魔法少女リリカルなのは GEMINI   作:よね

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すみません、かなり遅れました
就活の傍らちょいちょい書き溜めてましたが、正直俺にはこのくらいが限界です
またしばらくはこんな感じになってしまうかと思われますが付き合っていただけると幸いです


第09話 わかりあえない気持ちなの?Another

 咄嗟のことに一瞬、ユーノは目の前で起きたことを理解できずに呆然するが、我を取り戻すとユーノは叫ぶ

 

「なのはッ!!」

 

 ユーノの叫びが濃い魔力を帯びた残滓と砂煙の中へ木霊する

 

―あんなことするなんて僕は聞いてない!!逆流するディバインバスターを前にして僕が聞いたのは、ただ、行ってくるってだけ。こんなことになるなんて…どうか、無事でいてくれ!!

 

 なのはの無事を祈り、爆発の余波で小さいながらも出来てしまったクレーターの未だ晴れず煙る中心を見つめる

 

「馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまで大莫迦だとは思わなかったぞ。まさか特攻してくるとはな」

 

 砂霧のなかから男の低く、絞り出すような声が響く

 

「わかるはずが無い」

 

―どうしてこんな平和な国で育った子供がこんな手段に訴えようとするのか

 

―こんな子供が何故こんな無謀な真似をしたのか

 

―何がなのはをここまで突き動かしたのか

 

「デフ…テロス?」

 

 やがて靄は晴れ、そこに映る影が姿を現す。少年は片手で少女を守るように抱き、突き出すように伸ばされたもう一方の腕は袖から背中にかけて酷く破けており、そこから浅黒い肌を覗かせるばかりか削れた地肌から薄桃色の肉が姿を見せる。彼が負ったのは火傷か擦過傷か。いずれにせよ患部は酷い熱を帯びていることが容易に察せる程のモノであった

 

 伸ばされた手の先にはレイジングハートが杖の状態で転がっており、そこはクレーターの中心でありなのはが放った最後の魔法の爆心地であったことがわかる

 

―こいつは、なのはは、危険だ

 

―力ではない。その精神性がだ

 

―折れぬ意志、限界を超えてなお体に鞭打ち酷使する手段も厭わない

 

―何かの為に誰かの為に全力を尽くし、時には命を賭した捨て身も辞さない

 

―まるで聖闘士(おれたち)のようではないか

 

―いや、聖闘士の方が使命という大義名分がある分まだマシかもしれん

 

―で、あるとするならなおさら野放しにしておくわけにはいかない

 

「……」

 

「お、お兄さん?大丈夫ですか?」

 

 抱かれていた少女なのはは恐る恐る目の前にある少年の顔を覗きながらいう

 

「……あぁ、大丈夫だ」

 

―この選択は合っているのか

 

「見事だ。お前の我は遂には俺へと届いた」

 

 青髪の少年は穏やかな声で少女に告げる

 

「なら!!」

 

 暗く硬い表情は一変して花が開いたような柔らかい笑顔になり、ついで、緊張が解けたのか気の抜けた顔つきになる

 

「不本意だが認めよう。引き続きジュエルシードを集めることをな。とりあえず少し休め、そんな府抜けた顔をアリサやすずかに見せるわけにはいかんだろう?」

 

―手の届く範囲に置き一挙一動に目を光らせておくことが正解なのか

 

 心配するような眼でこちらを見るユーノに気付く

 

―それとも少女をあちらからもこちらからも目も声も何も届かないところに置いておくことこそ正解なのか

 

「ユーノ。結界をもう少しだけ張っておいてくれ。この馬鹿を少し休ませておきたい」

 

―ユーノ。お前には正解がわかるか?

 

 そんなユーノを横目で見て声をかけながら、心の中で彼はユーノに問う

 

―俺にはわからん

 

 彼は隠れて無茶をされることこそ危険だと判断した。正確には一人という助けを容易に求められぬ環境で今回のような捨て身の無茶をされることこそ危険だ。と

 

「お兄さん!馬鹿はひどいです!!」

 

 言い返してくるなのはに対し先程とは違い、少し怒気を込めた声で言う

 

「確かに俺はお前が再び収集に出向くことは認めた。だがな、あんな馬鹿な真似はするな。自分の身を顧みない行為はかえって仲間や守りたいものすら傷つけ、その衝動は自分を砕き燃やすことになる。二度とするな。分かったな?」

