魔法少女リリカルなのは GEMINI   作:よね

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最近は就活が本格的にスタートしたので申し訳ございませんが、しばらくはかなり投稿頻度が遅れます


第8話 決着?なの

「このガキどもがッ…!!奴と、いや俺とお前らの差を思い知らせてやろう」

 

 その言葉を皮切りになのはは防護服(バリアジャケット)に身を包み、紅玉と黄金を先端に飾った白杖を構える

 

 デフテロスは不快感を露にして、目の前の少年少女に向かってそう吐き捨てた。しかし、心底怒っているわけではない。自身の意図を汲み取ってもらえずにいる原因は自分にもあるということを理解しているからだ

 

 彼は脱力し、ゆらりと体を力なく揺らす。戦闘体勢に移ったなのはとユーノを前にしても構えをとりもしない。しかし、それなのに眼にはえも言えぬ力が宿っている。そこからは何の感情も伺えない。それが未知の恐怖となり対峙する少女らに二の足を踏ませる

 

「なんだ?息まいておいて何も行動せんのか?ならば…こちらから行くぞ!!」

 

 ゆらりと揺れていた彼の身体は眼にもとまらぬ速度で移動したのか二人の視界から消える

 

―前方正面に防護壁を張れ!!本気でだ!!

 

 不意に脳内で指図する声が響く。

 

 疑問に思う間もなく迫る脅威(デフテロス)と対するために二人は全力でその指示に従う。

 

 一時の間をおいてなのはの真正面にデフテロスが拳を構えた状態で現れる。

 

 構える彼の右腕の輪郭がぶれたかと思うと何重にも重ねられた防護膜が幾重にも重ねたガラスを割ったような軽い音を立てて砕ける

 

―えっ!?

 

―何ッ!?

 

 それでも全ての威力を殺すことは出来ずになのははその余波を受け吹き飛び地面に転がる

 

「こんなモノが貴様らの全力か?軽く撫でてやっただけだというのに…」

 

「まだ…です。まだ…全力なん…て出してません!!」

 

 地面に伏すなのはに向けられる彼の言葉。それを否定するために再び立つ少女

 

「参考までに言っておこうか…今の拳はマッハ1の速度で打ち出したものだ。わかるか?マッハ1とは340 m/s。相手との距離を3.4メートルと仮定した場合、1秒間に100発の拳を撃てる程度の速度だということだ。これすら見切れんのか?防げんのか?話にならん」

 

 憐れむような期待外れだというような声色で辛辣に投げかける

 

「お、音速を超えて移動できる?そんなことをただの人間にできるはずが無い!!それこそ魔法でもつかわなければ…」

 

 デフテロスの言葉にユーノは戦慄する。そんなユーノに、言葉を投げかけてくる(デフテロス)に、萎えそうになる自分に向けて少女は声を叫ぶ!!

 

「どれだけお兄さんが速く動けようと関係ない!!私は私の全力をまだ出し切ってない!!レイジングハート、お願い!!ユーノ君はサポートを!!」

 

「Flier fin」

 

「わ、わかった」

 

 その声に応える愛機は彼女の足元に桃色の翼を授け、その声に応える友はデフテロスから距離を取りなのはとデフテロスを同時に視界に収められる位置まで走り、迅速で適切な補助を必要な場面に瞬時に展開できるよう備える。

 

 桃色の翼を駆り、空中へと高く飛翔し距離を取る。

 

 なのははデフテロスを見下ろし、ユーノはデフテロスの背後を見張る

 

「いい判断だ…俺の拳が届かぬかどうかは別としてな」

 

 なのはを見上げるそんな彼の声にも表情にも余裕が見られる。それを不快に思い激昂する程、少女たちには余裕はない。ファーストアタックを警戒し、防御していたにも関わらず容易く打ち砕かれた。それだけでこの戦いの主導権を握られたと錯覚してしまうほどに衝撃をうけてしまっている

 

―ここまで来れば、お兄さんの攻撃は当たらない…

 

―けど、デフテロスは何かしらそんな距離を埋める方法を持っているはずだ

 

 状況だけを見れば制空権と背後をとった少女達の方が有利ではある―が、二人は緊張を緩めない

 

―待ってるだけじゃダメなんだ!!私からいかないと!!フェイトちゃんの時も防戦に回って押し切られた、お兄さんには防御自体が意味がない…なら短時間大火力で決めるしかない!!だから、高機動の射撃で撹乱して、その隙に撃ち込む!!

