魔法少女リリカルなのは GEMINI   作:よね

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すみません、またかなり遅れました
まだしばらくはこんな感じになってしまいますので、付き合っていただけると本当に幸いです

7月からはもっとペースが上がるかと思います。9月以降は(多分)もっと速くなると思われますが…


第10話 聖衣vs冥衣 なの

 双子が衝突し、街に、各々の身体に傷痕を残した翌日

 

 その身に刻まれた傷の処置をしたアスプロスは壁に背を預ける形で目を閉じていた

 

「アルフ。冷蔵庫に入れてあるお土産を持ってきて」

 

「…はーい」

 

 リビングと玄関の間にある廊下から二人の声が彼の座する部屋へと通り、その声に惹かれるように彼の意識は浮上する。主人たる幼い魔法使いとその従たる使い魔の獣…今のところ人の形をとってはいるが。しかし、アルフの声は平時よりも暗く、彼女の性格からするとあまり馴染のない声色である

 

 身体をむくりと起こし、立つ。関節や筋肉が鈍い痛みを訴えるが慣れているのであろう、身を強張らせることなく気に留めず声のする方へ向かう

 

「待て、何処へ行くつもりだ」

 

 戸を引きながら、アスプロスはそこに立つフェイトへと尋ねる

 

「母さんに会いに…」

 

「俺は何処へ行くつもりなのかを聞いている。お前の裏に母親がいることなぞ出会った時から知っている」

 

「えっとね、母さんのところに…「だから、その母親のいるところを教えろと言っている」…時の庭園」

 

 歯切れの悪いフェイトに向かって次第に詰問するかのようにアスプロスは言葉を放つ

 

「時の庭園?それはどこにあるのだ」

 

「この次元にはない。屋上から次元移動する」

 

「ほう」

 

「ね?母さんの所に行って報告するだけだから…アスプロスも休んでて。昨日、あんなになってまでジュエルシードを奪ってくれたんだから休んでて」

 

「……」

 

「じゃ、じゃあ私は行くね。行こう、アルフ」

 

「うん」

 

 沈黙は肯定と見たのかフェイトは浮かない顔をしたままの土産と思われる箱を持ったまま立つアルフへと声を掛ける。アルフも主人の呼ぶ声に従い、主の元へ行く。しかし、彼はアルフがフェイトの元へ行く時、アスプロスの前を横切る瞬間、何かを諦めるような、何かに怯えるような眼をこちらに向けたのを見逃さなかった

 

「いや、俺も行く。素性と協力している理由ぐらいは面と向かって話す。得体のしれぬ人間を連れていることは向こうも把握しているだろうが、何も報告せんとなるといらぬ誤解を生む羽目になりかねん」

 

 そのまま二人で外に行こうとする二人に向かいアスプロスはいう

 

「…わかった、じゃあ付いて来て」

 

「あぁ」

 

・

・

・

 

 次元移動を終え、三人は「時の庭園」といわれる元は移動庭園、今は移動要塞と言える場所の内部のホールに降り立つ

 

「じゃあ、私は母さんに報告ついでに集めたジュエルシードを渡してくるから…アルフはここで待ってて。行くよ、アスプロス。くれぐれも」

 

「くれぐれも粗相のないように…だろう?わかっているさ」

 

 いくつかの部屋を抜けながらもフェイトはそんなアスプロスのいつもと変わらない様子にクスリと笑う。そして、ふと前を向き立ち止まると目の前には重厚な扉がそびえ立つ。母の待つ部屋の扉が二人が来たことを認識したのか独りでに開く

 

「遅かったわね…フェイト」

 

 扉を抜けた先にもアーチ状の天井を有する広大な部屋が存在し、その最奥には黒いローブを纏った老齢とも妙齢とも見える女性が玉座に腰を掛けている

 

「遅くなりました。母さん」

 

 そんな女性に向けてフェイトが頭を下げる。フェイトから一歩引いた場所からフェイトの母への挨拶に続くようアスプロスが口を開く

 

「お初にお目にかかります。私はアスプロスと申します。貴女のご息女に命を助けて頂いてからその恩を返す為、行動を共にさせて頂いております。本日は顔見せとご挨拶、そして改めて貴女のご息女と共に行動することの許可を頂きに参りました」

 

「……そう。早速だけれど、回収したジュエルシードを渡してちょうだい」

 

 フェイトが母と呼ぶ女性プレシア・テスタロッサはひざを折り頭を下げ、慇懃無礼なほど丁寧な自己紹介をするアスプロスに対し、興味なさそうに一瞥するとフェイトへと声を掛ける

 

「はい」

 

 フェイトは小さな金属片となったバルディッシュのみを手に母の元へ歩む

 

「そして、そこの貴方」

 

「はい」

 

「フェイトが拾った男がどんな粗暴者かと思えば、最低限の礼儀は弁えているようね…まぁいいわ、改めてこれからフェイトと行動することについて認めます」

 

「光栄です」

 

「要件がそれだけならさっさと出て行ってちょうだい」

 

 頭を下げるアスプロスに対し面倒くさそうに指示を出す。その声には嫌悪の感情こそないものの、あまり良い感情を抱いていないことが察せられた

 

「……」

 

「聞こえなかったのかしら?早くここから去りなさい」

 

 先程よりも若干苛立った響きが広大なホールに反射し、跪く彼にのしかかる

 

「…………かしこまりました」

 

 アスプロスは観念したのかすくっと立ち、母の元へ行くフェイトを見やると重厚な扉を押し開きその場を後にした

 

・

・

・

 

 いくつもの部屋と廊下を抜け、ポートのある部屋へとたどり着くと蹲っていたアルフが顔を上げ、何か考え込んだ様子のアスプロスを認識した瞬間一気に青ざめる

 

「おい!フェイトはどうした!!」

 

 飛び掛からんばかりにアスプロスに詰め寄り、アルフが怒鳴る

 

「あの部屋へ置いてきた。いや、俺だけが追い出されたといった方が正確か」

 

 それを聞いたアルフはわなわなと震え、アスプロスを糾弾し始める

 

「なんで、なんであの子を置いてきた!!お前がいれば、あの女もフェイトに手を出さないと思っていたのに!!」

 

「?」「手を…?」

 

「あ、あぁ…始まってしまった!」

 

「おい、何を言っている!アルフ」

 

「この鞭の走る音がお前には聞こえないのか!アスプロス!フェイトが苦しむ音が聞こえないのか!」

 

「情けないというがいいさ!けど、私には何もできないんだ!!」

 

「身体が強張ってしまう!」

 

「足が動こうともしない!」

 

「だから、お前に期待したのに…」

 

「ッ!!」

 

 アルフの声が彼の鼓膜を震わすと同時に理解する。踵を返し、乱暴に扉を跳ね飛ばし、つい先程までいたホールへと今来た道を駆ける

 

・

・

・

 

「たったの四つ…これは、あまりにも酷いわ」

 

「はい…」

 

 静まり返ったホールに少女とその母の会話が寂しく響く

 

「いい?フェイト。貴方は私の娘。大魔導士 プレシア・テスタロッサの一人娘」

 

「はい…」

 

 娘の手には枷が、母の手には鞭が

 

「不可能なことなどあってはならない。どんなことでも、そうどんなことであっても成し遂げなければいけない」

 

「はい…」

 