 

 そう言い含めた彼の脳裏には狂戦士(バーサーカー)の兄弟がちらついていた

 

「は、はい。わかりました。なの」

 

「よろしい。褒美という訳ではないが俺に一撃を食らわせたのだお前たちの疑問の一つに答えるとしよう。なのは」

 

「はい」

 

「俺がお前を守っていたのは恩人だということもあるが士郎さんに頼まれたからだ。お前が何かをしてるのを知っているが、その何かまでは知らない。士郎さんはそれを打ち明けてくれるまでは無理に聞く気はないと言っていた」

 

「そんな…お父さんがそんなことを…」

 

「だが、俺を連れてきたことから何か危ないことに首を突っ込んでないか気が気でなかった。そこで、士郎さんは見ず知らずの俺にお前の護衛を依頼してきたんだ。こんな素性のしれない俺にな。可笑しいだろう?でもそんな彼だからこそ俺も彼の頼みを聞こう、そしてお前を守ろうと思ったのだ」

 

「……」

 

「士朗さんの名誉のためにあえて黙っていたが、こんな事態になるぐらいなら素直に話しておけばよかったな。その点は謝る。すまなかった」

 

「そんなっ、お兄さんは悪くないです!!私が勝手に勘違いして暴走して、怪我までさせちゃって…」

 

「もういい、済んだことだ」

 

「デフテロスさん。僕からも謝らせてください。僕が勝手な憶測をなのはに吹き込んだから…」

 

「大丈夫だ、気にしておらん」

 

「「でも」」

 

 謝罪を繰り返す少女とフェレットもどき

 

「許す。これでもう終わりだ。それでも悪く思うというのなら」

 

 デフテロスはうんざりした顔でいう

 

「「はい!」」

 

「服が破れたことに対して言い訳を考えてくれ」

 

「「え?」」

 

 そんな予想外の発言になのはとユーノはおかしく思い、つい吹き出す

 

 あくまで真剣な顔をするデフテロスを見てツボに入ったのか更に二人は笑い続け、それが収まったところでデフテロス、なのは、ユーノはアリサやすずかと合流することを目指して三人一緒に歩いて行った

 

 

 

 

「ハハハ、その選択は悪くないぞ。デフテロス」

 

「そうだろうか?」

 

 ビルの屋上の淵に並び立つ双子

 

 見下ろすのは黒白の少女たちの魔法を撃ち合い衝突する姿

 

 時は海鳴市郊外の山中の邂逅から数日後、時間としては夜も更けた頃というのは変わらないが、環境という点からすると以前の自然に囲まれた中での戦闘とは打って変わって街中での戦闘となる

 

 衝突の際、金色と桜色の花弁が火花と共に散る

 

「おそらく、俺がお前の立場でもそうするだろうな。こう言ってはなんだが、お前が相手ならばアイツよりも俺の方がまだ話は通じるぞ?」

 

「どうだか」

 

 デフテロスはアスプロスから目を離し、眼下をみやる。二人の戦闘は未だ止む気配は見えない

 

「しかし、フェイトも無理をする。こんな街中でジュエルシードの強制発動など…探索もしているようだが、体力は持つのか?」

 

「さてな。だが、その為に俺がいる」

 

「フェイト自身はともかくジュエルシードまで取れるとは思うなよ」

 

「それはやってみなければわからんだろう。まぁ、今のところフェイトとアルフの方が上だ。消耗していることを除いてもな」

 

 地へと雷撃が墜ち、天へと光線が奔る

 

「そのようだな。だが、なのはの攻撃も防がれるものの当たるようにはなってきたようだ」

 

「そろそろか…ムッ!?」

 

 そういってアスプロスもデフテロスに並んで眼下を見やる

 

 そこにはなのは達と思われる急降下する二筋の閃光が流れ、それらが向かう先には宙に浮くジュエルシードと思わしき青き宝石が見える

 

「チッ」

 

「行くか」

 

 

 ◇

 

 

「そこまでだ」

 

 二人の少女が衝突する直前、斧槍と白杖を突き出す二人の前に二人の男が立ちふさがる

 

 二人は向かい合う

 

 一人はなのはに拳を向け一指を突き付け、一人はその拳指からなのはを庇うように立っていた

 

「フェイト」

 

 なのはに拳指を向ける男アスプロスが口を開く

 

「…なに?」

 