 

「レイジングハート!!」

 

「Divine Shooter」「Stand by ready」「Set up」

 

 足元に魔法陣が展開し、なのはの周囲を回る衛星のように桜色の球体が五つが召喚される

 

「ディバインッ…シューター!!」

 

 白杖を振りかぶり、眼下に立つデフテロスへと振りぬく

 

「行っけぇ!!」

 

 その動きに呼応して五つの衛星も五条の尾を引き高速で彼へと放たれた

 

「ふん、玉遊びか…」

 

 デフテロスは迫る弾丸にも焦る素振りはない。むしろ、値踏みするような眼でそれらを見定めているようだ。しかし、迎撃しようとも躱そうとするでもなく自然体のままその場に立っている。結局、デフテロスは何もすることなくそれらを受け入れ、五発の桜色の球弾が全て命中し、なのはやユーノは確かにそれを確認した。特にユーノは彼が何らかのアクションを起こそうとした場合、瞬時にそれに反応してチェーンバインドにより拘束するというカウンター魔法を組み上げていたため、拍子抜けすると同時に不安にも駆られる。

 

 そんなユーノが注視する先は桜の花びらを思わせる魔力弾の残滓とその魔力弾とデフテロスとの衝突により発生した衝撃から舞った砂煙が立ち込めている

 

―アレを何もなしに受けきるのか?それほどまでに自信があるのか?それとも…まだ何かあるのか?

 

―ん?

 

 ふと、ユーノの構える場所から目と鼻程の距離の地面に気が付く。薄い白がかった土の色がところどころ濃い茶色になっていた。まるで勢いよく飛んだ飛沫が地面にまで落ちてしまったかのように

 

―これはいつの間に?

 

 考えられるのは先程の衝突時に何らかの液体が飛び散ったのだろうとユーノは思う…が、それに思考を取られていたこと自体が命取りになると思い、改めてその砂煙けぶる先にあるモノを睨むように警戒する

 

 そのユーノの考えは正しかった。彼を何よりも警戒する姿勢も地面に飛んだ飛沫の正体から思考を外すことも。なぜなら、桜色と白みがかった土色の煙幕が消え去ったのなら当然必要とされることであり、当然に解ってしまうことだったのだから

 

 煙幕が風に靡き何も見えぬ濃い靄から薄っすらと人の影が見えるほどにまでなり、そこからあっという間に薄い霞すら消え彼が姿を現す。彼の服には汚れなどなく。彼の肌には傷一つない。ディバインシューターによる射撃などなかったかのように彼の姿勢・体勢はまるで変ってはいなかった。その周囲に浮かぶものを除いては…

 

 それは球体のようでありながら球というには歪な形で、透き通っているというにはその球面に映す景色は素直に映すことなく少し歪んでいた。その不定形なモノは大小様々いくつもの形・大きさがあり、唯一共通していることと言えば彼の周りをふよふよと浮かんでいることぐらいであろうか

 

―あれは何?透明で柔らかそう…多分、水かな?何の液体かはわからないけど。ユーノ君、あれが何かわかる?

 

 上空から彼を見るなのはは突然現れたソレ、恐らくデフテロスが無傷である一端を担っていたであろうソレを分析する

 

―ごめん、なのは。今のところ分からない。けど、土が湿気っているのを見るに液体なのは間違いないと思う。くれぐれも警戒して!!