 フェイトの身体には痛々しい赤いラインがいくつも走っている。そしてその跡は鮮やかな赤とくすんだ赤が見て取れて以前から同じような凶行を受けていたことが見て取れる

 

「こんなに待たせておいて、あげた成果がたったの4つだなんて余りにも酷いわ。こんなんじゃあ母さんは貴女を笑顔で迎えることは出来ないの。分かってくれるかしら?フェイト」

 

「はい…わかります」

 

「わかってくれたのならいいの。じゃあ分かってくれたのならもう二度と母さんを失望させないでちょうだい」

 

「はい、もう…もう二度と母さんの期待を裏切りません」

 

 フェイトは絞るように、それでも、できるだけ強くその母の願いにこたえる

 

「良い心掛けよ、フェイト。だけど、もう一つ母さんは残念に思っていることがあるの」

 

「ヒッ」

 

 プレシアはいかにも悲しげな表情を作り、杖から鞭へと魔法により変化させるとそのまま鞭で床を打つ。ピシッと鋭く高い鞭打の音が高い天井にまで届く

 

「あんな男をどうして連れてきたのかしら?ここは家族が集まる大切な場所…それなのにあなたはここに他所者を招いてしまった事実が私をとても悲しませるの。あなたがそんなことも分かってない悪い子だというのなら…その身体に教え込まないと、躾しないといけなくなるの」

 

 そして、ゆっくりと、そうゆっくりと言い聞かせるように、恐怖を煽るようにゆっくりと時間をかけて鞭を掲げ、腕を上げる。その先が真上を指した瞬間、今までの緩慢で緩やかな動きとは打って変わって思いきりプレシアという女性から考えられるだけ力一杯込めて振り下ろされた

 

「ッ!」

 

 腕が振り下ろされる初動を認識した瞬間、一拍の間に自分の身に刻まれる痛みを想像し、目を強く閉じ、身体を固く強張らせる

 

「……?」

 

 そこには服を、肌を鞭打により裂かれ血を流す少年がいた。少年は少女の前で両手を広げその背の後ろに少女を隠すように庇い立っていた

 

「俺が原因でフェイトが鞭で打たれるというのは些か筋が通っていない…俺が罰を受けることこそが道理というものだ」

 

「貴方にはこの場から去れと命令したはずよ」

 

 そう言いながら鞭を振るう

 

「あぁ、去って見せたさ。再び戻ってきたにすぎない」

 

 いとも容易く、波打ちしなり振るわれる鞭の先を掴む

 

「ッ!屁理屈を…貴方は一目見た時から不快だったのよ。その眼!野心を隠そうともしないその眼が!何を企んでいる!!」

 

「俺の望みはたった一つだ。フェイトの望みを叶えること…ひいては貴女の望みの成就。それだけだ」

 

「信用ならないわね」

 

「だろうな。なら、俺の心中を推し量れぬというのならまずはその疑念・疑惑・嫌疑が消えるまで俺を鞭打て!!その上でフェイトを罰するのならその罪をつくった俺を打つがいい!!貴女には理解できないだろうが、俺には命を助けられた恩が彼女にはあるのだ」

 

 その声には男性的で雄々しい迫力が秘められ、その眼には燃えるような覚悟が揺らめいていた。そんな目を、そんな声を打ち付けられたプレシアは一瞬気圧されてしまう

 

 彼はそういうと持っていた鞭の先端を返すように投げる

 

「いい覚悟ね…そこまで言うのならもういいわ。ただ、フェイトへの躾と貴方の信用は結果と貴方の働きにかかっているとだけ言っておきましょう」

 

 そう力なく言うとフェイトを拘束していた手枷足枷を解く、フェイトの身体は支えをなくし崩れ落ちるが、アスプロスは憔悴する少女を抱きその場を後にしようとする

 

「あぁ、了解した…なら、次のジュエルシードの回収する様を見ておけ。俺の、俺たちの力を知らしめてやる。その時、貴方は知ることになるだろう。その競争者の強大さとその中でジュエルシードを奪取し続けたフェイトの想いの強さを」

 

―…競争者?強大さ?

 

「それは管理局のことを言っているのかしら?」

 

「管理局?何を言っている?今の時点ではそんな組織の介入は確認していない。まぁ気には留めておく。では失礼しよう」

 

 そういうと星海の広がる異次元を開き、プレシアの目の前から彼は夜空に溶けるように消えて見せた

 

 その様子を見てプレシアは些か驚き、呟く

 

「フェイトは厄介な拾いものをしたようね…忌々しい」

 

・

・

・

 

 アスプロスはその後待機していたアルフを拾い、プレシアの手を借りることなく三人は拠点としているマンションへと戻る。フェイトは帰還する途中気を失ってしまい。少女の気が付くころにはあたりは夕焼けに染まっていた

 

「フェイト、アルフ、気付いてやれなくて済まなかったな」

 

 アスプロスは目を覚ましたフェイトの傷の手当てをしてやりながらポツリと言う

 

「大丈夫だから気にしないで」

 

「いや、よく観察していれば容易に気付いたことだ。これは手落ちというしかない…今後、彼女の元には俺だけで行く」

 

「だめ!私が行かなきゃ!母さんを悲しませてしまうし…」

 

「失望させてしまうか?」

 

「うん」

 

「ソレについては心配するな。俺にいい考えがある」

 

「本当?けど…」

 

「安心しろ、お前はあの娘からジュエルシードを勝ち取ることだけ考えていればいい。他は俺と…アルフが引き受ける」

 

「そう、ありがとう…けど、母さんはずっと悲しんで落ち込み続けてきたんだから、やっと母さんの願いに手が届くところまで来てるんだから、もう…母さんの邪魔や機嫌を損ねるようなことはやめてね」

 

「フェイト!まだあのおん―お、おい、アスプロス!邪魔だ!!」

 

 未だに自分よりも母の機嫌を優先するフェイトに対してアルフは理解できない、そんなフェイトの考えを改めさせようと食ってかかろうとするがそんな声を遮るようにアルフの首根っこを掴み引き寄せ代わりに口を開く

 

「あぁ善処しよう。それはそうとフェイトよ。疲れているところ悪いがお前に頼みたいことがある」

 

「?」「なにかしら?」

 

「そう大したことではない。ただのお使いだ。翠屋という喫茶店に菓子を買いに行ってくれ。チョイスは任せる。ついでに、そこの従業員にこの手紙を渡してくれればそれでいい。ただし、手当てが終わり次第行ってほしいのと…」 

 

 そういって懐から白い封筒を取り出す。これはアスプロスが時の庭園からマンションへと帰還した後、すぐ机に向かいしたためたものであり、宛先は書いてあるが、日本語ではなくギリシャ語で書かれている

 

「のと?」

 

「デフテロスという方に渡してくれと言うのを忘れないでほしい」

 

「ッ!?デフテロス宛てなのそれは?」

 

「まぁ、俺がお前の母親から信用を得るには仕方ないことだ。安心しろお前には危害一つ加えられることはない」

 

「貴方がそういうのなら…そうするけど。アルフも連れて行っていい?」

 

「あぁ連れていけ。元よりそのつもりだったしな。流石に消耗してる中一人で行かせようなどとは言わんさ」

 

「わかった。もう動けるし行ってくるね」

 

「もう少し後でも構わんぞ」

 

「ううん、もう平気。アルフ、行こう」

 

「うん!」

 

 少女らが出て行ったのを見届けるとアスプロスはポツリと呟く

 