「なに?ではないだろう。あんな勢いで突っ込むなどジュエルシードを割るつもりか?打ち負かしてから改めて再封印と回収すればよかったのだ。多少無理をしてでもな。何のために俺がいると思っている」

 

「うっ」

 

 その危険性もフェイトは考えてはいたのだが、なのはにジュエルシードを奪われることを避けることを優先したので、アスプロスの忠告が正しいものだと理解し、俯く

 

「なのは、お前もだ。仮にジュエルシードが、いや、デバイスのコアが割れてみろ。お前たちが込めた魔力分だけでも破裂すればただでは済まんぞ」

 

「はい…」

 

 なのはもフェイトと同じ心境なのだろう。むしろフェイトの前でジュエルシードを手に入れることにより会話へとつなげようと考えていた分、諫められたことに自分の至らなさを実感する

 

「では…」

 

「始めるか」

 

 そんな少女らを他所目に声を掛け合う双子

 

ANOTHER DIMENSION(アナザーディメンション)

 

 彼らは予め取り決めていたように同時に異次元へと少女たちを押しやる

 

「え?」

 

「キャッ!」

 

 少女たちが異次元に消えるのを横目にお互い手を伸ばせば届く場所にある宝玉、ジュエルシードを奪い合い始める

 

 黄金聖闘士の拳速は音速を超え光速に至る。光速とはおよそマッハ88万、つまり黄金聖闘士の拳は一秒に一億発放たれるのだ

 

 二人は相対する男に向かい正拳、熊手、手刀、貫手、掌底と様々な形で一億発もの拳を撃ち合い、それと同じ数だけ捌き合う

 

 互いに聖衣や冥衣といった身を守るモノを着けてはいない為、拳の応酬により次第に二人の身体は傷ついてゆき、拳が放たれるたび血飛沫が舞うようになっていた

 

 余りの速さに拳は衝撃波を纏い、拳の余波でコンクリートは割れ、彼らの熱く激しい闘気から空気は歪み、アスファルトは溶け、散る紅血は蒸発し、赤い霧となり鉄の匂いと共に周囲に立ち込める

 

 それでも一歩も引かず、己が求めるわけでもないジュエルシードを手にする為だけに光速の世界の中、互いが互いを傷付け続ける

 

 しかし、そんな中でも二人は拳を撃ち躱しながらジリジリと二人から見て丁度中央にある青い宝石の元へゆっくりではあるが歩を進め、遂に二人の間にある距離は腕を伸ばせば届く距離にまでなってしまう

 

 そんな二人の拳速、拳閃、拳圧を始めとした様々な要素は全て互角であり、この青き宝玉を奪い合う闘争は永遠に続くことかと思われた

 

「グッ」

 

「どうした、デフテロス」

 

「いや、何でもない。貴様こそ大丈夫か?少し拳圧が弱くなってきているのではないか?」

 

「ぬかせ、貴様ほどではないわ。……よほど、数日前に負った肩口の傷が痛むと見える」

 

 それは黄金聖闘士ですらもよく目を凝らさなければ気付かないぐらいのほんの僅かな遅れ。それがデフテロスの拳に現れ始める。それは全く同じ力量であるアスプロスだからこそ気付くことが出来たのだろう

 

「チッ」

 

「ほら、一手遅れてるぞ」

 

 アスプロスの拳がデフテロスの肉体に差し、打ち込まれる。威力はさほどないがそれでも黄金聖闘士の拳。それは鍛えられた筋肉を超え内臓に響く

 

「ガッ」

 

 依然として変わらぬ威力の拳を撃ち続けるアスプロス

 

 立て直そうとするデフテロス

 

「また一手。そして、これは読み違えだな」

 

 彼をあざ笑うかのように容赦なく隙間へと正確に拳を放つアスプロス

 

 一手遅れるごとに弾幕から捌ききれなかった数発の拳がデフテロスを襲う

 

 段々と変わっていく形勢、デフテロスの放つ拳数は未だに減ることはないが、拳圧や拳筋にはアスプロスのモノとは明らかに遅れが出始めていた

 

 徐々に押されてゆく流れを変えようと一瞬の隙に拳を撃ちだすのを止め、デフテロスは拳の弾幕を抜けアスプロスへと掴みかかる

 

 拳撃が止み掴みかかってくるデフテロスに驚くがアスプロスも咄嗟に迫る剛腕に両腕をもって対抗する

 