 

―うん!!もう一回ディバインシューターを撃ってみる。今度は私が撃てる最大数で!最高精度で!!最高速度で!!!最大火力で!!!!

 

―分かった。今度は僕もリアクションバインドだけでなく僕のできる最高硬度のバインドで彼を抑える!!なのはが撃つタイミングで!!

 

―行くよ!一回に撃てる量は限られてるけど…できるだけ早く、変化をつけながら畳みかけるように撃つよ!!

 

―了解!!

 

「ディバインシューター・フルパワー!!」

 

 先程よりも大きな桃色の魔法陣が広がり、そこから以前より一回り大きな光弾が8つ生み出された

 

「Divine Shooter Full Power」

 

 力強く、白杖をレイジングハートをデフテロス目掛けて振りぬき叫ぶ

 

「第一打ッ!!」

 

「the first shoot」

 

 ユーノの足元にある緑光の魔法陣から鎖が伸び、手足のみならず胴体までも縛り、それを確認したなのはの放った八つの桜色の弾が八条の帯を引いてデフテロスにさっき放たれたモノよりずっと速く真っ直ぐに飛んでゆく。が、ここでデフテロスの周りに浮かぶ球が反応を見せる

 

 とはいってもソレが起こした行動はいたって単純。ただ、勢いよく迫る八つの光弾に真っ直ぐぶつかっていった。それだけだ。

 

 しかし、ただの一射も撃ち漏らすことなく。

 

 ただの一球も撃ち負けることはなかった。

 

 そう、なのは渾身の第一斉射はそれだけで沈黙した。

 

 ソレは光弾を砕くと同時に自身も弾け、後に残したのは自身を構成していた水分が飛び散った飛沫の跡だけだった。

 

 ディバインシューターの威力が威力なだけに相殺するにあたって派手に飛沫が舞ってしまったにも拘らず、デフテロスの肌や髪、服に一滴も雫を落とすことはなかった。

 

「どうした?もう終わりか?」

 

 挑発するように、こともなげに彼は言う

 

 なのはの周囲にまたも新たに桜色の弾丸をつくりだすと再び白杖を彼に向け叫ぶ

 

「第…二打ッ!!」

 

「the second shoot」

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 急激な魔力消費に伴う疲労に喘ぐ少女らに向けて彼は言う。限界を超えて第十数陣にも渡る斉射を行ったのだ。未だ幼く未熟な少女の身体には激情が静まってから疲労が一気にのしかかってきたのだ。その一方…地面には水たまりと弾け飛んだ飛沫によって大地に描かれた絵があり、いつの間にか砕かれたのか、軛から解き放たれたデフテロスは涼しい顔でその中心に佇んでいる

 

 ある時はかつてより速く

 

 ある時はかつてより力強く

 

 ある時はかつてより精緻に弾道を操り

 

 ある時はかつてより巧みに緩急をつけた。

 

 遂には脳をさらに酷使してまでそれらを混ぜ合わせ新たなパターンを作り出し撃ちだした。が、通じなかった。届かなかった。彼は一歩も動くことなく。一筋の傷どころか一滴の滴すら浴びることもなかった

 

「さて。終わりだというのならこちらから行くぞ。さっきと同じだ。緩めれば一瞬で終わるぞ。防げるのなら防いで見せろ。避けられるのなら避けて見せろ。俺に貴様らの力を見せてみろ!!」

 

 そういって拳ほどの大きさのソレを一つむんずと無造作に掴むとオーバースローで軽く、そう軽く、力みなく腕をしならせ放る。ただ人間の身体構造を利用した反動だけでソレを投げる。その途中、ユーノが仕掛けていた魔法が彼の動きを察知し緑光の金輪を手足に嵌めるが、弓なりの姿勢からソレを放つ豪腕の勢いを止めるには力不足であり止めるどころか容易く破壊されてしまう。但し、その脆き緑光の枷のせいで僅かに狂った力のベクトルから本来彼が想定していた程の威力はそれには期待できなかった。まぁ、それでも人間の限界に到達した彼が放ったのだ。その威力は常識の中で生きる人間にとって信じられない程の威力を誇る

 

「きゃッ!」

 

 なのははとっさに前方にバリアを張る。水球はバリアを砕くことはなかったもののパァンと音をあげ、衝撃と飛沫を散らす。その音と衝撃にひるむなのはは小さく悲鳴を上げてしまう

 

―目を閉じている場合か?さっさと構えろ!左側後方から複数個飛んでくるぞ!

