後方から何やら含みのある言い方が聞こえたが、振り返る間もなく一色に背を押される。ってか、あんまりボディタッチとかしないでくれませんかねえ。ドキッとしちゃうだろ。
こうして、俺の悠々とした放課後は終わりを告げ、横暴なる生徒会長に酷使される放課後が始まったのだった。
「なんか、ごめんな」
「わざわざすいません」
一色いろは被害者の会の同士本牧や、一色曰くうちの書記ちゃんである藤沢から謝罪を受けながら雑務をこなす。っていうか、謝罪するくらいなら応援を呼ぶ前に一色を止めてはくれないものか。そう言うと苦笑しながら話を濁されてしまう。どういう反応だ、全く。
ああ、ここに小町がいないことがただただ残念だ。
やはり、俺が働く放課後は間違っている。
「ほら、先輩。手が止まってますよ」
「へいへい」
「いろはちゃん、最後変だったね」
「そうね。部室にいてくれという意味に受け取れるけれど、その割に本人は行ってしまったし。誰か来るのかしら」
「んー、ヒッキーがいない方がいい人?」
「おそらく、ね」
比企谷くんと一色さんが去った部室で、私と由比ヶ浜さんは何かを待っていた。一色さんが立ち去る際に残した言葉とウインクによって、私と由比ヶ浜さんに何かを求められているのはわかる。そして、比企谷くんだけを連れ去っていったことから、彼に聞かせたくない関わらせたくない類のことであろうと予想は着く。
なのだけれど、どれだけ待てばいいのやら。人に頼みごとをするにしても、もう少しやり方というものがあるでしょうに。由比ヶ浜さんにメールするなり、ラインでメッセージを送るなりできたと思うのだけれど、それすらできないほど急いでいたようには見えないし。
色々と考えていると、ドアがノックされた。由比ヶ浜さんと目を見合わせる。
「どうぞ」
私の言葉に応え、ドアが開かれる。そこにいたのは、小町さんだった。ただし、いつもの快活さはなく、一目で落ち込んでいるとわかる初めて見る小町さんの姿だった。
「こ、小町ちゃん!? どうしたの?」
「結衣さん、雪乃さん……」
「と、とりあえずかけて。今お茶を淹れるから」
「うぅ……ありがとうございます」
いつになくしおらしい小町さんの姿に動揺してしまう。人間なのだからいつも元気いっぱいとはいかないのはわかるけれど、かすれ声で涙目の小町さんを見ると心が痛む。
いったい、何があったというのかしら。
紅茶を一口飲み、ほうっと一息つく小町さん。しばらくすると小町さんも落ち着いてくれたようだ。
奉仕部に相談に来た人で、ここまで憔悴している人は初めてだ。それが部員の身内で、天真爛漫を絵に描いたような小町さんなのは皮肉と言ってもいいのかもしれない。
本当に、何があったというのかしら。
「小町ちゃん、落ち着いた?」
「はい……すいません、いきなりこんなんで」
「気にしないで。話せるようなら、何があったのか教えてもらえるかしら?」
「ゆきのん、いきなりそんな」
「いえ、大丈夫です結衣さん。その、相談に乗ってもらってもいいですか?」
「もちろんよ」
小町さんはほうと深呼吸し、佇まいを直した。緊張が伝わってくる。小町さんの相談とは、どれほどのものなのか。
「実は……小町の妹としてのアイデンティティの危機なんです!」
「……ほえ? 妹としての?」
「アイデンティティ?」
何故かしら。小町さんの様子から切実な状況のように思えるのだけれど、言葉の内容があまりにも馬鹿らしい。私の耳がおかしくなったのかしら?