 双子の剛腕が生む筋力は互角であり、互いに全力を尽くしているというのに前にも後ろにも進むことはなかった。

 

「はぁあああああ!!」

 

「うぉおおおおお!!」

 

 眉間を寄せ睨みあい、吠えるように声を上げる二人の形相は鬼そのものであり、余裕など微塵も感じさせない

 

 額からは玉のような汗が流れ、傷からは真っ赤な鮮血が垂れるのが見える

 

 二人が取っ組み合いを始め、少しの時間が経過するも、拳撃の撃ち合ってた時とは打って変わって一歩も進まず一歩も引かずお互い顔を突き付け両腕に力を込め続けていた

 

 しかし、このままでは千日戦争(ワンサウザンドウォーズ)へと至りそうな二人の間にもこの硬直した現状を打ち破る前兆が現れる

 

 それは、デフテロスとアスプロス黄金聖闘士級の実力者の拮抗する者同士で組まれた掌の中には図らずも圧縮された小宇宙の塊が出来つつあったのだ

 

「気付いているかデフテロスよ」

 

「あぁ、俺たちの掌に集うこの小宇宙ならな」

 

「このまま続ければ、いずれ破裂するだろう」

 

「この威力は最悪、銀河を砕く一撃に迫るかもしれん」

 

「それでも続けるか?俺たち共にただでは済まないぞ」

 

「無論。怖気づいたか?アスプロス。さぁ続けるぞ」

 

 会話を短く交わし再び、より力を入れて向かい合う

 

 小宇宙が生み出すエネルギーの余波がより大きく、より強く周りへと流れ、触れるモノを吹き飛ばし、壊し、砕いてゆく

 

 両者が取っ組み合いを続けることによって掌の中で圧縮され密度を高め続ける小宇宙の塊も限界を向える時が来た

 

 両掌の中から弾け破裂する小宇宙は凝縮し続けた二人の小宇宙をお返しとばかりに発散させ、その暴威の中へと双子を巻き込む

 

 眩い光、昏い闇が入り交じり放たれる小宇宙は何物でもないどんな技でもない原始的な混沌としてその威力を発揮する

 

 その爆発いや爆裂により砕かれた石片・金属片は凄まじい爆風・暴風に乗り、一種の炸裂弾のようにその渦中にある双子を襲う

 

「がぁぁぁあああああああ!!」

 

「おぉぉぉおおおおおおお!!」

 

 双子は極光が目を灼こうとも破片が肌を切り、暴風が身体を持っていこうとするもそれを良しとせず、割れた地面に足を引っかけながら食い下がり互いから眼を逸らすことはなかった

 

 破片を纏った閃光と爆風が止むと、二人は空いた空間を嫌うかのように再び距離を詰めようと駆け、殴り合う

 

 今度は光速拳の応酬ではなく拳打、蹴り、投げを駆使した始源的な格闘が繰り広げられる

 

 肉が打たれる音が鈍く響き、骨が軋む音が大きくなる。見ているだけで目を覆いたくなるほど凶暴な戦闘を痣をつくり、顏も拳も血に塗れながらも二人はやめることはない

 

 そう二人が拳を下ろすのは決着がつくときだけ

 

 そして、その決着の時もすぐそこにまで近づいていた

 

 デフテロスが肋骨の隙間に寝かした手刀を刺し込み、肺を衝かれたことによりその中にある酸素をすべて吐き出し、前に屈みそうになるアスプロスのこめかみへデフテロスは拳槌を振るう

 

 アスプロスも急所に向かう拳槌を首を振り被り、勢いをつけた額で迎え撃ち、逆にデフテロスの拳師を潰す

 

 弾かれた腕が生み出した隙、伸ばされた腕の付け根、無防備な肩口へとアスプロスの手刀が下される

 

 そこにはなのはとの戦闘でできた傷が存在し、火傷の上から無情に下される衝撃の生む鋭い痛みが神経を通して全身に電流のように奔り、意思とは裏腹に反射的にデフテロスの身体は仰け反る

 

 仰け反りながらも腕を伸ばし顔面を握りつぶそうとするデフテロスの鳩尾にすかさずアスプロスが蹴りを叩き込む

 

 急所を蹴り飛ばされたデフテロスは血と空気を吐き出しながら一瞬宙に浮き、地面に背中から強かに打ちつけられる

 

 一拍二泊をおいてもデフテロスが起き上がる気配は無い

 