 

 やはりそんな激が脳裏に飛んでくる。その声に反応して再び構えなおすが、デフテロスは先程の場所にはおらず、音と衝撃の塊も先程とは違う方向から飛んでくる。

 

 脳内の指示に従い何とか水弾を受けつづける時間が続く、他方で地上にいるユーノもそんな状況を打破しようとデフテロスに対し魔力弾を撃ったり、なのはへ飛ぶ水弾を遮るための防壁を張ったりするも落され、砕かれる。バインドを掛けるも腕を使わずとも水弾を操ることに不自由しないため、状況は欠片ほども良くなることはない

 

 

 

―どうして、どうして分かってくれないの?

 

―どうして、どうして私たちに話してくれないの?

 

―どうして、どうして私たちを守ってくれるの?

 

―貴方には、お兄さんには関係ないはずなのに

 

―いや、もう関係ないことはないけど…けれど、私を守るっていうのは本当に私の為なの?貴方のお兄さんの為なの?

 

―本当のことを言ってくれているの?それとも、さっきみたいに嘘をついてるの?

 

―貴方は本当は誰の味方なんですか?

 

―私にはわからない

 

―本当かもしれないし、嘘かもしれない

 

―けど、

 

―けれど、

 

―今はそんなことは関係ない!!あの人の言う意志の力を、私の力を認めさせれば全部が解決するんだ!!

 

―話し合えるのに

 

―分かり合えるのに

 

―そんな機会がちゃんとあるのに、知らないふりして、後回しにして

 

―力が無いからって、

 

―何もできないからって、

 

―自分だけ何も知らないまま、

 

―自分だけ何もできないまま、

 

―待つのはもう嫌なの!!

 

―もう出来ないの!!

 

―今の私には、困っている人を助けてあげられる力があるんだから!!

 

―それだけは否定させない!!それだけは認めさせる!!

 

 それだけの想いで、少女は限界を超えた身体に鞭打ち彼に向かい続ける

 

 

 

 

 他方、彼は水弾を放ちながら、なのはをある場所へと誘導していた。ある時は着弾する水弾の衝撃によるノックバックで、ある時は軌道を計算し晩幕を張り、エアポケットにあえて避けさせた。なのはにとって脅威であるそれらは彼にとってただの布石でしかなかった。

 

 疲労が表れ始めてきた頃に刺す詰めの一撃として

 

 そこは昨晩、フェイトとなのはが邂逅した場所、山に流れる清らかな小川の上空。その小川には、具体的にはなのはのいる宙空の真下には何らかの方法、モノによって堰き止められたかのように不自然なほど水が溜まっており、その内部は激しくうねっている

 

「よくもまぁ、ここまで持ったものだ」

 

「だがな、俺からしてみればこれは児戯でしかないのだ」

 

「残念だが事実、お前の意志は、お前の我は(アスプロス)に届くことはなかった」

 

「だが、その方がよかったのかもしれん。下手に(アスプロス)を傷つけられるのなら、かえって酷い目にあう可能性が高くなるだろう」

 

「この遊びも終わりだ。お前の詰みでな」

 

 そう言って彼は右腕を指まで水平に伸ばし、掌を上に向ける。

 

 そして、何かを掴む素振りを見せるや否や、一気にその腕を天に振り上げる

 

「え?」

 