「結衣さん、雪乃さん。お兄ちゃんが大好きな人って、誰だと思います?」
「小町ちゃん」
「戸塚くん」
なんというのかしら、この空気。白けた、というのが一番正しい気がするけれど、とにかく当初の緊張感はかけらもない。あの状況から一気にここまで場の空気を貶めることができるのは、ある意味すごいことなのかしらね。
私と由比ヶ浜さんは、場の空気に飲まれて即答してしまう。けれど、間違いではない。
「そうでしょうそうでしょう。じゃあ逆に、お兄ちゃんを大好きな人って誰がいると思います?」
「小町ちゃん」
「戸塚くん、と材木座くんもそうかしらね」
先日のサイゼでの留美さんの爆弾発言からそういった話題には少々敏感になっていたところだけれど、勢いにのまれてまた即答してしまう。
何が言いたいのかよくわからない。というより、話を早く終わらせたくなってきたわ。
「いやー、小町はそれほどお兄ちゃんのことを好きなわけじゃないですけどね」
「え、小町ちゃんヒッキーのこと大好きでしょ?」
「誰の目からも明らかだと思うけれど」
「そうですかねえ」
いやー、そっかー、とか言いながら頭をかく小町さん。何かしら、この感情は。甘いものを食べすぎてしまったような……そうね、私は今、イラッとしたようだわ。
由比ヶ浜さんを見ると、笑顔であるものの引きつっているように見える。彼女もイラッとしたのかしら。
「まあ、それはさておき。お兄ちゃんが好きなのは小町と、一番最初に名前が出てくるのが今までだったんです」
「まあ、ヒッキーシスコンなの隠さないしね」
「……それで、何が言いたいのかしら? そろそろ本題に入ってくれると助かるのだけど」
「おっと、そうですね。この間の日曜日、お兄ちゃんと二人で買い物に行ってきたんですけど……」
こうして小町さんは語りだしたのだけど、その内容は非常にどうしようもないというか、どうでもいいというか、とりあえずそういった類の話であったのは間違いない。
小町とお兄ちゃんは二人連れ立ってららポに向かいました。なんでかって言うと、父の日のプレゼントを買いに行ったんですけどね。ぐずるお兄ちゃんを説得して連れ出すのが一苦労でしたよ。
『ぐずるって、まるで子供ね』
『あー、でもヒッキーっぽいね』
まあ、そんなことはどうでもいいとして。ついでにお昼を食べるつもりだったんで、正午前に到着しました。そして、ボソッとお兄ちゃんが呟いたんです。
「あ、留美だ」
「え、留美ちゃん? どこにいるの?」
「ほれ、あそこ」
お兄ちゃんが指さした先には、長い髪をサイドテールにしたチュニックとレギンスを履いた小柄な女の子がいました。後ろ姿だったんで小町は最初留美ちゃんって気づかなかったんですけど、言われてまじまじと見てみれば確かに留美ちゃんでした。お兄ちゃんはどうして気づけたんですかねえ。
……とにかく留美ちゃんもららポに買い物に来ていたみたいです。周りに誰もいなかったから一人で買いに来ていたんでしょうね。後で聞いたんですけど、真希ちゃんは別の用事があったらしいです。
それで、ここで驚くべきことが起こったんです。なんと、お兄ちゃんが留美ちゃんに声を掛けに行ったんですよ!
そう、あのお兄ちゃんが、ゴミいちゃんがですよ? 留美ちゃんとは言え女の子にわざわざ声を掛けに行ったんです。小町がいるのに。
いつものお兄ちゃんなら見て見ぬふりをして、小町にたしなめられるのが流れじゃないですか。
『じゃないですかと言われても。でも比企谷くんならそうするでしょうね』
『うーん、彩ちゃんだったら喜んで声をかけるだろうけど……あ』
そう、そうなんです。戸塚さんだったら『と、とつかーっ! き、奇遇だな! よかったら一緒に行かないか!?』くらいの勢いでしょうけど、それほどではないにしてもお兄ちゃんから声を掛けに行くなんて留美ちゃんの好感度が相当高い証拠ですよ!
それでお兄ちゃんの行動に驚いてちょっと遅れちゃいましたけど、小町も留美ちゃんの方に行ったんです。
「おーい、ルミルミ」
「八幡。なんで時々ルミルミ呼びするの?」
「ん、まあ何となくな」
「キモイよ」
「なんだと? ミルミルって呼ぶぞ」
「キモイ」
「……うん、すまん。今のは俺が悪かった」
とか何とか言ってるんです。お兄ちゃんが女の子に軽口叩くなんて、見たことないですよ。留美ちゃんの暴言も初めて見ましたけど。
言われた留美ちゃんもキモイとか言いながらも可愛く笑ってるし。小町が声を掛けたら笑ってはいるけど、お兄ちゃんに向けていた笑顔とは明らかに違ってるし。小町、ショックでした。
『確かに、気持ち悪いほど比企谷くんね』
『ゆきのん、それちょっと意味が違ってきてない?』
正面から見た留美ちゃんは、相変わらず美少女でしたね。私服初めて見ましたけどセンスはいいし、サイドテールも似合ってました。ただ、ヘアゴムは安物だったのがちょっと気になったんですけど、
「ん? 留美、その髪ゴム」
「うん。八幡がくれたやつ。色んな髪型試してるよ」
なんと、お兄ちゃんからのプレゼントだったんです。しかも留美ちゃんはちょっと照れくさそうに笑ったりして、傍から見ればお兄ちゃん好き好きオーラ出まくりでしたね。
それにしても、お兄ちゃんもシュシュとかもうちょっと豪華なものあげればいいのに、何であれを選んだのかな。
『ゆきのん、料理するときあれで髪まとめてるよね』
『由比ヶ浜さんだってお風呂上りに使ってるじゃない』
ん、どうかしました? 何でもない。はあ、そうですか。
まあ、それで留美ちゃんも一緒に買い物することになったんです。留美ちゃんも父の日のプレゼントを買いに来ていたみたいで、ちょうどいいやってお兄ちゃんが誘ったんですよ!