「高純度のロスト・ロギアを利用し次元を渡る…か」

 

 

◇

 

 

 同日の晩、早速アスプロスが弟へ宛てた手紙がデフテロスの手に届いた

 

 ソレを持ってきたのはクロージングにまでシフトに入っていた恭也であり、その手紙を持ってきたのが金髪紅眼の美少女であったため、同時間帯に店にいた桃子ももちろんそのことを知っていた為、その晩高町家ではデフテロスに宛てられた手紙とその手紙を持ってきた少女の話題で持ちきりになっていた。その為、デフテロスは食事中、散々茶化される羽目となった

 

 その正体に心当たりのある手紙を受け取った当人となのはだけはそんな浮ついた気になることはなかったのだが…

 

「お兄さん、その手紙にはなんて?」

 

「……」

 

「ん?どうしたの?」

 

 彼の持つ紙片に端正な字でギリシャ語で2、3行綴られているだけであった。しかし、彼はギリッと歯を鳴らし、何かを考えるかのように眉間に皺を寄せて考え込んでいた

 

「いや、そう大したことは書いていない。以前あったように自分と手を組まないかという勧誘と…意味の分からぬ文句だけだ」

 

「意味がわからないですか?」

 

 傍に待機していたユーノが聞いてくる

 

「あぁ。これには―俺達の存在を、力を奴等に、世界に知らしめよう―とある。今までと違い全力でかかるということだとは思うが…奴等というのがな」

 

「奴等…ですか。貴方と彼以外の陣営に向けて言っているのでしょうか?あとは管理局?」

 

「ふむ、それ以外ならフェイトを裏で操っている者か?この書き方だと敵味方関係ないように思える」

 

「そうですか…しかし、今まで以上に積極的に介入してくると考えると落ち込みますよ。今でさえ付いて行けないのに…」

 

 そんな風にユーノがこぼす

 

「大丈夫、私がフェイトちゃんに勝って話し合いに持ち込めば済む話だから!お兄さんたちが出るようなところまで持ってはいかせないから!!」

 

 なのははそういって息巻いて言う

 

「……奴と交わした約定が生きていればそれで済むのだがな。今回ばかりは全力でかかるとわざわざ宣言している以上、積極的にお前を狙うことはなくとも巻き込まない保証はないだろうな」

 

「そう…ですか」

 

 それを聞くとなのははさっきとは変わってしゅんと肩を落とす

 

「次の争奪戦は些か奴らの力の入れようが今までとは違うようだし、警戒してゆくぞ」

 

「うん!」

 

「はい!」

 

 そう三人は気を引き締めるとなのは達は自分の部屋へと戻る

 

 一人残されたデフテロスは改めて紙片に目を落とす

 

 そこにはなのはとユーノに説明した文以外にもう一つ教えなかったことが書いてある

 

―次会うときは双子座(ジェミニ)の聖衣(クロス)を纏え―と

 

「本当のことを話す日もそう遠くはないだろうな」

 

 そう一人呟き、デフテロスは部屋の明かりを落とした

 

 

 

◇

 

 

 デフテロスたちの元に一通の手紙が送られてきた翌日の夕方。彼らが危惧し、予感したことが現実となる

 

 ジュエルシードの暴走。もう幾度と姿を変えてなのはとフェイトの前に現れてきた現象

 

 場所は海鳴市の自然公園、海の臨み、木々に囲まれ、土の香りのする豊かな公園。ビルの立ち並ぶ街中から少し足を運べばついてしまう場所。もう既にその場所には結界が張られ、そこで起こった事象は世に知られることはない

 

 そこに立つのは大樹の化生、枝を腕の様に広げ、根を動物を縛る触手へと変え、生い茂る葉は濃い色に染めてしまった怪物となり果てていた

 

 そんな化け物であってももはや、二人の前にロストロギアの暴走など脅威ではなく

 

 自然公園へと辿り着いた二人は互いに競うように弾を穿ち、切り裂き、青き宝石の封印へといとも容易く漕ぎ着けてしまった

 

 そして、封印処理され宙に浮くジュエルシードを挟んで、二人の少女は向かい合う。白杖と斧槍を互いに掲げながら

 

「これは譲れないから…!!」

 

「うん、わかってる。だから、私はあなたに勝って証明して見せるよ。そして認めてもらう!フェイトちゃんとお話ができるぐらい対等だってことを!!」

 

 短く言葉を交わすと、互いの愛機を振りかぶり突進する

 

 もう衝突は避けられない、平行線を行くだと理解しているから、勝ち取るために、相手を下すために各々最速で突っ込んでゆく

 

 二人が接触し、青い閃光が奔る

 

「え!?」

 

「ッ!?」

 

 二人は目の前に起こったことに驚きを隠せない

 

 二人が感じたものは衝突による衝撃はなく、何者かによって受け止められ、愛機の柄を掴まれていたのだから

 

「ストップだ!」

 

 その声は甲高く、少年のモノであったが度たび二人の争いに介入してきた男の声ではなかった

 

 閃光が消え、その少年の姿が露になる裾が脚にまで延びた黒いジャケット、肩には棘のついた防具、デバイスを掴む手には五指を護る鉄甲のついたグローブが。少年自身に目を向けると青みがかった黒髪と同色の瞳、その肌は白く顔立ちも整っていた

 

「ここでの戦闘行動は危険すぎる!僕は時空管理局執務官 クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を君たちから聞かせてもらおうか」

 

 クロノと名乗った少年は二人を睨みながらそう言い放った

 

「まずは二人とも武器を下ろしてもらう」

 

 そういって両腕でデバイスを掴む彼はなのはとフェイトごと高度を下げ、地に足を着けさせた

 

「このまま戦闘行為を続けるのなら、君たちを力づくで僕らの拠点に来てもらうことになる。けれど、それはこちらとしても本意ではな…い」

 

 彼の身体からトンッと軽い音が立ったかと思うとクロノは警告を言い切ることなく倒れてしまう

 

「クッ!こ…れは!?」

 

 呆気にとられる少女と突然の事態に混乱する少年。そんな三人の前に群青色の髪をした少年が姿を現す

 

「折角、約定通り手を出さなかったというのに…これでは無効だな」

 

 そういって現れたのはアスプロス

 

 その服は白く丈夫そうな装束であり、心臓、肩、脛、爪先を護る革当てをその上から身に着けていた

 

―似てる

 

 なのははアスプロスの姿を認識すると同時にそう思った。彼の身に着けていたモノは細部こそ異なるがなのはとデフテロスが遭遇した当初身に着けていたものとよく似ていたからだ

 

「お前…はだ、れだ?な、にをした?」

 

 地に伏すクロノが辛うじて動く首を動かし、青髪の少年を睨む

 

「ふふふ、中枢神経を軽く刺激しただけだ。案ずるな、直ぐ体が動くようになる」

 

「中枢、神経を刺激し、ただけ、だと?防護服を貫い、て?」

 

 アスプロスは驚愕するクロノを横目にいつの間にか姿を現したのか、なのはの背後にいるデフテロスへ視線を移す

 

「なのは、この小僧を連れて端によっていろ」

 

 デフテロスはなのはの方も見ずにそれだけ告げ、なのはの前へと歩を進める

 

 彼の姿もアスプロスと同様であった。腕には包帯、彼の髪から染められたような群青色の服に革の膝当てや靴を履いていた。ソレは所々修繕されてこそいるが、彼がこの世界に墜ちてきた時に身に着けていたモノそのものであることがなのはには理解できた