なのはの真下にある小川で渦巻き、うねり、溢れんばかりに溜まっていた激流が重力に逆らっているとは思えぬほどの勢いでなのはに向けて、その奥にある天に向けて力強く衝き、なのはに回避する暇すら与えず呑み込む。

 

「きゃああああああああ」

 

 天衝く鉄砲水の如き水の大蛇はなのはを嚥下すると彼女の身体を貫いて昇天する。数トンにも及ぶ衝撃と総重量の水がなのはに課す責め苦は川に堰き止め溜められた分の清流を全て吐き出すまで続いた

 

 短時間ではあるがミズチと衝突し、呑まれ、囚われ、乱流し、圧のかかった水流をくぐり抜けた彼女は水弾幕を受け続けていた疲労もあって酷く憔悴しているように見える

 

 息は乱れ、(こうべ)は垂れ、肩で呼吸する

 

 しかし、愛機を握る手は固く、その桜色の翼も消える素振りすら見えない

 

 酷く重い顔を上げ、デフテロスを見据える

 

 それだけで伝わってくる

 

 今にも体は倒れそうなのに、

 

 今にも心は折れそうなのに、

 

 意志だけで立っている

 

 意志だけは燃え続けている

 

「まだ…です。まだ…終わってない!!レイジングハート!!」

 

「Shooting Mode」

 

 レイジングハートが変形し機構を変える

 

 今撃てる最高を誇る砲撃をするに相応しい姿に

 

「Divine Buster Stand by」

 

 レイジングハートが(まじな)いを唱え、魔砲弾をつがえる

 

 なのはの意志を込め、散った魔力素を収束し、そびえる壁を穿つために

 

「そうか」

 

 熱き意志を示し、砲撃を繰り出さんとするなのはに対しデフテロスは一言冷めた反応を返す

 

「言ったはずだ。詰みだと」

 

「残念だ。あれで終われと願ったものだが…仕方ない」

 

 心底残念そうに彼はそう漏らす

 

「ディバイン…」

 

「Divine…」

 

 少女と白杖がその砲の名を唱えようとする

 

 彼はなのはの頭上の青空にその手をかざす

 

 そのかざした掌の中に収まるようにあるのは巨大な水塊であり、それは丁度なのはの真上上空に位置する

 

「では、墜ちろ」

 

 デフテロスが短く言葉を切ると、それと同時に巨大な水の塊をそれまで支えてきた何らかの力も切れたかのように自由落下を開始する。しかし、眼下にいるデフテロスを睨むなのはは気づかない。気付くとすれば水塊が太陽の影となったとき初めてその機会を得ることになるだろう。その時には既に手遅れだと言えるが

 

「なのは!!危ない!!」

 

 ユーノはそう叫ぶとなのはを墜そうとせんとする巨大で重厚なモノに単独で立ち向かう

 

「ぐぅぅううううう!!」

 

 緑光の魔法陣と天から直瀑する水塊の鬩ぎ合いが光鱗と飛沫をあげながら続くが、数十秒後にソレが収まるとそこに立つのはユーノであり、打ち負けることなく彼はなのはの守護をやり遂げた

 

 そう、地上にいたユーノは気づいていた。なのはがミズチに呑まれ、水の大蛇が昇天した後、水塊となって空に留まっていたことを

 

 それからのユーノの行動は単純であるが素早かった。その行動こそがこの戦闘における勝負の分かれ目であり、なのはの敗北の致命打になりうるのだと本能的に理解したからであろう

 

 ユーノの選択こそ正しかったが、その考えは一部ないし全て間違っていた

 

 そう、これは戦闘であり勝負ではないのだから…彼がこの時点で負けることはなく、その為、分かれ目等も当然存在しない。もし、分かれ目というものが存在するというのならなのはが水塊の衝撃によって墜落し敗北するか、その他の手段により敗北するかの分かれ目でしかない

 