それでネクタイとかタイピンとか、紳士服の店に向かおうってことになったんです。ここまでならお兄ちゃんが成長していると、小町も感涙するところだったんですけど。
「んじゃ、行くか」
「そだね、ってお兄ちゃん!?」
「ん、どした?」
「小町さん?」
何と何と! いつも間にやらお兄ちゃんと留美ちゃんが手を繋いで歩いてるんです! 留美ちゃんが、お兄ちゃんと歩くときはだいたい手を繋いでいるとか言ってましたけど、それを目の当たりにしました。
そこは小町の場所だったのに!
『……確か、小町さんが作戦を考えたのではなかったかしら?』
『えーと……妹と思ってたのに女の子を感じてドキドキ作戦だっけ?』
正確には、『妹のように思っていたのに、ふとした拍子に女の子を感じてドッキドキ作戦』ですね。
『小町ちゃんの自爆?』
『自業自得ともいうわね』
留美ちゃんの立ち位置とか性格とか、作戦にぴったりはまったということなんでしょうか。あまりにも自然にお兄ちゃんの隣で手を繋いでいるから、小町が入るスキがありませんでした。
もう、お兄ちゃんてば! それまで小町と手を繋いでたのに、留美ちゃんが現れたとたん浮気するとはどういうことだーっ!
『手を繋いでいたのね』
『やっぱこの兄妹お互いのこと好きすぎるよね』
それから紳士服売り場に行ってプレゼント見繕ったんですけど、
「八幡、これ」
「ほいよ」
「うーん、ちょっと違うかな」
「こっちなんかどうだ? 留美のお父さん、地味目のスーツだったから」
「あ、そうだね。こっちの方がいいかも」
なんて、留美ちゃんがお兄ちゃんをお父さんに見立ててネクタイ当ててみたりタイピンを一緒に選んだり。お兄ちゃんと一緒にしたら留美ちゃんのお父さん泣いちゃいますよ!
『……だんだん小町さんが暴走しているような気がするのだけれど』
『ていうか、最初からかも』
お兄ちゃんもお兄ちゃんで、留美ちゃんがネクタイ当てやすいように屈んだり、人ごみを通るとき留美ちゃんが歩きやすいように先導したり。仲いい兄妹かってんですよ!
『もはや言いがかりね』
『うーん、とりあえず小町ちゃんが満足するまで聞いてあげようか』
他にも、
「八幡、それちょっとちょうだい」
「ああ、ほれ。留美のもちょっとくれよ」
「うん」
お昼ごはん食べるときも別々のメニュー頼んでシェアしたりして!
「結構混んでるな。大丈夫か、留美?」
「ん、ありがと。大丈夫」
満員電車でさりげなーく留美ちゃんを守ったりして!
「それじゃな、留美」
「バイバイ留美ちゃん」
「うん、ありがと八幡。さよなら小町さん」
留美ちゃんの家の近くまで送って行ったりして!
留美ちゃんもそれはもう嬉しそうに笑ってるし、時々赤くなったりしてもう可愛いし! お持ち帰りしたいくらいでした!