 

「あの手紙はどういう意図だ?」

 

 真っ直ぐと己が兄の眼を見つめながら問う

 

「あれか?あれは書いた通りだ。ただ、必要となっただけだ。俺達の力を、存在をこの世界に知らしめることがな!」

 

「知らしめる…だと?」

 

「そうだ。イレギュラーこそ入ったがこれで邪魔者はいなくなった」

 

 そう言い切り会話を打ち切るとアスプロスは手を掲げ叫ぶ

 

「さぁ!来い!双子座の冥衣よ!」

 

 どこからか流星が墜ち、アスプロスの目の前に二身一体となったような鋭いディティールと曲線によって構成された昏く怪しく輝く彫像が砂煙の中から現れる

 

「ッ!!アスプロス、それは!!」

 

「そう、これは双子座(ジェミニ)の冥衣(サープリス)!これこそ真実の色を以て輝く我が象徴よ!!さぁ、貴様も呼べ!!双子座の聖衣を!!」

 

「いいだろう!!」

 

―来い!!

 

 そう言い切ってデフテロスは念じる。途端にその場にはもう一条の流星が墜ち、太陽と見紛う程に煌く天に二対の腕を掲げる黄金の彫像が姿を現す

 

 それらの彫像は鏡写しの様に色以外はそっくりの様に見えるが細部は異なっていた

 

 鋭角を多用し、凶器的な側面があらわされた黒き鎧・冥衣

 

 曲線を多く用いプロテクターとしての側面を押し出す黄金の鎧・聖衣

 

「綺麗…」

 

 誰の口から漏れたのか、黄金と闇色に輝く彫像を見てついそんな言葉が出てきてしまったようだ

 

 数瞬、双子が視線を交わすと前触れもなく突如辺りが暴力的なまでの二色の苛烈な閃光に包まれる

 

 片やあらゆるものを灼き尽くす太陽の如き山吹色の閃光、片や生気を奪い喰らう冥界の宝石を思わせる闇色の閃光

 

 そんな強烈な光は一瞬で止む

 

 先程と違うのは一対の彫像は姿を消し、黒と白の双子がそれぞれ同色の甲冑を纏っていた

 

 手には腕当に籠手、脚には脛当、足には鉄靴、胴には厚い胸当て、腰には草摺…それらが彼らの身体を余すところなく覆い、そのそれぞれに豪奢な装飾が刻まれている。そして、何より目を引くのは彫像の頭部に座していた善と悪の面があしらわれた兜(マスク)だろう

 

 そう先程まであった一対の彫像は双子の纏う鎧と化したのだ

 

「その冥衣を纏ったからにはわかっているな?アスプロス」

 

 睨みあう双子の片割れ デフテロスが口を開く

 

「あぁ、冥衣を纏うは冥闘士の証」

 

 

「「冥闘士(スペクター)と聖闘士(セイント)が相見えたからには!!」」

 

 

「「殺し合うだけだ!!」」

 

 

◇

 

 

 二人はそう雄たけびに似た声を上げるや否や大地を蹴り、空を、いや、その先にある天敵へと拳を撃つ

 

 瞬間、その一帯の空気が大きく震える。いや、それだけではない。聖衣と冥衣がぶつかり掠め合うたびに火花が散らし、拳の纏う拳圧、衝撃波が無造作に闘争の場である自然公園の景観を蹂躙する

 

 そんな中、常人にとってみれば閃光にしか見えないような光速の世界の中で二人は拳をぶつけ合う。その激しさは街中での戦闘時よりもずっと激しいものであった

 

 それは、ただ聖衣・冥衣を纏ったため小宇宙がより高まっただけでなく、互いに聖衣と冥衣により受ける拳撃によるダメージは大幅に軽減されるため、より意識を攻撃へと向けられるようになったことも無関係ではないだろう

 

 そう、ここにいる彼らは双子座の聖闘士・冥闘士としての真の、いや、そうあるべき完成された力を行使し衝突しているに過ぎないのだ

 

 「聖闘士の拳は空を裂き、その蹴りは大地を割る」と言われるほどの超人的な能力を彼らは目の前にいる互いの半身を打ち倒すために振るう

 

 デフテロスの蹴りがアスプロスの胴を切り上げるように裂き、アスプロスの拳槌がデフテロスの肩に打ち付けられるが、聖衣・冥衣ともに僅かな傷を残すのみで主人の身体を守り続ける

 

 聖衣・冥衣は聖闘士の基礎闘法である原子ごと破砕する拳に対してすらほぼ絶対的と言っていいほどの防御力を誇るが、防具を突き抜け響く衝撃まで防ぐことはない。即ち、聖衣・冥衣の下にある人間の身体には軽減されているとはいえ確実にダメージは残り、蓄積される

 

 拳を放ちながら縦横無尽に駆け跳ぶ彼らの闘争は完全な互角であるが、度々攻守は逆転し、流れは変わってゆく

 

 既に元は公園であった場所の面影は一部を残し失せ、抉れた大地と無残な植物の変わり果てた姿が次々と生まれている

 

 それでも、二人は拳を止めることは、小宇宙を燃やすことを止めることはない

 

 凄まじい勢いで発揮される闘気は触れるだけで蒸発しそうなほど熱く、拳や蹴りの軌道上で生存するもの等その主達である双子座の闘士以外には存在しなかった

 

 攻守が移り変わり続けた一種の均衡とも呼ぶべき時は崩れる

 

 ほとんど捨て身と言っていい程、アスプロスに向け激しく猛進するデフテロスは一瞬の隙に兄の懐に入り、その鍛えられた両腕をアスプロスの首の後ろに回し、固くホールドするいわゆる首相撲仕掛け、その目論見は一先ずは達成された。だが、一瞬の間にデフテロスの頭は後方へ弾かれたように仰け反る

 

 アスプロスの方を見れば、正確にはその指先を見れば一本だけ天を指しているのが見て取れる

 

「くそッ!俺に幻朧魔皇拳は効かん!!」

 

 首相撲を解かされたデフテロスは血が昂っているのだろう怒鳴るように声を荒げて言う。よく見れば彼の眉間からは一筋の血が流れていた

 

「効かんと言ってもその額を撃つ衝撃と脳髄に響く小宇宙が消えるわけではない!おかげで隙が出来たわ!!」

 

 応えるようにそう叫ぶと、仰け反った拍子に一歩引き下がってしまったデフテロスの腹を一息に蹴り上げる

 

「カッッ!?」

 

 まともに蹴り上げられたデフテロスの身体は宙に浮き、ダメージこそ大したことが無いものの一秒の何分の、何十分の間だけ無防備な状態となってしまう

 

「砕けろ!その中で沸騰し蒸発しろ!! 」

 

 ―ARC GEMINGA!!!―

 

 両掌の間から生まれた超磁場・電磁波を生む核を一気にデフテロスへと叩き付ける。デフテロスと核を中心とする球空間が接触する頃には3メートルを超える程にまで膨張し、いとも容易くデフテロスを囲う

 

「ガァァァァアアアアアアアアアア!!」

 

 細胞が砕け、血を始めとした体中の水分が沸騰するという想像を絶するような苦痛にデフテロスは絶叫を上げてしまう

 