 倒れるデフテロスを荒い息を整えつつ確認するとアスプロスは青き宝石の元に歩を進める

 

 「ハァ、ハァハァ…」

 

 血を流しながらジュエルシードを握るアスプロス

 

 この瞬間、この場の勝者がアスプロスであることが確定する

 

 彼もまた肩で息をしており、全身に付いた傷跡・打撲痕から受けたダメージも少なくないことがわかる

 

 それでも、この場でのジュエルシードの争奪戦の勝利者はアスプロスである事実が揺らぐわけでもない

 

「貴様が万全であれば結果はまた違っていたかもしれんが…今夜も俺の勝ちに終わったな。お前も余計な世話など焼かずにいればこんな無様な姿を晒すことにはならなかったろうに…アルフ!決着はつき、ジュエルシードは奪った!これ以上ここにいる意味はない!!お前はお前で勝手に戻ってこい!!!」

 

 そう声を上げると傷ついた肉塊を引き摺りながら異次元へと姿を隠す

 

「くそっ」

 

 倒れ伏すデフテロスはたまらずに漏らす

 

 今回の敗北の一因は明らかに先日の一件の負傷が響いており、その点に関しては間違っていないことを理解していたからだ。理解している分、なおさら気分が悪い

 

 

 

 

 デフテロスは仰向けのまましばらく時が過ぎるのを待つ。身体が動く程度まで回復するのを待っているのだ

 

 幸い結界はまだ消えていない。結界が切れる前までに動けるようにとデフテロスが回復に努めていると、まずはユーノが、次に高町家にまで転送したなのはまで駆けつけてくる。

 

 一足先に辿り着いたユーノがあたりの惨状を見渡し顔をしかめて一言零す

 

「これは…酷い」

 

 なのはは何とか上体を起こしたデフテロスの傍に屈み、心配してくる

 

「お兄さん?大丈夫ですか?」

 

「……命には別状はない。俺はこの程度では死にはしない。あぁ、ユーノ。悪いが後始末を頼む。壊したものを元に戻すのは苦手なんでな」

 

 デフテロスも聖域にいた時は自分が修行時に破壊したモノは石柱や石畳、石壁を直したことはあるがそれは元通りにするというより代わりのモノを他所から持ってきて同じように置いて行くといった雑な再現をしていただけであり、完全に壊してしまったモノを壊れる前の状態に戻すということは出来ないのだ 

 

 それに対してユーノはスクライア一族という発掘や探索を生業とする種族として生まれ、その名に恥じぬだけの教育を受けて育ってきたため、遺跡・史跡の崩壊跡を修復する必要に迫られた時に使う魔法も習得していた

 

 そのため、デフテロスは復元魔法(といっても単純な構造の無機物に限る)を扱えるユーノに散々破壊され尽した鉄の匂いが立ち込め、赤黒い斑点が散る広場の修復を頼んだのだ

 

「もしかして……」

 

 血と土に汚れながらも何ともないような顔で声を掛けるデフテロスを見て何か思い当たる節があったのかなのはが呟く 

 

「ん?」

 

「もしかして……お兄さんが私と会った時に怪我をしていたのって―」

 

「ッ!!」

 

 デフテロスはなのはが察しがつい出来事に気付き息を呑む

 

「もしかして……アスプロスさんと戦ってあそこまで傷ついてしまったんじゃありませんか?」

 

 デフテロスはその問いに一呼吸おいて答える

 

「その通りだ」

 

 デフテロスは真実を口にする。これこそ隠す意義のない真実だと思っているからである

 

 まぁ、厳密に言えば傷を付けたのはアスプロスというのは正しい。が、あの程度の傷しかつけられなかったという点では真実ではない

 

 正確には傷つけ砕かれた程度で終わらず聖衣と魂を除いて身体は塵も残さない程、消滅させられたのだから

 

「……奴について俺が話すのはここまでだ。これ以上話すつもりはない。お前と出会う以前のことはな」

 

「デフテロスさん。路上、広場の修復終わりました」

 

 ユーノの背後にある広場には破壊の跡はちょっとしたひび割れ程度にまで修復されており、双子が争った跡と比べればおそらく人が見てもちょっと気になる程度の劣化具合になっていた

 

「これ以上もとには戻せませんでした。欠けている部分は塵や砂のように魔法で修復できないぐらい細かく砕けたか風化したんだと思います」

 