『これは恨み言なのかしら。それとも惚気話なのかしら』
『両方じゃないかな』
留美ちゃんと別れたとき、ちっちゃく手をひらひらさせてるのとか、犯罪的な可愛さでした。ああもう、留美ちゃん可愛いなあ。
『惚気成分が増えてきたわね』
『最初アイアン、メイデン? の話だったのにね』
『誰も拷問器具の話はしていないわよ』
それでお兄ちゃんと二人で帰宅したんですけど、留美ちゃんが手を繋いでたから小町は腕組んだんですよ。
『対抗意識バリバリだ』
『小町さんは何がしたいのかしら?』
でも、お兄ちゃんはいつも通りでした。いやまあ、結構お兄ちゃんと腕組んでるから、慣れちゃってるのかもしれないですけど。
『意識してほしかったのね、実の兄に』
『腕組む……ヒッキーと……うひゃー』
『由比ヶ浜さん?』
というわけで! 小町は妹ポジを留美ちゃんに脅かされているのです!
はあはあと、息を荒げる小町ちゃん。
えーと、つまり? 小町ちゃんが考えた作戦を留美ちゃんが実行して、それが上手くいきすぎて小町ちゃんの妹ポジションを留美ちゃんが奪っちゃって、小町ちゃんが困っている、でいいのかな?
「やっぱり自爆じゃない?」
「マッチポンプ、はちょっと違うかしら。策士策に溺れるも少し違う」
マッチ、ポンプ? 火をつけるポンプ? 火炎放射器みたいなの? ていうかゆきのん。小町ちゃんの様子を表現する言葉を探してる?
「確かに小町が策を授けましたけど、留美ちゃんはそれを見事にこなしているんです。留美ちゃん、おそろしい子!」
うがー、と小町ちゃんが悶えてる。小町ちゃんの悩みはわかったけど、これ解決ってどうすればいいの?
ゆきのんの方を見るとこめかみを抑えて頭を振っていた。あ、あれあたしが変なこと言っちゃったときによくやってるやつだ。
「それで、一色さんに相談して、私たちのところに来たということかしら?」
あれ、ひょっとしていろはちゃんに丸投げされた?
「いろはさんも話聞くだけ聞いて、特に何も言ってくれませんでした」
だって、言いようがないというかなんというか。
んー、それにしてもヒッキーと留美ちゃん、そんなに仲良くなってたのか。あたしが同じことをしようとしたら、どうなるかな?
ヒッキーと手を繋ぐのは恥ずかしいし、一緒にプレゼントを買いに行ったことはあるけどちょっと距離あったし。シェアしてご飯食べるとか、満員電車で守ってもらうとか、家まで送ってもらうとか、うらやましいなあ。
「あたしもちょっと複雑だけど、小町ちゃん的にはいいことじゃないの? ヒッキーに彼女作ってほしいんじゃないの?」
小町ちゃんは将来のお義姉ちゃん候補を探していた。それが、まあ留美ちゃんかもというのは予想外だけど、小町ちゃん的にはヒッキーと仲のいい子が増えるのは嬉しいはずだし。
「そうですけど。うーん、小町自身漠然とお兄ちゃんは小町のことが大好きだから、彼女ができても小町を一番に考えてくれるって、思ってたんです。でも、留美ちゃんとのあれやこれやを見てたら、多分、そうじゃないんだろうなーって」
「めんどくさいわね、この子」
「ゆきのん、どうどう」
とりあえず、小町ちゃんがヒッキーのこと大好きなのはわかった。それとゆきのん、同感だけど口に出すのはやめようよ。
しょんぼりしている小町ちゃんを見てわかったことがある。多分だけど小町ちゃんは、仲がいい子に彼氏ができて、それまでよく遊んでたのに彼氏優先になっちゃった、みたいな寂しさを感じてるんじゃないかな。
あたしもそう感じたことはあるけど、その子とは今でも仲がいいし、慣れなきゃいけないことだと思う。だって、よくあることだし、彼氏より友達優先ってなったら恋人関係は長続きしないだろうし。
いや、でも友達関係と兄妹関係は違うか。
うーん、考えすぎなんだろうけどなー。
「小町ちゃん。ヒッキーが小町ちゃんを大好きなのはわかってるんでしょ?」
「ええ、まあ。ちょっと気持ち悪いくらいに」
「それは同意ね」
ゆきのんってば、もう。
「だったら大丈夫だよ。ヒッキーに彼女ができたとしても小町ちゃんを邪魔に思ったりしないし」
「結衣さん……」
「比企谷くんのことだから、小町さんを蔑ろにする恋人を作ったりはしないのではないかしら」
「雪乃さん……」
まあ、ほら、あたしも、ね? 仮にその、ヒッキーと彼氏彼女の関係になったとしても、小町ちゃんを邪険にしたりしないし。うん。
仲が良すぎて心配はするかもしんないけど。だって、仲が良すぎると思うんだ、比企谷兄妹は。
「大丈夫、ですよね?」
「うん、絶対だいじょうぶだよ!」
「そうですよね!」
小町ちゃん復活。目をキラキラさせている。うん、やっぱり小町ちゃんは笑顔の方がよく似合うよ。
「よっし! 結衣さん雪乃さん! ありがとうございました!」
言って、小町ちゃんはピューっと去っていった。嵐のように現れて、嵐のように去っていく、ってどっかで聞いたことあるんだけど、何だっけ?