「ハァ、ハァ…貴様も知る通りアークゲミンガは切り取った空間に敵を隔離し超磁場・電磁波により粉砕・蒸発させる技よ。通常ならこれにより死滅しない者などいない」

 

 そう通常ならば聖闘士、しかも元は黄金聖闘士であったアスプロスの技を受けてまともに生を繋ぐものなど居やしない

 

 しかし、ここに例外が…いや、ある意味では「聖闘士に一度見た技は通用しない」というもはや聖闘士にとって常識が存在した

 

「ウゥォオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 絶叫がいつしか雄叫びへと変えていたデフテロスは閉鎖された空間を裂き、空間が隔離されるに足る膨大なエネルギーの奔流が穴の開いた風船のようにその空間の孔から放出される。デフテロスは巧みな小宇宙操作によりその奔流のベクトルをアスプロスへと向け、その激流の勢いをそのままアスプロスへとぶつける

 

 デフテロスは兄アスプロスの修行を覗き、人気のない夜半に己が修行を続けていた。十数年という長い間ずっと…

 

 アークゲミンガもその修行時代に修得した絶技の内の一であり、一度ならず幾度となく見たばかりか修得した技に滅ぼされることなど万に一つ程の可能性しかない

 

 聖闘士の常識とデフテロスの積み上げた修練…この二つが合わさりデフテロスは致死に至る絶技を打ち破ったのであった

 

「やってくれたな、デフテロスめ!」

 

 己が技から生まれた奔流に呑まれたアスプロスは自然公園を抜け、海岸を抜け、沖にまで流されてしまう。だが、流石というべきか不意を突かれた反撃を喰らったとはいえ消耗はあまり見受けられない

 

「!?」

 

 しかし、未だ流れ続ける熱量を帯びたエネルギーの奔流に紛れ、その勢いに乗るデフテロスの突進に対しては位置関係もあり受け止める形となって両手を組みハンマーのように振り、叩き付けるというデフテロス渾身の拳を受ける

 

 だが、辛うじて両腕を、手甲を貝のようにカッチリと合わせることで勢いの乗った一撃をなんとか防ぐ…がデフテロスは組んだ両手を解き、そのままアスプロスの両腕に指を掛け、引き戸を引くかのようにその閉じた闇色の門を引き、門戸が開かれた僅かな間に蹴りを叩き込む

 

 アスプロスも腕に指が掛けられた瞬間にその意図を察知し、振り上げられるその脚を踏み、蹴り上げられる勢いを利用して後方へ跳ぶ

 

「ハハハ、残念だったな!デフ…貴様!まさか!?」

 

 デフテロスのアスプロスの技の威力を利用した流れるような反撃を躱し、アスプロスは余裕を見せるが、デフテロスの反撃は未だに終わっていないことを一瞬にして理解する

 

 アスプロスはデフテロスの蹴りの勢いを利用し、回るように宙に跳んだ。いかに体捌きに優れていようと、いかにサイコキネシスを扱える聖闘士であっても即座に体勢を整えるのは難しい

 

「受けろ!猛るこの星の我を!!」

 

 デフテロスは宙返りするアスプロスを収めるように広げ上に向けた掌を腕を勢いをつけて一気に天へ引き上げる

 

―MAVROS ERUPTION CRUST!!!―

 

 海中から噴火し立ち昇る幾本もの間欠泉のように湧き噴き上げる溶岩の火柱がアスプロスを呑み込み、それだけでは勢いは収まらず天に伸び飛んでゆく

 

 溶岩とはまさに溶けた岩であり、噴火の時を除き平時は地球の腹の中で滾っている流体である。それが意味するのは個体である岩をも溶かす熱量、水とは比べ物にならぬ岩そのものの質量・重量

 

 マヴロスエラプションクラスト―まさしく、火山の噴火即ち、地球の憤怒の発露ともいえる絶技であり、圧倒的質量・熱量により対象を圧殺・粉砕・熔解する必殺技

 

 現に今、アスプロスは球状のマグマの檻に囚われたまま動きを見せることはない

 

―しかし、奴がこれで終わるはずが無い

 

 デフテロスは確信してそう思考する。なぜならば、この技は一度、真正面から破られている。他でもない目の前にいる男アスプロスに…

 

 やはりデフテロスの考えた通り、そう思考している間に溶岩球は渦巻き中心へと吸い込まれてゆく。そこから覗くのはアスプロスと銀河。両腕を交差し掲げ、空白であるはずの両腕の交差した場所には溶岩の塊を吸うように呑み込み徐々に膨れ上がる銀河。その渦巻く銀河も今にも破裂しような程不安定であり、その銀河の暗黒から彩を放つ星々も多大なエネルギーを宿しながらも崩壊を始めていた

 

「ふふふ、流れるような連撃・絶技、久しく受けたぞ、この星の我を!お前の我を!!流石に響く…だが、一度見た技は聖闘士には通じん!!銀河を砕くこの俺にはな!!さぁ、貴様に返してやろう!!!ギャラクシアン・エクス…」

 

「あぁ、貴様ならそうするだろうさ!!銀河をも砕く技を誇りとする貴様ならな!!」

 

「何!?」

 

 アスプロスは何かに気付いたかのように頭上を見上げる。そう、構えるアスプロスに頭上には、先程から腕をあげたままでいたデフテロスの掌の中には、天から落ちることなく存在し続けた溶岩塊があるのだ!

 

「墜ちろ!アスプロス!!」

 

「クソ!!」

 

 不完全であれど銀河を砕く必殺の技と天に存在し続けたこの星の残り我がぶつかり合う。溶岩は四方八方に飛び散り、中途半端に爆ぜたエネルギーは衝撃波を生みながら一帯に奔る。海上で生じたその衝撃はさして深くないとはいえ一時的に海底を陽の元に晒してしまう程度の威力を有していた

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

「ハァ、ハァ、ハァ」

 

 二人は荒く息を吐き、呼吸を整える。絶技の応酬は僅かな時間の間に行われたため互いの身体に決して軽くない負担と疲労を残したためである

 

 そして、互いに兜を脱ぎ捨て、互いに護ると誓った少女の元へ放り投げる。兜の中に押し込められていた黄昏に煌く群青色の髪をかき上げ、風にたなびかせると黒白の兄弟はまるで示し合わせたかのように同時に、まるで鏡合わせのように同じ動きで、アスプロスとデフテロスは全く同一の構えをとる

 

 ソレは先程アスプロスがやって見せたのと同じ構え

 

 そこから放たれるは銀河を破壊し砕く絶技にして、双子座最強にして必殺の奥義

 

 

 ◇

 

 

「なんて出鱈目な闘いなんだ…」

 

 未だに身体の勝手を取り戻しせないクロノが痺れる体をなんとか起こすところにまで漕ぎ着けながらそう呟く。3人(具体的には2人と一匹)は距離こそとってはいるものの結界の中にいた

 

 なぜなら結界を解いてしまえば、時は動き、事象が隔離された空間は日常の中にある世界に溶け、二人の超人による争いとその余波によって生まれる破壊の脅威にさらされてしまうからである。その為、結界は解除されるどころか二人の闘う範囲が広くなり、移動するたび広げられていた

 

 防御魔法を敷いてなんとか耐えることと、結界を解くことで生まれる海鳴市への被害を鑑みるとクロノ達は結界を解くことが出来なかったのである

 

「君は知っていたのかい?彼らがこれほどの力を振るえうこと」

 