「ご苦労だった。ユーノ。さて戻るぞ。なのは、すまないが戻ったら包帯と消毒液だけ取ってきてくれ」

 

ANOTHER DIMENSION(アナザーディメンション)

 

 そんなねぎらいの言葉をかけるとよろよろと立ち上がり異次元の扉を開く。その奥には高町家の中、なのはの部屋が見える

 

「うん、わかった」

 

 ユーノはその返事を聞くとなのはの肩へするすると慣れたように登り、なのはもそれを見届けると異次元に足を踏み入れる。デフテロスも少女に続く。そうして二人と一匹は異次元の中へと消える

 

 

 

 

 そこはマンションの一室、何もない空間に裂け目が出来るやいなやバリバリと音を立てて空間が開く。そこから現れたのは満身創痍といっても差支えが無いほど傷と疲労を負った人物であった

 

「フェイト、帰ったぞ」

 

 男はそのマンションにいるべき少女へなんとか自らの帰還を口にする。その声を聞き届けた少女が階上から駆け下りてくる

 

「アスプロス、どう…だっ…た!?」

 

 少女は男いやアスプロスの姿を見て絶句する。そんな少女へアスプロスは手に握っていたモノを放る

 

「フェイト、それをバルディッシュの中にさっさと保管しろ。で、包帯と消毒液。余裕があれば濡らしたタオルでも持ってきてくれ。足らなければ明日買いに行くからあるだけでいい」

 

 ソレは青い宝石、ロストロギア・ジュエルシード

 

「ひどい傷……本当に大丈夫なの?」

 

 男の姿に目を奪われながらもなんとかジュエルシードをキャッチすると心配するように話しかける

 

「この程度、慣れたものだ」

 

 答えながら破れ、血塗れになったシャツを脱ぎ、軽く体の血や泥、埃を拭うとゴミ箱へ放り投げる

 

「慣れた…って」

 

「俺のいた所ではこんなこと日常茶飯事だったさ。修行も虐待も戦闘も絶えることなく見えるところでも見えないところでも毎日のように行われていた。死者が出ることもしばしばあった。俺の場合、虐待だけは受けることはなかったがな」

 

 その言葉は暗に虐待を受けた者を直接見たことがあるということを指していた。その言葉を聞くとフェイトは反射的に自分の体を抱いてしまう

 

「ッ!?」

 

 そんな自分の行動に驚くフェイト。しかし、アスプロスはそんなフェイトの態度を気にも留めずベランダの方へ進む 

 

「俺はベランダの方にいる。部屋の中だと壁にもたれ掛ると汚れがついてしまうからな。保管を優先していいからさっさと行ってこい。もう一度暴走されるのは嫌だろう?」

 

「わかった。ちょっと待っててね。すぐ持ってくるから!!」

 

「あぁ、頼んだ。俺は少し休む。流石に疲れた」

 

 そう言ってベランダへ出ると座り込み、肌寒い風が肌を撫でるのを感じながらアスプロスは目を閉じた

 

 その後、フェイトたちの住む一室へアルフが戻ってくると、傷ついたアスプロスの姿に驚くも、直ぐに明日起こるであろう出来事を思いフェイトの心配をする

 

 

 

 

 なのはとフェイト、デフテロスとアスプロスの戦闘があった翌日の早朝

 

 なのはは道場の方へ歩いていた。肩にはもちろんユーノを乗せて

 

―どうしたの?なのは。今日はいつもよりずっと早いじゃないか

 

―ちょっと考えたいことがあって。道場なら集中できるかなって

 

 高町家には早朝からランニングや修行といったアクティブな行動をする人物が多いため一応警戒して、念話で会話しながら二人は歩く

 

 道場の扉を引くとそこには先客がおり、それが意外な人物であったためになのは達は驚く

 

 そこには結跏趺坐(けっかふざ)、つまり両足を組み、両足の甲を反対の腿の上に乗せて座るデフテロスがいた

 

 デフテロスは手を組み、脚を組み、眼を閉じて瞑想していた。その姿はさながら仏像であった

 

「なのはか…どうした?こんな時間に…昨日のこともあって疲れてるだろう」

 

 デフテロスは口を開く。そして彼は目を閉じたまま少女が声も発していないのに道場にやってきた人物がなのはだと言い当てた

 

「お兄さんこそ何を?あんなに怪我をしていたのに…大丈夫なんですか?」

 