 話を戻そう。ユーノはソレに気づくとデフテロスから距離を取り、無駄になりうると分かってはいるもののいくつかの反応魔法(リアクションマジック)の罠を仕掛けた後、飛行魔法でなのはのいる空を目指す。そして、デフテロスの仕掛けた布石に気付かぬなのはを超え、重厚な水弾を目指す

 

 認識からの迅速な行動、水の暴力との衝突、防御までをやり遂げたユーノの働きにより、なのはには自らの意志を最強の砲で撃つ機会が奪われずに済んだ

 

「……今度こそ終わると思ったものだが、いいだろう」

 

 ユーノはなのはの肩へと降り立つ。自分を凶弾から救ってくれたユーノに対してなのはは一言二言礼を言うと、再びデフテロスへと向き直る

 

「行きます!!私の全力全開を、貴方にぶつけます!!」

 

「来い!なのは、ユーノよ!!この俺に貴様らの我を見せてみろ!!!」

 

「ディバイン、バスター!!!」

 

「Divine Buster」

 

 なのはの叫びとレイジングハートの電子音声が重複しながら、その声が空気に触れると同時に砲身となった黄金の機構から桜色の魔力砲が太く厚い砲撃を繰り出す

 

 ソレは今までなのはが限界を超えて消費し、宙に消えた膨大な魔力の残滓を取り込みながらデフテロスに迫る。彼は微動だにせず、迫る桜色の魔力塊を見つめるだけであった

 

―避けない?ただで済むはずないのにそんな素振りすら見せないなんて…避けようとしたところで僕のバインドが作動するけど、彼には有ってないようなものであることは認める。けれど、ディバインバスターすらも彼にとっては脅威ではないのか?

 

 しかし、先刻のように水の玉を傍に付き従える風にも見受けられない

 

 そして、ユーノがあれこれ考えている間に、桜色の砲弾は着弾する

 

 轟音が鳴り、砂埃が舞う。しかし、それでも桜色の巨大な光線が途切れずに続く

 

 そう、なのははデフテロスに着弾したことを知ってなお魔力の供給を止めることはなかった。彼女が見せると決意した全力を果たす為である。ここでやめてしまえば、全力ではなくなると考えてしまったためだ。精根尽きるまでデフテロスに自らの最大最高の砲火をぶつける。それこそが少女が考える全力であり、彼にぶつけるに相応しい自分の意志に見合った力であると確信しているのだから

 

 通常では無抵抗な人間に対して過剰火力と思えるほどの砲撃を前にしても未知かつ強大な力を有する彼は決して怯むことも屈することもないだろうという一種の安心感を感じていることもその強迫観念めいた無茶な考えを後押しする一因にもなっているだろう。端的に言えばいくら無茶をしたとしても彼が相手なら大丈夫だろうということだ

 

 少女のそんな潜在的期待に応えるようにデフテロスがいたであろう未だ霧散することない桜色の魔力塊に二つの変化が現れる。

 

 そもそも、極大閃光も着弾した傍から霧散することが普通であるのに未だに霧散することなく膨らんでいることが一つ。元々、白みが強い桜色であるため変化に気付きにくいが徐々に魔力の色が熱された金属のように赤熱色に変わってきていることが一つ

 

 

「ふむ、先程児戯といったことは撤回しよう。この圧力、この威力、この熱量。とても遊びではここまでにはならん」

 

 

 膨らみ続ける赤熱色の魔力塊の中から彼の声が聞こえる

 

 

「貴様らの意志の力、しかと見せてもらった」

 

 

「今度は俺の意志の力を、俺の我を貴様らに見せてやろう」

 

 

 徐々にではあるが桜色を浸食する赤熱色

 

 膨らみ続ける魔力塊はその成長をやめることはなく

 

 そして、デフテロスの我をなのは達が目にする時が来た

 

 

―DIVINE BUSTER 

 

 

 彼を中心に膨張した赤熱色の魔力塊はなのはへと反旗を翻す

 