 クロノを移動させともに防御陣を敷く少女なのはへと少年は尋ねる

 

「私の想像もつかない程強い人だということは知っていました…けど、あの鎧を着けたのもここまで大規模な衝突をしたのも初めてです」

 

「そうか…どうして、彼、いや彼らが君や彼女と行動しているのかは分かっているのか?」

 

「それは、多分ですけど…」

 

「聞かせてもらってもいいかな?」

 

「はい、お兄さんは…あっ、あの金色の鎧を着ている人は傷ついて倒れていたところを私と家族が助けたんです。私は家族に内緒でジュエルシードを集めるのを手伝っていたんですがそれに薄々感ずいていたお父さんがお兄さんに私を守ってくれるようにお願いしていたみたいです」

 

「?」「見たいっていうのは?」

 

「最初、お兄さんは恩返しのために手伝ってくれるって言ってくれたんです。お兄さんと出会った時もジュエルシードを集めている時で、魔法少女のことも知られていましたから…その後、お兄さんの口からお父さんに頼まれたんだって教えてもらったんです」

 

「なるほど…あの娘ともう一人については?」

 

「あの娘…フェイトちゃんについては分かりません。何も話してもらえていませんから…でももう一人の方については少しだけ…」

 

「それでもいい、教えて欲しい」

 

「彼はお兄さん…あっデフテロスさんの双子の兄で、デフテロスさんと同じようにあの娘フェイトちゃんに命を救ってもらったから助けてるんだっていってました。私が知っているのはこのぐらいです」

 

「この状況は互いにジュエルシードを集めている君たちを助ける延長線上でこんな傍迷惑な兄弟喧嘩を繰り広げているわけだ。とても信じられない…動機も彼らの力も。だけど、おそらく事実なんだろう」

 

「はい…あっ、あれは!!」

 

 なのは達がちょっと目を離した隙に二人の闘いは膠着状態に陥ったようだった

 

 海水に熱を奪われ固形と化し、岩礁のようになった溶岩の対岸で二人は睨みあう

 

「わわッ!」

 

 しかし、二人が構えた瞬間になのは達の考えは直ぐに的外れだったと思い知ることになる

 

 膠着したのではなくただ、体勢を整えただけであったのだと。銀河をも砕く必殺の一撃を撃つタイミングを窺っていただけだったのだと

 

 防御魔法を張りながらも二人を見守るなのはの元に黄金の善と悪の面があしらわれた兜(マスク)がカランコロンと遠近から二重の音を立てて転がってくる。見ればフェイトの元にも同様に投げられてきたらしい。

 

 なのははソレを拾い上げ手に取ると頭の中にデフテロスの声が響く

 

―それを被っていろ、無いよりかはましだ

 

 余裕など一片もない闘士の声、それは、なのはがお兄さんと親しみを込めて呼ぶ男の極限状態の中での精一杯の気遣いだった

 

 なのはが顔を上げると対峙する二人どころかこの結果内一帯の空気が明らかに一変していた

 

「な、なんだこの気配は」

 

 クロノは自分の肌が粟立ち、汗腺から冷や汗が流れ始めるのを感じる

 

 これは原始的根源的な畏れ、恐怖を煽り、死というよりも破滅・破壊という物質的な終末を思い起こさせる

 

 小宇宙の存在を知る者であればクロノたちの感じる気配を攻撃的な小宇宙の気配と称したであろう

 

 対岸に立つ黄金と闇色の双子の構える両腕のみならず体中から宇宙が周りの景観を侵食し始めている。双子座の闘士から漏れ、小宇宙の存在を知らぬ者達にも目に見えてしまうほどの濃密で強大な攻撃的小宇宙はいつも間にか半円状に展開される結界に沿って空を、宙を、大地すらも宇宙に染め上げてしまう

 

 しかし、漆黒の世界に浮く星々は罅割れ、欠け、今にも崩壊、破裂寸前といった様相である

 

 爆発する秒読みするかのように脈動する星々

 

 天地を覆う銀河も膨張・収縮を繰り返す

 

 雄叫びを上げるように、高らかに謳うように全く同じ声が、真逆の調子で口上が述べられてゆく

 

 それを聞いたなのはは黄金の兜(マスク)を被り、愛機を握る手をギュッと一際強く握った

 

 

◇

 

 

「燃え上がれ!俺の小宇宙!!」

 

「猛け吠えよ!我が小宇宙!!」

 

 

「渦巻く銀河の砕ける様を見よッ!!!」

 

「逆巻く銀河の爆ぜる音を聞けッ!!!」

 

 

―GALAXIAN EXPLOSION!!!―

 

―GALAXIAN EXPLOSION!!!―

 

 

◇

 

 

 双子座を最強たらしめる必殺の奥義銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロ―ジョン)の激突

 

 宇宙の中の無数の銀河、銀河の中に浮く幾千幾万幾億いやそれよりも遥かに多い数の星々

 

 その星一つ一つは個であり凝縮された思い

 

 銀河とはその集合体

 

 何千何億とある個・思いがさらに力を強めて膨張し、また別の場所で同じように発生し膨張する

 

 その二つはいずれぶつかりお互いを削っていく

 

 それはまるで

 

 宇宙開闢のようでもあり

 

 個人同士の存在をかけた争いのようでもあり

 

 一人の人間の善悪の鬩ぎ合いにも似る

 

 

◇

 

 

 ぶつかり合う宇宙と宇宙、宇宙と銀河、銀河と銀河、銀河と星、星と星、星と宇宙

 

 その全てが鬩ぎ合いの中で破れ、砕け、爆ぜ、そして消滅する

 

 それはただ星の、銀河の、宇宙の生命を終えるわけではない

 

 それらは消える前にあるモノを残して逝く

 

 それこそは己が命を犠牲に生む破壊、己が命を以て成す全て命の終焉、己の命ごと全てを破滅に導く超規模の自滅

 

 消え続けながらも同時に生まれ続け、そしていつかどちらかが消えるとしても互いに相乗し進化し続ける

 

 たった一つの宇宙として存在を確立し完成するまで

 

 これこそが、聖闘士と冥闘士がたった今してしまった行為

 

 これこそが、ギャラクシアン・エクスプロージョンの激突

 

 現にその兆候は現われていた

 

 二人を中心に海は蒸発し、大地は消し飛び、天には風穴が空く

 

 それでも双子の小宇宙は拮抗し、喰い合い、鬩ぎ合い、削り合い、脅かし続ける

 

 どちらかが消滅するまでこの争いが止むことはない…何の干渉を受けることが無ければの話ではあるが

 

 

◇

 

 

「「!!」」

 

 初めに気付いたのはやはり当事者である黒白の双子であった

 

―空間が揺らぐどころか今にも破裂しそうになっているだと!?

 

 これは通常では起こりえない話である

 

 いくら銀河爆砕の激突によるエネルギーが膨大であっても世界における空間の容量を超え、破裂するような事態には決して陥ることはない

 

 二人が聖闘士として桁違いの力量を持っていたとしても世界全体から見ればあまりにも小さすぎるからである

 

 だがしかし、現にこの現象は起き始め、もう幾許かしないうちにこの空間は弾け飛ぶだろうことを確信する

 

 以前、デフテロスの死の間際、直接の死因であるギャラクシアン・エクスプロージョンの激突の際にもこのような事態は起きなかった

 

 とするならば、以前とは違う条件下で行われた為、このような事態に陥ったとみて間違いないだろう

 

 過去のロストキャンバスに無くて、今現在の海鳴市にあるもの

 

―この結界か!!