 なのはは昨日、帰宅後にデフテロスが自分で怪我の治療をしていたことも、その傷がどの程度のものだということまで知っていた。だからこそ、体を動かす道場という場に彼がいることに驚きを隠せなかった

 

「見てわからんのか?修行だ。まだ、奴とやるには足りないことが分かったのでな。本格的に再開しようと思ったのだ」

 

 姿勢を全く崩さず目も開けず、デフテロスは見事に口だけを動かしていた

 

「修行?」

 

「俺の数少ない友人がよくやっていた修行だ。そいつは茨の上や火中で、水中で、時には絶食しながら瞑想をすることもあったそうだ」

 

「えっ?そんなことやって平気なの?というかお兄さんに友人っていたんだ…」

 

 何気に酷いことを言いながらもデフテロスのいうことに対しなのはは素直に驚く

 

「平気じゃないからこそ修行になるのだ。そもそも瞑想というものは己の中にあるものと向き合う作業であるから内面にも外面にも左右されない環境を作るところから始まるのだ。そしてより深奥を目指すのであれば自分だけでその環境をつくるところへ至る。奴はそこへ到達していたのだ」

 

 それはデフテロス自身カノン島の溶岩の中でやっていたことでもある

 

「もういいだろう、気が散る」

 

 そういってデフテロスは沈黙する

 

 道場といった静かな環境であるからこそ、己の中の小宇宙に対し集中して向き合うことが出来た

 

 過酷な環境でする瞑想も静かな場所でする瞑想も目標は同じでともに明鏡止水の境地を目指し行う

 

 前者は過酷な環境という外的要因に左右されず心の平静を保つことで純粋な実力をコンスタントに発揮することを目指す

 

 後者は内的要因である雑念を断つことによって己の小宇宙の質量と純度を高めることを目指す

 

 どちらもアプローチする方向が違うだけで最終的には両者を兼ね備えた高みへと至る

 

 デフテロスも既にその境地にいるが、生前から変わらぬ己の小宇宙と生前から退行した己の肉体の齟齬からくる歪みを認識していたため、改めてその齟齬を修正する修行を始めたのであった

 

 なのはも最初こそは沈黙し瞑想するデフテロスを眺めていたがやがて正座して瞑想を始めた

 

 自分の戦う理由、フェイトと何を話すのか、フェイトと対話するのに何が必要なのか、フェイトの戦う理由を聞いたところでどうするのか…いずれも今まで良くも悪くも感情で動いていたなのはは静謐な道場の中で落ち着いて心の中を見つめなおす

 

 ・ 

 ・

 ・

 

「あれ?なのはにデフ君。珍しいね」

 

 しばらくして、ランニングから帰って来たのであろう美由希が道場に足を踏み入れる

 

「あ、お姉ちゃん。おはよう」

 

「おはよう、なのは。おはよう、デフ君」

 

「…おはよう」

 

 デフテロスも美由希に挨拶を返すが相変わらず口以外の箇所はピクリとも動かない

 

「デフ君はクールだねぇ~。けど、なのはもデフ君もどうしたの?」

 

「私はちょっと早く起きちゃって」

 

「そっか」

 

「お兄ちゃんは?」

 

「父さんとちょっと遠くまで走りに行ってるよ。私は途中で抜けてきちゃった」

 

 そういって美由希は壁にかけてある二本の小振りな木刀を手にし、振り向く。その先には結跏趺坐の体勢でデフテロス瞑想している

 

「デフ君はどうしたの?」

 

「……修行だ」

 

「なるほどなるほど。これから私もここで修行するからさ、うるさくしちゃって瞑想の邪魔しちゃうかもしれないんだよねぇ~」

 

「……出て行けと?」

 

「いーや、違うよ。けどね、私には二人ともちゃんと修行になるいいアイデアがあるのだよ」

 

 美由希はにんまりと笑う。その顔は目を閉じるデフテロスには見えなかったが、声色だけでどんな顔をしているのかは感じ取れた

 

「その考えはね、組み手をすればいいんだよ!!」

 

―やっぱりか

 

「デフ君はこないだ恭ちゃんとやってからここに寄り付かなかったからね。唯一のチャンスだったあの時も何やかんや逃げられたからね。ここで会ったが百年目、この申し出受けてもらうよ」

 

「お、おねぇちゃん…やめといた方がいいんじゃ」

 