なんか、どっと疲れちゃったな。ゆきのんもやれやれと頭を抱えていた。
あ、そうだ。
「ゆきのんはさ。陽乃さんに彼氏ができたらどうなっちゃうんだろうね」
「……家庭の事情と姉さんの性格からして、なかなかそういう事態にはならなそうだけれど。少なくとも、小町さんのように動揺したりはしないでしょうね」
「ふーん」
ほんとーかなー? ゆきのんが陽乃さんのことをどう思っているのかよくわからないけど、もしそうなったらゆきのん結構オタオタしそうな気がするけど。
「……何かしら?」
「別に、何でもないよ」
でも、絶対ゆきのんは認めないだろうから言わないでおこう。
あー、ヒッキー帰ってこないかなー?
割り振られた仕事をこなしているが、本当にこれ今やらなきゃいけないことか? どうしても今人手が足りないようには思えないんだが。
と思いつつも黙々と仕事をする俺、マジ社畜。働きたくなんてないのに!
「ただいま戻りました!」
と、そこへ小町が帰ってきた。すんげえ元気なんだが、いったいどうしたんだ?
「あ、小町ちゃんおかえりー。どうだった?」
「比企谷さん、大丈夫だった?」
「おかえり、比企谷さん」
そんな小町を迎える生徒会の面々。なんだ上手くやってるんだな、と思うと同時に小町を心配していたかのような歓待っぷりが気になる。
「もう大丈夫です、解決しました!」
「おー、そっか。よかったよかった」
「お兄ちゃん、代役ありがとね! あとは小町がやっておくからもう帰っていいよ!」
「お、おう。まあ、そういうことなら」
「終わったら連絡するから、一緒に帰ろうね」
うーむ。いつもだったらお兄ちゃんと一緒に帰るとかないから、とか何とか言って一緒に帰りたがらないのになあ。あれ、なんかちょっと悲しくなってきた。
「まあ、そんじゃ戻るわ」
「お疲れさまでした先輩」
「おう」
なんだか奇妙な雰囲気のまま、俺は生徒会を後にした。こう、俺だけ蚊帳の外のような。あ、いつものことか。
そうして奉仕部へ戻ってきたのだが。
「たでーま」
「あ、お帰りヒッキー」
「もう仕事は終わったの?」
「ああ。小町が戻ってきてお役御免になった。小町の様子が変だったのが気になるが」
「あー、小町ちゃんね」
「なあ、どしたんだ小町のやつ。こっちに来たのか?」」
「ちょっとしたお悩み相談よ。もう解決したようだけれどね」
生徒会でも奉仕部でも蚊帳の外。いつものことと言えばそれまでなんだが……何がなんやら。
こうして、穏やかだった一日は終わりを告げた。小町は言った通りに連絡をしてきて一緒に帰宅した。テンションが高かったし、手を繋いできた。他の生徒の目を気にすることなく。
大志が遠くからうらやましそうにこちらを見ていたが、まあそれはどうでもいいか。
小町と一緒に帰れたし、それはいいんだが……今日はホント、何だったんだ?
というわけで、雪ノ下視点と由比ヶ浜視点をいれてみました。
変じゃ、ないですよね?
留美ちゃん、おそろしい子! と小町ちゃんめんどくさ! がやりたかっただけです。
しかし、!の多いこと多いこと。
さて、去年一年は全く更新できませんでしたが、これからネタが溜まるまでまた停滞します。申し訳ない。
以前の投稿でも書きましたが、ネタが出てこなくなりました。まだ書きたいことはあるんですけど、ちょっと年数が飛んじゃうので。それに放置している他の連載も書きたくなってきましたので。
次にこの作品でお目にかかることはいつになるかわかりませんが、留美の高校生活辺りまでは書きたいので、エタらないよう日常でもネタを探し続けてまいりますので、少々?お待ちください。
じゃあまた。