 

 二人は同時にその原因に気付く

 

 封時結界を始めとした幾重にも重ねられた結界。双子の闘争により生まれてしまう破壊を最小限に抑えるために重ねがけられた結界こそが皮肉にもこの空間の破裂を起こす原因となってしまっていたのだ

 

 一見見渡してみると外界とは繋がっているように見えるが、確かに結界の内外で切り離され、そこは一個の空間として存在する

 

 そもそも結界とは如何なるものであれ内と外を隔絶する行為であり、一種の空間の切断と言える

 

 そして、結界内の世界の容量が二人が放ち続けるエネルギーを受けるも耐え切れず、飽和し、遂には決壊したのだ

 

 何重にも張られた結界が一つまた一つと音を立てて砕け

 

 容量以上の総量となったエネルギーは圧力という楔から解き放たれ外界へと霧散する

 

 結界が崩れたことにより不安定とはいえ均衡状態にあった鬩ぎ合う銀河爆砕のバランスは崩れ、そのエネルギーの大部分は他と同じように外界に放出され霧散した…が一部のエネルギーは己に跳ね返ったり、また、減衰しながらも相手の元で破裂する

 

「「グアァァァッ!!」」

 

 ともあれば、その衝撃を各々一身に浴びた二人は絶叫を上げて吹き飛び、錐揉み回転しながら水底まで頭からダイヴする

 

◇

 

 海鳴市にある湾岸で二本の水柱が立っている一方、クロノとなのはは忙殺されていた

 

 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロ―ジョン)の激突時、多少離れた場所で起きたこととはいえその余波を黄金もしくは闇色の兜のおかげか幾度も防御壁を破られながらも消耗し傷つきながらも何とかなのは達は防ぎ切った

 

 結界をもう一度張りなおそうとするところまでは良いものの、未だに痺れの取れないクロノと街への被害を食い止めようと結界を再構成しようするなのは(とユーノ)を尻目にフェイトは宙に輝くジュエルシードを強奪しようとしたのだ

 

 ジュエルシードを封印するまでは互いに結界を張ることに相違はなかったのだが、結界が割れ、退路が出来たこと、なのは達がジュエルシードよりも結界の再構築を優先する状況から再び結界が張られる前にジュエルシードを奪取し逃走しようと考えたのである

 

「待って、フェイトちゃん!」

 

 結界を張ろうとする傍ら、いや、結界を早急に張るためにもなのはは魔法を放ちながらジュエルシードに手を掛けるフェイトの元に駆ける。同じく結界を張ろうとするユーノの元にはアルフが妨害に馳せ参じる

 

「待たない!それよりもいいの?彼らが再び戦い始める前に結界を張らなくて!貴女の街が、故郷が、今度こそジュエルシードの暴走の比にならない程破壊されても!それとも…」

 

 一瞬、逡巡し躊躇ったかと思うとフェイトは斧槍を握る手に力を籠める

 

―簡単なことだ。自分の願いに対してどこまでも突き進め。どんな手段をとってでもだ!!

 

―さっきの相手が俺の弟と聞いてデフテロスに俺をぶつけるという案は中々良かったぞ?合理的で容赦がない。その後躊躇したのはまだまだ心が、我が弱いな。もっと己の輪郭を強く持て

 

 アスプロスに掛けられたそんな助言を思い出し、少女はその心を頑なにする。遂にバルディッシュをデバイスを持たない上に体の自由が利かないクロノへと向けたのだ

 

「彼に危害が及ぶほうがいいの?」 

 

「舐められたものだな」

 

 斧槍を向けられながらもクロノは強気な口調で反抗の意志を見せる

 

「何発かなら防がれるかもしれないけれど…デバイスを持たない貴方ならすぐに貫ける」

 

「くっ!!」

 

 事実なのであろう、途端に言葉に詰まるクロノ

 

「どうするの?」

 

 そしてなのはに対して強気に選択を迫るフェイト、どちらにも振り切れず迷うなのは…そんななのはに対して橙色の魔力が奔り嵌る

 

「私は…キャッ!!」

 

 迷うなのはの四肢に橙色の魔力で編まれた枷が嵌ったのだ。その直後、なのはの遠い背後から親愛なる使い魔の声がかかる

 

「フェイト!!これだけしかできないけどさっさと逃げよう!!」

 

「ありがとうアルフ!!」

 

 身動きの取れない魔導士二人にはもはや高速に駆けるフェイトは捕らえることは叶わず、青き宝石を手にした少女はその場を後にし、結局再び双子の闘争が始まると考えたユーノも目的を果たしたアルフよりも結界を張ることを優先し橙色の狼を取り逃がした…その読みは外れ、ユーノの前に再び姿を現したのは黄金の聖衣を纏ったよく見知った顔だけだったのだが

 

 

◇

 

 

 根城としているマンションへと戻ったフェイト達を迎えた部屋には既に先客がいた

 

「遅かったな」

 

 そこにいたのは端々が割れ、欠けた闇色の鎧の鎧を纏う青髪の男であった。血や汚れは一切見えず、微かに香るのは磯の香のみ。ただ露出された少ない生身の部分と所々は赤や桃色に変色している箇所があるから全くの無傷出るという訳ではなさそうだ。むしろ血や汚れだけが海によって清められただけのようだ。それに、いつの間にか回収したのか兜まで脇に抱えている

 

「アスプロス。貴方は…大丈夫なの?」

 

 そんな男に対してフェイトの可愛らしい口から真っ先に出た言葉がそんな思いやりの言葉だった

 

 その言葉に一瞬面食らったかのような顔をしてクツクツと笑うと大丈夫だと無事を報告し、よくやってくれたと逆にフェイトへ労いの言葉をかけた。もちろん、少女の供とするアルフに対しても

 

「いや、済まなかった。ある程度必要だったとはいえ、予定以上に盛り上がってしまってな。そちらにまで手を回すことは出来なかったのだ。そのせいでお前に負担をかけてしまったが…だが、このおかげで十全以上に今回の目的を果たすことが出来た」

 

「目的?」

 

 上機嫌なアスプロスの言葉にフェイトが首をかしげる

 

「まぁ、俺がお前の母親から信用を得る為にああやって見せる必要があったのだ…早速で悪いがプレシアの元にジュエルシードを持ってゆく。出してくれ」

 

 先程までの高揚した明るい声から一転、真剣な声でジュエルシードを所望するアスプロス

 

「え?あぁ、そうだった貴方が行ってくるんだよね…母さんのところに。でもどうやって?」

 

 疑問を呈するフェイトに対してアスプロスはもう幾度も少女たちの前で開いた異次元への裂け目をつくって見せる

 

「なるほどね…バルディッシュ」

 

 何処か急いでいるような一連のやりとりの変化に多少戸惑うが消耗したフェイトはその違和感に対して頭を働かせることなくアスプロスに素直に従い、愛機に指示を下す

 

「Put out」

 

「感謝する。そして、行ってくる」

 

 異次元に足を踏み入れようとするアスプロスを呼び止めるようにフェイトが声を掛ける

 

「アスプロス!くれぐれも…」

 

 そんな心配するフェイトに対して自信満々といったようにアスプロスが答えた

 

「わかっている。くれぐれも母さんの気分を害さないように…だろう?」

 