 片目を開けてチラリと美由希の顔を見やる顏こそ笑っているモノのその眼には絶対に逃がさないという強い意志が見て取れる。性質の悪いことに以前逃げた理由が試合は私闘であるとみなすといっていたため、今回は試合ではなく組手だと最初に釘を刺されたことからいつか機会が巡って来たときのために逃げ道をふさげるよう考えていたんだろう。これ以上の問答は俺が組手の申し出を受けるまで続くだろう

 

「わかった。受けよう。勝利条件は?」

 

「試合じゃなくて組み手だからね。勝利条件なんてないよ」

 

「そうか…」

 

―要は満足するまで付き合えということか

 

 そうして二人は組手を始める

 

 ・ 

 ・

 ・

 

 結果としては美由希の剣はデフテロスに当たることはなかった

 

 捌かれ、避けられ、遂には受け止められたためである

 

 受けに回れば、最終的には受けだというのに美由希の体捌きから剣筋を読んで木刀を振るう前に美由希が振るおうとした箇所と同じところに手刀を落とし

 

 反対に攻めに回ればデフテロスの拳はいずれも美由希に当たってしまう

 

 しまいには詰将棋のように何手で寸止めに至るまで宣言した挙句、美由希の反撃すらも勘定に入れてきっちり宣言通りに拳に吸いつくように(寸止めではあるが)当ててしまう始末であった

 

「あー、ここまで見事にやられると悔しいを通り越して清々しくなっちゃうね。いや、やっぱり悔しい」

 

「満足したか?」

 

「う~ん、満足したっていうのとは違うけど、これ以上やっても当たる気がしないからこれで終わりかな」

 

「そうか…」

 

「けど、デフ君。いつの間に怪我なんてしたの?」

 

「顏の傷は昨日、転んで打ってしまっただけだ」

 

「それもなんだけど、その服の下の怪我もだよ。恭ちゃんのお下がりだから全部長袖だしうまく誤魔化してるつもりだろうけど、いくら私でもさすがに分かるよ。だから、そんな体でも完敗したっていうのが力の差を見せつけてるようでね。いきなり今日修行を始めたのもその傷のせいかな?」

 

「美由希には関係ない」

 

「むー、君のことは父さんから話されるまで深く聞かないようにって言われてるからね。これ以上は聞かないよ。ただ、何があるのか聞きはしないけど、絶対になのはを守りなよ。じゃあ、邪魔してごめんね。私は先に行ってるから」

 

 そういって木刀を元ある場所にかけると道場から出て行ってしまう

 

「バレてたのか…ちょっと見くびりすぎてたか」

 

 美由希を見送るデフテロスはそう呟く。美由希の言った通り、長袖長ズボンの下にあるデフテロスの身体には昨夜の戦闘で傷ついた怪我を清潔にした上で、薬が塗られ、その上から包帯で巻かれていた。

 

 万全である時と比べて、平時にも怪我による僅かな遅れがでるのだ、デフテロスには及ばないとはいえ剣士を目指し、研鑽を重ねる美由希は組み手までしたのだ、見破られてもおかしくはなかった

 

 いや、怪我をした状態で常人離れした動きをするデフテロスに対し、怪我を見抜くことが出来た美由希の眼とその身に宿る才覚こそ優れていたといった方が良いだろう

 

「さて、俺たちもそろそろ行くか…なのは、考えはまとまったか?」

 

「完全にってわけじゃないけどどうしたいかはもう決まったよ。フェイトちゃんとお話ししてそれを聞いてからまたどうするかは考える。その為には絶対に負けない。いや、勝つ!!」

 

「わかった」

 

決意を口にするなのはの顔をしっかりと見届けると、デフテロスはなのは、ユーノと共に朝日が差し込む道場の扉へと歩を進めていった




描写的に勘違いされそうなので一応言っておくと今作ではデフテロスとアスプロスの力量・技量は全く同じです
それでも差違が現れるのは怪我の有無や幻朧魔皇拳の影響だと考えています
原作でデフテロスをアスプロスが仕留められたのもそのためだという設定です
ただ、あくまで同じなのは力量・技量は同じですが知識量や経験、我の強さなどには差がありますのでその点を含めた総合量ではアスプロスの方が僅かに上をいくのではないかと考えてます

次回はアスプロスがメイン気味になるかと思われます
次話もお付き合いいただけることを願っております
では失礼いたします
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