 赤熱した奔流は白杖から続く桜色の閃光を逆流し、巻き込み、取り込み、呑み込み、膨れ上がる

 

 魔力をリンカ―コアから引き出し、空気中から取り込み、砲身である杖先に懸命に送り続ける幼気な少女を膨れ上がった魔力が炸裂し、それによって生まれた暴威が無情に襲う

 

 赤熱色の奔流がなのはを呑んだところを確認するとデフテロスがいう

 

「お前の魔力はこの俺の我に屈服したのだ」

 

 デフテロスの言は正確ではない…が、彼の力を、なのはの目の前で起こして見せた離れ業を表すに相応しい言葉であった

 

 彼があの瞬間行ったことは、着弾の瞬間、なのはの撃ちだした魔力を小宇宙を用いて固定。

 

 次に小宇宙で包み固定しただけの魔力塊に己の小宇宙を隅々に渡って通し、同化。

 

 最後に、己の小宇宙と同化したモノを改めて完全に掌握することによりなのはの魔力を自在に操れるようになった彼は、膨れ上がるまで溜め込んだ魔力を小宇宙に乗せ少女のもとへと一気にソレを逆流させた

 

 これが彼の行った絶技。卓越した小宇宙操作能力が可能にした荒業。しかし、これは最強の黄金聖闘士と謳われるデフテロスの実力の一端でしかない

 

―Flash Move

 

「ッ!!」

 

 赤熱色と桜色の魔力の残滓けぶる着弾点を眺めていたデフテロスに白い影が桃色の尾を引いて目にもとまらぬ速度で彼を襲う。が、目にもとまらぬという表現は常人の常識の中で生きる者に対して使われるモノであり、光速の世界の住人であるデフテロスの動体視力と運動能力を持ってすれば脅威にはなりえなかった

 

 白い影の奇襲は失敗に終わり、逆に襟首を掴まれ捕らえられてしまう

 

「驚いたな…アレを食らってまだ動けるとは。なぁ、なのはよ」

 

「…ユーノ君がなんとか直前で防いでくれたの」

 

 そう話すなのはの防護服(バリアジャケット)の所々は裂けたり、破けたりしている。防いだといっても防ぎきれたわけではないのだろう。傷ついたユーノも少し離れた場所で浮遊しているがもう戦うことはおろか魔法を使うのも厳しい状態なのが簡単に察せる程、疲弊しているのが見て取れる

 

「まだ続けるのか?」

 

「……」

 

「ここまで傷ついてまで、(アスプロス)と敵対してまで、お前がジュエルシードを集める価値は、意味はあるのか?」

 

「私はあの子とフェイトちゃんともう一度会いたい…」

 

「あってどうする」

 

「話を…したい」

 

「話ができると思うのか?」

 

「私、気付いたんだ。フェイトちゃんも貴方も事情があるのだろうけど私に話してくれない。打ち明けてくれない。私が…みんなとちゃんとお話をするためには、まずみんなに私を認めて貰わなくちゃいけないんだって」

 

「……」

 

「だから…」

 

「だから、話し合いをするために相手に自身の力を示さねばならんと思ったわけか」

 

―意志に相応しい力を見せてみろといったのが不味かったな。悪い方向になのはの性格と環境、俺の言動が噛み合ってしまったか…しかし、俺が言うのもなんだが危険な思想だな。だが、間違ってはいない。そうでもしないと、フェイトは話し合いのテーブルに着くことはないだろうからな

 

「そして、これが私の正真正銘最後の全力!!」

 

「Sanity Bomb」

 

 そう少女は叫ぶと続くように電子音声が響く

 

「なっ!?」

 

 デフテロスに捕らえられた少女が固く握る白杖は濃い桃色の魔力を爆発させ、その場には膨大な閃光と衝撃、轟音が響き渡る




最後の自爆の技名は某爆男アニメの正義感が強く優しい兄の最期の技から名前だけお借りしました
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