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

「あぁ、今度こそ行ってくる」

 

 そういって闇色の鎧を纏った男は異次元に溶けるように消えていった

 

 

◇

 

 

「図らずも迷惑をかけてしまったな」

 

 結界を張り直したなのは達の前に現れたのは黄金の具足を身に着けたデフテロスであった

 

「お兄さん…その姿は?」

 

 初めて見る聖衣を纏ったデフテロスを見て恐る恐るといった様相でなのははこちらを見やる

 

「…これについては後で話そう。今はそれよりもこのガキについて聞きたいことがある」

 

 そんな視線を受けながらもデフテロスはまた違う方を顎で指す

 

「そ、そうだ。貴方は管理局の人間だって言ってましたが」

 

 その意図に気付いたユーノが未だに体の痺れが取れず樹に体を預けたクロノに尋ねる

 

「僕は…」

 

 そうして、クロノが口を開こうとした矢先に頭上から薄い四枚の羽根を携えた澄んだ翡翠色の髪に青い制服の女性が降りてくる

 

「その問いに関しては私が答えましょう…しかし、一旦は場所を移したいと思いますが大丈夫でしょうか?」

 

 そんな乱入者をデフテロスは胡散臭そうな目で睨む

 

「その前に名ぐらいは名乗ったらどうだ?」

 

「……コホン、それも、そうですね。私としたことが失念しておりました。では、改めて私は時空管理局 提督にしてアースラ艦長に就いております。リンディ・ハラオウンと申します」

 

 少しの間、しまったという顔をした後、その女性リンディは改めて自己紹介を始める

 

「艦長!どうしてここに!?」

 

 そんなリンディを見てクロノは思わず声を上げた

 

「クロノ、結界内にいたあなたにはわからなかったでしょうが、結界が破裂する前から、厳密にはそこにいる彼ともう一人が最後に撃ち合った時点から小規模な次元震が起きたのよ。そこで急遽、私がそれを抑える為に出てきたという訳です。ついでに人避けと目暗ましをかけて、結界が破れ、再び張り終わるまでの無防備な時間もカバーしておきました」

 

「そう…ですか」

 

「と、いう訳で事情を聴きたいので君たちにはアースラへ来てもらいたいのだけれど…」

 

 リンディと名乗った女性の視線がチラリとデフテロスの方へ向けられ

 

「管理局関連の判断については俺はユーノに任せる」

 

 その言葉によりユーノの方へそのまま視線が向く

 

「分かりました。僕は協力します」

 

「で、そこの女の子は大丈夫かな?」

 

「私も大丈夫です」

 

 話を振られたなのはももうある程度覚悟を決めていたのだろう力強い眼でリンディへ返事を返す

 

「ありがとう。では…行きましょうか」

 

 リンディがそういうと五人をゆうに覆うほどの大きさの魔法陣が地面に描かれ、光のうちにその五人は消えていった

 

 

◇

 

 

「信じられない…」

 

 暗い部屋の中青く輝くディスプレイを見てプレシアはそう呟く。そこに映るのは黄金と闇色の鎧で身を固めた黒白の双子の姿、その傍らには何らかの数値を示す計器が置かれていた

 

「どうだ俺の力がフェイトには必要だと分かったか?そして俺達の力は貴女の野望の手助けになろうことも…」

 

 自分以外だれもいないはずの空間からあるはずもない声が背後から響く

 

「何!?どうやってここへ!?いや、何をしに来たとだけ聞いておきましょうか」

 

「話が早くて助かる。何、そう難しい話ではない。このジュエルシードを持ってきただけだ」

 

 そこにいたのは青い宝石を見せつけるかのように手に乗せた闇色の鎧 冥衣を纏った男だった

 

「……そう、ご苦労様とだけ言っておくわ。それをこちらに渡しなさい」

 

 アスプロスはその言葉に従い、プレシアへジュエルシードを手渡す

 

「……本物のようね。何故、フェイトではなく貴方がこちらに来たのかしら?」

 

 プレシアは渡されたモノをじっくりとその宝石が、宝石の中に秘められた力が本物であるか見定める

 

「お前の娘に対する虐待を見かねてな…それと伝えておこうと思ってな」

 

「……伝える?」

 

「高純度のロスト・ロギア ジュエルシード…その秘められたエネルギーは凄まじく、十数個あるソレの総量は国を滅亡させることも不可能を可能にすることもできる程であると」

 

「何が言いたいのかしら」

 

「実現したいのは深き次元海溝にあると言われる伝説のアルハザード」

 

「!!」

 

 余裕が失われかけたプレシアの顔から血の気が引き、蒼白になる

 

「そして、貴様の目的は―」

 

「やめなさい!!何故、何故貴方が…」

 

「俺は貴様の目的を知っているということを伝えておこうと思ってな」

 

「それでどうするつもり?脅しをかけるのかしら?無駄よ、貴方がどうしようと私は止まるつもりはない」

 

 開き直ったかのように自らの決意を口から出して、言の葉に乗せて伝える。自分に言い聞かせるように

 

「そうだな。本題に入ろう。俺が提案するのは―」

 

・

・

・

 

 

「本気?そんなこと信じられるとでも?」

 

「あくまで俺の目的はあの少女の願いを叶えることだ。その為ならなんでもしよう」

 

「……」

 

「俺もお前と同類だ。目的の為なら手段を厭わず、そして大切な者を穢されるのを何よりも嫌う」

 

「……わかったわ。それにしても一先ずはジュエルシードの回収に努めてちょうだい。貴方の策はそれからよ」

 

「了承した。では、少しばかりこの庭園を見て回ってから帰ることにしよう」

 

 そういって青髪の男は部屋を後にする

 

 

◇

 

 

「なるほどなッ…!!」

 

―クソッ、完全に理解した…理解してしまった

 

「最初から、一目見た時からわかっていたではないか」

 

―あの髪色も、あの眼も、あの声も、そういうことだったのか

 

「…だが、俺がすることは変わらん」

 

―改めて考えると吐き気がする

 

「あの不憫な娘の願いを叶えることだ」

 

―あの小さな少女が背負う運命はなんと残酷なのか

 

「その為なら何でもしよう」

 

―…だが、今までと同じだ

 

「聖人にも悪魔にもなろう」

 

―俺は決められた運命を見返すために生きてきた

 

「必要ならば罪人も救うし神も殺そう」

 

―そうだ

 

「知恵を絞り力を尽くし小宇宙を燃やそう」

 

―ここから先、本当の闘いが始まる

 

「何を犠牲にしようとどんなリスクを背負おうとも」

 

―枝葉ではなく幹、木ではなく森、個ではなく種を

 

「俺は邁進するぞ。デフテロス」

 

―考えろ

 

「俺の為でもお前の為でもなくあの娘の為に」

 

―情報を蒐集し、展望を熟考し、覚悟を秘めて選択しろ

 

 そう声に出しながら誓う、本当に大切なことを自分に言い聞かせるように

 




アークゲミンガはちょっと改変しました
超磁場で細胞を砕くというのが今一イメージしづらく、それに加え電子レンジのような電磁波で相手を沸騰させるという効果もつけました
アークの英字の綴りも多分意味的にあっているはずですので、どうか突っ込まないでいただけるとありがたいです(もしかしたらダブルミーニングかもしれませんが…)
言い訳としてゲミンガという名前の元となった星も磁場より電磁波よりの特性があるそうですので
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